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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第3章 野生児と樹海の神秘

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第33話 新しいチカラ

 リューゲの言葉を聞いて真っ先に反応を示したのは、ロネリーだった。

「バカにしてるんですか!!」


 そうさけんだ彼女の背中から、ウンディーネが上半身を発生させ、間髪かんぱつ入れずに水弾すいだんを放つ。

 一瞬いっしゅんあわてたように両手を大きく広げ、「ひぃぃぃ」とさけんで見せたリューゲは、しかし、軽々(かるがる)とそれらの水弾すいだんけてみせた。


「おっかないですねぇ」

「このっ!!」

「ロネリー! 落ち着け!」

「アタチもいるでチ!!」


 俺の制止せいしも聞かず、追撃ついげきを始めるロネリー。

 そんな彼女に合わせるように、ペポまでもがシルフィと共にリューゲに目掛けて飛び掛かって行った。


「くそっ。ノーム、動けるな?」

「当たり前だ!!」

 元気よく答えるノームから岩のナイフを受け取った俺は、今まさにリューゲの頭上に到達とうたつしそうなペポ目掛けて走る。


 ロネリーもペポも、リューゲと直接やり合ったことが無い。

 だからこそ、俺達がロカ・アルボルで一度撃退(げきたい)した事実だけで、こいつのことを判断はんだんしている可能性がある。

 だけど、あれは単に運が良かっただけだ。


「ペポ!! 気を付けろ!!」

 言いながらナイフをかまえた俺は、リューゲの動きに意識いしきを集中した。


 飛び水弾すいだんの中、すきを突いて急降下きゅうこうかするペポのりが、リューゲの頭にせまる。

 オルニス族としての飛行能力ひこうのうりょくと、シルフィの風が合わさった彼女のりは、かなりの威力いりょくがありそうだ。


 しかし、落下する勢いのままにり出された彼女のりが、奴の脳天のうてんにぶち込まれることは無かった。

 例のごとく、突如とつじょとして姿を消したんだ。


 消える直前、一瞬だけリューゲが笑みを浮かべたのを見た俺は、咄嗟とっさに足を止めた。

 そして、身体が痛むのもいとわず、きびすを返してロネリーの方を振り返る。


「ノーム!!」

 叫びながら大きく足を踏み込むと同時に、地面から岩のやりが飛び出してきて、ロネリーの方へ伸びる。


 直後、やり進路上しんろじょう、ロネリーのすぐ目の前にリューゲが姿を現した。

「ごきげんよう!」

「っ!?」


 突然とつぜんのことで驚いている様子の彼女に、リューゲがつかみかかろうとする。

 そんな奴に目掛けて伸びる岩のやりの上を走った俺は、ナイフを振りかざしながら飛び掛かった。


「おい!! こっちだ!!」

 さけんで飛び掛かる俺に気が付いたらしいリューゲは、振り返りざまに、岩のやりを全身で受け止めてしまう。


 まさか受け止められると思っていなかった俺は、驚きつつもリューゲに切りかかった。

 首筋くびすじから胸元むなもとにかけて、力任せにナイフで切りつける。

 よろいたぐいを身にまとっていない奴にとって、この一撃は確実に痛手いたでになる。


 そう確信していた俺はしかし、切りつけた直後に大きな違和感いわかんを覚えた。

 岩のナイフが、甲高い金属音きんぞくおんと共にはじき返されたんだ。


 まるで、よろいにでも切りつけたように、いともたやすくはじかれるナイフと俺の右腕。


 困惑こんわくと共に、反動はんどうで後ろにった俺は、目の前にいたはずのリューゲの姿が、揺らいでうすれてゆくのを目の当たりにする。

 そして、代わりに姿を現したのは、全身によろいを身にまとったゴブリンの姿。


「さすがに、痛いゴブゥ」

 巨大な戦斧せんぷで岩のやりを受け止めているゴブリンのケイブは、そんな声を漏らすと、勢いを失った岩の槍をくだいてしまう。


 そうして、振りかぶった戦斧せんぷをロネリーに向かって打ち付けた。

「きゃあ!!」

 ウンディーネが咄嗟とっさに水のバリアを張ったけど、重量じゅうりょうのある戦斧せんぷを受け止めることはできなかったらしい。


 勢いよく後方に吹っ飛ばされたロネリーは、崩れた壁付近に横たわったまま、動かなくなる。

 そんな様子を見ながら、バランスをくずして岩のやりの上からころげ落ちた俺は、直後、ペポの悲鳴ひめいを耳にした。


 咄嗟とっさにペポの方を見た俺は、長いやりを手にした小柄なゴブリンによって、つばさを切りつけられているペポを目撃する。

「ロネリー!! ペポ!!」

 翼を切りつけられてバランスを失ったペポが、地面に落下して転がっている。


 ロネリーも、仰向あおむけに横たわったまま動く様子が無い。

 彼女たちの様子を目にした俺は、歯を食いしばりながら2人のゴブリンを見比べた。


「また会ったゴブ!! 今度は絶対に逃がさないゴブ!!」

「本当に上手く行ったゴブゥ。流石さすが、リューゲ様ゴブゥ」

「お前たち、ロカ・アルボルにいたゴブリンか!」


 立ち上がって改めてナイフを構えた俺は、前後にいるゴブリン達に警戒けいかいしながら告げた。

 状況が悪すぎる。

 はさちを仕掛けられている上に、ロネリーもペポも動けない。俺が迂闊うかつに動けば、2人が殺されてしまうかもしれない。


 そんな考えが頭の中をよぎった直後、さらに状況が悪化した。

「おやおや、ここまで上手くいくとは思っても居ませんでしたねぇ。流石さすがは私!! かの魔王様の右腕にふさわしいとは思いませんか!?」


 そう言って、通路のくらがりから姿を現したのは、言うまでもなくリューゲだ。

 今度こそ本物らしい彼は、満面まんめんの笑みを浮かべながら歩を進めると、俺のすぐ近くにまでやって来た。


 俺が迂闊うかつに動けないのを知っているらしい彼は、腰に剣をたずさえているにもかかわらず、構えることもしない。

 はたから見れば無防備むぼうびな彼は、まるで久しぶりの友に会ったとでも言うように、両手を大きく広げながら口を開いた。


「さてさて、先日ぶりですね、ダレン。元気そうでなによりです」

「お前こそ、吹っ飛ばされてた割に元気そうじゃないか」

「あの程度で私が命を落とすとでも? いやはや、甘く見られたものです」


 そこで一度言葉を区切ったリューゲは、小さなため息をいた後に続けた。

「ところで、この状況。分かっていますよね?」

 そう言ったリューゲは、両手でロネリーとペポをゆびさした。


 彼女たちに向けて、ケイブとベックスが武器を差し向けている。端的たんてきに言えば、人質ひとじちってことだろう。

 そんな2人の様子を見た俺は、怒りを覚えながらリューゲをにらみつけた。


「おやおや、怒ってしまったのですか? 良いですねぇ。もっと怒ってください。どうせ、ここで全員死ぬのですから。その前に、面白い話をして差し上げましょう」

 完全に勝ちほこっているリューゲは、得意げに話し始める。


「この遺跡いせきはかつての人間が、大地だいちの神とやらをあがめるために作った場所とのことです。どう思います? あなたの墓場はかばとして、格好の場所だとは思いませんか?」

大地だいちの神?」

「そう!! 愚鈍ぐどん軽薄けいはくな、物知らぬ者。それこそが神。だからこそ我らが魔王様が、り代わろうとしているのです!!」


 まるでえつひたるように天をあおいだリューゲはそんなことを叫んだ。

 そんな彼の様子に呆気あっけにとられた俺は、続くリューゲの言葉を止めることができない。


「だというのに!! 貴様きさまらは魔王様にあらがおうとする!! きわめておろかな行為こういだとは思わないのですか!? あぁ!! 腹立はらだたしい!! にくたらしい!! ですが、それも今日で最後というわけですな」

 ヒートアップする感情をおさえるように、荒い呼吸を落ち着かせようとするリューゲは、おもむろに腰の剣に手を触れた。


 その様子を見て、俺は無意識に、手にしていたナイフを強く握りしめ、右手の甲に痛みを覚える。

 おかげで少しばかり冷静さを取り戻した俺は、思考を巡らせる。

『このままじゃまずい。本当に全員殺されてしまう。なんとかしないと。バレないように地中にいるノームに合図あいずを送って、攻撃させるか? でも、リューゲを攻撃すれば、ロネリーとペポが危険にさらされてしまう。どうすれば良い?』


 一息で考え、何とか打開策だかいさくが無いか、周囲に目を走らせようとしたその時。

 俺の鼻先を、するどい何かが縦断じゅうだんする。直後、胸元に違和感いわかんを覚えた俺は、恐る恐る視線を落とした。


 肩から腰に掛けて、熱くて赤い傷ができている。


 その傷を見た直後、全身に痛みと熱を感じた俺は、思わずその場にうずくまってしまった。

 身体からだから力が抜け、それに合わせるように血液も抜け出してゆく。


 対称的たいしょうてきにひんやりと冷たい地面の感触が、ほおに伝わって来た。

 目の前にたたずんでいるリューゲは、血のしたたる剣を持っているようだ。


 のどからき出してくる血の味に顔をしかめながら、意識いしきうすれてゆくのを感じていた俺は、不意にロネリーの声を聞いた気がした。

 いや、気のせいかもな。

 だって、彼女は意識いしきうしなって倒れてたわけだし、ペポも動けそうになかった。おまけに俺もこのザマだ。


 こんなの、どうしろって言うんだよ。なぁ、ノーム。


 不思議ふしぎと落ち着きを感じながら、そんなことを考えた俺は、ふと、近くにノームが居ないことに気が付いた。

 いつも近くに居たはずの彼が居ない。

 それも、どんどん俺の元から遠ざかっていく気がする。


 深く深く、地の深くにまで潜ってゆくようなノームの後を追うように、俺の意識もしずんでゆく。

 音も光も閉ざされた世界の中。まるで全てが終わりだとでも言うように。


 しかし、そんな俺の思惑おもわくに反して、かすかな力が現れた。

 その力は、まるで細いはりで刺したように暗闇くらやみに小さな穴を空けると、あっという間に芽吹めぶいてゆく。


 そうして、次に俺が目をました時、聞きれた声で彼が声を掛けて来たのだった。

「ようダレン。オイラ、新しいチカラに目覚めちまったらしいぜ」

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