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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第6章 野生児と頂の守り神

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第60話 山頂のヤバい奴

 つま先がジンジンと痛むのは、きっと冷たさが原因だろう。

 深々と積もっている雪に、一歩を踏み出した俺は、痛みが少し強まるのを我慢するために歯を食いしばった。

「前が全然見えないよ……ダレン、本当にこの方向で合ってるのかな?」

「分からない! でも、進むしかないだろ!!」


 右隣にいるサラマンダーにそう叫び返した俺は、他の皆の様子を確認する。

 俺達は今、カルト連峰の中腹辺りを登っているところだ。

 猛吹雪の中で、なるべく安全に先に進むために、サラマンダーを中心にして歩いている。

 彼の身体からは常に一定の熱気が発せられているから、その熱で体温の低下を防ごうってワケだ。

 おまけに、シルフィが吹雪の風を弱めてくれてる。


 普通に考えれば、それだけのサポートを受けている時点で、かなり進みやすいはずなんだけど。

 お世辞にも、俺達の歩みが速いとは言えなかった。


「やっぱり、坑道に侵入した方が良かったゴブ」

「魔王軍が使ってる坑道なんか通ってたら、すぐに見つかって捕まるのがオチだろ!」

「でも、このままじゃ、オラ達凍え死ぬだけゴブゥ」

 最後尾を歩いているベックスとケイブのボヤキに、俺はうんざりしつつも、引き続き足を動かすことに専念した。

 先頭を歩いているペポの背中が、とても頼もしい。


「どこかで休憩を挟みたいけど……良さそうな場所は見当たらないね」

「そうだな。洞窟でもあれば良いけど、探そうにも、雪のせいで入り口が見えないし。吹雪の中に入ってから、ノームはこんなだし」

「す、すまねぇ……オイラ、寒いのは苦手みたいだ」

 俺の懐でぐったりとしているノームに視線を落とした俺は、彼の謝罪に肩を竦めてみせる。


 本来なら、山を越えるためにノームに洞窟でも掘ってもらおうかと思ってたんだけど、この様子じゃ難しそうだ。

 ブルブルと震えているノームを、懐で優しく抱えた俺は、ふと、サラマンダーの背中に目を落とした。

 彼の背中では、いつも通りアパルが寝息を立てている。


 サラマンダーの放つ熱気を全身に受けているらしい彼の寝顔は、とても心地よさそうだ。

 羨ましい。


「ペポ! そろそろ先頭を変わるか? さすがにずっと先頭を歩くのは疲れるだろ?」

「気にする必要はないっチ! アタチ達は人間よりも寒さに強いチ!」

「ペポはさむさにツヨイのか! オデ、さむいのキライだ」

「安心しろよガーディ。俺も寒いのは嫌いだ」

「人間は貧弱チ」

「本当だよ。いつも思うけど、その羽毛を分けて欲しいよ」

「絶対にやらないチ!」

「分かってるっての」


 いつもの雑談でもすれば、寒さも吹き飛ばすことができると思ったけど、どうやらそう言うわけにもいかないらしい。

 それに気が付いた俺達は、それからしばらくの間、黙々と歩き続けた。

 そうして、どれくらいの時間が経ったのか、流石にもう足の痛みが限界に達しそうになった時、サラマンダーが呟く。


「山頂はまだかな……」

「まだみたいだな。もう結構進んだと思うんだけどな」

「まだゴブ! でも、俺はあんまり山頂には行きたくないゴブ」

「オラもゴブゥ」

 またもやボヤくベックスとケイブを振り返った俺は、小さくため息を吐きながら、2人の言葉について考えた。


 それは、このカルト連峰を登り始めてすぐのこと。

 ベックスとケイブは魔王軍が掘ったという坑道に、俺達を案内した。

 流石にそんな坑道に入るのは危険すぎるとして、普通に山を越えようと提案した時、2人は口々に言ったんだ。

『山頂にはヤバい奴がいる』


 そのヤバい奴がどんな奴なのか詳しく知らないけど、魔王軍の坑道に忍び込むよりもヤバい奴と遭遇することは無い気がする。

 もし坑道の中でリューゲやメデューサ並みの悪魔と遭遇でもしたら、勝ち目は薄いだろう。


「そのヤバい奴と遭遇してないわけだから、まだ山頂じゃないんだろうな」

「ダレンは甘く見すぎゴブ」

「本当ゴブゥ……あいつは吹雪の中に突然現れて、オラ達みたいなゴブリンを取って食うんだゴブゥ」

「どんな奴なんだよ、それ」

「姿を見た奴はいないゴブ! いや、戻ってこないゴブ!」

「ははは、なんていうかそれって、ただ遭難しただけの可能性もあるよね」

「サラマンダーも甘く見すぎだゴブゥ」


 完全に怯え切っているベックスとケイブの様子に、苦笑いを浮かべてしまう俺とサラマンダー。

 きっと、魔王軍の中で流れている噂に、2人が踊らされているだけだろう。

 そんな安直な感想を、俺が抱いた時。

 不意にペポが声を上げた。


「うわ!!」

「どうした、ペポ!?」

「いや、大丈夫チ。ただの岩だったチ」

「なんだ、ただの岩かよ」

「僕、ちょっと驚いちゃいました。てっきり、ベックスとケイブの言ってる奴が現れたのかなぁって」

「そんなこと言って、後悔しても知らないゴブ」


 不貞腐れて見せるベックスに、小さく笑いながら頭を下げるサラマンダー。

 そんな彼らを見た後、俺は足を止めているペポの隣に歩み寄った。

「で? 岩ってのはこれの事か?」

 そう言いながら、俺は進路を塞いでしまうほどの巨大な岩を見上げ、尋ねる。

「そうチ。さっきまでは全然見えなかったチ。でも、この吹雪だから、当然っチね。迂回して進んだ方が良さそうチ」

「迂回かぁ。確かに、この岩に沿って歩くしかなさそうだな」


 俺とペポがそんな会話をした直後、突然、サラマンダーが声を張り上げた。

「2人とも! 上を見て! 何かがこっちに近づいて来るよ!!」

 咄嗟に頭上を見上げた俺は、確かに、吹雪の中を蠢く何かを目にした。


 太くて巨大なそれは、うねりながら岩の表面を降りてくる。

 すぐに岩の傍から離れて身構えた俺とペポは、サラマンダー達を背中で庇いながら、様子を伺った。


 その間に、俺達の眼前にまで降り立ったその影は、ぴたりと動きを止めてしまう。

 一瞬、俺達とその影の間に静寂が訪れた直後、吹雪の中に声が響き渡った。


「なんかうるさいと思ったら、こんなところに人間がいたのか。ん? いや、ただの人間じゃないなぁ? おい、起きろよ。仕事だぞ」

 その声は恐らく、岩の表面を伝って降りて来た何かが発しているらしい。

 それに気が付いた俺が、改めてその影の様子を伺っていると、吹雪の中に鈍く光る2つの目があることに気が付いた。

 その目と、口、そして身体の様子を見て取った俺は、思わず言葉を漏らしてしまう。


「ヘビ、なのか?」

 そんな俺の言葉が合図だったとでも言うように、ズシンと言う衝撃が地面を駆け巡る。

 危うくバランスを崩しかけた俺が、両足で踏ん張っていると、目の前にあったはずの巨大な岩がゆっくりと持ち上がった。


 まるでこちらを振り返るように回転を始めた巨大な岩には、それに見合うだけの太い手足が生えている。

 胃に響くような衝撃を何度も繰り返し、俺達の方に向き直ったらしい巨大な生物は、岩のような巨体からヌッと頭を突き出してくると、巨大な目を見開いて告げた。

「こんなところに人間が来る訳ないだろう? 何を言って……」


 そこで言葉を切った岩の化け物は、大きな目をパチクリとした後、口をあんぐりと開けて呟いたのだった。

「人間……!? いや、ゴブリンもいるってことは、魔王軍の手先だな」

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