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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第5章 野生児と人魚姫

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第50話 大粒の涙

 ダンドス樹海じゅかいを北に抜けた俺達は、ついに海岸かいがんへとたどり着いた。

 延々(えんえん)と歩き続けたせいで、両足に痛みを覚えていた俺だけど、白い砂浜すなはまと青い海、そして波の打ち寄せる音を聞いた途端とたんに、気持ちが晴れやかになる。


 感動かんどうのあまり、俺達が立ち止まって壮観そうかんな景色をながめていると、サラマンダーの背中で横になっていたアパルが、突然叫び出した。

「あばばぁ!!」

「お? アパル! お前も海を見て元気が出たか!?」

「あばぁ!!」


 両手を上に伸ばしながら声を上げるアパルを見て、微笑ほほえみを浮かべたロネリーが、サラマンダーのそばに寄ってしゃがみ込んだ。

 海から吹いて来る潮風しおかぜが、彼女の綺麗きれい金髪きんぱつなびかせている。

 綺麗きれいだなぁ。なんて思う俺を余所よそに、彼女はアパルをあやしながら口を開く。


「ふふっ、本当に元気になってますね。さっきまで泣いてばっかりだったのに」

「多分、アパルも初めて海を見たから、感動かんどうしてるんですよ。僕も感動かんどうしてるので、きっとそうです」

 背中の方を振り返るようにして言うサラマンダー。


 例のごとく、彼の背中はアパルが寝れるようなおわんの形に変化しているわけだが。どうなってるんだろう。

 まるで、元気になったアパルに吸い寄せられるように集まってきたペポ達もが、会話に混ざり始めた。


「アタチは初めてじゃないチ。でも、いつも見下ろチてたから、なんか新鮮しんせんっチ」

「海って良いよねぇ。すごく元気な風が吹いてて、ウチにとっても気持ちいい場所だもん」


 そんな彼女たちの言葉を聞いたノームが、いつも通り俺の頭の上で言い出した。

「元気な風かぁ、まぁ確かに、海の風は元気すぎるくらい強いなぁ。オイラ、気を抜いたら吹っ飛ばされそうだぜ」

 言いながら俺の髪をギュッとにぎりしめたノームに、悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべたシルフィが告げる。


「大丈夫だよ~。吹っ飛ばされてもウチが拾ってあげるから、思いっきり飛んでみなよ」

「やる訳ねぇだろ!? ったく、恐ろしいこと言いやがって」

「オデ、ソラとんでみたい!! とべるノカ!?」

 さらに会話に加わって来たガーディが、シルフィに向かってキラキラとした目を向けていた。


 なんとなく、彼の提案に賛同さんどうしたくなった俺は、すぐにペポに目を向けて提案ていあんしてみる。

「ペポに乗せてもらったらどうだ? なぁ、ペポ。後で俺も乗せてくれよ。こんないい天気なんだ、空の散歩は絶対に心地よさそうだし」

「嫌だチ!! ことわるチ!!」


 いつものように、かたくなにことわられた俺は、特に気落ちするでもなく視線しせんを海に向けた。

 そこでふと、話の流れからあることを思った俺は、なんとなくロネリーに声を掛ける。


「心地いいって言えば、ウンディーネこそ、海に入れたら一番心地(ここち)いいんじゃないのか? 辺り一面いちめん水なんだし」

 俺の言葉を聞いた途端とたん、ロネリーの背中から姿を現したウンディーネは、首を横に振って見せる。

「ワラワがぬしらと同じようにはしゃぐとでも思うたか?」

「いや、はしゃぐまでは思ってないけどさぁ」

「ウンデーネは、ウミ、キライなのか?」


 すかさず疑問ぎもんをぶつけるガーディに、ウンディーネは目をカッと見開みひらいて言う。

「ウンデーネではない。ワラワの名はウンディーネだ」

「ス、スマン」

「もう、ウンディーネったら。それくらい良いじゃない」

「ウンディーネは素直じゃないからなぁ。仲良くしたくても、できないんでしょ」

「っ!! シルフィ!!」

「おっと、危ない。ウチにそんな水の攻撃こうげきが当たると思ったの~?」


 ウンディーネに対して軽口かるくちを言えるのは、多分シルフィだけだ。

 なんてったって、彼女はウンディーネの放つ水弾すいだん軽々(かるがる)けてしまうんだからな。

 本当にうらやましいよ。

 なんてことを俺が考えていると、俺の頭の上にいたノームが、流れるような口調くちょうで言った。


「おまけに不器用ぶきようだしな」

「っ!!」

「あ、ちょ、まっ!!」


 ノームの言葉を聞いた途端とたん、勢いよく視線しせんをこちらに向けたウンディーネ。

 そんな彼女を制止せいししようと声を上げた俺は、直後ちょくご、ノーム諸共もろともずぶれになっていた。


「なんで余計よけいなこと言うんだよ……」

「すまん、つい口がすべったんだ」

 仰向あおむけにたおれたまま、皆の笑い声を聞いていた俺は、一つためいききながら上半身じょうはんしんを起こす。

 背中にじゃりじゃりとした砂がりついている気がする。でも、どれだけ手で払っても取れないのは、れてるせいだ。


 そんな俺に向かって手を差し出してくれるロネリーを見上げた俺は、彼女の手を取って立ち上がった。

 そして、またノームが変なことを口走ってしまう前に話題わだを変えようと、俺はずっと続いている砂浜すなはまに目を向けながら告げる。


「さて、とりあえず海に着いたけど。これからどうするかなぁ」

人魚にんぎょ……でしたね。シンの話だと、このあたりの海にもいるって言ってましたけど。どうやって探せばいいんだろう。僕にはさっぱりです」

 俺と同じく砂浜すなはまながめながら言うサラマンダー。

 他の皆も、これと言ってアイデアは無いのか、少しだけ沈黙ちんもくが続いた。


「やっぱり、住んでるとしたら海の中でしょうか?」

「だとしたら、探すのは大変そうチ」

「そもそもの話だけどよ。人魚を見つけたとして、オイラ達はなんて言って声を掛ければいいんだ? ちょっと肉を食わせてくれって言うのか?」

「そんなこと言ったら逃げられるチ」

「そうだねぇ~」

「無理矢理ってのも、ダメだしな。別の話を知ってたりしないか、聞いてみるくらいじゃないか?」

「そうですね」


 俺がげた取りえずの提案ていあんに、皆が同意してくれる。まぁ、同意するしかないよな。

 でも、このあんを実行に移すためには、そもそも人魚と接触せっしょくしなくちゃいけないわけで、俺達がかかえているなやみは何一つ解決できていなかった。


 とその時。不意にシルフィが皆の前におどり出て、口元に人差ひとさゆびを当てながら言った。

「ねぇみんな。何か聞こえない? ウチだけ?」

 言われて耳をましてみた俺は、いくつかの音を聞いた。

 海から吹き抜けて来る風の音。海の上を飛んでいる鳥の鳴き声。波のくずれる音。


 それらの音を聞き取った俺は、とくに変な音は聞こえないと言おうとして、口をつぐむ。

 確かに、シルフィの言うように、聞きれない声を耳にしたんだ。


「お~い!! レン!! レンでしょ!! こっちこっち!!」

 海の方から、少し高めの声が、誰かを呼んでいる。

 声のする方に目を向けた俺達は、海の中から何者かが手を振っていることに気が付いた。


「? レン? ダレンの事かな?」

「いや、俺はこんなところに知り合いはいないぞ?」

 首をかしげながらたずねて来るサラマンダーにそう返した俺は、少し気を引きめながら海の方に歩み寄って見た。


 俺のそんな動きに気づいたのか、声の主もゆっくりと俺達の方に近づいてくる。

 じゃぶじゃぶと海の水をみしめながら、ひざくらいまで水にかったところで、俺はようやくその人物の姿を目にすることができた。


 しっとりとれている真っ黒な髪を持った女性。

 そんな女性が、海の中を泳いできている。

 泳いでいると言っても、その速度そくどはかなりのもので、まるで魚みたいだった。


 と、俺がそんなことを考えた時、あっという間に近くまで来ていた女性は、もう泳げない程の浅瀬あさせに差し掛かると、下半身を引きずり始めた。

 その姿はまさに、人魚と呼ぶべき姿で、俺は思わず唖然あぜんとする。


 対する人魚もまた、俺とその背後にいるロネリー達を見て、言葉を失っている様子だ。

 そうして、互いに言葉を失って数秒後、先に口を開いたのは人魚だった。

「あの……あなた達は、もしかして、4大精霊の継承者けいしょうしゃだったり?」

「え、っと。はい。そうだけど」

「そっか……」

 俺の返事を聞いて、あからさまに肩を落とした人魚は、深いため息とともに大粒おおつぶなみだを流し始めたのだった。

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