第66話 心に決めた
風を切り雪をかき分ける俺達の姿は、それなりに目立つらしい。
あと少しでコロニーの元に辿り着くという所で、こちらに気が付いた魔物達が、迎撃態勢を取り始めた。
「おいノーム、これってヤバいんじゃないか!?」
「あいつら気づきやがったな。でも、準備万端ってわけでもなさそうだぜ!!」
そう言うノームの指さした方に目を向けた俺は、1人のゴブリンが雪に足を取られて転んだことに気が付く。
すぐにそのゴブリンの方に進路を変更しつつ、敵の攻撃に身構えた俺は、小さな雪の山をジャンプ台にして、思い切り跳び上がった。
傍から見れば、魔物達の頭上に躍り出たような状態なわけで、このままじゃ敵のど真ん中に放り出されてしまう。
まぁ、何も考えてないってことは無いわけで、俺はすぐに声を張り上げる。
「ノーム!!」
ジャンプと共に叫んだ俺は、頭の上に居たノームを掴むと、一緒に宙に浮かび上がった岩の板に向けて彼を投げた。
当然、岩の板に衝突したノームは、声を上げる間もなく板の中へと姿を消してしまう。
直後、長い槍へと変形した岩を、空中で掴み取った俺は、切っ先を地面に向けながら着地する。
魔物達は俺を避けるように場所を開けたかと思うと、臨戦態勢で睨み付けて来る。
ゴブリンだけじゃなく、熊のような巨体の魔物や狼型のものまで、様々な魔物達が、俺達を取り囲んだ。
そんな奴らを睨み返しながら槍を構える俺は、ふと、キツネたちの姿が無いことに気が付く。
「あれ? あいつら、どこに行った?」
「おい、そんなことよりも、今は敵に集中しろ! 来るぞ!!」
槍の柄からニョキッと姿を現したノームにせっつかれ、俺は気を取り直す。
「前も後ろも右も左も、敵だらけだな。いやになるぜ」
「それでも切り開くしかないだろ。それこそ、俺達の得意分野だ。道を作るぞ、ノーム!」
「おうよ!!」
ノームの掛け声を合図に一歩を踏み出した俺は、手にしていた槍で魔物を斬りながら、前に進んだ。
斬るというよりは、殴るって言った方が良いかもしれない。
そうして、コロニーめがけて敵の中を進む俺達の元に、次々と援軍が現れる。
「ダレン! ノーム! 無事だったチ!?」
「オイラ達ならピンピンしてるぜ! って言うか、心配してくれたのか? ペポ」
「う、うるさいチ!!」
「やめてやれよノーム。俺達だって人のこと言えないだろ」
「まぁ、そうだな」
飛び交う矢を無数の風で弾き返しながら、頭上を旋回するペポとシルフィに、俺はそう声を掛ける。
そんな俺達にチラッと視線を向けた彼女は、少し恥ずかしそうに顔を背けると、コロニーの上空に戻って行った。
そうこうしていると、同じように魔物の中に躍り出たガーディが、その赤い髪を風に靡かせながら駆け寄ってきた。
「ダレン!! ブジか!! いまタスケる!!」
「ありがとうガーディ、お互いに無事でよかった! サラマンダーとアパルも無事か!?」
「だいじょうぶ!!」
「ってことは、あとは邪魔者をどうにかするだけだな」
そこからはあっという間だった。
俺とガーディが魔物達を内側からかく乱し、ペポとシルフィとサラマンダーが追い立てる。
俺達の華麗な連携を前に、魔王軍の連中は尻尾巻いて逃げたってワケだ。
まぁ、そんなに強い魔物が居なかったってのもあるけど。
「よし、これであいつらもここには戻って来ないだろ」
逃げ去っていく魔物達の背中を見て、そう呟いた俺は、ようやっと胸を撫で下ろし、コロニーの中に足を踏み入れた。
ここは今まで見て来たコロニーの中で、最も小規模な集落だ。
家も数件しかないうえに、住民も少ない。
こんな雪山の中にある訳だから、仕方がないとは思うけど、だとしたら、なんで魔王軍はここを襲ったんだろう。
そんな疑問を抱きつつ、コロニーの中央に集まっているペポ達と合流した俺は、改めて皆の顔を見る。
ペポにシルフィにサラマンダーにガーディ、そしてスヤスヤと眠っているアパル。
どうでも良いけど、あれだけ騒がしかったのに、アパルはよく寝ていられるよな。
と、呆れながら残りの2人を目で探した俺は、彼らがどこにもいないことに気が付いた。
「あれ? ベックスとケイブは?」
俺がそう告げると同時に、サラマンダーが悔しそうな表情で応える。
「あの2人は、魔王軍の奴らに連れていかれちゃった」
「え? それは本当か?」
「本当チ。さっきの魔物達は、2人を連れ去るための足止めチ」
「デカいオトコ、ユキオトコが、あいつらツレテッタ……オデ、タスケレなかった」
明らかに意気消沈している様子のペポ達を見て、俺は先ほど見た16年前の光景を思い出す。
「滅入らない方がおかしい……か。まぁ、確かにそうだよな」
「ダレン? どうしたチ?」
「いいや。何でもない。それより、2人はどこに連れていかれたんだ?」
そんな俺の問いかけに応えたのは、サラマンダーだった。
「多分、例の坑道だと思う。前に海岸で言ったと思うけど、僕達は元々《もともと》、この辺に住んでたんだ。だから、坑道にいる魔物達を仕切ってる奴の話も、聞いたことがあるんだよ」
「……そうか。と言うことは、間違いはなさそうだな」
そう言って、俺は躊躇うことなく視線を上げると、皆を見渡した。
「ダレン、どうするチ?」
「決まってるだろ? 助けに行こう」
「オデもいくゾ」
「もちろん、僕も行くよ」
「案内はウチに任せてねぇ~」
「おい! それはオイラの役目だろ!?」
「あれ? そう言えば、ノームの姿が前のに戻ってるチ」
「今更かよ!?」
迷うことなく賛同を示す皆を見ながら、俺は思わず苦笑する。
多分、全員が同じことを思い出しているんだろうな。
砂浜で、彼らが俺達のことを助けてくれたこと。
それでも、ロネリーを奪われてしまったこと。
だからこそ、俺は強く決心した。
ベックスとケイブに恩返しをする。そして、万全の態勢でロネリーを助けに向かうんだ。
それがきっと、俺達にとって大きな一歩になるんだと。




