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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第4章 野生児と新生児

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第48話 脅し文句

 この世界のどこかに、おとろえることのない生物がいるとしたら、皆はどう思うだろう?

 自分も、その不可思議ふかしぎな生物の力を手に入れたいって、思うのだろうか。

 北に広がる海をしめしたシンが話したのは、そんな眉唾まゆつばのような話を信じた人間達の物語ものがたりだった。


 人魚にんぎょの肉をらえば、おとろえることは無い。


 どこからともなくいて出た話をしんじた人々が、大陸たいりくの北の海に集まり、まぼろし人魚にんぎょを探すために船を出す。

 そして皮肉ひにくにも、ひどく荒れると知られているその海に出た彼らは、ことごとく命を落としてしまったらしい。


「あるいは、彼奴等きゃつらの落とした命を、海の底でひろえるかもしれんな」

 っすらと笑いながらうそぶいたシンは、てんじて真面目な表情を浮かべると、こう告げた。

「だが、北の海に人魚がいることは事実だ。そして、火のないところにけむりは立たぬとも言う。もしかしたら、あの者達であれば何かを知っているかもしれないな」

 それらの話を終えたシンは、これ以上話すべきことは無いようだと言い残して、空へと飛び立ってしまった。


 いわく、久しぶりに起きたから、世界中を見て回りたいらしい。

 出来れば、その背中に乗せて霊峰れいほうアイオーンまで連れてってくれよ。

 と言いたかったけど、流石に怒るよな?


吾輩わがはいを馬車か何かと思っているのか!?」と、けわしい表情を浮かべるのが見て取れる。

 それから、色々あったせいで疲れを感じていた俺達は、ウルハ族のとりで一泊いっぱくさせてもらうことにした。

 もちろん、サラマンダーやガーディ、そして赤ん坊も一緒にだ。


 まぁガーディに関しては、ウルハ族達と当の本人がしぶってたけど、ロネリーの説得とサラマンダーの懇願こんがんで事なきを得た。

 なんだかんだ言って、ベックスとケイブの襲撃しゅうげき退しりぞけることができたのは、2人のおかげでもある。


 明日(れい)を言わないといけないな。と思いつつ眠りに落ちた俺は、翌朝よくあさ、良い香りで目をました。

 なんでも、ウルハ族達が湖で取れた魚をいてくれたらしい。

 そのこうばしくて胃をくすぐるようなにおいにかされて、朝食ちょうしょくたいらげた俺達は、ふくれた腹のまま出立しゅったつの準備をする。


 そして今、俺達はとりでの入り口に集まって、フェルゼンに別れの挨拶あいさつをしているところだ。

「もう行くんだな。昨日会ったばかりだってのに、もう少しゆっくりしていけば良いのによ」

「まぁ、昨日の話を聞いた後だしな。のんびりしてる気にはなれないよ」

「そうですね。早く私達の役目を果たさないと」

「アタチ達も、ひまじゃないってことっチ」

「そうだな」

「フェルゼン、色々ありがとうな。短かったけど、助かったよ。皆にもよろしく言っといてくれ。それと、ザクロの果汁かじゅううまかった。帰りにる時は、もっと沢山たくさん準備しといてくれよ。多分、ペポが飲みたがるだろうし」

「べ、別にそんなことないチ! で、でも、美味おいしかったのは本当チ。……できればもう一杯飲みたいチ」

欲望よくぼうだだれじゃねぇか」

「ノーム、何か文句もんくがあるチ? 一緒に空の散歩さんぼチながら聞くチ?」

「や、やめろって。目が笑ってねぇだろ! 悪かった。オイラが悪かったから」

「いいじゃん空の散歩~。ウチも行きたいなぁ~」

「私も行ってみたいです。少しこわいですけど……風が気持ちよさそうです」

「俺も行きたいなぁ。ペポの羽毛うもうは気持ちいいし」

「へ、変な目でアタチを見るなチ!!」

「見てないぞ!?」


 俺のツッコミで皆が一斉いっせいに笑い、俺もつられて笑う。

 そうして、にぎやかな空気が一旦いったん落ち着いたところで、俺は遠巻とおまきにこちらを見ているサラマンダーに目を向けた。


 どこか居心地いごこちの悪そうな表情で俺達を見ている彼は、何か言いたそうに口をモゴモゴと動かしている。

「あ、あの……」

「どうした? サラマンダー」

「えっと。その。僕たち、どうしたらいいのかなって、思って」


 口ごもりながらもそう言ったサラマンダーに対して、ノームが口を開く。

「どうって、何を言ってんだ? 昨日の話聞いてたろ? オイラ達は」

 役目やくめを果たさなくちゃいけない。

 多分ノームはそんなことを言おうとしたに違いない。


 だけど、彼が最後まで口にすることは無かった。なぜなら、ノームの言葉をさえぎって、ロネリーが口を開いたからだ。

「ノームさん。話をさえぎってごめんなさい。でも、私に少し話をさせてくれませんか?」

「ん? 良いけどよ」

「ありがとうございます」


 ノームに対してれいを告げたロネリーは、そのあおひとみかがやかせながらサラマンダーの元に歩みると、まるで目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

 そうして、話し始める。


「サラマンダーさん。私、思うんですけど、私達はきっと、役目やくめとかそんなこと関係なしに、一緒にいるべきだと思うんです」

 そう言いながら、ロネリーはサラマンダーの背中に寝かされている赤ん坊、アパルの頭をで始めた。

 頭をでられているアパルは、かすかな寝息ねいきを立てながらも、顔をくしゃくしゃとしてみせる。


 そんな様子を見たロネリーは、おだやかな笑みをこぼしながら続けた。

「とても辛いことですけど。私達が個人でどれほど強くても、魔王軍のしつこい追及ついきゅうから逃れることはできないと思います」

「それは……」


 彼女の言葉を耳にした瞬間、サラマンダーはその真意しんいを理解したのか、くやしそうにうつむいてしまった。

 それもそうだろう。

 なぜなら、今のアパルがまだ赤ん坊だということは、以前のサラマンダーとその継承者けいしょうしゃが、ここ数年の間に息絶いきたえたことを意味しているのだから。


 それは、その事実は、アパルを見た瞬間に俺も気づいていた。

 俺達は今、15~16歳で、16年前の魔王軍との戦い以降いこう生き延びることができている。


 この差は多分、環境かんきょうが大きく違っていたことが一番の要因よういんだと思う。

 サラマンダー達がどこでどんな風に生きて来たのか俺達は知らない。


 だけど推測すいそくはできる。


 きっと俺のように、完全に外界がいかいから遮断しゃだんされていなかったんだろう。

 きっとロネリーのように、身をかくすこともできなかったんだろう。

 きっとペポのように、オルニス族に守られてはいなかったんだろう。


 だからこそ、サラマンダーは俺達が知らない苦労くろうを知っているはずだ。

 そしてロネリーは、まるでおど文句もんくのように、現実を彼に突き付ける。


「だから、一緒に行きませんか?」

 更に言えば、彼女の言葉は俺たち自身の喉元のどもとにも突き付けられているんだ。

 シンに聞いた話からも分かったように、俺達は失敗してはいけない。次こそは、成功せいこうさせなくちゃいけない。

 それは、単純な勝利のためじゃない。同時に、複雑ふくざつ事情じじょうためでもない。


 帰る場所を守るため。帰る場所を失わないため。俺達は戦わなくちゃいけない。


「僕は……」

 全員の視線しせんがサラマンダーに集まっている中、彼はゆっくりと告げた。

「僕も、皆と一緒に行くよ。役目やくめを果たす。それもあるけど、守れなかった人たちのためにも、そして、守りたい人のためにも」


 そう言ったサラマンダーは、ゆっくりと首を動かすと、背後はいごに立っているガーディに目を向けた。

 一瞬、2人が視線しせんわす。

 そんな2人を見た俺は、大きく深呼吸しんこきゅうをした後、ガーディの元に歩みって、思い切り頭を下げた。


「ガーディ。樹海じゅかいでのこと、本当にごめん。まさか、サラマンダー達があそこにいるなんて思っても居なかった。そして、守っててくれてありがとうな!」

「ベツに、イイ」


 頭を下げている俺を見たガーディは、なにやらモゴモゴと口ごもりながら、短く言った。

 そして、何かを考えるように頭をかかえた直後、彼は小さく告げる。


「オデ、もうイラナイ?」


 少しふるえる声でそう言ったガーディの言葉に、俺は思わず絶句ぜっくしてしまう。

 思ってもみない受け取り方をされたことで、少し思考しこうが固まった俺は、思い切り首を横にって彼の言葉を否定ひていすると、はっきりと言った。


「そんなわけないだろ? むしろ、俺達と一緒に来てくれないか? ガーディの力をして欲しい」

「オデの、チカラ?」

 一瞬いっしゅんほうけたガーディは、あわてたように言葉を並べ始める。


「デモ、オデはバディがイナイ。オマエタチとチガウ。だから……」

「だから何チ? アタチだって、ダレンとロネリーと違うチ」

「そうだねぇ~。全身羽毛(うもう)おおわれてるし、語尾ごびにチを付けてかわい子ぶってるし~」

「か、かわい子ぶってるわけじゃないチ!!」

「え、それってかわい子ぶってたのか?」

「そうなんですか、ペポさん?」

「違うチ!! 子供のころくせが抜けないだけっチ!!」

くせだったのかよ。オイラはてっきり、わざとてらってるのかと思ってたぜ」


 いつものように俺達がペポを茶化ちゃかして、茶化ちゃかされた彼女がノームに食ってかっていると、めずらしくガーディがケラケラと笑った。

 そんな彼の笑みに、思わず全員がだまった時、ガーディがペポに向かって言う。

「オデは、そのチってヤツ、カワイイとおもう……チ」

「……ッ!! マネするなッチ!!」


 ガーディの言葉に一瞬()れかけていたペポが、最後の小さな「チ」を聞き逃すはずがない。

 すかさず指摘してきしたペポの声が、みずうみに反射して空へと打ちあがってゆく。


 そんな2人のやり取りを見て、笑いながら視線を上げた俺は、一人思ったのだった。

 こんな日が、ずっと続けばいいのにと。

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