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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第4章 野生児と新生児

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第37話 強烈な解放感

 ペポの要望ようぼう沿って、俺達はノームが生やした大樹たいじゅの上で一晩ひとばんを過ごした。

 と言っても、木の上で焚火たきびをするわけにもいかない。

 暗闇くらやみの中でどうしたものかと悩んでいた時、俺はロカ・アルボルで使ったペンダントのことを思い出す。


 そう言えば、あれってどうしたんだっけ?

 なんて考えた俺は、ズボンのポケットにペンダントが入っていることに気が付く。

 ってことは、この遺跡いせきの中でも松明たいまつなんていらなかったじゃん。

 などというツッコミを自分にしつつ、俺達はペンダントのあかりを頼りに、夜をしたのだった。


 朝が来てあたりが明るくなった頃、次の目的地を探すために、俺はペポに周囲の偵察ていさつをお願いした。

 それからしばらくして、彼女が戻ってくる。


 両翼りょうよくを羽ばたかせながら木の上に降り立った彼女は、開口かいこう一番に告げた。

「少し離れたところにみずうみがあるチ。他には、特に何もないチ」


 少し目を落としながらそう言った彼女の様子を見て、俺はゲベト達が居た村のことを思い出す。

 多分、あの村も見えたけど、えて言わなかったんだろう。

 まぁ、あんな目にあった場所の事なんて思い出したくも無いよな。


 そう言えば、剣とか盾をうばわれたまま出て来たけど、取りに戻ることは出来なさそうだ。

 せっかくラルフに貰ったナイフもあったけど、仕方がない。

 今はノームの作る岩のナイフで我慢がまんするしかなさそうだ。


 そんなことを考えた時、ロネリーが口を開いた。

「海の方には何も無かったんですか?」

がけしかないチ」

「そうなると、とりあえずはその湖を目指すか。流石さすがにそろそろ、水を確保《kあくほ》したいよな。木のみきから得られる水だけじゃ、色々と足りないし」

「おぉ~。ダレン、めずらしく気がくじゃん。ウチもそろそろ、水浴みずあびとかしたかったんだよねぇ~」

「私もシルフィさんに同感どうかんです。ロカ・アルボルを出てから、あみもできませんでしたので」

「ってことは、次に目指すのはそのみずうみってことだな。それじゃあ、道案内みちあんないはオイラに任せてくれ!!」

「すぐに出発するチ?」

「あぁ、みんなの準備が良いなら、すぐにでも出よう。俺も早く水浴みずあびしたいしな。ロネリー、背中せなかながしあいっこしようぜ。ペポも、背中せなかのあたりとか流すの大変だろ? 手伝ってやるよ」

「……え?」


 ずっとジメジメとした樹海じゅかいの中を歩いてきたんだ。やっぱりみんなもさっぱりしたいんだなぁ。

 なんて思った俺が1人でウキウキしていると、ロネリーが短い声を上げながらかたまった。


 心なしか、彼女のあお軽蔑けいべつの色に変わっている気がする。

 若干じゃっかん違和感いわかんを俺が覚えていた時、不意ふいにペポが問いかけてきた。


「……ダレン、まさか一緒に水浴みずあびするつもりチ?」

「ん? 当たり前だろ? 自分だけだと、ちゃんとよごれを落とせているか分からないし。ガスも言ってたぜ? 清潔感せいけつかんってのは大事なんだって」


 俺がそう言った途端とたん、姿を現したウンディーネの言葉を皮切りに、一斉いっせい口撃(こうげき)が始まった。

「よもやワラワとロネリーの素肌すはだを見ようと目論もくろむとは……」

「えっと、ダレンさん。それはさすがに……」

「あはは~。流石さすがダレンってところだねぇ。ウチは別にいいけど、やめた方が良いんじゃない?」

「やっぱりダレンは最低さいていチ」

「ダレン、良く分からないけど、お前が悪い。そうだ。オイラは何も悪くない」

「お、おい、なんだよ? どうしたんだ!? 俺、何か悪いことしたか?」


 ウンディーネの素肌すはだってなんだよ、とかいうツッコミがのどから出そうになるけど、全力でおさえ込む。

 言っても良い未来を想像そうぞうできない。


 と、俺が釈然しゃくぜんとしない気持ちをかかえ始めた時、仕方なしとばかりにロネリーが口を開いた。

「まさかここまでとは……良いですか、ダレンさん。普通ふつう、男女が一緒に水浴みずあびをすることは無いんです」

「え? どうして?」

「どうしてって……ずかしいからに決まってるからじゃないですか」

ずかしいって。何が?」

はだかを見せることがです」

「それなら、ペポは問題ないんだよな?」

「なんでそうなるチ!?」

「だって、普段ふだんからはだかみたいなもんだろ?」

ちがうチ! いや、違わないけど、違うチ!!」

「どっちだよ!?」


 俺をにらみながら全身を両翼りょうよくかくそうとするペポ。

 そんな彼女をあきれながら見ている俺に、ロネリーがくぎしてくる。


「とにかく!! 一緒に水浴みずあびはできません。それと、のぞき見ることもしないでくださいね?」

「わ、分かったよ。ってことは、俺はノームと2人でさびしく水浴びってことかぁ……」

「まぁ、良いじゃねぇかダレン。それより、はやく出発しようぜ」


 ひたいに汗を流しながらそう言ったノームは、逃げるように大樹たいじゅの中に姿を消すと、下に降りる道を作り始めた。

 そうして出来上がった道を通って、大樹たいじゅの上からりた俺達は、ペポが見つけたって言う湖に向かって歩き出す。


 朝早くから真っ直ぐ西に向かって進み、そろそろ日が天辺てっぺんに上り始めた頃。ようやく俺達は、くだんの湖に到着した。

 汗だくになってしまっていた俺の脳裏のうりに、さっきの一斉いっせい口撃こうげきのことはもうない。


 今すぐに全身のよごれを落としてすっきりしたい。

 そんな考えに取りつかれたように、俺達は湖の水で体を洗い始めた。

 と言っても、ノームが作った壁の中での話だ。

 おかげで解放感かいほうかんはあんまりない。まぁ、着替えとかをぬすまれたりする心配がないってのはあるけど。


 少しばかりさみしさを覚えながら、冷たい水に身体をひたした俺は、ふと、自分の胸元むなもとに視線を落とす。

 ダンドス遺跡いせきでリューゲに切り付けられたきずは、完全に消えて無くなっている。


 それをやってのけたのは、まぎれもなくノームだ。

 いまだに植物をした衣服に身をつつんでいるノーム。

 結局、彼のこの変化は何だったんだろう。

 そんな疑問を俺がいだいた瞬間。壁の奥から甲高かんだかい声が響いてきた。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「お前達!! 誰チ!?」

「2人とも!?」


 ロネリーとペポの声を聞いた俺は、急いで水から上がると、かべを飛びえて隣の仕切りの中に着地した。

 降り立った場所には少しだけ水があったらしく、踏みつけた水が飛沫しぶきを上げて飛び散る。

 そんな飛沫しぶきを無視して、辺りを見渡した俺は、数人の人影を目撃した。


 2つは、ロネリーとペポの物だ。

 2人は、はだかの状態で水の中に身体からだひたしている。


 そんな2人と離れた位置、俺が飛び越えたかべの反対側の壁の上から、数人の顔がのぞき込んできている。

 それらの顔は俺達に比べてかなり大きく、全員が真っ黒な頭髪とうはつを持っていた。


 壁にかけられている腕から見ても、かなり屈強くっきょうな体格を持っているらしい。

 そんな彼らは不思議そうに壁の中をのぞき込んできている。


「おい、お前たちは……」

 何者だ!!

 そうさけぼうとした俺は、直後、顔面に冷たくて強い衝撃しょうげきを受けた。

 何事かと思った瞬間、俺は、この衝撃しょうげきを知っている事に気が付く。

「ウンディーネ……?」


 はじき飛ばされた衝撃しょうげきで背中から倒れこんだ俺が、そう小さくつぶやくと、まるで返事をするように声が返ってきた。

「バカ者!! きちんと服を着て来んか!! ワラワに何というものを見せて……」

「ウンディーネ、落ち着いて!!」


 四肢ししを大きく広げてあおむけにころがった俺は、頭痛と共に、強烈きょうれつ解放感かいほうかんを覚える。

 そんな状態の俺を壁の上から見下ろしているノームと目が合った俺は、思わず苦笑にがわらいを浮かべたのだった。

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