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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第5章 野生児と人魚姫

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第52話 語り継がれて

 およいで、と言うよりも海底かいていを歩いて、テレサについて行った俺達は、紆余曲折うよきょくせつ竜宮城りゅうぐうじょう辿たどり着いた。

 とてつもなく巨大な花のような物の上に、みがかれた岩で作り上げられた竜宮城りゅうぐうじょう

 赤や白、そして青にいろどられたはなやかな見た目の城からは、遠くからでも見えるチラチラとしたあかりが、時折ときおり顔をのぞかせていた。


 あの光は何だろう?

 そんな疑問をいだきつつ、俺達は竜宮城りゅうぐうじょうに続く階段かいだんを上がる。


「それにしても、本当に海の底を歩いて来れましたね。流石さすが、シルフィさんです」

「まぁね。でも気を付けなよ? ウチから離れすぎたら、空気が切れた時に直してあげられないからねぇ」

「それは怖いなぁ……僕、絶対にシルフィから離れないようにするよ」


 おっかない話をしているシルフィたちを余所よそに、俺の横を走ってけ上がって行ったガーディが、上の方をゆびさしながらさけんだ。

「オイ! あれなんだ!? さっきのサカナってやつとチガウゾ!?」

 彼のゆびさす先には、何やら大きな布のような生き物が、優雅ゆうがに泳いでいる。

 テレサ曰く、それはエイと言う魚らしい。


興奮こうふんしすぎですよ、ガーディ」

 笑いながらガーディに語り掛けるロネリー。そんな彼女を横目に見ながら、俺はガーディをフォローすることにした。

「まぁ、見たことない景色けしきだし興奮こうふんするだろ。正直、俺も色々と見て回りたいのをおさえてるくらいだ」

「気持ちは分かるチ。アタチも海の底を歩いたことは無かったチ」

「ペポに関しては、ずっとシルフィと一緒に居たわけだから、来ようと思えば来れたんだよなぁ?」


 俺の指摘してきを聞いたペポは、心外しんがいな! とでも言いたそうに目を見開いて、告げた。

「シルフィがこんなことできるなんて、知らなかったチ!」

「そりゃそうだよ~。だって、ペポに言ったら、絶対に連れ回されるに決まってるじゃん。ウチは昼寝したいってのに」

 それもそうかと俺が言おうとしたその時、先導せんどうしていたテレサが、俺達の方を振り返って言う。

「さぁさぁ、おしゃべりはその辺にして、これを見てごらんよ」


 言われるままにテレサの後について、竜宮城りゅうぐうじょうの中に入った俺達は、入り口の広間と思われる場所で、荘厳そうごん壁画へきがを目の当たりにした。

「わぁ……これは」

「この壁画へきがはね、私達の間でずっと語りがれてる伝承でんしょうを示してるんだよ」

 彼女の言う通り、この壁画へきが横長よこながで、何やら物語性ものがたりせいのありそうな絵がえがかれている。


 思わず感心かんしんして壁画へきがを見上げていると、不意にサラマンダーが周囲を見渡しながら言った。

「私達って言うわりに、他の人魚にんぎょはいないみたいだけど?」

「……あぁ、うん。そうなんだよねぇ。実は私たち、もう残り少ないんだ」

「そっか。ごめん」

「ううん。良いの」


 少し気まずい空気が、周囲に充満じゅうまんした。……ここは海底だし、この場合、充満したのは海水かな?

 なんて、どうでも良いことを考えていると、話題を変えようとするようにペポが口を開く。

「……その伝承でんしょうってどんなものチ?」

「とても古いお話で、この竜宮城りゅうぐうじょうにまだ沢山の人魚が住んでた頃のお話なんだ」

「それがこの絵かな? 竜宮城りゅうぐうじょうの周りに沢山の人魚がえがかれてるね」

 テレサの話を補足ほそくするように、サラマンダーが鼻先で壁画へきがし示した。彼の言う通り、壁画へきが左端ひだりはしの方に多くの人魚と竜宮城りゅうぐうじょうえがかれている。

 竜宮城りゅうぐうじょうの見た目が、今いるこの竜宮城りゅうぐうじょうと少し違う気もしたけど、まぁいいだろ。


「そう。そんなある日、この海の上に冷気をまとった幻獣げんじゅうが現れたんだ。名前は、雹幻獣はくげんじゅうネージュ。そのネージュのせいで、このあたりの海がほとんこおり付いちゃうんだよ」

「海がこおり付いたチ!? それはヤバいチ」

「それはこっちの絵だね。この白いとりがネージュかな?」

「そう。その当時の人魚たちもあわてたけど、ネージュは冷気れいきまとった鳥型の幻獣げんじゅうだったから、手も足も出せないままに、皆次々に氷漬こおりづけけにされてくの」

「ひどい……」


 テレサの話した光景こうけい想像そうぞうしたのか、ロネリーがぽつりとつぶやく。

 そんな彼女の様子を見て、小さく笑みを浮かべたテレサは、さらに言葉を続けた。

「海はこおっちゃって、食べ物の魚も数が減って、人魚たちは全滅ぜんめつ寸前すんぜんだったらしいんだけど、そんなとき、別の幻獣げんじゅうが姿を現すの」

「別の幻獣げんじゅう?」

「そう。壁画へきがでいう所の、ネージュとついすようにえがかれてる赤い鳥だよ。名前は陽幻獣ひげんじゅうフェニックス。別の名を不死鳥ふしちょうって言うんだって」


 その名を聞いた俺達が、反応しないわけがない。真っ先に声を上げたのは、ペポだった。

不死鳥ふしちょう……さっきも思ったけど、それって、不死ふしってことチ!?」

「私もくわしいことは知らないけど、そう言われてるみたいだよ?」

「それで? フェニックスは何をしたんですか?」

 食い気味ぎみに反応するロネリーに圧倒あっとうされて、少し戸惑とまどいながらもテレサは話を続けた。


「うん。フェニックスがやって来たのを見たネージュは、一目散いちもくさんに西に逃げちゃったんだって。そんなネージュを追いかける前に、フェニックスは自分の身体を燃やして、こおってた海をとかしたんだ」

「すごい……僕でも、こおっちゃった海をとかすのは大変そうなのに」


 少しズレた感想かんそうを述べるサラマンダーに、苦笑にがわらいしながらテレサは語り掛ける。

「サラマンダーもできそうだけどね。そして、ここからが肝心かんじんだよ? 海をとかしたフェニックスは、氷漬こおりづけにされてた人魚や魚たちを見て、涙を落としたの。そして、その涙が海に落ちた途端とたん息絶いきたえそうだった多くの海の生き物が、一気に元気を取り戻したんだって」


 一息で言ったテレサはそこで一旦言葉を切った。

 聞いていた俺達も、まるで自分の中で何かをめるように、だまり込む。

「これが、私達に代々伝わってる伝承でんしょう

壁画へきがでも確かに、フェニックスがなみだを落としてるね」

「ってことは、そのフェニックスこそが、莫大ばくだい生命いのちを持ってるってことだよな」


 まるで話を整理せいりするようにそう言った俺は、自分の中で1つの道筋みちすじが見えた気がした。

 取りえず、フェニックスを探すのが最優先らしい。

 もし見つけることができれば、16年前に失敗した俺達の役目とやらを、完遂かんすいできるかもしれない。


「道が見えたな」

 頭の上でそうつぶやいたノームに、俺はうなずきながらこたえたのだった。

「あぁ」

書き方を少し変えてみました。

読みにくい等のご意見がありましたら、教えて頂きたいです。

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