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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第7章 野生児と炎雪の魔王

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第76話 氷漬け

 魔王まおう配下はいかを名乗る魔物達は、その後も俺達に襲撃しゅうげきを仕掛けてきた。


 ある時はヒュプノスと同じように待ち伏せていて、ある時はわなを仕掛けている。

 だけど、ノームとシルフィに対して、罠の類は通用しない。

 床や壁、そして天井に仕掛けられている罠は、ノームが全て破壊はかいするし、毒を塗った矢も、シルフィによって吹き飛ばされる。


 思っていた以上に、すんなりと前進ぜんしん出来ているこの状況は、俺達を勢いづかせるのに十分だ。

「へへっ!! 魔王城なんて仰々(ぎょうぎょう)しく言う割に、全然大したことないじゃねぇか!!」


 通路の右側の壁から顔を突き出しているノームは、走っている俺達の背後に視線を投げながら告げた。

 そんな彼に先導された俺達は、突き当りにあった階段を登り始める。


 随分ずいぶんと昇ったけど、まだ頂上は先だろうか。

 ふと、そんな疑問を抱いた時、ペポが困惑した表情を浮かべて口を開く。

「ノームの言う通り、手応てごたえが無さすぎるチ!!」

「そうだね、僕もそう思うよ」


 ペポとサラマンダーに賛同しながら、背後にチラッと目を向けた俺は、頭の中で考えていた憶測おくそくつぶやいた。

「ってことは、今のこの状況も、奴の思惑通りって可能性がある訳だな」

「俺もその可能性が高いと思うゴブ」

「ダレンの言う通りゴブゥ。魔王城の中で、こんなに暴れまわって、無事で済むワケがないゴブゥ」


 大きくうなずいて見せるベックスとケイブは、よほどの自信を持っているのか、眉間みけんにしわを寄せて前方をにらんでいる。

 元魔王軍に所属していた2人がこれだけ怪しむってことは、やっぱり気のせいじゃないだろう。


 そんな俺達の意見に対して、異を唱えるのが、ノームとシルフィだ。

「考えすぎな気もするけどねぇ~。単純に、ウチらが強すぎるだけなんじゃない?」

「オイラもシルフィに同感だぜ! さっきの部屋の奴らなんて、オイラ達の攻撃を見たら、おびえて逃げちまったじゃねぇか」


 また、確かに2人の言っていることが正しい可能性もあるけど、この状況で楽観視するのは危険だよな。

「どちらにしても、全員油断はしないようにしておこう!」

「うん」

「分かったチ!」

 ここで議論をしている暇はないので、それだけ認識合わせをした俺達は、さらに加速しながら階段を駆け上がる。


 そしてついに、階段を駆け上がった先の扉に手を駆けた俺は、勢いよく中に飛び込んだ。

「次は誰が相手だ!?」

 ノームが事前に罠の警告を出してこないってことは、十中八九、今回の部屋は敵との激しい戦闘になる。


 ここまで登って来た経験から、そう考えた俺は、しかし、予想外の者を目の当たりにするのだった。

「ええい!! もっと奴らを弱らせろ!! でないと……おや?」

 部屋の中心でゴブリンの首根っこをつかんでいるリューゲ。

 広いわりに何もない部屋にいるのは、彼と配下のゴブリン達だけ。


 咄嗟とっさに身構えつつ彼の姿を見た俺は、思わず声を張り上げてしまう。

「リューゲ!! やっと見つけた!! ロネリーとウンディーネを返せ!!」

「おやおや、もうこんな所まで……予想以上に早かったですね」

 まるで取りつくろうようにそう言ったリューゲは、思い出したようにゴブリンに視線を戻すと、一瞬でゴブリンの頭部をもぎ取ってしまった。


「おまっ……何を」

 あまりに突然の出来事に、俺は思わず顔を引きつらせてしまう。

「何をしているのか、ですか? 見ればわかるでしょう? 不出来な部下を粛清しゅくせいしているのです」

「最悪チ」

「己の力が不足しているからこそ、この私に手間をかけさせたのです。これくらいは当然でしょう」


 なんてことないように言ったリューゲは、崩れ落ちるゴブリンの身体と頭をり飛ばすと、小さなため息を吐いた。

 その直後、彼の背後にあった巨大な両開きの扉がゆっくりと開き、見た事のある蛇の髪の毛が姿を現す。


「ガキ共相手に何を良い気になってるんだい? 」

「メデューサ!? みんな、奴の目を見るな!!」

「失礼な奴らだね。ほら、せっかく私が出張でばってやってるんだ。しっかりと目を見て挨拶してみろよ。まっ、できないだろうけどね」


 足元や壁に目を背けている俺達に向かって、挑発のような言葉を投げかけたメデューサは、あまり効果が無かったことを確認した後、ゆっくりとした口調で告げる。

「ところで、お前たちが探しているのは、この小娘だろう?」

「ロネリー!?」


 メデューサが手をかけて、少しだけ開いた扉の先。

 そこにロネリーの姿を見た俺は、思わず叫んだ後、絶句した。


 ひざを抱え込み、宙に浮かんだ状態の彼女の身体は、その全身を覆い尽くす氷によって閉ざされてしまっている。

 まるで、身体に水をまとったまま氷漬けにされてしまったようだ。


いチ……」

 俺の隣でペポがそう呟くと、小さく鼻を鳴らしたメデューサが、話し始める。

「酷い? 悪いのはこの小娘さ。あのお方の言葉に聞く耳を持たず、挙句の果てに逆らおうとしたが故に、このような仕打ちを受けたのさ」


 楽しそうに告げるメデューサをにらみ付けることもできず、こぶしを握り締めて足元を見つめていた俺は、込み上げてくるものを言葉にして、ぶちまける。

「……誰だ、誰がこんなことをやった!?」


 そんな俺の問いかけを聞いたリューゲとメデューサは、口々に呟いた後、綺麗に声を揃えて、その名を告げる。

「誰がやったか?」

「そんなこと、聞かなくても分かれよ」


「「我らが主、炎雪えんせつの魔王バーバリウス様」」


 そして、2人のその呼びかけに答えるように、奥の扉をこじ開けながら、巨大な影が姿を現したのだった。

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