表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第4章 野生児と新生児

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/124

第38話 ウルハ族の集落

「いやぁ、わりわりい。てっきりまた、魔王軍のやつらがわるさしてんのかと思ってなぁ。すまなかった」

 頭をボリボリとむしりながらそう言ったのは、屈強くっきょうな体を持った大男おおおとこ


 服装ふくそう上半身じょうはんしん(はだか)で、身に着けているズボンはどろよごれているといった格好だ。

 水浴みずあびのためにノームが作り出したかべを、簡単にのぞき込めるってことは、身長は2メートル以上あるだろう。


 背が高いだけでなく、うでっぷしまでもゴツゴツとしている彼らは、唖然あぜんとしている俺達を見下みおろしながら続ける。

「俺の名はフェルゼン。このみずうみの近くに住んでるウルハぞくのモンだ。で、こいつが俺のバディのストゥン。良い名だろ?」

「ストゥンだ。よろしくな」


 フェルゼンの右肩に乗っているツバメ型のバディが、みじかく告げる。

「あ、あぁ。よろしく」

 少し戸惑とまどいながらも、そう返事をした俺は、そっとロネリー達の方に視線しせんを投げた。


 この流れで俺達も自己紹介じこしょうかいした方が良いのか、たずねようと思ったんだけど、そんな俺の思惑おもわく余所よそに、彼女たちはまだ動揺どうようしているらしい。

 全く俺と目を合わせてくれない。

 ちょっとはだかを見たくらいで、何をそんなに動揺どうようしてるんだか。ここは俺がしっかりしないとだな。


「と、ところでフェルゼン。きょ、今日は天気が良いな」

「おいダレンどうした? なに動揺どうようしてるんだ?」

「べ、別に、動揺どうようなんかしてないぞ!?」


 頭の上のノームにそう返しながらも、俺はさっき見た光景を思い浮かべる。

 かべを飛び越えて着地ちゃくちした時に、俺は視界しかいはしで確かに見たんだ。

 一糸いっしまとわぬ格好かっこうでしゃがみ込み、フェルゼン達を見上げているロネリーの姿を。


 胸元むなもと股辺またあたりを両手で隠しながらしゃがみ込む彼女の素肌すはだが、白くかがやいていたように見える。

 そのかがやきは、ペポの羽毛うもうやわららかさとはまた違った魅力みりょくを持っているように、感じられた。

 おまけに、しっとりとれた金髪きんぱつ素肌すはだりついている様子も、俺の胸中きょうちゅうをざわつかせる。


 そんな光景こうけいを思い出すたびに、俺の心臓しんぞう早鐘はやがねを打つんだ。


 ダメだ、思い出すと動揺どうようしてしまう。でも、思い出さないようにすると、ぎゃく意識いしきしてしまう。

 今はそれどころじゃないってことくらい、分かってるんだけど。

 意識いしきしないなんて、できるわけが無かった。


「ダレンもロネリーも、少し変だチ」

 そう言うペポは、ほとんどいつも通りの姿のままだ。

 ロネリーと一緒に水浴びをしてたはずだけど、彼女の羽は水をはじいてしまうらしい。


 便利べんりだよなぁ。

 なんて考えて意識いしきらそうとした俺は、だけど、否応いやおうなしに視界に入って来るロネリーの後姿うしろすがたを見て、再び動揺どうようした。


「ダメだこりゃ。こいつら、さっきので完全に動揺どうようしてるぜ。仕方がねぇから、オイラ達で話を聞こうぜ、ペポ」

「仕方がないチ」

「ウチも居るんだけどなぁ~」

「真面目に話を聞けるのか?」

「ウチが真面目まじめに? そりゃ無理だねぇ~」

「だと思ったぜ。ってことだフェルゼン。ちょっと今はダレンの調子ちょうしが悪いから、オイラが話を聞く」

「そうか。まぁ、誰でも良いんだが」

「で、オイラは初めて聞いたんだけど、ウルハ族ってなんだ?」

「おぉ、ウルハ族と会うのは初めてか? 俺らみたいな黒髪くろかみ身体からだを持った種族のことだ。たいていは、どうくつをって、鉱物こうぶつなんかをったり加工したりして暮らしてる」

鉱物こうぶつを食べるチ!? それ、うまいのチ?」

「あぁ、うめぇぞ! “ごたえ”と“のどし”がたまらねぇんだ!」

「信じられないチ」

「今度(ため)してみろよ。ところで、お前たちはこんなところで何をしてたんだ?」

「あぁ……それはだな」


 フェルゼンの唐突とうとつの問いに言葉をにごしたノームが、ペポの方に視線しせんを投げる。

 その視線しせんを受けたペポは、小さくため息をいた後、意を決したように告げた。


「アタチ達、サラマンダーを探してるっチ」

「サラマンダーだって!?」

 ペポに対しておどろいて見せたフェルゼンは、おどろいた直後に身構えて、俺達を見比べ始めた。


 そんな彼の背後はいご待機たいきしていた他のウルハ族の面々も、顔を強張こわばらせながら身構みがまえている。

 その様子を見た俺は、今しがたまで胸中きょうちゅう占領せんりょうしていた動揺どうようが吹き飛んでいったのを感じ取った。

 その代わりに、フェルゼン達は何かを知っているかもしれないという小さな希望きぼうが、湧き上がってくる。


「お前達、やっぱり魔王軍と関係があるんじゃないだろうな!?」

 フェルゼンがそう言った直後、ずっとだまっていたロネリーの背中から、いきおいよくウンディーネが姿を現し、声高こわだかに告げた。

「ワラワ達をそのような者共ものどもと一緒にするでない!!」

「な、なんだ!? おまえ、さっきの水女みずおんなか」

「ワラワの名前はウンディーネであるぞ!! 水女みずおんななどと呼ぶな!!」

「ウンディーネ? 知らねぇなぁ!!」


 あからさまに敵意てきいを持ち始めたフェルゼン。

 このままだと、ウンディーネとフェルゼンが戦い始めるんじゃないかと俺が危惧きぐした時。

 間にって入ったペポが、フェルゼンに叫んだ。


「シルフィとノームも知らないチ!? ウンディーネも含めて、16年前にサラマンダーと一緒に戦った4大精霊だいせいれいチ!!」

「4大精霊だいせいれい? んなもん……」

「じゃあ、グスタフ様のことも知らないチ!?」

「グスタフ!?」


 ペポの口からげられた名前を聞き、フェルゼンは驚きの表情と共に硬直こうちょくする。

 よほど衝撃的しょうげきてきな名前だったんだろうか。そんな名前、俺は聞いたことないんだけどな。


 ペポはまだ、4大精霊だいせいれいについて俺達に話していない情報じょうほうを持っているようだ。あとでくわしい話を聞いておこう。

 そんなことを思う俺を置いてきぼりにするように、フェルゼンとペポは会話を続けた。


「その名を、オルニス族がなぜ知ってる」

「アタチはちっちゃい頃から、4大精霊だいせいれいの話を聞かされてたチ。グスタフ様は、16年前にサラマンダーを宿やどしてたウルハ族だっチ聞いてるチ」

「ちょっとまて、ペポ。ってことは、サラマンダーもシルフィみたいに、ウルハ族にしか継承けいしょうしない、とかあるのか?」

「そんなことは無いらしいチ。前回が偶然ぐうぜん、ウルハ族だっただけっチ」

「なるほど」

「……」


 ペポの言葉を聞いたフェルゼンは少しだまり込んだ後、警戒けいかいいた。

 そして、思い出すように話し始める。


「16年前か……グスタフは俺達の反対はんたいを押し切って村を出たんだ」

 そこで言葉を切ったフェルゼンは、大きなため息を吐いた後、きびすを返した。

 そうして、立ち尽くす俺達に手招てまねきをしながら、告げる。


「そう言うことなら仕方がねぇ。立ち話もなんだ、俺達の村で話そう」

 そう言うフェルゼンの背中を見た俺達は、自然と顔を見合わせる。

 本当に彼のことを信じても良いんだろうか。なにせ、ゲベト達のこともあった後だし。完全に信じるのは危ないかもしれない。


 多分、俺以外の皆も同じことを考えたんだろう。

 たがいにうなずき合った俺達は、各々(おのおの)緊張きんちょうしたような表情を浮かべたまま、一歩を踏み出した。


 危険はあるかもしれない。

 だけど、手がかりもあるかもしれない。そう考えると、向かわない手は無かった。

 次も同じような目に合わないように警戒けいかいをしながら、俺達は歩く。


 フェルゼンに先導せんどうされながら、ウルハ族の面々(めんめん)に連れられてみずうみほとりを歩いた俺達は、景色を楽しむ間もなく、たどり着いた。

 そこは頑強がんきょうとりでと言ってもいいだろう。

 見張みはり台や集落をかこ石壁いしかべと、かべの外側にあるほり。これだけでもここを落とすのが簡単じゃない事が分かる。


 なにせ、それだけの防衛施設ぼうえいしせつに加えて、守っているのが全員ウルハ族なんだ。

 普通の人間がめても、落とせるとは思えない。


 そうして、樹海じゅかいの中、みずうみのすぐそばにあるそのとりでに足を踏み入れた俺達は、無数の金属音きんぞくおんを耳にした。

 それらの音は、とりでの中心に空いた深い穴の奥から聞こえてくる。


 どうやら長年ながねんをかけてられたらしいその穴には、多くのウルハ族がもぐって、採掘さいくつをしている。

 もしかしてここの岩、全部食ったんだろうか?

 俺がそんなことを思った直後、とりでの中を先導せんどうしていたフェルゼンが告げたのだった。

「どうだこの岩肌いわはだうまそうだろ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ