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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第4章 野生児と新生児

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第47話 気づいてはいた

「ふむ……吾輩わがはいが眠っている間に、世界は大きく変わってしまったようだ」

「そうなんですよ、でもまぁ、まさか魔王のことも知らなかったなんて、驚きだなぁ」

 まさかシンに対して得意とくいげに話せると思ってなかった俺は、ここぞとばかりに胸を張った。

 が、こんな俺を彼女が見逃してくれるわけもなく、当然ツッコミが入る。


「ダレンもつい最近知ったばかりチ。えらそうにできないチ」

 ちょっとくらい良いだろ?

 なんていう文句はさておき、今の俺達の状況を話すとなった時、俺達はサラマンダーとガーディにも話を聞いてもらうことにしていた。


 まぁ、後でもう一回話すなんて面倒くさいからな。

 呼ばれて渋々(しぶしぶ)話を聞いていたサラマンダーは、今となっては興味深そうな表情を浮かべている。


「僕も知らなかったや……だから父さんと母さんは、僕たちを逃がしたんだね」

「その話を信じるのであれば、やはり、貴様らの役目を果たすことが、ドラゴニュートの望んでいたことなのであろう。しかし……」


 各々(おのおの)、感想をべ始めるサラマンダーとシン。

 その中でもとくに、シンはなにやら考え込んだ後、納得なっとくしたようにうなずきながら告げた。

 どうでも良いけど、彼がうなずくたびに、ブォンブォンと低い音がるのは多少なりとも威圧感いあつかんを覚えるよな。


「今の貴様きさまらが霊峰れいほうアイオーンに向かったとて、前回同様に失敗するのは間違いないだろう」

「どうしてそう思うんですか?」

 ロネリーの素朴そぼくな疑問を受け、シンは鼻先でとりでの方を指し示した。


「見てみよ。あそこにあるのはなんだ?」

「ウルハ族のとりでチ」

「……とりでがどうかしたんですか?」

「魔王軍がこの世界を壊滅かいめつさせたと言っておったな。それにしては、こうして普通に生活できている者共ものどもがいる。それはなぜだ?」


 そんなシンの問いかけを聞いた俺は、思わずフェルゼンの方に目を向けてしまった。

 なんていうか、この質問に対する彼の反応を見たかっただけなんだけど。

 あんじょう、キラキラとしたで元気を取り戻したフェルゼンの姿を見た俺は、思わず苦笑くしょうしてしまう。


「それはもちろん、俺達が強すぎて、奴らの手には負えないってことだろう」

「違うな。答えは簡単だ。完全に攻めほろぼす必要が無いのだ。そのようなことせずとも、貴様らは少しずつほろんで行く」

 苦笑くしょうした俺の予想通り、シンの回答に撃沈げきちんしたフェルゼンは、再び肩を落として項垂うなだれる。

 いちいちいそがしい人だなぁ。

 なんて、もはやフェルゼンの反応を楽しみ始めた俺の頭の上で、ノームが口を開いた。


「それはどういう意味だ? オイラ達、少しずつほろんで行ってるのか?」

「分からぬか? ならば、貴様らはもう少しこの周囲に住んでいる生き物に目を向けるべきであろう」

「生き物に……?」

 シンの言葉を受け、俺はこの樹海じゅかいで見た生き物のことを思い出す。


 と言っても、大きな蜘蛛くもの魔物だとか、遺跡いせきの中でおそってきた魔物達とか。

 そんな奴らしか遭遇そうぐうしてない気がするなぁ。


 もちろん、道中にチラッと小動物しょうどうぶつを見ることもあったけど、数はかなり少なかった気がする。

 と、俺が頭の中で思考しこうめぐらせている間にも、シンの話は続く。


吾輩わがはいの分かる範囲で検知けんちできる生き物は、貴様きさまらを除いてほとんどが、生命いのちを大きく欠落けつらくした個体だ」

生命いのちを大きく欠落けつらくした個体?」

貴様きさまらの言葉でいう所の、魔物だ」

「えっと……それってつまり」


 困惑こんわくするロネリー。彼女の反応とは裏腹うらはらに、俺はみょう納得感なっとくかんを覚えた。

 確かにシンの言う通りかもしれない。

 そして、彼の言う言葉の真意しんいを、俺がゆっくりと理解し始めた時。

 ロネリーの背中から姿を現しているウンディーネが、神妙しんみょうな面持ちのまま告げた。


「ワラワ達が知らぬ間に、いや、気づいてはいたが特に問題にしなかった間に、世界中に魔物があふれかえっていた、というワケか」

「そういうことになる」


 ウンディーネの言葉を聞いて、俺をふくむその場の全員が、多少なりとも危機感ききかんを覚えたに違いない。

 生命いのちのバランスを整えることができていないから、世界中に魔物があふれている。

 そして、その魔物は魔王軍の戦力になる可能性がある。

 うん、ヤバいなこれ。

 ってことはなおさら、俺達は役目を全うする必要がある訳だけど……。


 そこまで俺が考えた時、シルフィが宙をただよいながら言った。

「それと、ウチらの役目が失敗するって話に、何の関係があるのさ~」

「それほどまでにくずれてしまったバランスを、貴様らの力だけで整えることができるとは、到底とうてい思えん。と言う話だ」

「オイラ達じゃ力不足だってことか?」


 少し納得なっとくがいかない様子のノーム。

 彼に対して、小さなため息をいて見せたシンは、面倒くさそうに言葉を並べる。


「例えるなら、お前達がしようとしているのは、海の水を全て真水まみずに変えようとするのと、ほとんど同じなのだぞ? どれだけ全力で真水まみずを海に注いだところで、海水かいすい真水まみずになるわけあるまい?」

「あの海の水を……」

 シンのたとえ話で納得したらしいロネリー達。


 でも、俺にはよく理解できなかった。海の水も、その真水まみずも、どっちも水なんじゃないのか?

「ごめん、俺はあんまりピンと来てないんだけど……」

「海の水はしょっぱいチ。そのしょっぱい海に普通の水をそそいで、全部普通の水にするって話チ」

「あの海を!? そりゃ無理だ」


 ペポの説明で事の重大じゅうだいさを理解した俺は、遺跡いせきの中から見た海を思い出しながら言った。

 あれだけ大量のしょっぱい水を、普通の水でうすめるってことだろ?

 無理だよな。普通に考えて。ウンディーネでもできないんじゃないか?

 なんて、俺が一人で衝撃しょうげきを受けていると、ずっと黙って話を聞いていたサラマンダーが、小さな声で言った。


「ってことは、僕たちに足りないのは何なんだろう? 欠けていない生命、それも大量に、とか?」

「中々にさっしが良いではないか。吾輩わがはい、頭の回る者はこのましく思うぞ」

「えへへ、ありがとうございます」


 められてうれしそうなサラマンダーと、そんな彼を認めたような表情を見せるシン。

 ん? なんか、扱いが違うような?

 ノームに対する態度たいどの差を思い返しながらそう思った俺は、必死に言葉を飲み込んだ。


 すると、ここまでの話を整理するように、シンが告げる。

「サラマンダーの言ったとおり、貴様らに足りないのは莫大ばくだいな生命力と言うものだ」


 生命力せいめいりょくかぁ。それってどんなものなんだろう?

 それっぽいものを色々と想像した俺は、ふと、遺跡いせきでの出来事を思い返す。


「そう言えば、ノームなら何とかできるんじゃないか? ほら、俺の怪我けがなおしてくれてたろ? あれって、生命力せいめいりょくって感じだよな?」

「うーん……まぁ、試してみても良いけど、オイラ、あんまりうまくいく気がしねぇなぁ」

「どうしてだよ?」

「あれはなんて言うか、りて来たものって感じがするんだよ。まぁ、気のせいかもしれないけど」


 なにか思う所があるのか、そんなことを言うノーム。

 手がかりになりそうだと少し期待したけど、ダメだったみたいだ。

 なんて、少し気を落としそうになったところに、シンが語り掛けてくる。


「安心するがいい。さいわいにも、吾輩わがはい莫大ばくだい生命力せいめいりょくについて心当たりがある」

 そう言ったシンは、北の方を鼻先はなさきで示しながら、話し始めたのだった。

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