表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第3章 野生児と樹海の神秘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/124

第35話 ワイルド

 得意とくいげな表情で俺に向かって宣言せんげんするノーム。

 そんな彼を見た俺は、多くの違和感いわかんを覚えた。


 まずはじめに、ノームの姿がいつもと違う。


 いつも頭にかぶっている赤い三角帽子さんかくぼうしは、緑色に色を変え、身にけている衣服いふく樹木じゅもくしたデザインになっている。

 おまけに、短かったはずの髪の毛が長くなっており、まるで触手のようにウネウネと動いていた。


 背丈せたけや声などに変わりが無い分、余計よけいに見た目の違和感いわかん半端はんぱない。


 次に気が付いたのは、俺の周りの状況じょうきょうだ。

 みょうな緑色の光に包まれているなと思った俺は、そこでようやく、自分が巨大きょだいな花の上に寝そべっていることを知る。


 さらに言えば、さっき負傷ふしょうしたはずの胸元むなもとの傷が無い。

 大量たいりょうに吐き出した血も、傷口きずぐちからこぼれていたはずの血も、においさえ感じなかった。


 そんな不可解ふかかい状況じょうきょうが、俺をつつんでいる緑色の光によって引き起こされているんじゃないかと思ったその時。

 巨大な花びらをかき分けるようにして、ロネリーが走り寄ってきた。


「ダレンさん!! 大丈夫ですか!?」

「ロネリー……これは一体」

 心配の表情で見つめて来る彼女にそう声を掛けた俺が、改めてノームに目を向けると、彼は何やら両手を動かしていた。


 何をしているんだろう。


 そんな疑問ぎもんいだいた俺は、直後、その答えを知ることになる。

 というのも、幾本いくほんもの植物の根にからまれた状態のペポが、俺のとなりに運び込まれてきたんだ。


 その様子を見た俺は、あわててペポをとなりに寝かせると、頭を整理する。

「新しいチカラって、ノーム、お前……」

「その通りだぜダレン。オイラ、植物をあやつれるようになったみたいだ」

「ダレンさん見てください! ペポさんの傷がふさがっていきます!」


 驚きの声を発するロネリーにつられて、うなっているペポに目を向けた俺は、確かに、彼女が翼に受けていたはずの傷がなおっていくさまを目にした。

 つまり、俺の傷が治ったのもノームの力のおかげってワケか。


 などと感心しかけた俺は、この広間の真ん中で戦闘せんとうを続けているリューゲの姿に気が付く。

 ゴブリンのベックスとケイブは、すでにノームのあやつる根によって拘束こうそくされているが、奴は違うらしい。


 こうしている今も、奴を拘束こうそくしようとする根がうごめいているが、それら全ての根を、奴は1本の剣でさばき切っていた。

「とんでもないな……」

 一言、そうつぶやいた俺は、隣に寝そべっていたペポが目をましたことに気が付いた。


「ペポ、大丈夫か!?」

「……ダレン? ロネリー? 何が起きたっチ?」

「ノームさんが、私達を助けてくれたんです」

「ノームが?」

「ほら見てごらんよぉ~。辺り一面根っこだらけでしょ? あれ全部、ノームがやったんだって」


 もぞもぞとペポの頭の羽毛うもうの中から姿を現したシルフィが、少し眠そうに告げる。

 そんな彼女の言葉に得意げになったのか、ノームが胸をりながら言った。


「どうだシルフィ、すごいだろ? もっとオイラのこと、めても良いんだぜ?」

「これだけ根っこだらけだと、虫が出そうだよねぇ~」

「もっと言うことあるだろ!?」

「シルフィは素直すなおじゃないですね」


 ノームとシルフィのやり取りを聞いて苦笑にがわらいをするロネリーが、そんなことをつぶやいた。

 さっきまでの緊迫感きんぱくかんはどこへ行ったのやら、ロネリーと同じく苦笑にがわらいを浮かべた俺は、大きく息を吐く。

 突然のノームの覚醒かくせいのおかげで、なんとか窮地きゅうちだっすることはできたけど……。


「まだ完全に終わったってわけじゃないんだよな」

 気を引きめる意味を込めて、そうつぶやいた俺は、立ち上がりながらリューゲに視線を向ける。


 相変わらず、せまる根を払いのけ続ける奴の動きに、少しだけ余裕よゆうが生まれ始めている気がした。

 多分、根の動きにれ始めたってことだろう。

 やっぱりあなどれない。今のうちに無力化むりょくかしておいた方が良さそうだ。

 そう判断した俺は、足元に落ちていた岩のナイフを拾い上げると、皆に声を掛ける。


「ロネリー、ペポ。援護えんごを頼めるか? ゴブリン達が動き出さないように見ててくれ。奴は俺とノームでたたく」

「分かったチ。シルフィ、やるチ」

「まぁ~、助けられっぱなしは嫌だしねぇ~」

「分かりました。でも、気を付けてください」


 口々に言う彼女達に、笑いかけて返事をした俺は、改めて頭の上にいるノームに声を掛けた。

「ノーム、行けるよな?」

「何を言ってんだ? それはオイラのセリフだぜ? なんなら、オイラだけでもやってやるっての」

「油断したら命とりだって、さっき教わったばかりでね」

「それもそうだな。それじゃ、本気を出すとしようぜ!!」


 そうさけぶと同時に、俺の頭から飛び降りたノーム。

 彼が地面の中にもぐり込むのを待たずして、俺は緑に輝く花の上からリューゲに向かってけ出した。


 ナイフを握る右手も、胸元も、もう痛むことは無い。


 異常いじょうなまでに軽く感じる身体に充足感じゅうそくかんを覚えながら、俺は張りめぐらされている根の合間あいまって走る。

 まるで、俺が通る道を作るように、ジワジワと動きを見せる根に沿ってけた俺は、リューゲとの距離が近くなったところで、勢いよく地面を踏みしめた。


 直後、リューゲを取り囲むように岩のやりと根が地面から伸び出ると、一斉いっせいに奴に襲い掛かる。

 これはさすがのリューゲでもさばき切れないだろう。

 そう判断した俺は、唯一ゆいいつの可能性を読み取り、即座そくざに行動した。


 地面からの攻撃をけるとすれば、上しかないよな?


 伸びている根を足場にして、奴の頭上目掛けてんだ俺は、次の瞬間、勢いよくび上がって来るリューゲの首筋に目掛けてナイフを振るう。

「取った!!」


 逆手さかてに持ったナイフで、今まさに斬撃ざんげきをお見舞いしようとした俺は、勢いに任せてそう叫ぶ。

 しかし、結論けつろんから言えば、俺の攻撃は決定打けっていだとはならなかった。


 首筋に放たれたはずのナイフの切っ先がとらえたのは、何やら固いもの。

 ギリギリという音を立てながら岩のナイフをけずったそれは、するどい回転をしながら上昇を続ける。

 そんなかたい何かに、ナイフごと弾かれそうになった俺は、ギリギリのところで後方こうほうに引き戻された。


 腹部ふくぶに細い何かが巻き付いている感触かんしょくがあるから、多分、ノームの根に引っ張り戻されたんだろう。

 咄嗟とっさにそんなことを考えた俺は、背中を引っ張られながら、眼前がんぜんの光景を目に焼き付ける。


 高速で回転しながら跳躍ちょうやくしたらしいリューゲは、周囲に張り巡らされていた根や岩の槍をことごとく切り裂きながら上昇を続ける。

 しばらくして、ようやく上昇と回転を止めた奴は、背中に翼らしきものを生やしていた。


 いつの間にそんなものを生やしたんだ?

 などという疑問を口にする間もないまま、リューゲがため息を吐く。


「面倒くさいですねぇ。よもやノームが『ワイルド』に覚醒かくせいするとは。これは一旦いったん退くのが得策とくさくのようです」

「おい、逃げるつもりか!?」

「逃げる? まぁ、そうですね。今回はあなた方に勝ちをゆずって差し上げましょう。ただし、それはあくまでも局所的きょくしょてき退避たいひ。そもそも、私は無理に勝つ必要はないのです」

「オイラ達から逃げられると思ってるのか!?」

「えぇ。思っていますとも」


 そう言ったリューゲは、不意にふところから小さなふえを取り出した。

 白くて古く見えるその笛を手にした奴は、ニヤッと笑みを浮かべながら上昇を始める。


「『ワイルド』に覚醒かくせいしたノームは非常に厄介やっかいです。だからこそ、私としても、それなりの準備をして相手をしなければなりません」

 そこで言葉を区切ったリューゲは、笛をくわえると、思い切り強く吹き鳴らした。


 刹那せつな、周囲の空気が笛の音によって振動する。

 また何かをたくらんでいるのかと身構えた俺は、視界の端でうごめく影に気が付く。


「ダレンさん!! ゴブリン達が!!」

 ロネリーの声を聞き、あわてて地面に組み伏せられているベックスとケイブに目をやった俺は、2人が地面の中に沈み込んでいくのを目の当たりにする。

 いや、地面の中じゃない。黒いやみの中にしずんで行っている。


 十中八九じっちゅうはっく、リューゲの力だろう。


 そんな異変いへんを見た俺は、同時にもう一つの異変いへんにも気が付いた。

 その異変いへんにはロネリーとペポも気が付いたらしく、2人はあわてたように緑に輝く花の元へと集まり始める。


「魔物が、地面から魔物がき出して来てるチ!!」

「地面だけじゃないです、ノームさんが張りめぐらせた根と岩からも……」

「ふはははははは!! あなた方はここで、思う存分ぞんぶん魔物と遊んでいればいい。そして、思い知るのです。我ら魔王軍を本気にさせてしまったという事実を!!」

「ノーム!! 奴は後だ、2人の所に集まろう!!」

「分かった!!」


 両手を広げ、高らかに笑い声をあげるリューゲは、くずれた壁から外へと飛び去ってゆく。

 そんな奴の後姿を見やった俺は、急ぎきびすを返してロネリー達の元にけた。


 途中、生まれ落ちたばかりのスケルトンやゴブリンを何体か倒しながら、緑にかがやく花の元に向かう。

 そうして、3人が無事に花の元に集まった時、両手を花にえたノームが大声で叫んだ。


全員掴つかまれ!! ちょっと揺れるぞ!!」

 彼がそう叫んだと同時に、俺達の足元が大きく隆起りゅうきし始める。


 メキメキと言う音と共に突き上げて来るその巨大な何かは、俺達を乗せたまま遺跡いせきの天井をぶちやぶった。

 互いに支え合いながら、しゃがみ込んでいた俺達は、しばらくしてれが収まったのを確かめると、ゆっくりと辺りを見渡す。


 そしてようやく、ノームが何をしたのか、理解したのだった。

随分ずいぶんとデカいのを生やしたな」

「ここ、かなり高いですよ? おかげで、魔物達は登って来れないみたいですけど」

「ロカ・アルボルに比べれば低いっチ」

「どうせ生やすなら、もっときれいなのにすればいいのに~」

「仕方ないだろ? オイラもあせってたんだからよ」


 口々に言う俺達に向けて、肩をすくめて見せるノームは、はぁ、とため息を吐いた。

 まぁ、ノームの言う通りだなと納得した俺は、巨大な樹木じゅもくの上から、周囲の景色を見渡す。


 ダンドス樹海じゅかいと海、そして、俺達がさっきまでいた崖際がけぎわのダンドス遺跡いせきの崩れた壁。

 それらの景色が遥か下に見えるせいか、俺はさっきまでの出来事がうそのように思えてしまった。


 すでに飛び去ったリューゲの姿も見えない。

 さわやかな風が吹き抜けていく中、落ち着いて息を吐いた俺は、同じく落ち着きを取り戻したらしいロネリー達に問いかける。


「で、これからどうしようか」

 そんな俺の問いかけに、ペポが短くこたえたのだった。

「少し休みたいチ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ