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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第7章 野生児と炎雪の魔王

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第82話 その姿はまるで

「フェニックス!? あれが!?」

「間違いないチ」

 自信満々に言うペポ。その様子を見て、俺は彼女の言葉を信じざるを得なくなった。


 すると、同じように彼女の言葉を信じたらしいロネリーが、矢避やよけの壁から地底湖の方を見下ろしながらつぶやく。

「確かに、ペポの言う通りみたいですね。あの光がフェニックスなら、湖が沸騰ふっとうしてるのも説明できますし、それに、魔王軍が私達の目論見もくろみを理解してるんだとしたら、ああしてとらえててもおかしくないと思います」


 説得力のある彼女の言葉に、俺達はうなずくしかない。

 だからこそ、その事実をあまり認めたくはない俺がいた。

 なぜなら、俺達が魔王と対抗しつつ、4大精霊の役割を果たすためには、フェニックスの協力が必要になるからだ。


「だとしたら、ちょっと厄介だね。ここから逃げ出すだけじゃなくて、フェニックスを助け出さなくちゃいけないんでしょ?」

「そうだな。ちなみに、フェニックス周辺の守りはどうなってた? ペポ」

「ヒュプノスとゴブリンが居たチ。倒すの自体は難しくなさそうだチ。でも、増援を呼ばれたら、結構きつそうだから、何か作戦が必要チ」


 ペポの言葉に思わず唸りたくなる。

 沸騰ふっとうする湖のど真ん中で、見張り役のヒュプノスと一戦いっせんまじえれば、彼女の言う通り、増援が来るだろう。

 下手したら、リューゲやメデューサ、バーバリウスまで姿を現しかねない。


 何か良い手は無いだろうか。と、腕組みをしながら考え込み始めていた俺は、視界の端にノームが姿を現したことに気が付く。

「悪い、遅くなったな。見張りが少ない通路まで、穴を掘って来たぜ。全員、オイラに感謝してくれよ?」

 直後、彼が壁をポンと叩くと、まるで壁が溶けたかのように、横穴が出現する。


「ノーム、タスカッタ、アリガトウ」

「へへっ、良いってことよ」

 律儀りちぎに礼を告げるガーディと、得意げなノーム。

 そんな彼らから横穴の奥に視線を移した俺は、壁に手を添えながら告げた。


「よし、道ができたんなら、あとは進むだけだ。とりあえず、安全地帯を探そう。ノーム、引き続き頼んだぞ」

「はいよ」

 壁の中に消えていったノームに続くように、俺達は横穴に足を踏み入れた。


 穴を抜け、監獄かんごくの中の倉庫らしいところに辿り着いた俺達は、荷物の影に隠れながら、ノームの到着を待つ。

 その間に何度か、よろいを身にまとったゴブリンが倉庫の中に入って来たことを考えると、この倉庫で作戦会議はできないだろう。


 ゴブリンが居ない間に横穴を木箱で隠した俺達は、ようやく現れたノームの後に付いて、監獄かんごくの中を進んだ。

 入り組んだ通路を、奥に奥に進み、少しずつ階段を降りた先、所々壁が崩れてしまっている部屋に案内された俺達は、そこでようやく足を休めることができた。


「ふぅ、なんとか見つからずに行けたな」

 各々、部屋の中に腰を下ろして休憩きゅうけいする。

 普通に歩くだけじゃなく、辺りに警戒けいかいしながら進んだことで、普段よりも疲れを感じる気がする。


 そうこうしていると、部屋の奥にある窓の方に向かったベックスとケイブが、窓から外をのぞきながら呟いた。

「お、この窓から湖のほとりが見えるゴブ」

「何かやってるゴブゥ」

「ベックス、ケイブ。見るのは良いけど、見つかるなよ?」

「分かってるゴブ」


 ここまで隠れながらやって来たのに、窓からのぞいているのがバレてしまうのはバカみたいじゃないか。

 なんて考えていた俺のそばに、ロネリーが腰を下ろす。

「それで、これからどうしましょうか?」

「今頃、奴らはアタチ達を探してるはずチ」

 当然のように俺を囲むように座り直した皆を見渡しながら、俺は考えを述べることにした。


「今の所、ノームのおかげで見つからずに済んでるけど、追っ手の数が増えたら、流石さすがに限界があるよな」

「湖のほとりまで降りれば、ワラワの力で水を操って、奴らを一網打尽いちもうだじんにできるぞ?」

「そうなったら、確実に全方向から包囲されるよね。僕、あの湖のど真ん中で思い切り戦える自信が無いよ」


 身体にまとわりつく湿気のせいで、少し顔色の悪いサラマンダー。

 確かに、この環境下でさえキツイのなら、湖のど真ん中なんて、戦える環境じゃないのもうなずける。


 敵にバレずにフェニックスを助け出せればいいけど。

 なんて考えていた俺は、窓の方で物音がしたのを聞き、咄嗟とっさにそちらを振り返った。


 音の正体は、ベックスが突然とつぜん尻餅しりもちを付いた時のもの。

 それに気が付いた俺は、すぐに座り込んでいるベックスに声を掛ける。

「どうした、ベックス?」

「う、うそゴブ……そんなこと、ありえないゴブ」

「もしかして、見つかったチ!?」

「違うゴブゥ……」


 あせりの声を漏らすペポに、どこか陰りのある表情で応えたケイブ。

 彼は窓から俺達の方にゆっくりと視線を向けると、困惑した表情のままうつむいてしまった。


「ケイブまで……何かあったんですか?」

 そう呟くロネリーと顔を見合わせた俺は、そのまま立ち上がって窓の方に向かった。


 その窓からは、聞いていた通り湖のほとりが見える。

 そこには、武装したゴブリン達に連れられた人間の姿があった。

「監獄に捕まってる人、ですね。え? まさか、あの熱湯に入るつもりでしょうか!?」


 隣で呟くロネリーの声を聞きながら、俺は事の成り行きを見守る。

 グツグツと沸騰ふっとうし続ける湖に向かって歩かされている人々が、ゴブリン達の槍に追い立てられるように、バシャバシャと熱湯の中に入っていくんだ。


 見ているだけで熱い。と言うことは、実際に熱湯の中に入っている人々はもっと熱いわけで、案の定、逃げ出そうとする男が現れる。

 しかし、ゴブリン達もそれを知っていたらしい、あっという間にその男を取り押さえると、数人がかりで熱湯の中に投げ込んでしまった。


「あいつら! 放り込みやがった!」

むごいチ……」


 バシャバシャと盛大に暴れた男は、全身を真っ赤に染め上げながら陸にい上がって来る。

 そんな彼を取り囲むゴブリン達。

 彼はこの後、また熱湯の中に投げ入れられるのだろうかと、思わず顔をしかめてしまった俺は、予想外の事態に声を漏らしてしまう。


「様子がおかしいな……」

 這いつくばっていた男が、不意に胸元を押さえたかと思うと、苦しそうにもがきだした。

 全身の火傷やけどがよほど苦しいのかと思った俺は、しかし、そう言う話じゃないとすぐに理解する。


 もがく男の身体が、赤から緑へと変化を始め、それに合わせるように、身体が少しずつ縮んでゆく。

 その姿はまるで……。


「あれって……」

 俺と同じことを思ったのか、ロネリーがボソッと呟いた。

 そんな彼女の考えに賛同するために、俺も小さく呟く。

「ゴブリン、だよな?」


 当然、俺達のその声はベックスとケイブにも聞こえているわけで、うつむいたままのケイブが、震える声で告げた。

「オラ達って……」

「そんなこと、ありえないゴブ!」

「ベックス、でも……」


 まるで、その考えを否定するかのように、声を張り上げるベックス。

 彼は座り込んだまま目を見開き、更に言葉を続けた。

「ケイブ、お前は俺達が元々人間だったと思うゴブ!?」

「分からないゴブゥ、でも、今……」

「今のはたまたまゴブ! そうゴブ、絶対にそうゴブ!」

「お、おい、ベックス落ち着け」

「落ち着いてるゴブよ!」

「声が大きいチ」


 ペポの指摘してきを受けたベックスは、一度大きく口を開いた後、ゆっくりと噤んだ。

 代わりに、ケイブがこぶしを握り締めながら言う。

「オラも驚いたゴブゥ。でも、オラ達が元人間だからって、なにかが」


 なにかが変わる訳じゃない。

 そう言おうとしていたらしいケイブの言葉を、ベックスが遮る。

 怒りと悲しみ、それらをにじませるような表情を浮かべた彼は、窓の外をにらみながら告げる。

「ケイブ、俺達が元々人間だったってことは、バディもいたってことゴブ!!」

「それは……」

「俺達は、奪われたんだゴブ……」


 しぼり出すように発せられたベックスの声は、部屋の空気に溶け込むように、消えていったのだった。

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