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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第4章 野生児と新生児

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第45話 蜃気楼

 湖の上にいるのは、巨大なりゅうだ。

 眼前がんぜんにある巨大な黄色いを見た俺は、そこで初めて理解した。

 対して、白いうろこおおわれたりゅうは、細い目で俺達を見下ろしている。

 口元からのぞかせているデカいきばは、俺達なんか簡単にくだいてしまうんだろうなぁ。


 おそれと感心かんしんが入り混じった感想を心の中でつぶやいた俺は、ゆっくりと口を開けると、声を掛けてみることにした。

「は、初めまして。いや、おはようございますか……?」

「何を頓狂とんきょうなことを言っている?」

「いえ、その、ははは。ちょっと驚いただけです」


 巨大な口かられる大量のきりと、するどきばの様子を見た俺が、動揺どうようしないわけがない。

 そもそも、突然現れたりゅうを前に、冷静さを保つことが難しいんだ。勘弁かんべんしてくれよ。


 顔を引きつらせながら笑みを浮かべる俺を、りゅうはジーッと見つめてきた。

 見つめると言うか、観察かんさつしていたって言った方が良いのかもしれない。

 その視線にえるように、身動き一つできないままに沈黙ちんもくしていると、不意にりゅうが口を開く。


 われるっ!?

 とあわてて、俺がビクッと身体からだふるわせたその時、りゅうは不思議そうに頭をかしげた。

「貴様、何者だ?」

「いや、それはオイラ達のセリフだっ!!」

「ちょ、ノーム!?」


 頭の上で盛大せいだいにツッコミを入れるノームに、俺は思わず声をり上げる。

 こう不幸ふこうか、りゅうはノームのツッコミなんて意にかいしていないらしく、相変あいかわらず頭をかしげたままだ。


 その様子にホッと胸をで下ろしながら、俺はあらためて言葉を交わしてみることにした。

「俺はダレン、人間です。で、こいつは俺のバディのノームで、大地の大精霊。ところで、あなたはりゅうですよね? どうしてこんなところに?」


 意識して丁寧ていねいな言葉を使いながら、俺はりゅうの様子をうかがう。

「ダレン? ノーム? 大地の大精霊?」

 ブツブツとつぶやりゅう声音こわねには、疑問ぎもん混乱こんらんが見て取れた。


 俺達と同じように、このりゅうも状況を把握はあくできていないってことらしい。

 ひとしきり周囲を見渡みわたしたりした後、思い出したように俺に目を向けた龍は、再び問い掛けてくる。


「おい、ここはどこだ?」

「そこから!? え、えっと、ここはダンドス樹海じゅかいの中にあるみずうみほとりで、ウルハ族のとりでそばです」

「ふん……そうか」


 そこで言葉を区切った彼は、キリッとした表情を浮かべた後、短く告げた。

「何一つ分からん」

「どうやってここに来たんだよ……」

「この際、ここがどこなのかはどうでもよい。それよりも、貴様きさま、ダレンとノームと言ったか? 貴様らが、あの忌々(いまいま)しいふえを吹いたのだろう? でなければ、ここに到達することは出来ぬはずだからな」

ふえ?」

「ダレン、ふえって言ったら、あの魔物を呼び出すふえの事じゃねぇか? 魔王軍が使ってたやつだ」

「あぁ、あれのことか」

「やはり知っているようだな」

「し、知ってるけど!! あのふえを吹いたのは俺達じゃないぞ…‥です!!」


 俺とノームがふえのことを知っていることを確認した途端とたん、大口を開けて食らいつこうとしてくるりゅう

 そんなりゅうに向かって大声をり上げながら否定ひていした俺は、ふえの事や魔王軍のことを簡単に説明した。


「ってわけで、そのふえは俺達じゃなくて魔王軍のゴブリン達が持ってるんだ……です」

「なぜそのような者共ものどもに渡した?」

「いや、元々オイラ達の物じゃなかったけどなぁ」

「そうです、初めにそのふえを見たのは、ここから南西なんせいの方にある遺跡いせきの中で、その時はリューゲって悪魔がふえを持ってたんだ。で、さっきはゴブリン達がふえを使って魔物を呼び寄せて、俺達にけしかけて来た……んです」

貴様きさまらの物じゃなかった……だと?」

「はい」

「だが、貴様きさまはさっき言ったではないか。大地の大精霊だと。それはつまり、あ奴の後継こうけいという訳ではないのか?」

「あ奴? っていうのは、誰の事? ノーム、知ってるか?」

「オイラが知る訳ないだろ? お前と一緒に生まれて、今まで生きて来たんだぜ?」

「それもそうか」


 俺達の様子を見て、さらに混乱こんらんしている様子のりゅう

 そんな彼に、俺はさっきもたずねたことをもう一度聞いてみることにした。


「ところで、あなたは誰なんですか? 見たところ、りゅうみたいですけど」

「……吾輩わがはいか? 吾輩わがはいの名はシン。貴様きさまらが言う所の、深霧しんむのドラゴンだ」

深霧しんむのドラゴン、シン。カッコいい名前ですね。ところで、どうしてここにいるんですか? 少し前までは、このあたりにいなかったと思うんですが」

「ふん、吾輩わがはいは湖の底で深い眠りについておったのだ。それを、あの耳障みみざわりなふえの音で叩き起こされ、また奴が攻め込んできたのだといきどおっていたところに貴様きさまらが現れた」

「ごめん、オイラ全然理解できないんだけど。奴って誰? さっきの“あ奴”と同じか?」

「さぁ……俺も分からない」


 聞いた手前、止めるわけにもいかない俺達は、自分語りを始めたシンの言葉に耳をかたむけるしかなかった。

 変に気分をがいして、殺されたらたまったもんじゃないしな。


 そんな俺達のことを忘れたかのように、シンは自らの話を続ける。

 かつておこなわれた“奴”とのたたかいの日々や、その“奴”がふえ駆使くしして戦っていたこと。


 そして、どうやらその“奴”がノームに似通った力を持っていたらしいこと。


 興味きょうみぶかい内容を得意とくいげに話していたシンは、ふと、何かを思い出したかのように俺達に声を掛けてきた。

「おい、貴様らが奴の後継こうけいでないのなら、誰が奴の後をいだのだ?」

「えっと、それは俺達にも分からない」

「って言うか、その“奴”ってのが誰なのかも、オイラ達は分からないんだけどな」


 首を横に振ってこたえる俺達を見て、目を見開いて見せたシンは、信じられないとばかりに呟いた。

「では、誰があの役目をになっている?」

「役目?」


 シンのつぶやきが気になった俺は、思考しこうめぐらせる。

 シンが戦っていた何者かには、何かしらの役目があった。

 そして、その何者かはノームと同じような力を持っていたと、シンは言っている。

 と言うことは、ノームには何らかの役割やくわりがあるってことか?

 役割って、何?


「……ダメだ。何も分からない」

 考えすぎと混乱こんらんのしすぎで、少し頭が痛くなってきた。これ以上考えるのはやめよう。

 そう考えて小さなため息をきながら空を見上げた俺は、ゆっくりときりが晴れ始めていることに気が付いた。


「な、なんだ? きりが晴れていくぞ?」

 頭の上に乗っているノームも、すぐにそのことに気が付いたらしい。

 そんなきりを発生させていたと思われるシンは、相変わらず湖の上に浮かんだまま、俺達を見下ろしている。


敵襲てきしゅうおそれが無くなったのだ、警戒けいかいする必要もあるまい」

「あぁ、そう言うことですか」

 すっかり威圧感いあつかんうすれてしまったシンは、少し眠そうなをしている。


 視界しかい鮮明せんめいになるにつれてまぶしさを覚えた俺が、目元を手でおおったその時。

 聞き覚えのある声が周囲から聞こえてきた。

「ダレンさ~ん!!」

「ダレン!!」


 声のした方に目を向けた俺は、ロネリーやペポ、それにフェルゼン達がけ足でこちらに向かって来ている様子を目にする。

 よく見れば、彼女たちの背後にはとりでにいたはずのウルハ族までいる。


「さっきのきりは、人を遠ざける効果でもあったのか?」

 状況からそう推測すいそくした俺は、ロネリー達がシンを見て驚いている様子に小さな笑みをこぼしながら、右手を大きく振ったのだった。

「おぉーい! みんな、無事かぁ?」

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