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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第4章 野生児と新生児

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第43話 取り囲む群れ

「みんな、1箇所に集まるんだ! 迎撃げいげきしながら突破口とっぱこうを探ろう」

 俺の呼びかけで集まった皆は、四角を作るように位置取って立つと、周囲に警戒けいかいをし始める。


 どこを見ても大きな蜘蛛くもの魔物の姿があり、逃げ場所があるようには思えない。

 おまけに、蜘蛛くもの魔物の前足2本は巨大なかまになっていて、非常に凶悪きょうあくだ。


 そんな様子を観察かんさつしていると、俺の右肩()しに、フェルゼンがつぶやいた。

「こいつら、普通なら俺達ウルハ族をこわがっておそってこないはずなんだが……」


 そうなのか。と少し納得なっとくした俺は、同時に彼の疑問ぎもんの答えを頭に思い浮かべた。

 まず間違いなく、この蜘蛛くもの魔物達はリューゲが使っていたふえによって呼び出された奴らだ。

 と言うことは、自然に生息せいそくしている奴らとは別物だって考えた方が良いだろう。

 その証拠しょうこに、ベックスとケイブは蜘蛛くもの魔物におそわれるとは微塵みじんも思っていない様子だ。


 まぁ、自分が呼び出した魔物におそわれてたら、目も当てられないよな。


「アタチが空から皆を逃がすのはどうっチ?」

「ダメだ、奴らの糸はかなり射程しゃていがある。飛んでいる間、無数に飛んでくる糸を、全てけることができるか?」

「……無理っチ」


 ペポの提案ていあん即座そくざ却下きゃっかされてしまった。

 それならばと、俺も右肩越しに提案してみる。


「だったら、岩でかべを作って、強引ごういんに逃げるのは?」

やつらは普段ふだん、地面に穴をってらしてることが多い、あの数だ、あっという間にかべこわされるだろう」


 樹海じゅかいに住んでいるだけあって、フェルゼンは経験けいけん知識ちしき豊富ほうふだ。彼がそう言うのなら、あまり良いさくとは言えないってことだな。

 そうやって自分を納得なっとくさせた俺の真後まうしろで、突然とつぜん姿を現したウンディーネが、しびれを切らしたように言う。


「それなら、ワラワが辺り一帯いったい水没すいぼつさせてしまおう」

「それはダメよ、ウンディーネ! 今ここには、サラマンダーと赤ちゃんが居るんだから。おぼれちゃう」


 ロネリーの言う通り、サラマンダーと赤ん坊の身を危険にさらすのは得策とくさくじゃない。

 って言うか、サラマンダーたちはこの局面きょくめんをどうやって乗り切るつもりなんだろう。


 出来れば共闘きょうとうしたいところだけど、話を聞いてくれるかな?

 俺がそんなことを考えていると、頭の上のノームがポツリとつぶやいた。

「そうなると……全部倒してしまうってのが、一番現実的(げんじつてき)か」

「ははは……見たくない現実ってヤツだな」

「おいおい、オイラに任せとけって。この間みたいに魔物どもをがんじがらめにしてやるよ」


 考えるだけでもしんどい光景こうけいを思いえがいた俺は、思わず苦笑にがわらいを浮かべた。

 対して、自信満々(じしんまんまん)のノームは早速さっそく両腕りょううでをグネグネと動かし始めている。


 と、その時。しばらくだまっていたベックスが、相変あいかわらず笑みを浮かべながら告げた。

「作戦会議は終了ゴブ? もう待つ必要も無いゴブね」


 それだけ言った彼は、待っていたかのように右手を上にかかげると、パチンと指を鳴らす。

 直後、ずっとこちらの様子をうかがっていたはずの蜘蛛くもの魔物達が、一斉いっせい襲撃しゅうげきを開始した。


 ありとあらゆる方向からおそい掛かって来る蜘蛛くも

 巨大なかまあごで俺達を切りこうとしたり、無数の糸をびせてからめとろうとしたり。


 単体でも厄介やっかいな相手だと思いそうなやつらが、ひしめき合ってせまり来る恐怖は、かなりのものだ。

 それでも俺達は、できうる限りの反撃はんげきを加え続ける。


 ノームが植物をあやつって蜘蛛くもどもの足や体をからめとり、岩のやりでとどめを刺す。

 シルフィは飛んでくる蜘蛛くもの糸を吹き飛ばして、俺達がからめとられるのを防いでくれている。

 ウンディーネは、無数の水弾すいだん蜘蛛くもの頭目掛けてちまくって、奴らを窒息ちっそくにまで追いやっている。

 そして俺とフェルゼンは、接近してきた蜘蛛くもどもをナイフとおの撃退げきたいした。


 いくら撃退げきたいしても、次から次にいて出て来る蜘蛛くもは、本当に厄介やっかいだ。

 おまけに、奴らの死骸しがいが増えるほど、俺達は自然とかべに囲まれたような状態になっていく。


 このままじゃ、本当に逃げ道が無くなってしまう。

 俺がそんな危機感ききかんを覚えながら、ナイフを振り回していると、背後にいたロネリーがさけんだ。

「ダレンさん! サラマンダーと赤ちゃんが!」


 彼女の言葉を聞いて、咄嗟とっさ蜘蛛くも死骸しがいの上に飛び乗った俺は、サラマンダー達の方を見やった。

 炎を放って蜘蛛くもを焼き殺しているサラマンダーは、しかし、敵の数をさばき切れていない。

 このままじゃ、あっという間に背後を取られてしまう。


「俺が向かう! 3人はそのまま……」

 ここで俺が抜けたら、3人の負荷ふかが増えてしまう。

 そんなことが頭の中をチラついた直後。

 俺は、真っ赤な何かがサラマンダー目掛けてけ抜けてゆくのを、視界のはしとらえた。


 むらがる蜘蛛くもの間をうようにけるその赤い影は、通り抜けざまに周囲の蜘蛛くもを切り裂いている。

 飛び散る蜘蛛くも緑色みどりいろ血飛沫ちしぶきと、繰り出される爪の斬撃ざんげきは、とてもあざやかだ。


 そして俺は、その斬撃ざんげきを見たことがある。

「ガーディか!!」

 とどまることを知らない様子のガーディは、全く速度を落とすことのないまま、あっという間にサラマンダーの元に辿り着いて、彼らを援護えんごし始めた。

 その様子に、俺は大きな違和感いわかんを覚える。


 同じような違和感いわかんを覚えたらしいペポが、はげしくみだれる軌道きどうで俺達の頭上を飛び回りながら言った。

「なんか変っチ。蜘蛛くもの魔物が、全然ぜんぜん反応してないチ」


 それとほぼ同時に、ベックスとケイブの声が聞こえてくる。

 俺はせまり来る蜘蛛くもの目にナイフを突き刺しながら、その声に耳を傾けた。

「あいつはなんだゴブ!?」

「きっと、ハグレのウルハ族ゴブゥ。バディがいないんだゴブゥ」

「どうしてこんなところにハグレがいるゴブか!?」


 多分、ガーディのことを話している彼らは、少しあせりをいだいているらしい。

 魔物が反応していないことと、ガーディがハグレであることに何か関係があるのか?

 そんな疑問をいだいた俺は、さらに変化する状況に対応するため、目の前の蜘蛛くもり飛ばした。


「オラ達も出た方が良いかもゴブゥ」

「チクショウ! せっかく高みの見物してるだけで昇進しょうしんできると思ったゴブに」


 視界のはしで、各々《おのおの》武器を構え始めるベックスとケイブ。

 そんな二人に意識をがれそうになった俺は、再び別の声を耳にした。

「ガーディ!! アパルを頼むよ!!」

「まかせろ!!」


 そんなやり取りが聞こえたかと思うと、赤ん坊をいたガーディが、素早すばやい動きでサラマンダーのそばから離れ始めた。

 直後、サラマンダーを取り囲んでしまう蜘蛛くもれ。


 このままじゃサラマンダーがヤバい!!

 そう思った俺は、サラマンダーにおおいかぶさるようにむらがる蜘蛛くも隙間すきまから、煌々(こうこう)とした光が漏れ出てきていることに気が付く。


 次第に明滅めいめつを始めたその光は、なぜか俺の胸をざわつかせた。

「なんだ!?」

「おいダレン! オイラ、なんか嫌な予感よかんがするぜ!?」

「私も嫌な予感よかんがします!」

「ペポ!! シルフィ!! 一旦いったんこっちに戻れ!! 壁を作るぞ」


 徐々(じょじょ)に速くなってゆく明滅めいめつに、猛烈もうれつ危機感ききかんを覚えた俺は、ペポ達にそう叫ぶと同時に、岩のドームを形成けいせいする。

 皆を取り囲むように作ったそのドームが、完全に出来上がる直前。


 ギリギリ隙間すきまから中に入って来たペポの背中をさすっていると、にぶ衝撃音しょうげきひびき渡った。

 それと同時に、岩のドームをろうとしていた蜘蛛くもの音が一斉いっせいに止む。


 取りえずの危機ききが去ったのかと、おそおそるドームの外に顔を出した俺は、周囲を見てつぶやいた。

爆発ばくはつ……したのか?」


 俺達を取り囲んでいた蜘蛛くもたちが、真っ黒こげになって地面に転がっている。

 少し離れたところに居たベックスとケイブは、吹き飛ばされてしまったのか、2人が重なった状態で横たわっていた。

「いたた……頭打ったゴブ」

「ベックス。早くどいてくれゴブゥ~」


 かすかに聞こえるそれらの声に、少しうんざりした俺は、ドームから外に出るとサラマンダーに目を向けた。

 ぐったりとへばっている様子の彼は、地面にしたまま動かない。

 でも、呼吸はしているようなので、生きてはいるようだ。


 と、その時。先ほど遠くに離れていったガーディが赤ん坊をかかえたまま戻ってくる。

「だいじょうぶか! サラマンダー!」

「僕は大丈夫だよ。それよりも、アパルは?」

「へいき。オデ達、かくれてた」

 そんな彼らのやり取りを聞いて、俺は少し安堵あんどしたのだった。

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