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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第7章 野生児と炎雪の魔王

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第79話 湧き上がる

 階段は武器を携えた魔王軍であふれかえり、部屋に居るリューゲ達は未だに健在けんざい

 ロネリーを解放することはできたけど、全てが上手く行っているわけでも無い。

 それでも俺は、不思議とき上がってくる活力のおかげで、不安なんか感じていない。


「ペポ、シルフィ、サラマンダー、まだ動けるか?」

「もちろんチ!!」

「まだまだいけるよ~」

「僕も、大丈夫だよ! っと、危ないっ」


 それぞれ、戦いを続けながら返事をしてくれた皆を見渡した俺は、頭上でバーバリウスがこぶしを振り上げたのを見て取った。

 すぐさまロネリーを連れて後方へ退き、振り下ろされるその一撃を回避する。


「ガキどもが、この俺様を愚弄ぐろうして、この城から出られると思うなよ? お前たちも、こいつらを逃がしたらどうなるか、分かっているだろうな!?」

 啖呵たんかを切るバーバリウスの声が、部屋中の空気を振動させる。

 そんな言葉に、真っ先に反応を示したのは、リューゲだった。


「もちろんでございます。このガキどもに、最高の絶望を味わわせてから、殺して差し上げましょう」

「誰がお前達なんかに殺されるもんか!! 僕も皆も、強いんだぞ!!」

 バーバリウスに向かってお辞儀をしているリューゲに向かって、火弾を吐いたサラマンダーが、そんなことを叫ぶ。


「サラマンダーの言う通りだぜ! オイラ達がそう簡単にやられると思うなよ!!」

「いちいちしゃくさわるやつらだ」

 ギロッと俺達の方をにらむバーバリウスの視線に、一瞬気圧されそうになった俺は、不意に右手を掴まれたことで我に返る。


「ロネリー?」

「なんですか?」

「え、いや、手……」

「手を繋ぎたかったので。……嫌ですか?」

「嫌じゃないけど」

「と言うことは、良いってことですね。良かった、手を繋ぎたくないってことかと思いました」


 ロネリーの様子が変だ。

 嬉しそうに頬を赤らめ、俺の手を両手でギュッと握りしめて来る彼女の様子は、普通に可愛い。

 でも、状況が状況だし、今までのロネリーだったらこんなことしなかったはずだ。


 やっぱり、少し変だ。

 直感的にそう思った俺が、ほうけたまま彼女を見ていると、当然のようにバーバリウスが声を荒げた。


「どれだけ俺様をコケにすれば気が済むんだ、貴様らは!!」

 叫びながら拳を振り上げたバーバリウスは、そのまま俺とロネリーに向けて渾身こんしんの一撃を振り下ろす。


 すぐにその攻撃を避けようと、背後に跳ぼうとした俺は、しかし、隣にいたロネリーが勢いよくバーバリウスの方へと駆け出したのを見て取った。

「なっ!? ロネリー!?」

「邪魔しないでください!!」


 きらめく金髪をなびかせながらそう叫んだ彼女は、走りながら両手を大きく動かした。

 すると、彼女の全身から湧き出して来た大量の水が、手の動きに合わせてバーバリウスの腕にまとわりつく。


 勢いよく振り下ろされようとしていた奴の拳は、大量の水に引っ張られたことで、大きく軌道きどうを変えて城の壁にぶち当たった。

 当然、攻撃の軌道を変えられたバーバリウスは、バランスを崩してしまう。


 そんなすきをロネリーが見逃すはずもなく、彼女は再び大きく腕を動かすと、バーバリウスの足を水ですくい上げ、転倒させてしまう。


 一連の流れを、茫然ぼうぜんと立ち尽くしてみていた俺は、思わずノームと顔を見合わせてしまった。

「おいダレン。どうなってんだ? ロネリーって、あんなに強かったっけ?」

「俺も知らないぞ。って言うか、こんだけ強かったんなら、一人で逃げ出せたんじゃ?」


 思わずそんなことをつぶやく俺の元に戻って来たロネリーは、クスッと笑みをこぼすと、当たり前のように俺の右腕にしがみ付いてきた。

「私が強くなれたのは、ダレンさんのおかげですよ? 今なら何でもできる気がします。凄いです。力があふれて来るって言うか、湧き上がってくるんですもん」

「そ、そうなのか? 俺、何かしたっけ?」

「自覚が無いところが、ダレンさんらしいところですね」


 転倒したまま動かないバーバリウスと、にこやかなロネリーを見比べ、俺は困惑する。

 そんなバーバリウスの様子を見て、リューゲが動かないワケがない。


「バーバリウス様!? ご無事ですか!!」

 倒れているバーバリウスの元に一直線に飛び寄ったリューゲは、心配そうな表情を浮かべている。

 そのおかげで手隙てすきになったサラマンダーが、声を張り上げた。


「みんな、逃げるなら今だよ!!」

 いや、ロネリーとウンディーネが居れば、逃げなくても倒せるんじゃないか?

 なんて思った俺は、しかし、自分の考えが甘いことをすぐに理解する。


「はぁ……なんだか疲れちゃいました。ダレンさん、後で……」

 サラマンダーが叫んだ直後だろうか、急に力なく倒れ込み始めたロネリーを支えた俺は、そのまま彼女が眠りに落ちていることを確認する。


 良く考えるまでもなく、彼女は敵地でずっと囚われてたわけだ。

 そんな状態でゆっくり休めるわけがない。疲労困憊ひろうこんぱいしているのは当たり前だろう。


「お疲れさん。後は任せてくれ」

 眠るロネリーの頭をそっと撫でた俺は、彼女を背にかつぎ上げると、階段の方に走った。


「ペポ!! 殿しんがりは任せた!!」

「分かったチ!」

「僕が道を切り開くよ!! ダレンはロネリーをお願い!」

「助かる!!」

「やっとゴブか!? もう俺達だけじゃ食い止められないゴブよ!!」


 階段の前でバリケードを張り、魔王軍の侵入を防いでいたベックスとケイブが、俺達の姿を見てぼやきだす。

 たった2人で防いでしまったのは、普通に考えて凄いことだ。


「2人とも大丈夫か? よく今まで防ぎ切ったな」

「違うゴブゥ。オラ達だけじゃないゴブゥ」

 バリケードのそばに着いて、すぐに2人に声を掛けると、ケイブがバリケードの奥を指さしながら言った。


 どういうことだ?

 と思いながら、彼の指さした階段の下の方に目を向けた俺は、何かが起きているのを見て取る。


 階段の中腹辺り、魔王軍のど真ん中で暴れ回っている赤い影。

 壁や天井を縦横無尽じゅうおうむじんに駆け巡りながら、魔物達を狩っているその素早い影は、猛烈もうれつな炎を身にまとっている。


 その様子を見た俺は、一瞬、何が起きているのか分からなかった。

 しかし、その赤い髪を見て、状況を理解する。


「「ガーディ!!」」

 理解した瞬間、声を張り上げた俺とサラマンダーは、互いに顔を見合わせて笑みを浮かべたのだった。

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