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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第6章 野生児と頂の守り神

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第67話 小さなこぶし

 魔王軍が占拠せんきょしている坑道こうどうに辿り着いた俺達は、少し離れた所から様子をうかがっていた。

 というのも、坑道の入り口付近を、多くの魔物が見張っているんだ。

 そんな状態じゃ、迂闊うかつに近づくこともできない。


 再び降り出した雪の中、凍えそうになるのを堪こらえながら地面に伏せた俺達は、小さな声で話し合う。

「雪のおかげでバレてないけど、このままじゃ近づけないな」

「アタチが空から奇襲を仕掛けるチ?」

「バレたらベックスとケイブが危ないんじゃないか? ここはまず、オイラがあの2人を探すべきだろ」

「ノームの言う通りだな。頼めるか?」

「任せとけ」


 そう言って地面にもぐっていったノームに、坑道の中の調査を任せた俺は、改めて魔物達の様子を観察する。

「それにしても、あいつらさっきから何をやってるんだ?」

「分からないチ」

「なにか、柱を建ててるみたいだね。何に使うんだろう?」


 ペポとサラマンダーが、小さな声でつぶやく。

 サラマンダーの言う通り、数体のゴブリンが2本の木の柱を地面に突き立てて、倒れないように根元を固定しているようだ。

 それが何の用途に使われるのかは分からないけど、作業が終わるまでは入り口付近に近づくのは難しいだろう。


 柱を建てているゴブリン達の周りで、その作業を見守っている他の魔物達は、なぜか笑っているのが気がかりだ。

 そんなことを考えていると、ようやく柱を建て終わったのか、ゴブリン達が坑道の中へと引き返していった。

 それからしばらくした後、俺達はとんでもないものを目の当たりにする。


「っ!? ダレン、あれ!!」

「ベックスとケイブだっチ!!」

「2人とも落ち着け。今出て行ったら、奴らに見つかるぞ」

 すぐにでも坑道の方に跳び出して行こうとするペポとサラマンダーを制止しながら、俺は歯を食いしばった。


 裸でぐったりとした様子のベックスとケイブを抱えて、坑道の中から出てきたのは、白い剛毛ごうもうおおわれた大男。

 背丈は2メートル以上あるだろうか、屈強くっきょうな体格といかつい顔つきからして、かなりの強敵だと分かる。

 そんな大男は2人を乱暴に柱の傍に放り捨てると、声を荒げた。


「このオレ様に逆らうことは、絶対に許さねぇからな。てめぇら!! こいつらを縛り上げておけ!!」

 それだけ言った大男は、しかめっ面をしたまま坑道の中に戻って行く。


 指示を受けた魔物達が、ベックスとケイブをそれぞれ柱にくくりつけ始める中、その様子を見ていたガーディが、小さくうなりながら口を開く。

「アイツだ、ダレン。アイツが、ふたりをツレサッタ」

「みたいだな……想像以上に、ヤバそうなやつだ」

「それよりも、2人が大変チ!!」


 ペポの言葉を聞いた俺は、柱に括りつけられたベックスとケイブに目を向ける。

 力なく、ぐったりとしている2人は、意識を失っているようで、ピクリとも動かない。

 それもそのはずだ、雪の降る中、遠目から見ていたせいで気づけなかったけど、よく見れば2人とも、全身にひどあざができている。


 思わず目を背けてしまいそうになるほど、ズタボロにされている様子の2人を見て、俺が言葉を失っていた時。

 足元の地面からノームが飛び出して来た。


「ノーム……ベックスとケイブが」

「……分かってる。オイラも見た。だけど……」

 柱に括られているベックスとケイブを、鼻先で示しながら呟くサラマンダーに、ノームは顔をしかめながら応える。

 その様子に違和感を覚えた俺が、どうしたのか尋ねようとした時、彼はその小さな拳を握りしめながら告げた。


「中は、もっと酷い状況だったぜ……あいつら、心なんて持ち合わせてないらしい」

「もっと酷い状況チ?」

「あぁ。正直に言えば、オイラはもう、あの坑道の中に入りたくねぇ……でも、そう言うわけにもいかねぇ」

「どういうことだ? ノーム、中で何を見て来た?」


 よほどの物を見て来たのか、俺の掌の上で怒りに震えているノームに、俺は詳細を尋ねる。

 だけど、彼の代わりに口を開いたのは、サラマンダーだった。


「……中に、人がいたんですね?」

「……あぁ」

「そう、ですか」

「サラマンダー? 何か知ってるのか?」

「……僕たちが、このあたりに住んでいたことは、知ってますよね? 僕らは近くにあったコロニーで、生まれたんです」

「そうだったのか」

「でも、もうそのコロニーはありません」

「……なにがあったチ?」


 ペポの問いかけに、ピクッと身体を震わせたサラマンダーは、言い難そうに話し始めた。

「あの大男です。アイツが、魔物を引き連れてやってきて、コロニーに住んでた人を全員、連れて行きました。家は燃やされて、反抗の意思がある男は殺されて……」

 耐え切れない程の感情が込み上げて来たのか、そこで一度言葉を切った彼は、想いを飲み下すようにして、告げた。

「僕とアパルの父さんはその時、僕らを逃がした後、あの大男に殺されました。母さんがどうなったのかは、分かりません」


 俺も、他の皆も、言葉を失った。

 彼にどんな言葉をかけることができるのか、どれだけ考えても分からない。

 どんな気持ちで、今まで俺達に着いて来てくれたんだろう。

 この山に登るって聞いた時、サラマンダーは何を思ったんだろう。


 色々な考えが頭の中をめぐるけど、どれ1つとして、心の休まるものは無かった。


 ベックスもケイブも助けたいけど、サラマンダーに手伝ってもらうのは酷だろうか?

 ふと、そんな考えが頭の中を過った俺は、その考えを振り払うように、頭を振った。

 それと同時に、サラマンダーが口を開く。


「ずっと黙っててごめん。でも、僕は、皆との旅が楽しかったから、出来るだけ悲しい気持ちにさせたくなかったんだ」

「……分かった。それで、サラマンダー。これからどうしたい?」

「え?」

「ノーム。坑道の中にいた人達は、生きてたんだろ?」

「あぁ、生きてるぜ」

「ってワケだ。サラマンダー。どうしたい? 俺達に何をしてほしい? 俺はまず、サラマンダーがどうしたいのか、聞いておきたいと思ってる」

「どうしたい……それはもちろん、助けたいよ。でも!!」


 少し考え込んだ後、にじみだす感情と共に願望を吐露したサラマンダーの背中を、俺はそっと撫でた。

 そこには、スヤスヤと眠っているアパルが居て、彼を包むように変形したサラマンダーのうろこがある。


「偶然だな。俺も助けたいと思ってる」

「オイラだってそう思ってるぜ!」

「本当チ、アタチも同じっチ」

「オデもだ!!」

「ウチもだよ~」

「みんな……」


 俺達は互いに顔を見合わせて頷き合った後、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、激しさを増し始める雪の中、坑道に向けて突き進む。

 今日は一段と、荒れそうだ。

 周囲の景色が白一色に染まる中で、拳を強く握りしめた俺はそう思ったのだった。

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