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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第4章 野生児と新生児

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第41話 赤いハグレ

結構けっこう樹海じゅかいの奥まで入って来たな」

 ノームの案内にしたがって歩を進めていた俺達は、随分ずいぶん樹海じゅかいの深いところまでやってきていた。

 周囲の木々《きぎ》は鬱蒼うっそうしげっていて、人の気配は完全に無い。


 わりと言っては何だが、時折ときおり、俺達をねらうようなするどい視線が、いたる所から感じられた。

「あの、ノームさん。目的地はまだ遠いんですか?」

 周りの視線に警戒けいかいをしながら、ロネリーが先頭せんとうを行くノームにたずねる。

 そんな彼女に目を向けながら、ノームは軽い口調くちょうで答えた。

「あぁ、もう少し先まで続いてるみたいだぜ」


 ノームの言う“もう少し”がどれくらいなのか、俺達には見当けんとうもつかない。

 目的地もくてきち明確めいかくに分かっているのと、そうでないのでは、このあたりの感覚かんかくに大きな違いが生まれる。当然だよな。


 具体的ぐたいてきにどれくらいの距離なのか聞いておこうか。なんて俺が考えたその時、しびれを切らしたのか、ペポが両翼りょうよくを広げながら告げた。

「アタチ、ちょっチ飛んで先を見て来るチ」

「やめておけ。このあたりは蜘蛛くもの魔物が出る。数日前、樹海じゅかいの上を飛んでる鳥が、無数の糸にからめとられるところを見てだな……」

「……やっぱりやめとくチ」


 フェルゼンの言葉を聞いた彼女が、そして俺達が、強烈きょうれつな不安をかかえたのは言うまでもない。

 気のせいかもしれないけど、周囲から注がれる視線しせんに、猛烈もうれつ殺気さっきかんじる。


「それが良い。奴らに捕まると悲惨ひさんだからな。最悪、生きたままミノムシにされて、動けないまま数週間は吊るされるぞ」

「フェルゼンさん……不安になること言わないでくださいよ」

「大丈夫だ。俺のそばにいれば、奴らがおそってくることは無いだろう。なにしろ俺は、ウルハ族だからな」

「ウルハ族だから襲われないって、どんな理屈りくつだよ」


 不安げな表情ひょうじょうあたりを見渡しながら口を開くロネリーと、何故なぜ自信満々(じしんまんまん)に言ってのけるフェルゼン。

 そんな2人の、主にフェルゼンの発言に俺がツッコミを入れたところで、ノームが勢いよく振り返った。


 直後、ノームは血相けっそうを変えながら告げる。

「……っ!? ダレン!! 気を付けろっ!!」

「!?」


 声を聞くと同時に、ポケットにしまっておいた岩のナイフを取り出し、かまえた俺は、直後、何者かの襲撃しゅうげきを受けた。

 真っ直ぐ前方から、一直線いっちょくせんに俺に向かって飛びこんでくる赤いかげ


 一瞬目にしたその赤が、長い髪の色だと気が付くのに、数秒かかった。

 まるで、けもののように低い体勢たいせいで地をけ、俺達を翻弄ほんろうしたそいつは、するどつめを使って切りかかってくる。


「この野郎!! 魔物か!?」

 爪の攻撃をナイフでさばきながら俺が叫ぶと、ほぼ同時にフェルゼンが同じく叫んだ。

「ハグレか! ダレン、そいつから離れろ!!」

「そうは言っても、うわっ!!」


 長くてゴワゴワとした赤い髪を盛大せいだいらしながら、爪の猛攻もうこうり出すそいつに、俺が少し押され気味になった時。

 周辺の空気が、一気にざわめいた。

「ダレンから離れるチ!!」


 頭上から聞こえて来るその声にられるように、俺の身体が勢いよく浮かび上がり、後方に退避たいひさせられる。

 何事かと視線を上げた俺は、宙に浮かんでいるペポとシルフィを見て、事態じたいさっした。


「ダレンさん!!」

 俺のそばけ寄って来るロネリーに、大丈夫だとうなずいて見せた俺は、赤髪を警戒けいかいしながら、フェルゼンに声を掛けた。

「おいフェルゼン、こいつは何者なにものだ?」

「こいつは……あぁ、間違いない。ハグレのウルハ族だ」

「サレ!! そのサキ、イクナ!!」


 身構みがまえているフェルゼンに呼応こおうするように、うなり声を上げながら声を発する赤髪あかがみのハグレ。

 言われてみれば、少し硬めの髪質かみしつや体つきなんかは確かに、かなり小柄こがらなウルハ族にも見える。


 少しカタコトなのは、育った環境が影響えいきょうしてるんだろうか?

 取りえず、俺達の向かってた方向から姿を現したこいつが、食糧庫しょくりょうこしのび込んだ奴と関わりがあるのは間違いなさそうだな。

「この先にこいつの住処すみかがあるってことだな」

泥棒どろぼうはこいつってことチ?」

「その可能性は高いだろうな」


 ペポの言葉に賛同さんどうして俺がうなずいた時、隣にいたロネリーが首をかしげながらつぶやいた。

「でも、それじゃあ地面の中の穴って、何のためにったんでしょうか?」


 彼女の言葉を皮切かわきりに、一瞬、沈黙ちんもくおとずれそうになった時。

 気が付けば姿を見せていなかったノームが、地面から飛び出て来て声を上げた。

「おい、皆聞いてくれ!! オイラ気づいちまったぞ」

「どうしたノーム」


 俺をほったらかして、先の様子を見に行ってたのかよ!!

 というツッコミを我慢がまんして、俺はノームに問いかける。

「こいつの住処すみかっぽい場所がこの先にあるんだけどな? そこに、人間がいる」


 彼の言葉に真っ先に反応はんのうしたのは、フェルゼンだ。

「人間? ハグレが人間と一緒に住んでるってことか?」

「いや、そうじゃねぇ。聞いて驚け、その人間ってのは、赤ん坊だ」

「え? 赤ん坊って、こんな樹海じゅかいの中にですか!?」

「あぁ、間違いない。確かに赤ん坊だ」

「カエレ!! カエレ!!」


 まるで、ノームの言葉を聞いてあせりをいだいたかのように、ハグレが声をり上げる。

 そんなハグレをにらみつけた俺は、ナイフを構えたまま皆に告げた。


「とりあえず、こいつを大人しくさせて、その赤ん坊の所に行こう!!」

援護えんごするチ!!」

「私も!! ウンディーネ、手伝って!!」

「仕方あるまい」


 そうして俺達は、ありとあらゆる手を使って、赤髪のハグレを拘束こうそくすることに成功せいこうした。


 まぁ、そう簡単じゃなかったけどな。

 木の根とか風とか水で動きをふうじようとしても、上手くかわされる。

 全員で囲い込もうとしても動きが速すぎてとららえられない。


 最終的さいしゅうてきには俺とフェルゼンが接近戦せっきんせんに持ち込んで、何とかねじせることに成功した。

 おかげで、ハグレの全身を岩で拘束こうそく出来たってワケだ。


「手こずらせやがって……それにしてもお前たち、中々(なかなか)やるじゃないか」

「まぁな」

 身体からだ拘束こうそくされてもなお、わめらかしているハグレを見下ろしながら、俺は短くこたえた。

 少し息が上がりそうになってたけど、まぁ、言う必要はないだろ。


「それよりも、早く赤ちゃんの所に向かいましょう!!」

 ノームから赤ん坊のことを聞いた時から、人一倍そのことを気にしていたらしいロネリーにかされて、俺達は先を急ぐ。

 そうして、やたらと太い木のふもとにたどり着いた時、ノームが言った。

「そこだ、その大きな木のほらの中に、子供がいる!!」


 ノームの指し示す場所には、確かに人が入れそうなほらがある。

 多分、入っても大丈夫なんだろうけど、一応警戒(けいかい)しておくか。

 そう考えた俺は、皆に目配せをしながら提案ていあんした。


「まずは俺が様子を見る、皆は周りに警戒けいかいしててくれ」

 フェルゼンにはハグレを監視かんししてもらわないといけないし、ここで体を張るべきなのは俺だよな。

 なんて思いながら、ほらの中をのぞき込んだ俺は、こんもりと盛られた草葉くさはの上に寝ている赤ん坊と、トカゲのバディを目にした。


「だ、誰だ!! 僕らに近寄ちかよるな!!」

「ん、お前は……その子のバディか?」

 赤黒いうろこを持ったそのバディは、少し気弱そうな口調で言う。

「そうだ!! き……お前こそ誰だ!!」


 俺のことを一瞬、“きみ”って呼ぼうとした辺り、このバディは随分ずいぶん見栄みえっているらしい。

 まぁ取りえず、わなたぐいはなさそうだな。そう判断した俺は、素直すなおに名乗ることにした。


「俺はダレンだ。ここに子供がいるって聞いて、助けに来たんだよ」

「た、助けに? ……だ、だまされないぞ!! ガーディはどうした!? 彼がお前達を追い払いに行ったはずだぞ!!」


 俺の言葉を聞いてほんの少しだけおどろきとよろこびの目を見せたトカゲのバディは、しかし、すぐに視線をとがらせる。

 よっぽど俺のことを信頼しんらいできないらしい。まぁ、初対面だし、仕方が無いよな。


 取りえず、彼の口から出て来た名前についてれることにしよう。

「ガーディ? ってのは、赤い髪をしたハグレのウルハ族のことか?」

「まさか……!! お前達、ガーディに何をした!! 許さない!! 許さないぞ!! 僕らから父さんと母さんをうばって、ガーディまで……」

「おい、ちょっと待った……」


 少し涙目なみだめになりながら話を進めるトカゲのバディ。

 そんな彼を制止せいししようと俺が口を開いたその時。彼は一息に言う。

「許さないからな!! 僕が、このサラマンダー様が!! かたきってやる!!」

「な!? お前、今なんて!?」

 驚きで目を見開く俺のことなんて目に入っていないのか、サラマンダーはその大きな口を開いて、猛火もうかを放ったのだった。

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