表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第4章 野生児と新生児

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/124

第40話 進入路

 せつなさとも、喜びともとれるフェルゼンの笑みを見た俺は、思わずつぶやいてしまった。

「大切な人だったんだろ? つらいよな」


 そんな俺のつぶやきを聞いたフェルゼンは、鼻を小さく鳴らしながらさらに笑う。

「子供に心配しんぱいされるようじゃ、俺もまだまだだな」

「大人だとか、子供だとか、私はあんまり関係ないと思います」

 彼をはげまそうとしているのか、そう告げたロネリーは、少し元気がない。

 対するフェルゼンは彼女のはげましを聞きながらも、すました顔で言ってのける。


「言っただろ? 覚悟はできてたんだ。俺達に足りなかったのは確信かくしんだけさ。だけど、こうして事実を知れたんだ。それだけで俺達は、奴をとむらってやれる」

 そう言ったフェルゼンはれた手つきでカップを手に取り、中身を飲み干そうと口を付ける。


 しかし、先ほど一気に飲み干してしまっていることを忘れていたのか、彼はカップの中身が空であることに気が付くと、肩をすくめながらため息を吐く。

 いたカップを机のはし退けたのは、再び手に取らないようにするためだろう。


 そうして彼は、机の上で両手をにぎり合わせて、元気良く告げた。

「今日は盛大せいだいいわわねぇとな!!」

いわうのかよ」

 故人こじんしのんで思いをせる、とか。普通はそんな感じじゃないのか?


 なんてツッコミを俺が言う前に、フェルゼンが言葉を並べたてた。

「当たり前だろ? 奴の頑張りの結果、今日こうしてお前たちが俺達の前に現れたようなもんだ。これをいわわずして、いついわうってんだ? ……それに、俺は酒が飲みてぇ」

「ただの酒好きっチ」


 最後の最後にれ出たフェルゼンのつぶやきを、聞き逃さずにひろい上げたペポ。

 彼女のするどいツッコミに、部屋に居た全員が小さな笑みをこぼした。


 ひとしきり笑いが部屋を満たした後、思い出したようにフェルゼンがつぶやく。

「でもなぁ……肝心かんじんの酒がねぇんだよ」

 手持無沙汰てもちぶさたな両手を頭の後ろに回して、上半身を伸ばすフェルゼン。


 その豪快ごうかいな動きにゆかきしむ中、俺は疑問を口にした。

「無いって、作ったりしてないのか?」

「もちろん作ってるに決まってるだろ? だけどよ、最近さいきん食糧庫しょくりょうこに、泥棒どろぼうが入るようになったんだ」

泥棒どろぼう!? このとりでの中に侵入しんにゅうできる泥棒どろぼうなんているんですか?」


 驚くロネリーに、フェルゼンは説明を続ける。

「それが不思議なんだよ。見張りはしっかりと立ててるはずなのに、気づいたらゴッソリ持っていかれちまってる。……だから残念だけどな、お変わりはねぇぞ?」

 上半身のストレッチを終えたフェルゼンは、その大きな目をペポに向けて、静かに言った。


 一瞬いっしゅん沈黙ちんもくが小屋の中に広がり、視線がペポに集中する。

 すっかり空っぽになってしまっているカップとあしを、翼でいじっていたペポは、沈黙と視線に気が付くと、あわてたように声を上げた。


「チ! 違うチ!! 別に、おかわりが欲しいなんて思ってないチ!!」

物欲ものほしそうにコップの中をのぞき込んでたけどな」

「ダレン、だまるチ!!」


 キッとにらみつけて来る彼女の様子を楽しんだ俺は、背もたれに体をあずけつつ、両手を頭の後ろに組んだ。

「まぁ、冗談じょうだんはさておき。このとりでに入れる泥棒どろぼうって、ただ者じゃないよな」

「そうですね」


 ボンヤリと天井てんじょうを見上げながら言う俺に賛同さんどうするロネリー。

 さらに、俺をにらんでいたはずのペポまでもが、視界の端でうなずきながら言った。


「何か怪しいチ」

「ペポもそう思うか?」

「なんだ? お前ら、泥棒どろぼうに心当たりでもあるのか?」


 俺達を見定みさだめるように視線を動かすフェルゼン。彼の疑問は至極当然しごくとうぜんだ。

 でもまぁ、俺達が心当たりがあるのは少し違う奴らなんだよなぁ。なんて思いつつ、フェルゼンに目を向けた俺は、小さくうなずきながら言った。


「いや、泥棒どろぼうにって言うか、コソコソと何かをたくらんでる奴らになら、心当たりはあるかもしれないって話だ」

たくらんでる?」


 何かをいぶかしむような表情でつぶやくフェルゼンを見た俺は、頭の上にいるノームに声を掛けた。

「ノーム、食糧庫しょくりょうこあさった泥棒なら、何かしらの痕跡こんせきを残していくと思わないか?」

「ん~、まぁ、可能性はあるだろうな?」

「ってことは、ノームの力があれば、そいつの元に道案内みちあんないすることもできるよな?」

「流石にそれは無茶じゃねぇか? ……って言いたいところだけどよ、まぁ、やってみる価値はあるかもしれねぇ」


 少し言葉をにごしながらノームが告げた直後、ロネリーやペポが次々に口を開いた。

流石さすがノームさん!!」

「使える男っチ」

「頼れるバディだねぇ~」


 既視感きしかんのある流れに思わず苦笑にがわらいを浮かべながら、俺は流れに乗ってノームに提案する。

「じゃ、そう言うことだから、頼んだぜノーム」

「なんか良く分からねぇけど、頼まれてくれるか? ノーム」


 この流れに乗り遅れるなと言わんばかりに、フェルゼンまでもが俺の頭上に向かって告げた。

 再びおとずれた沈黙。

 当然ながら小屋の中の視線は全てノームに注がれている。


「……おい、ちょっと待て!! また便利な道具どうぐ扱いしてるだろ!! もうオイラ、泣いちまうぞ!!」

 数秒の沈黙にえかねたようにノームがそう叫ぶと、それを合図にしたかのように、ロネリーの背中からウンディーネが姿を現した。

「ワラワのためと思えばではあるまい?」

だよ!! なんならオイラ、絶句ぜっくしちまうよ!!」


 ノームがそうさけんだ直後、俺とノームは全身ずぶれになっていた。

 いやまぁ、確かに流れには乗ったけど。まさかこんな目に合うとは思ってなかった。


 少し釈然しゃくぜんとしない気持ちを抱きつつ、なんとかノームを説得した俺達は、その足で食糧庫しょくりょうこに向かう。

 そうして、地面にもぐったノームを待つこと数分。

 あっという間に戻って来た彼は、開口かいこう一番に気になることを言った。


「なぁ、食糧庫しょくりょうこって普通、床から外につながる穴とか作らないよな?」

「穴!? そんな穴、俺達は知らないぞ!!」

 驚くフェルゼンだったが、実際にノームの指示通りに床板をいだ俺達は、そこに小さな穴を見つける。


 大きさは子供が1人通れる程度だ。

「これは……完全に穴ですね」

「間違いなく泥棒どろぼう進入路しんにゅうろチ」

大手柄おおてがらだな、ノーム」

「ま、まぁな。でも、この穴……」

「何か変なのか?」


 何かを言いよどんだノームに問いかけてみるけど、彼は頭を傾げながら口をつぐんでしまう。

 まぁ、本当にヤバい何かがあれば、迷わず言うだろ。と俺が思った時、気を取り直したらしいノームが告げる。


「いや、まぁ、穴の先に行けば、何か分かるかもしれねぇな。とりあえず、オイラが案内してやる、全員着いて来い!!」

 そう言ったノームに付きしたがう形で、俺達はとりでの北、樹海じゅかいの中へと足を向けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ