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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第5章 野生児と人魚姫

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第59話 ヒメゴト

 怒りと興奮で煮えたぎっている思考のまま、ケイブの方を振り返った俺は、彼を睨みつけながら問いかける。

「おい……今、なんて言った?」


 俺の問いかけを聞いた大柄なケイブが、その大きな口を開きかけた時、彼の脇から姿を現したベックスが、俺を制するように手を出しながら話し始める。

「まぁまぁ、落ち着けゴブ」

「落ち着けって? そんなことできるわけないだろ? なんだよ、呪いって」

「本当に聞いたこと無いゴブゥ? 有名な話ゴブゥ」

「だな。俺達ですら知ってるゴブ。4大精霊のウンディーネを宿した者は……」

「殆ど全員が短命だチ!」


 まるで、ベックスの言葉を遮るように叫んだペポ。

 一瞬、辺りに沈黙が訪れた後、思い出したようにベックスが口を開いた。

「は? いや、そりゃがうあ!?」

 ベックスが話を始めようとした瞬間、俺の上にいたペポが彼の元に飛び掛かり、その口を足で閉ざしてしまう。

 そして俺は、彼女が微かに呟いた言葉を耳にする。

「……少し黙るチ」


 間違いなく、ベックスに向けて放たれた彼女の言葉には、どこか必死さを感じる。

 ベックスが言おうとした内容も、ペポがそれを遮った理由も、俺には分からない。

 だから、とりあえずその場に立ち上がった俺は、彼女に状況を問うことにした。

「おい、ペポ。どうしたんだ?」

「なんでもないチ」

「いやいや、どう見ても何かあるだろ。それくらい、オイラでも分かるぜ」


 気まずそうに視線を泳がせながら応えるペポに、ノームがいつも通りツッコミを入れる。

 しかし、いつもとは異なりノームのツッコミの後には、静かな沈黙が漂った。

 微妙な空気が流れる中、何か話の糸口を掴もうとしていた俺の元に、ガーディがやってくる。


「ダレン、タンメイって、なんだ?」

「それは……」

 一瞬、言葉に詰まった俺。

 そんな俺をフォローするように、ガーディの隣に居たサラマンダーが説明してくれる。

「短命ってのはつまり、あまり長く生きられないって事だよ。ガーディ。でも、ロネリーさんが……元気そうだったし、そんな風には見えなかったけどなぁ」


 サラマンダーの説明を聞いて、ガーディはショックを受けている様子だ。

 まぁ、気持ちは分かる。俺もショックだ。

 と、そんなやり取りをする俺達を見て気を取り直したのか、ペポは軽く咳払いした後に、言葉を並べ始めた。

「事実としてウンディーネを宿した人の命は短いらしいチ。だから、ウンディーネの呪いって言われてるチ」


 ウンディーネの呪い。

 それが本当だとして、ロネリー自身は知っているんだろうか。

 いや、知っていたに違いない。なぜなら、俺はその片鱗を既に見たことがあった気がするからだ。


 ロネリーと初めて出会った後。

 ゴールドブラム爺さん達の住んでいたコロニーを出発する前日に、俺はとあることを問いかけられた。


『お主はあの娘の決意を理解しておらんようじゃな』


 あの日、ゴル爺が言っていた言葉が、ここにきて重みを増してくる。

 自分の命が長くはないと知っていたら、俺はどんな選択をするだろうか?

 見知った仲間達と穏やかに、日々を過ごすことを選ぶだろうか。

 それとも、どこの誰とも知らない男の誘いに乗って、旅に出るだろうか。

 少なくとも彼女は、俺の誘いに乗って、一緒に旅に出てくれた。


 そしてそれは、前のウンディーネの継承者であるレンにも、言える話なのかもしれない。

 そう考えると、俺は胸元に強烈な痛みを覚えた。

 何が、彼女達にその選択をさせたんだろう。何が、彼女達を突き動かすのだろう。


 溢れんばかりの疑問を飲み込み、そこでふと、俺は気づいた。

 真面目で優しくて、儚い。

 そんなロネリーが見せた、あの悪戯っぽい笑みこそが、隠された原動力だったのだろう。


「……内緒って、これの事だったのか」

「どうした? ダレン」

「いや、ちょっとな。ロネリーとゴル爺が話してたことを思い出してただけだ」

「ん? そんな話してたっけか?」

「お前はチーズに夢中だったからな。聞いてなかったんだろ」

 いつの間にか頭の上に上っているノームに、俺がそう言った直後、サラマンダーがしびれを切らしたように告げた。


「ところで、これからどうしよう? 僕らの足で山を越えるのは、とても大変そうだけど」

「安心しろゴブ! 魔王城までの道案内なら、俺達がしてやるゴブ!」

「オラ達なら、近道も知ってるゴブゥ」

 得意げに胸を張るベックスとケイブ。

 彼らを見た俺は、小さく笑みを浮かべながら口を開いた。


「おぉ! それは助かる……とでも言うと思ったのか? よく考えたら、どうしてお前ら普通に俺達と会話してんだよ」

「確かに……こいつら、魔王軍のはずチ」

 俺の言葉に呼応するように、臨戦態勢をとるペポ。

 彼女の様子を見たベックスとケイブは、ものすごい勢いで首を横に振りながら弁明を始めた。


「ちょ、ちょっと待ってくれゴブ! 俺達、もうお前らの敵じゃないゴブ! さっきも見たゴブ? 俺達はあのクソ悪魔に、目を付けられてるゴブ!」

「う~ん。まぁ確かに。さっき2人の助けが無かったら、僕らは全滅しててもおかしくなかったかも」

「そうゴブゥ。オラ達、メデューサの弱点が光だってことを知ってたゴブゥ。だから、お前達を助けることができたゴブゥ。この先、オラ達の知識が役に立つかもしれないゴブゥ」

「確かに助けられたし、言いたいことも分かるけど。なんでお前らは魔王軍を裏切ってるんだ?」


 少し納得しつつも、素朴な疑問を抱いた俺は、遠慮することなくぶつけてみることにした。

 対するベックスは、言葉を濁らせる。

「そ、それは……」

「オラ達、バディが欲しいゴブゥ。だから、シンが言ってた話を聞いて、魔王軍を抜けることに決めたゴブゥ」

「ケイブ!」

「ベックス、もう隠す必要ないゴブゥ」


 2人のやり取りを見ていると、なんだか微笑ましい気分になるのは俺だけかな。

 まぁ、それは良いとして、俺は新たに抱いた疑問を投げかけた。

「バディが欲しい? それまたどうして?」

「……どうしてそこまで教える必要があるゴブ!?」

「ベックスは子供の頃、ずっと1人ぼっちだったゴブゥ。だから、いつも一緒にいれるバディが欲しいんだゴブゥ」

「なに全部話してるゴブか!?」


 全く隠す気の無い様子のケイブは、ベックスの秘密を洗いざらい話してしまったらしい。

 その様子に強烈な既視感を覚えた俺の頭の上で、ノームが呟く。

「なんか、ゴブリンって言っても、オイラ達とあんまりかわらないんだな」


 サラマンダーも俺達と同じような感想を抱いたらしく、ベックスとケイブを見ながら小さく笑いながら告げた。

「そういうことなら、信用しても良いんじゃないかな」

「サラマンダーは人が良すぎるチ」

「でもまぁ~。ウチは良いと思うケドねぇ。今のウチらにとって、魔王軍の内情を知る仲間ができるのは、いいことなんじゃない?」


 シルフィの言葉を聞いた俺達は、全員揃って我に返ったように、西の山脈に目を向ける。

「それもそうだな」

 俺の呟きに賛同するように、ノームとガーディが声高に告げた。

「それじゃあ、早速出発するとしようぜ!」

「タスケにいく!! ハヤクいく!!」

 そうして俺達は、ベックスとケイブを案内役として引き入れ、西の山脈、カルト連峰に向けて歩を進める。


 目的は当然、ロネリーとウンディーネの奪還。

 そのついでに、フェニックスの情報も収集する。

 だけど、俺達は気づいていなかった。いや、気づかないフリをしていたのかもしれない。

 前を向いて歩く。そうすることで、足元に纏わりついている不安や絶望を、視界に入れないようにするために。

 魔王城に向かうと言うことが、何を意味するのか。

 その危険度を、理解していなかった。

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