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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第6章 野生児と頂の守り神

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第68話 雪中の攻防

 雪が激しくなってきたせいか、ベックスとケイブを縛り付けた魔物達は、そそくさと坑道の中に戻っていく。

 そのすきを見計らって、柱の元に向かった俺達は、急いで2人を縛っているロープを解いた。


「おい! ベックス、ケイブ、しっかりしろ! 大丈夫か?」

「ダメチ、完全に意識を失ってるチ」

「とりあえず、ここから離れた方が良いんじゃないかな? またあいつらが戻ってくるかもしれないし」

「でも、コロニーまで戻ってたら時間が掛かりすぎるだろ?」

「まずはサラマンダーのそばで温めてやってたら良いチ」


 えず、ペポの案を採用することにした俺達は、ぐったりとしたままのベックスとケイブをサラマンダーの脇に寝かせた。

 これで体温を回復してくれたら良いけど、そんな悠長ゆうちょうに待ってるわけにもいかないよな。


 いかにして中に潜入せんにゅうし、囚われてる人々を助けるべきか。

 そんなことを考えていると、一歩前に踏み出したガーディが、振り返りながら告げた。

「オデなら、はいれる」

「確かに、ガーディなら素早くて小柄こがらだから、上手く潜り込めるかもしれないね」

「本当に大丈夫チ?」


 自信満々のガーディに対して、少し心配そうなペポが声を掛ける。

 確かにペポの心配も分かるけど、かといって他に適任も居ない気がする。

「ガーディ、行けるか?」

「できる! オデ、ゼッタイにタスケル!」

「分かった。でも、無理はするなよ? ノーム、ガーディが侵入できそうな道を作ってやってくれ」

「オイラに任せとけ! 逃げ道も準備してやるよ!」

「それじゃあ僕たちは、敵の注意を引いておいた方が良さそうだね」

「ガーディ、危なくなったらすぐに逃げるチ」

「ワガッタ。いってクル」


 そうして、ノームを頭に乗せて坑道の入り口から少し離れた方に駆けて行くガーディを見送った俺達は、互いにうなずき合った。

「注意を引くってことは、間違いなくさっきの大男と戦うことになるけど、皆、準備は良いか?」

「当たり前チ!」

「少し怖いけど、皆が居るから、大丈夫だよ!」

「よし、なんとしてでも守り抜くぞ。そして、ガーディ達が逃げ出したら、俺達も撤退てったいする。良いな? その後のことは、その時考えよう」


 多分、今のウチに考えておいた方が良いんだろうけど、生憎あいにく、そんな時間は残されていないと俺は直感した。

 雪がどんどん激しくなっている。

 それはつまり、俺たち自身もここに居たら危険だってことだ。

 ただ、追っ手から逃げるのには、うってつけともとれる。


「ノームはいないけど、贅沢ぜいたく言ってられないしな」

 そう呟き、コロニーでノームに作ってもらった岩の槍を手にした俺は、深呼吸と共に身構えた。

「俺が前に出て、奴らを食い止める。サラマンダーはベックス達の傍で援護してくれ。ペポは、この吹雪だけど空から援護できるか?」

「大丈夫チ!」

「ウチが付いてるんだよ? 吹雪だろうが嵐だろうが、何の支障もないんだからねぇ~」

「それは本当に、頼もしいよ」


 ペポとシルフィの力強い言葉に、内心で安堵した俺は、両手に持つ槍を握りしめて、一歩を踏み出した。

 そして、坑道の入り口に向かって叫ぶ。

「おい、魔王軍!! 出てこい!! お前らに文句がある!!」

「魔王軍は弱虫だから、出てこれないチ!!」


 俺とペポが叫んだ直後、ゾロゾロとした足音が坑道の中を駆け回り始める。

 多分、俺達に気づいた奴らが慌てて出てくる準備をしているんだろう。

 と、俺がそんなことを考えていると、案の定、武装した魔物達が入り口から飛び出して来た。


「奴らだ!! あいつらの拘束を解いたやがる!!」

「殺せ!! ぶっ殺せ!!」

 物騒ぶっそうなことを叫ぶ2人のゴブリンの指示に従うように、様々な魔物が俺に向かって飛び掛かって来る。


 だけど、その大半はサラマンダーの放った火弾と、ペポとシルフィの巻き起こした突風によって、戦線を離脱する。

 そして、それらの攻撃をかい潜って来た数少ない魔物を、俺が槍で一突きにした。


「思ってたよりも弱いな!! こんなものか!?」

 第一陣が収まり、こちらの攻撃に怯んだ様子のゴブリン達に向かって、俺は叫ぶ。

 まだまだ、こんなもので注意を引けているとは思えない。

 もっともっと、奴らが冷静さを失うように、あおらないと。


 と、その時。

 薄暗い坑道の中から、大きな影がヌッと姿を現した。

 その影は、坑道の入り口の壁に手を付きながら出てくると、毛に埋もれた目で俺を見下ろしてくる。


「なんだぁ? 面白ぇ奴だと聞いて来てみれば、ただのガキ共じゃねぇか」

 そう言った白い体毛の大男は、首をゴキッと鳴らしたかと思うと、唾を吐き捨てる。


「思ったよりも出て来るのが早いっチ」

「消耗してから相手するよりは良いんじゃないかな」

「それもそうだな」

 前向きなサラマンダーに賛同した俺は、改めて大男をにらみながら声を張り上げる。


「おい! お前がここの魔王軍を仕切ってる奴か?」

「あぁ? なんだ? その舐め腐った物言いはよぉ。オレ様を誰だと思ってる?」

「お前なんか知らないチ!」

「……そうか、まぁ良い。ものを知らねぇガキに、世の中ってものをしっかり教え込むのも、上に立つ者の責務だよなぁ」


 そう言った大男は、突然前かがみになって身構えたかと思うと、全身の毛を逆立て始めた。

「このオレ様、イエティ様のことを、貴様らの身体に叩き込んでやる!!」

「みんな、来るぞ!!」

「うん!!」

「分かってるチ!!」


 ペポ達の声を聞いた俺は、すぐさま槍を構えて、イエティに向かって駆け出した。

 そんな俺を迎え撃とうとするように、イエティは両腕を頭上に大きく振りかぶる。

 しかし、そんな素振りをして、サラマンダーとペポが黙っているわけがない。

「させないよ!!」

 そのまま、全力で拳を振り下ろそうとするイエティの顔面に、放たれた火弾が命中し、一歩だけイエティがよろめく。


 その隙を逃さないペポとシルフィが、再びイエティの顔面に向かって猛烈な突風を浴びせた。

 俺の頭上を吹き抜ける風は、バランスを崩しかけたイエティの身体をさらい、そのまま後ろに押し倒そうとする。

 それでも、完全に倒しきれていない様子を見た俺は、イエティの膝を足場にして跳び上がると、白い剛毛に覆われた奴の胸元に強烈な蹴りを喰らわせる。


 やったか!!

 と、心の中で叫んだ俺は、直後、火弾と突風の影響で立ち込めている煙が一気に振り払われたことに気が付く。

「効いてねぇぞぉ!!」


 雄叫びと共に、振り上げたままだった腕を、一気に振り下ろすイエティ。

 迫り来る腕の一撃を見て、咄嗟とっさに槍を突き出した俺は、鈍い感触を両手に感じ、次の瞬間にはグルグルと回転しながら地面を転がった。


「ぶはっ!! あぶねぇ」

 雪に埋まっていた顔を引き上げ、大きく息を吸った後、俺はイエティの方に目を向けながら呟く。


 咄嗟とっさに突き出した槍が、イエティの腕に当たったことで、大きく弾き飛ばされたらしい。

 そのおかげで、奴の攻撃の直撃は避けられたけど、同じことはもうできそうにない。

 俺は細かく折れてしまった槍に目を落とし、一番長い欠片を拾い上げると、再びイエティに向かって駆け出す。


 その間に多くの魔物に襲われた俺は、倒した奴らの武器を奪うことに成功した。

 刃の欠けた片手剣と、軽い盾。

 それらを構えたまま駆けた俺は、ペポとシルフィにヘイトを向けているイエティの足元に滑り込む。


「これでも喰らえ!!」

 渾身こんしんの一撃を、奴のふくらはぎに打ち付けた俺は、足に打ち付けたと同時に、あっけなく折れてしまった剣の欠片で、右頬に傷を負った。


 まるで石に向かって切りつけているみたいだ。

 なんて考えながらも、俺は頭上から注がれるイエティの視線から逃れるように、後退する。


「ちょこまかとうざい奴らだ!! いい加減にくたばりやがれ!!」

 怒りをあらわにしながら叫ぶイエティ。

 その直後、再び両腕を振り上げたイエティは、先ほどとは比べ物にならない程の勢いで、地面を叩きつける。

 当然、鈍い衝撃が足元に広がり、大量の雪が舞い上がった。


「うおっ!!」

 足を取られ、バランスを失った俺は、短く叫ぶ。

 そしてすぐに、それが間違いだったことに気づかされる。

「そこかぁ!!」

 今にも体勢を崩して倒れそうになった俺に向かって、舞い上がった雪の中から何かが近づいてくる。

 その重量感のある足音を聞くだけで、それがイエティの突進だと理解する俺だけど、避けることは出来そうにない。


 咄嗟に手にしていた盾を構えて、防御しようとする俺。

 次の瞬間、俺は盾越しに2つのものを目の当たりにした。

 1つは、舞い上がった白い雪の煙幕の中から、まっすぐに突進してくるイエティの巨体。

 そしてもう1つは、そんなイエティと俺の間に、スーッと姿を現した、か細い人物の姿。


 白く、細く、そしてか弱く見えるその女性は、身にまとっている真っ白な衣服をひらひらと揺らめかせる。

 こちらに背中を向けて立っているその女性を、一瞬のうちに観察した俺は、見覚えのある姿を目にした。

「キツネ!?」


 彼女の首元には、あのキツネが巻き付いていたんだ。

 思わず叫んだ俺の言葉を聞いたのか、そっと俺の方に振り向いた女性は、その黒い髪を靡かせながら、優しく呟いたのだった。

「私のパパでございます」

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