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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第6章 野生児と頂の守り神

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第64話 想いの種:せめぎ合い

 視界しかいくすひかりうすれたとき、俺は相変あいかわらず洞窟どうくつなかた。

 温泉おんせん湯気ゆげ健在けんざいで、ぱっとでは、なに変化へんかがあったようにはえない。

 だけど、まえおなじように、俺の足元あしもとすわんでいる人物じんぶつが、そこにはた。


 温泉おんせんあしけてだんっている女性じょせいは、どうやらレンのようだ。

 ロネリーとおなじ、うつくしい金髪きんぱつらした彼女かのじょは、上半身じょうはんしん毛布もうふでくるんだ状態じょうたいで、湯気ゆげながめている。

『やっぱり、レンたちもここにたことがあったんだな』

『そうだな。にしても、レンはいつてもんでねぇか? なんか、オイラまで気分きぶんしずみそうだぜ』


 俺のかたっているノームがそんなことをったとき背後はいごから何者なにものかがはなしかけてくる。

「レン。大丈夫だいじょうぶ? 身体からだあたたまったかな?」

「リサ……うん。大丈夫だいじょうぶ


 レンの返事へんじには、あまり元気げんきこもっているようにはおもえなかった。

 それをリサもかんったのか、そのながくて綺麗きれい黒髪くろかみうしろでたばねると、おもむろにレンのとなりこしろす。


「はぁ~。あしだけでも、すごく気持きもちいいわね。温泉おんせん。できれば、いえにひとつくらいしいわぁ」

「あはは。かるかも」

「どうやったらつくれるのかな……っていうか、こんなやまたかところに、どうしておいてるんだろ」

「どうして……だろうね」

「ねぇレン。もし私達のいえ温泉おんせん出来できたら、一緒いっしょはいりましょ。ウンディーネもね。約束やくそくよ?」

「うん。絶対ぜったいく」


 レンがそうこたえた直後ちょくご彼女かのじょ首元くびもとから姿すがたあらわしたウンディーネが、もうわけなさそうな表情ひょうじょうげた。

「ワラワがはいってしまえば、みずわってしまうかもしれんが……」

大丈夫だいじょうぶよ。そのときは……」


 レンを元気げんきづけようとしていたのか、あかるくはなしをしていたリサは、突然とつぜんくちつぐむと、深々《ふかぶか》とうつむいてしまった。

 そうして、2人のあいだ沈黙ちんもくただよう。


『どうしたんだ? なんか、空気くうきおもいぜ?』

『……なにかあったんだろう。いまは、つづきをてみよう』

 ノームの疑問ぎもん内心ないしん共感きょうかんしながらも、俺は2人の様子ようす観察かんさつすることに専念せんねんした。

 そのおかげか、色々《いろいろ》とづいたことがある。


 まず、周囲しゅういにはほかだれ見当みあたらない。

 そして、こしろしている2人は、やけに疲労ひろうしているようにえた。

 湯気ゆげのせいでくはえないけど、身体からだいたところきずすすのようなものれる。

 それらをた俺は、この光景こうけいが『かえり』の道中どうちゅうなんだとさっした。


 なによりもその推測すいそく裏付うらづけるのが、2人の会話かいわだ。

『そのとき……たのめるとしたら、1人しかいないよな』

 沈黙ちんもくする2人をながら、おもわずつぶやいてしまった俺に、すかさずノームがいかけてくる。

『ん? なにってるんだ?』

『リサがおうとしたことだよ。つくりたいとき、おまえならどうする? ノーム』

『そりゃ、みずあたためるんだろ? だったら、ウンディーネにみずしてもらって、サラマンダーに……あ』


 サラマンダー。

 かれについて俺達がっていることとしては、ほかの3だい精霊せいれいがすために、殿しんがりつとめていのちとしたということ。

 つまりは、この光景こうけいは、サラマンダーのおかげでげおおせたあとのものにちがいない。

 そんな俺の推測すいそく肯定こうていするように、レンが沈黙ちんもくやぶって、くちひらいた。


「どうして、こんなことになっちゃったのかな……」

「……レン?」

「リサ。これから私たち、どうなっちゃうの?」

「どうって」

「グスタフさんのおかげで、私達はげることができたけど、でもそれって、私達じゃかったってことで、護衛ごえいのオルニスぞくひとたちもりにいなくなっちゃったし、そもそも、霊峰れいほうアイオーンの頂上ちょうじょうで、なにをすればいいのかもわからなかったし。このままじゃ私たち、いろんなひとたちに迷惑めいわくだけかけて、それで!」

「レン! いて! ね、すこいて。大丈夫だいじょうぶだから」


 身体からだつつんでいる毛布もうふをギュッとにぎりしめながら、次第しだいにヒートアップするレンを、リサが制止せいしした。

 そのやわらかなうででレンのあたませ、やさしいこえなぐさはじめている。

大丈夫だいじょうぶ大丈夫さいじょうぶよ。きっと、なんとかなるから。ね。そんなに悲観ひかんしないで」

「でも……」

悲観ひかんして、あきらめちゃったら、グスタフさんにもうわけないじゃない……」


 あたまでていたリサは、しぼすようにそうつぶやくと、レンのあたまかおうずめながら身体からだふるわせた。

 そんなリサの様子ようすおどいたのか、レンはわれかえったような表情ひょうじょうかべたかとおもうと、リサをそっとせる。

「ごめん、リサ。私が弱気よわきなことったから……」

「ううん。大丈夫だいじょうぶ。私もごめんね。ちょっと滅入めいっちゃったみたい」

仕方しかたないよ……こんな状況じょうきょうでも滅入めいらないほうがおかしい。あのダンですら、最近さいきん元気げんきなさそうだし」

「やっぱりレンにもかる?」

「うん」


 そんなやりりでなおしたのか、リサとレンは相変あいかわらずきしめったまま、かお見合みあわせてちいさなみをかべた。

「いつもが無駄むだ元気げんきぶんすこまれると、調子ちょうしくるうよね」

「うん。それに、普段ふだんから私達は、ダンに元気げんきもらってたんだなぁっておもった」

「あはは。もらいすぎてつかれるときもあるけどね。いまはとてもこいしいけど」

「そうだね。私、やっぱりみんなにはしあわせになってしいな。リサもダンも、もちろんホルーバも。……グスタフさんも」

「そうだね」


 ふたた沈黙ちんもくした二人は、たがいをきしめっていたうでほどき、ふかいためいきとともに湯気ゆげ視線しせんもどす。

 それからしばらくして、2人のもとにダンとホルーバがやってた。

 かれらはしろいキツネと6たいしろいのをれて、あるいてくる。


「おたせ。もどってたぞ」

「いやぁ、やっぱりここがくな。そとじゃワイルドになれねぇし。オイラ、ずっとここでらしたいぜ」

「そんなわけにもいかない。アタイらにはやるべきことがあるだろう?」

かってるっての。ったく、ホルーバは本当ほんとう真面目まじめだよなぁ。少しはシルフィのぐうたらを見習みならえよ」

てならないねぇ。ウチはべつにぐうたらじゃないんだけどぉ? ちから温存おんぞんしてるんだよ」

つね温存おんぞんする必要ひつようねぇだろ」


 そんなやりりをしながら姿すがたあらわしたダンたちほうかえったレンとリサは、一度いちどたがいのかお見合みあわせたあとちいさくわらった。

 すかさず、2人の様子ようすいたらしいダンやノームたちが、なにやらこえはっしたが、その言葉ことばは俺達のみみはいってこない。


 視界しかいこえも、なにもかもがぼやけていくなかで、俺はゆっくりとじた。

 いそいでロネリーをたすけにきたい。でも、かんがえる時間じかんしい。

 2つの感情かんじょうむねうちでせめぎって、存在感そんざいかんしていった。

 俺はこのせめぎいをむねいだいたまま、このさき冷静れいせいでいられるだろうか。

 そんな不安ふあんおぼえながらも、俺はゆっくりとけたのだった。

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