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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第1章 野生児と碧眼の姫

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第5話 洞窟の中

 ロネリーに案内《あんない》されてシェルターにやってきた俺は、地面《じめん》に空《あ》いている小《ちい》さな穴《あな》を見下《みお》ろして、思《おも》わず呟《つぶや》いた。

「シェルターって、この穴《あな》のこと?」

「見《み》た目《め》はただの穴《あな》ですけど、中《なか》は意外《いがい》と広《ひろ》いんですよ? コロニーの住人《じゅうにん》以外《いがい》が入《はい》ったら、絶対《ぜったい》に迷《まよ》っちゃいますし。ほら、行《い》きましょう」

「どうしたダレン、怖いのか?」

「怖くねぇよ」


 ロネリーに促《うなが》され、ノームに茶化《ちゃか》された俺は、小《ちい》さなため息《いき》を吐《つ》きながら穴《あな》の中《なか》に身《み》を投《とう》じた。

 先《さき》に降《お》りていたロネリーが、壁《かべ》にかけてあるカンテラを手《て》に取《と》り、俺の様子《ようす》を伺《うかが》ってくる。

「大丈夫《だいじょうぶ》ですか?」

「あぁ、大丈夫《だいじょうぶ》だぞ。思《おも》ってたよりもいい雰囲気《ふんいき》で、心《こころ》が躍《おど》ってるところだよ」


 じめじめとしていて、かつ、真《ま》っ暗《くら》な洞窟《どうくつ》を見渡《みわた》しながら、俺は軽《かる》い口調《くちょう》で告《つ》げる。

「そうですか。それじゃあ、ゆっくりと私の後《あと》に着《つ》いて来《き》てくださいね」

「分《わ》かった」

 そういう彼女《かのじょ》の後《あと》を追《お》うように歩《ある》きながら、俺はシェルターの中《なか》を見渡《みわた》す。


 基本的《きほんてき》に人《ひと》が1人《り》通《とお》れるくらいの狭《せま》い通路《つうろ》が、延々《えんえん》と続《つづ》いているみたいだ。

 そして、その通路《つうろ》は少《すこ》し歩《ある》けばすぐに分岐《ぶんき》に差《さ》し掛《か》かるため、さっきロネリーが言《い》ってたように、道《みち》を知《し》らないとすぐに迷《まよ》ってしまうだろう。


「こんな穴《あな》、よく掘《ほ》ったな。ロネリーも掘《ほ》ったのか?」

「私は掘《ほ》って無《な》いですよ。聞《き》いた話《はなし》だと、ずっと昔《むかし》からあった穴《あな》を活用《かつよう》してるらしいです」

「ふ~ん。ずっと昔《むかし》からあった、ねぇ」

「まぁ、気持《きも》ちは分《わ》かります。え~っと、そろそろ着《つ》きそうなので、少《すこ》し静《しず》かにしててください。コロニーの皆《みんな》を刺激《しげき》したくないので」

「はいよ」


 もう幾《いく》つの分岐《ぶんき》を通《とお》って来《き》たのか分《わ》からないくらい進《すす》んだ頃《ころ》、ロネリーが俺《おれ》にそう言《い》った。

 確《たし》かに、賊《ぞく》から逃《に》げ込《こ》んだ先《さき》で、警戒《けいかい》も無《な》しに寛《くつろ》いでるわけないもんな。


 彼女《かのじょ》の言葉《ことば》に納得《なっとく》しながら、なるべく足音《あしおと》を立《た》てずに歩《ある》いた俺は、直後《ちょくご》、なにやら通路《つうろ》の中《なか》を動《うご》く気配《けはい》を感《かん》じた。

 前方《ぜんぽう》に2つ、後方《こうほう》に2つ。

 襲撃者《しゅうげきしゃ》と思《おも》われるそれらの気配《けはい》を察知《さっち》した俺が、咄嗟《とっさ》に背後《はいご》を振《ふ》り返《かえ》った瞬間《しゅんかん》。


 闇《やみ》の中《なか》で、なにやら牙《きば》のような物《もの》が鈍《にぶ》く光《ひか》った。

 その生物《せいぶつ》はかなり低《ひく》い位置《いち》を、ものすごい速度《そくど》で進《すす》んでくる。

 対《たい》する俺が、その襲撃者《しゅうげきしゃ》を返《かえ》り討《う》ちにしてやろうと身構《みがま》えた時《とき》。

 カンテラを高《たか》く掲《かか》げたロネリーが、焦《あせ》ったように声《こ》を上《あ》げた。


「やめて!! 私《わたし》よ!! ロネリーよ!!」

「ロネリー!? コリー!! 止《と》まれ!!」

 彼女《かのじょ》の声《こえ》を聞《き》いたらしい何者《なにもの》かが、慌《あわ》てたように声《こえ》を張《は》り上《あ》げる。


 その慌《あわ》てた声《こえ》に反応《はんのう》するように、俺に向《む》かって駆《か》けて来《き》ていた小《ちい》さな生物《せいぶつ》が、急停止《きゅうていし》した。

 ロネリーの持《も》ってるカンテラの光《ひかり》では、その生物《せいぶつ》の姿《すがた》を完全《かんぜん》に照《て》らすことはできていない。


 仕方《しかた》がないので目《め》を凝《こ》らしてみた俺は、その生物《せいぶつ》が小型犬《こがたけん》だということに気《き》が付《つ》いた。

「犬《いぬ》?」

「コリーって名前《なまえ》ですよ。デニスさんのバディです」


 補足《ほそく》するように告《つ》げたロネリーは、改《あらた》めて前方《ぜんぽう》に目《め》をやると、暗《くら》がりに向《む》かって声《こえ》をかけ始《はじ》めた。

「デニスさん? カークさん? 皆《みんな》は無事《ぶじ》ですか?」

「ロネリー!! どうして戻《もど》って来《き》たんだ!?」

「そうだぞロネリー!! あいつらがまだ上《うえ》にいるかもしれないんだ。こんなところに居《い》たら、逃《に》げられないだろ!?」


 ロネリーの問《と》いかけに対して、返答《へんとう》になっていない言葉《ことば》を並《なら》べながら、2人の男《おとこ》が姿《すがた》を現《あらわ》した。

 前方《ぜんぽう》から出《で》て来《き》た男《おとこ》は、茶髪《ちゃぱつ》に髭《ひげ》を生《は》やしたオッサンという風貌《ふうぼう》。

 後方《こうほう》から出《で》て来《き》た男《おとこ》は、茶髪《ちゃぱつ》をオールバックにしたオッサンという風貌《ふうぼう》。


 2人《り》共《とも》、ロネリーに向《む》かって声《こえ》を掛《か》けた後《あと》、俺に視線《しせん》を投《な》げて警戒心《けいかいしん》をむき出《だ》しにする。

 まぁ、見《み》たことない男《おとこ》が居《い》たら、そりゃ警戒《けいかい》するよな。


 男達《おとこたち》の反応《はんのう》に俺が内心《ないしん》理解《りかい》を示《しめ》していると、髭《ひげ》を生《は》やしたオッサンが口火《くちび》を切《き》った。

「ロネリー。この貧相《ひんそう》なガキは誰《だれ》だ? なんでここに連《つ》れて来《き》た?」

「デニスさん、大丈夫《だいじょうぶ》です。彼《かれ》は味方《みかた》ですよ」


 正面《しょうめん》に居《い》るひげ面《づら》の男《おとこ》が、デニスという名前《なまえ》らしい。

 と言《い》うことは、俺達の後方《こうほう》にいるオールバックの男《おとこ》はカークという名前《なまえ》なんだろう。


「味方《みかた》? ロネリー。何度《なんど》言《い》えば分《わ》かるんだ? 世《よ》の中《なか》には悪《わる》い人間《にんげん》が大勢《おおぜい》いるんだ。どこの誰《だれ》とも知《し》らない男《おとこ》を信用《しんよう》するな」

「カークさん。私ももう子供《こども》じゃないので、それくらいは分《わ》かってますよ。ですけど、彼《かれ》が悪《わる》い人《ひと》じゃないことも分《わ》かってるつもりです」

「しかしなぁ」


 ロネリーの言葉《ことば》を聞《き》いても腑《ふ》に落《お》ちていないらしいデニスとカーク。

 そんな2人を説得《せっとく》するのは少《すこ》し時間《じかん》が必要《ひつよう》になりそうだと感《かん》じた俺は、ロネリーが話《はな》し出《だ》す前《まえ》に、話《はなし》に割《わ》って入《はい》ることにした。


「あの。長《なが》くなりそうなら、俺は外《そと》で待《ま》っておくけど」

「ガキにしては弁《わきま》えてるな」

「ちょっと、デニスさん。そんな言《い》い方《かた》」

「まぁまぁ、ロネリー。落《お》ち着《つ》けって。俺は別《べつ》にいいから。それより、また賊《ぞく》の奴《やつ》らが戻《もど》ってくるかもしれないのは本当《ほんとう》だろ? 俺は外《そと》で見張《みは》りついでに、奴《やつ》らが来《き》たら追《お》い払《はら》ってやるよ。その間《あいだ》に、そっちで話《はなし》を付《つ》けててくれ」

「でもっ!!」

「おいおい、流石《さすが》に自信過剰《じしんかじょう》すぎるんじゃないか? たった1人で、大勢《おおぜい》の賊《ぞく》を追《お》い払《はら》えるわけ無《な》いだろ」

「まぁ、やばくなったら、ファングを呼《よ》んで山《やま》に逃《に》げるよ。山《やま》なら俺の庭《にわ》みたいなもんだしな」

「待《ま》って、ダレンさん。あなたが強《つよ》いのは私も知《し》ってるけど、地上《ちじょう》までの道《みち》を覚《おぼ》えてるんですか? 道《みち》を知《し》らないのに単独《たんどく》で行動《こうどう》しちゃうと、絶対《ぜったい》に迷《まよ》っちゃいますよ!!」


 どうしても俺を引《ひ》き留《と》めたいらしいロネリーが、そんなことを問《と》いかけてくる。

 そんな問《と》いを聞《き》いた俺は、思《おも》わず笑《わら》ってしまいそうになった。


 地上《ちじょう》までの道《みち》を覚《おぼ》えてるのかって? 変《へん》なことを聞《き》くよな。

 心《こころ》の中《なか》で独白《どくはく》しながら、俺は自信満々(じしんまんまん)に答《こた》える。


「ロネリー。流石《さすが》に俺のことを馬鹿《ばか》にしすぎじゃないか? 1度《ど》通《とお》った道《みち》で迷《まよ》うことなんて、ある訳《わけ》ないだろ? なぁ、ノーム」

「あっ!!」

「……ノーム?」


 俺の答《こた》えを聞《き》いたロネリーは、短《みじか》い声《こえ》を上《あ》げる。

 ゲイリーとカークはと言《い》うと、ノームの名前《なまえ》を小《ちい》さく呟《つぶや》いた後《あと》、黙《だま》り込《こ》んでしまった。


 そこでようやく、自分《じぶん》のしてしまったことに気《き》が付《つ》いた俺は、苦笑《にがわら》いを浮《う》かべながら、ロネリーに向《む》かって問《と》いかける。

「……あれ? もしかして、ノームの事《こと》言《い》っちゃダメだった?」

「ノームって……あのノームか!? ロネリー!! どういうことだ!?」

「ちょ、落《お》ち着《つ》いて下《くだ》さいデニスさん!! ちゃんと説明《せつめい》しますから!!」


 洞窟《どうくつ》の中《なか》に、ロネリーの声《こえ》が響《ひび》き渡《わた》る。

 そんな声《こえ》を聞《き》きながら、俺はただ、苦笑《にがわら》いをし続《つづ》けるしかないのだった。

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