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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第7章 野生児と炎雪の魔王

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第80話 螺旋を描く

 たぎるように赤く輝く目で、獲物えものにらみながら暴れまわるガーディ。

 その様子は普段の彼とは大きく異なっている。

 そんな彼の様子を、バリケードの影からのぞいていると、不意に背後から声が聞こえた。


「あやつ……様子が変じゃな」

「おわっ!? ウンディーネか、驚かせるなよ」

 眠ってしまっているロネリーの背中から姿を現したウンディーネが、興味深そうにガーディを見ている。

 彼女は視線を俺の方に降ろすと、あきれたように告げた。


「そんなこと、今はどうでもよかろう。それより、あの者を元に戻すのが先決せんけつじゃ」

「そうだね。強くなってるみたいだけど、同時に正気も失ってる感じだし」

 彼女の言葉に賛同するサラマンダー。


 内心で俺も賛同しながら、とりあえず方法を考え、ウンディーネに提案してみた。

「ウンディーネは治せそうにないのか?」

「やってみよう。ダレン、このままロネリーごと、ワラワをあの者のそばに連れてゆくのじゃ」

「分かった。行くぞ、ノーム、サラマンダー!」

「おうよ!」

「うん!! ベックスとケイブは、ペポを援護えんごしながら着いて来て!!」

「分かったゴブ!」


 すぐに動き出す俺達に背後からメデューサが声を掛けてくる。

「待て!! 逃がさないよ!!」

「しつこいチ!!」

 間違っても後ろを振り返っちゃいけないと考えながら、俺はバリケードを乗り越える。


 すかさず襲い掛かって来る魔物の攻撃は、サラマンダーとウンディーネが上手くさばいてくれた。

 程なくして、暴れているガーディの元に到着した俺達は、鋭い視線を投げて来る彼に声を掛ける。

「ガーディ!!」

「グルルルルッ!!」

「目をまさんか!! このたわけが!!」


 今にも俺達に向かって飛び掛かって来そうな様子のガーディに、ウンディーネが水の塊をぶつけた。

 全身ずぶ濡れになりながら、激しく吹っ飛ばされたガーディは、背中から壁に衝突したかと思うと、そのまま力なく座り込む。


 少しだけ待った後、不意に目をましたガーディは、普段の様子を取り戻したらしく、呟いた。

「……んが、お、オデ、どうなって」

「ガーディ! 目を醒ましたのかい!?」

「大丈夫か? ガーディ!! 怪我はなさそうだけど」


 すぐに彼の傍に駆け寄った俺達を見て、ガーディは目をパチクリとさせる。

「ダレン? サラマンダー? ロネリーたすけたのか!?」

「おうよ! 当たり前だろ? オイラ達を誰だと思ってんだ?」

「話は後じゃ! 皆の者、このまま先へ進め!!」


 ウンディーネが敵を迎撃げいげきしながら叫ぶ。

 それを聞いて、言葉を飲み込んだ俺は、すぐに立ち上がると皆に向かって告げた。

「ウンディーネの言う通りだ、急いで階段を降りるぞ!! 魔王と戦うのは、準備が整ってからにした方が良さそうだ」

「速く行くチ!!」


 殿しんがりを務めるペポの必死な声を聞き、すぐに動き出した俺達は、一目散に階下を目指した。

 おそい来る魔物達を、サラマンダーとガーディがさばき、撃ち漏らした奴らをウンディーネとベックスとケイブが処理する。

 そうして走り降りる俺達の後ろを、ペポが着いて来るような状況だ。


 強敵を倒してしまっていたのもあって、登りよりも早く進めた俺達は、あっという間に1階にまで辿り着く。

 しかし、そんな簡単に行くわけがない。


「あと少しだ!! あの扉を潜れば、城の外に……」

「ダレン!! そとにマモノがイル!! ハシ、ワタレナイ!!」

「マジか!」

 この魔王城に辿り着くまでに、大量の魔物達が闊歩かっぽしていたのを思い出した俺は、汗が頬を伝うのを感じる。


 熱さと焦りで、全身から汗が噴き出してきている中、俺は、どうするべきか思考を巡らせた。

 しかし、そんな悠長ゆうちょうな時間は、あまり長くは残されていない。


「そう簡単に逃がすわけがないだろうがぁ!! このガキどもがぁ!!」

「みんな、避けるチ!!」

 唐突に頭上から聞こえて来た2つの声に、素早く反応した俺達は、階段を駆け下りながら、大きく横に飛び退いた。


 危うくバランスを崩して転げ落ちてしまいそうになるも、なんとか踏ん張る。

 そんな俺達のすぐそばに拳を振り下ろして着地したバーバリウスは、直後、強烈な衝撃波を周囲にまき散らした。

「階段にヒビがっ!! ダレン、このままじゃマズいよ!!」

「分かってる!!」


 バーバリウスの着地の衝撃で、階段に大きな亀裂が幾本も走った。

 このままここで暴れられると、皆が分断されかねない。

 もし1階に弾き落とされ、階段まで破壊されたら、敵の多い中で合流が困難になる。


 どうすれば良い?

 そんな考えを巡らせている間にも、バーバリウスは階段に埋まった拳を抜き取り、次の攻撃を備え始めた。


 直後、ノームが階下を指さしながら叫ぶ。

「ダレン、あの穴だ!! あの穴に飛び込め!!」

 ノームが指さしているのは、ガーディが少し前に落ちてしまった穴。

 一応、彼が戻って来れたわけなので、落ちても死ぬことは無いだろう。

 それでも、わざわざ敵の罠に入って行くのは危険に思える。


「何言ってるノーム! そんなことしたら」

「良いから、オイラを信じろ!! みんなも、ダレンに続いて穴に飛び込むんだ!!」

 いつになく必死に告げるノームを見た俺は、一つため息をいた。


「ったく、仕方ねぇな!!」

 言うと同時に、俺は穴に向かって駆けてゆき、勢いよく飛び込む。

 そんな俺に続くように、皆の声が聞こえてきた。

「オデもいく!!」

「ちょっと、ダレン!? ガーディまで!?」

「おいおい! 何やってるゴブ!?」

「ベックス、今は悩んでる暇ないゴブゥ!」

「シルフィ! アタチ達が全員助けるチ!」

「分かってるよぉ~」


 みんなより先んじて飛び降りた俺は、強烈な落下感を全身で受けながら、足の下に意識を注いだ。

 真っ直ぐに伸びる穴を落下し続け、穴の先が見え始めた時、俺は叫ぶ。


「ノーム!!」

「任せろ!!」

 俺の叫びに呼応したノームは、そのまま穴の壁の中に飛び込んだかと思うと、穴が終わった先のだだっ広い空間に、俺達が滑り降りれるような道を生み出し始める。


 螺旋らせんを描くように作られたその岩の道に、足先を付けて着地した俺は、勢いに任せて滑り続ける。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 頭上から聞こえて来る皆の悲鳴から察するに、全員俺と同じように道を滑っているみたいだ。


 そうして、ノームの作った螺旋の先、切り立った崖の上に降り立った俺は、背負っていたロネリーの様子を見た後、ホッと一息つく。

 すると、次から次に滑り降りて来た皆が、崖の上に集結した。


「あいつらは……追ってきてないみたいだな」

 全員揃った後、しばらくしても敵の音沙汰がないことを確認した俺は、そう呟いた。

「とりあえずは、けたって事かな」

「それはどうか分からないゴブ。見るゴブ」


 安堵していた俺とサラマンダーをいさめるようにそう言ったベックスは、崖の下を指さしていた。

 すぐに彼の示している先に目を向けた俺は、思わず言葉を漏らしてしまう。

「なんだ、ここは?」


 俺達は今、魔王城の真下にいるわけで、そこには巨大な空間が広がっている。

 この空間の特徴を上げるなら、その大半を占めている地底湖だろう。

 なぜか煮えたぎっている地底湖の周囲には、恐らく魔王軍が建てたであろう施設が、空間の壁に埋め込まれる形で構築されている。


「すごく蒸し暑いチ……」

「あの湖が沸騰してるせいで、ここら一帯に蒸気が充満してるみたいだな」

「なんだか僕、ちょっと気分が悪くなってきたよ」

「そっか、サラマンダーにこの湿気は危ないかもしれないな」

「ダイジョウブか? オデがアパル、ハコブゾ?」

「ガーディ、ごめん、お願いしても良いかな」

「マカセロ」


 すっかり弱り切ってしまった様子のサラマンダーから、アパルを預かったガーディ。

 どことなくアパル自身も元気が無いように見えるのは気のせいだろうか。

 もしかしたら、サラマンダーの気質を受け継いでるのが関係するのかもしれない。

 そんなことを考えながら、俺は改めて地底湖の様子を眺めたのだった。

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