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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第4章 野生児と新生児

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第49話 ずっと続けばいい

 ウルハ族のとりで付近で、ダレン達が笑い声をあげていたころ

 2人のゴブリンは、ダンドス樹海じゅかいの奥深くにいた。

 四肢ししを投げ出し、空をあおぎながら横たわっている二人は、目の下にくまを作りながら、茫然ぼうぜんとしている。


「ベックス……」

「……」

「ベックス……!」


 よろいを身にまとった大柄おおがらなゴブリンのケイブが声を掛けても、小柄こがらなベックスは返事をする様子が無い。

 ただひたすらに空をながめ続けている彼の様子を見たケイブは、大きなため息をいた。


「ベックス……そうやって空をながめてたら、もう日が昇ってるゴブゥ」

「……」

「そろそろ行かないと、奴らを見失うゴブゥ」

「……」

「それに、オラ、腹が減ったゴブゥ」

「……どうしてゴブ」


 そこでようやく、ボソッとつぶやいたベックスは、次の瞬間、腹をさすりながら座り込んでいるケイブに向かって叫び出した。

「どうしてお前は!! そんなに呑気のんきでいれるゴブ!?」

「ちょ、ベックス、落ち着くゴブゥ」

「落ち着け!? 落ち着けるわけがないゴブ!! お前も聞いたゴブ!? 聞いたゴブな!?」

「聞いたけど……オラ達にはどうしようもないゴブゥ」


 いかりに任せて叫ぶベックスから視線しせんをそらすために、ケイブは自分の足元に視線しせんを落としながら、指先で地面じめんをいじり始めた。

 そんな彼の様子を見たベックスは、チッと舌打したうちをすると、いきおいよく立ち上がって近くの木を全力でなぐりつける。

 太い木をなぐった彼のこぶしから、ポタポタと鮮血せんけつこぼれる。

 しかし、小さな怪我けがなど意にもかいさないのか、ベックスはもう一度木をなぐりつけた。


「俺達が!! 俺達魔物が!! 生命いのちけた欠陥品けっかんひんゴブ!? ふざけるな!! ふざけるなゴブ!!」

「ベックス、それ以上(なぐ)ったら手がひどいことになるゴブゥ」

「知らないゴブ!!」


 ケイブの制止せいしを無視して、さらにもう一度強く木をなぐりつけたベックスは、流石にうでいたみにえきれなくなったのか、その場にうずくまってしまう。

 まるで、悲しみと怒りに打ちひしがれるように動かなくなってしまったベックス。

 そんな彼の丸まった背中を見たケイブは、流れるように周囲の木に目を向けた。


 2人のいる周囲の木々には、今しがたベックスがなぐりつけたのと同じような痕跡こんせききざまれている。

 10本どころじゃない。20本、あるいは30本をえる木々に、彼の怒りとにくしみがみ込んでいた。

 すっかり赤黒くなってしまっているそれらの痕跡こんせきを見て、大きなため息を吐くケイブ。


 彼もまた、落ち着いているようで、心の中はざわついているのかもしれない。

 なにしろ2人は昨日、シンと名乗った深霧しんむのドラゴンの言葉を耳にしてしまったのだから。

 かのドラゴンは、自分の声が辺り一帯いったいにまでひびき渡っていることに気が付いていなかったのだろうか。


 バカでかいドラゴンから逃げるために、樹海じゅかいの中をけていた2人の耳に飛び込んできたのは、長らくベックスとケイブが知りたがっていた事。

 魔物にバディが存在しない理由。


 世界を牛耳ぎゅうじっている魔王軍に所属しょぞくし、下っ端とはいえ働いてきた2人には、欲しいものがあった。

 それは、バディだ。

 魔王軍にしいたげられ、自由に生きることのかなわない人間達が、生まれた時から持っているバディ。

 自分達には無いバディと言う存在に、おさなころのベックスとケイブがあこがれをいだくのは、おかしな話じゃないだろう。


 そして、自分達よりもおとっていて、しいたげられているはずの人間に、ある種のにくしみをいだくのも必然ひつぜんだった。

 どれだけ願っても、ほっしても、思考しこうめぐらせても。バディを手に入れることはかなわない。


 だからこそ2人は、いつも2人で居るのかもしれない。


 何かを思い出したように、まばたきを細かくして見せたケイブは、ゆっくりと立ち上がってベックスのそばに向かった。

 そして、彼の背中に手をえながら、口を開く。


「ベックス。そろそろ行くゴブゥ」

「……どこに行くゴブ? 俺達が何をしても、どうにもできないゴブよ」

 項垂うなだれながら告げたベックスをはげますように、ケイブが話を続けた。


「まだ分からないゴブゥ。バランスがくずれたのは、奴らが役目をまっとうしてなかったからって、シンが言ってたゴブゥ」

「……何を言ってるゴブ?」

「簡単ゴブゥ。奴らが役目を果たして、バランスが元に戻れば、オラ達にバディが生まれるかもしれないゴブゥ」

「ケイブ……お前、何を言ってるか分かってるゴブか!?」

「分かってるゴブゥ」

「そんなことしたら、あの悪魔にぶち殺されるゴブ!!」

「そうゴブゥ」

「だったら!! そんなバカな考え持つなゴブ!!」

「バカはベックスゴブゥ。オラ達、なんで魔王様のために戦ってるゴブゥ?」

「それは、出世して、魔王様の役に立って、褒美ほうびとしてバディを……」

「その魔王様が、奴らの邪魔をして、生命いのちのバランスをくずそうとしてるゴブゥ」

「それは……」


 ケイブの言葉にハッとさせられた様子のベックスは、頭をかかえ込んで考え出した。

 そんなベックスを見つめながら、ケイブは何も言わずに待ち続ける。

 しばらくの間、沈黙ちんもくが続いた後、不意ふいに顔を上げたベックスは、ケイブを見上げながら告げた。

「ケイブ、俺、決めたゴブ」

おそいゴブゥ。オラはもう、とっくに決めてたゴブゥ」

「うるさいゴブ! そんなことより、早く出発するゴブ!! あいつらの後を付けるゴブ!」

「後をつけるゴブゥ? 仲間に入れてくれって、言いに行った方が……」

「お前は馬鹿ゴブか!? そんなことで仲間に入れてくれるわけがないゴブ!!」

「じゃあどうするゴブゥ?」

「こっそりついて行って、影から手助けするしかないゴブ」

「そんなこと、本当にできるゴブゥ?」

「やるしかないゴブ!! あと、あの悪魔に見つからないようにするゴブ!!」


 さっきまで項垂うなだれていたとは思えないほど、元気よく立ち上がったベックスは、しっかりとした足取りで歩き出した。

 そんな彼の後をケイブが追いかけて歩き出す。

 この時、はからずもケイブは、ダレンと全く同じことを考えていたのだった。

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