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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第4章 野生児と新生児

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第39話 端的に、簡潔に

 屈強くっきょうなウルハ族の視線しせんを集めながらとりでの中を歩いた俺達は、フェルゼンの案内あんないで小屋に通された。

 小屋と言っても、ウルハ族が使うことを想定そうていした小屋なので、俺達にとっては何もかもが大きく感じられる。


 当然、備え付けられているつくえ椅子いすも、よじ登らないと座れない程だ。

 そんな椅子いすこしを下ろした俺達は、落ち着かないながらも一息ひといきく。

 まるで小人こびとにでもなってしまった気分だなと思いながら、俺は頭の上のノームをぬすみ見た。


「おい、なんでオイラを見るんだ?」

「いや別に」

 そう言って、視線しせんの意味をごまかした俺は、ペポとロネリーに目を向ける。


「ちょっと待っててくれ、客人きゃくじんなんてひさしぶりだからなぁ。準備してくるぜ」

 そう言って小屋から出て行ったフェルゼンを見送ったところで、ロネリーが口を開いた。


「とりあえず、何が出て来ても皆さんは何も食べたり飲んだりしないようにしてください。まずは私が毒見どくみをしますので」

「わかったチ」

「そうしてくれると助かる。頼んだよ、ロネリー、ウンディーネ」

「それにしても、ウルハ族……想像よりも大きかったチ」

「ペポはウルハ族の事知ってたんだな? それも、小さい頃に聞いてたのか?」

「聞いてたチ。2人は知らなかったチね?」

「私は知りませんでした。まさか、あんなに大きな種族がいるなんて、想像そうぞうもしたことなかったです」

「だな。オイラも驚いたぜ」

「背の高さだけなら、オルニス族と同じくらいって感じだよな」

「そうチ? アタチたちは、あんなに大きくないチ」


 なぜか不服ふふくそうに否定ひていしてくるペポに、俺はそれ以上追及(ついきゅう)することをやめた。

 オルニス族もウルハ族も、顔を見上げる感じが同じだから、多分背丈(せたけ)はほぼ同等なんだと思う。


 違いがあるとすれば、体格たいかくだな。

 大きなつばさ綺麗きれいたたんで立つオルニス族は、風を切って飛ぶためなのか、縦長たてながでスマートなシルエットをしている。


 それに対してウルハ族は、採掘さいくつをするためなのか、全身の筋肉きんにく発達はったつしているらしく、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)だ。

 おまけに、フェルゼンを含む多くの者が、まるでけもののような黒くて長い頭髪とうはつを持っているため、豪快ごうかいな印象を与えてくる。


 見た目だけなら、かなり粗暴そぼうなイメージを抱きそうになるけど、フェルゼンみたいに話の出来る奴が居るらしいから、大丈夫だろう。

 むねの中にいた小さな安心感。それを確認するように、俺はペポに問いかけてみた。


「さっき話した感じだと、敵ってわけじゃなさそうだけど……大丈夫だよな?」

「分からないチ。16年前の話だと、ウルハ族は魔王軍と戦ってないチ」

「そうなんですか?」


 意外いがいな返答に少し驚いた俺は、ロネリーの疑問に賛同さんどうするため、ペポを見つめて言葉の先をうながすことにした。

「そうチ。サラマンダーを探している時に、偶然ぐうぜん、グスタフと出会ったらしいチ」

「そのグスタフってのが、16年前にサラマンダーをバディに持ってたウルハ族の事なんだな?」

「チ」


 みじかな声と共にうなずいて見せるペポ。

 そんな彼女に、俺がもう一つ質問をしようと口を開きかけた時。小屋のとびらが開かれ、フェルゼンが戻ってきた。


「おう、待たせたな。ちょっとばかし多いかもしれねぇが、気にしないでくれ」

 そう言ったフェルゼンが机の上に並べたのは、俺の頭くらいはありそうなデカいカップ。

 どう考えても、飲みすことなんてできない。おまけに、並々(なみなみ)までカップを満たしているのは、見たことのない赤い液体えきたいだ。


 そもそも、カップを持ち上げる事が出来ないし。

 苦笑にがわらいを浮かべながら俺がそんなことを考えていると、フェルゼンは俺達の前に並んでいるカップに、筒状つつじょうぼうし入れた。


あしだ。それで吸えば飲めるぞ」

「ありがとうございます。ところで、この飲み物は何ですか?」

 俺と同じように苦笑にがわらいを浮かべているロネリーが、あしで赤い液体をかき混ぜながらたずねた。


「ザクロの果汁かじゅうだ。これもまたうまいぞ。なにしろ、今日()れたてのザクロを使ってるからな」

果汁かじゅう……ですか」

 質問に答えたフェルゼンが、ザクロの果汁かじゅうを一気に飲みしたのを見て、ロネリーが口をつぐむ。


 そうして、一瞬いっしゅん躊躇ちゅうちょした彼女はそっとあしくわえると、目を閉じて呼吸を止めた。

 それらの動作どうさを横目で見ていた俺は、彼女の仕草しぐさに少しドギマギとしながら反応を待つ。


 直後ちょくご、一瞬にして目を見開いた彼女は、あしから口を放して告げた。

美味おいしい!! すごく甘いですね」

「だろ? 仕事の合間あいまに飲むザクロの果汁かじゅうは、身体からだみ渡るんだぜ」


 満面まんめんの笑みを浮かべるフェルゼンとロネリーを見た俺は、一瞬ペポと顔を見合わせた後、あわてるようにあしくわえた。

「旨いチ!!」

「おぉ、確かに。これは美味おいしいな」

「おいダレン。オイラにも飲ませろ!!」

「落ち着けって」

「気に入ってもらえたみたいで、何よりだ」


 俺達の様子を見たフェルゼンは、そう言いながら向かいの椅子いすに腰を下ろし、話し始める。

「それじゃあ、話の続きをしようか」

 端的たんてきに切り出したフェルゼンは、昔を思い返しながら話し始める。


「グスタフは、俺達の中でもぐんいて強い男だった。バディのサラマンダーと戦えば、何者にも負けない力と知略ちりゃくを持っていたし。何より、腕力わんりょくかなやつは居ねぇ。だから当然、俺達にとってあこがれの存在だったぜ」

「そうなのか」

「そんな奴が、16年前のある日、突然このとりでを出るって言いだしたんだ。俺達も理由を聞いたけどよ。奴は何も言わずに出て行っちまった。俺もガキだったからよぉ、文句もんくれてたのを覚えてるぜ」

「何も言わずに……ですか」

「そうだ。事情じじょうを知ったのはそれから数年がったある日のことだ。魔王軍の奴らが、このとりでめ込んで来やがってな。まぁ、当然。返りちにしてやったけどよ」

「返りちに……流石さすがっチ」

「まぁな。俺達に掛かれば、魔王軍の奴らなんざてきじゃねぇ。そん時、奴らの狙いが俺達ウルハ族の殲滅せんめつだってことを知ったんだ。奴ら、グスタフと戦ったらしいな。結果、俺達が脅威きょういだって認識したんだろう」

「それでこのとりでを作ったのか?」

「その通りだ。撃退げきたいするために岩をれなくなったら、本末転倒ほんまつてんとうだからよ」

「そっちの方が重要なんですね……」

「当たり前だろ? で、ペポとか言ったか? グスタフのこと知ってるってことは、奴が今どこにいるのか知ってるんだろ? 教えてくれねぇか?」


 フェルゼンのその問いかけを聞いた俺達は、思わず口をつぐんでしまった。

『セルパン川にかる橋の上で、まず初めにサラマンダーが命を落とした』

 いつしか、ロカ・アルボルでホーネットが言っていた話。

 霊峰れいほうアイオーンに辿り着いた4人が、何もできずに撤退てったいする最中のこと。

 魔王軍に追われる一行の殿しんがりつとめたのがサラマンダーだという話。


 今の口ぶりからすると、フェルゼンは魔王軍と4大精霊だいせいれいの戦いなんて知りもしないんだろう。

 だとするなら、この話を伝えるのはこくかもしれない。


 なんといえば良いのか。言葉を選ぶ必要がある。

 そう考えた俺が、ペポやロネリーと顔を見合わせた時。

 深いため息を吐いたフェルゼンが、落ち着いた口調くちょうで言った。


「聞かせてくれ。俺達はもう、覚悟かくごはできている。それに、なんとなく想像もついている」

 その言葉を聞き、ペポがゆっくりと話し始めた。

 ロカ・アルボルでホーネットが話していたのと同じ話を。

 俺達が、16年前のやり直しをしようとしている話を。

 グスタフとサラマンダーの結末を。端的たんてきに、簡潔かんけつに。


 それらの話を聞いたフェルゼンは、満面の笑みを浮かべて、そっとらしたのだった。

「……そうか、そうだったんだな」

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