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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第3章 野生児と樹海の神秘

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第32話 果てしないほど遠く

 あかりを確保かくほした俺達は、遺跡いせきの奥に向かってしばらく歩き続けていた。

 入り口をふさいだとはいえ、ゲベト達が中に入ってこないとも限らない。

 それなら、別の出入り口があることを期待して、先に進もう。という俺の案が採用さいようされた結果だ。


 まぁ、最悪の場合、ノームに頼って壁や天井に穴を空け、そこから脱出することもできるだろう。

 取りえず、ノームがいる限り迷うことは無いわけで、先に進む不安はほとんど無いと言っても良かった。


 そして何より、遺跡いせきに足を踏み入れた俺達は、この遺跡いせき最奥さいおくに何があるのか好奇心こうきしんき立てられている。

 松明たいまつを持った俺が暗闇の中を先導し、ロネリーとペポが後を着いてくる。


 そうやって何度か階段かいだんを降りたあたりで、ロネリーがふとつぶやいた。

「ここ、随分ずいぶんと古い遺跡いせきみたいですけど、何の遺跡いせきなんでしょうか……?」


 壁に手をえながら告げた彼女は、おもむろに俺の方に視線を投げてくる。

 松明たいまつあかりに照らされてもなお、あおかがやいてみえる彼女のは、もはや輝きを放っているのではないだろうか。


 そんなことを考えながら、俺も壁や天井に目をやる。

「そうだなぁ。こんなに深いところまで作られてるってことは、全体を考えると、かなり大きな建造物けんぞうぶつだよな」


 歩きながら告げる俺に、まるで文句もんくでも言うように、ペポがつぶやいた。

「それにチてもデカいチ」


 大きな両翼を折りたたんだ彼女は、例のごとく翼の先端を地面に引きずりながら歩いている。

 そんな彼女の文句に賛同さんどうするようにうなずきながら、ロネリーが言葉を引きいだ。


「そうですね。外から見た感じでは、ここまで大きいとは思ってませんでした」

「だな。まぁ、こうやって地下に伸びてるから、外からじゃ分からなかったってのもあるんだろうけど……」


 俺とロネリーとペポの3人が横並びに歩いたとしても、せまく感じないほどの通路。

 それだけでも、この遺跡いせき規模きぼはかることができるかもしれない。


 少なくとも、コロニーにあったシェルターとは比べ物にならない程の大きさだ。

「誰がどうやって作ったチ?」

「それは……分からないですね」

「なぁノーム。この先もまだ、通路は続いてるんだよな?」


 確認のために、頭の上に乗っているノームに声を掛けると、いつもの軽い声が返ってきた。

「あぁ、続いてるぜ。それも、かなり長い。おまけに分かれ道も沢山あるみたいだ」

「そんなに複雑なんですね。だとしたら、少し不思議です」


 ノームの返事を聞いたロネリーが、あごに手を当てながら考え込み始めた。

「何か気になる点でもあるのか? ロネリー」

「はい」


 気になって聞かずにいられなかった俺に、彼女は淡々(たんたん)と説明を始める。

「ここって、かなり地下深くですよね? こんなところに洞窟どうくつを掘ったら、普通は呼吸ができなくなってもおかしくないんですよ」

「それは本当チ!? アタチ達、ここで死ぬチ!?」

「落ち着けペポ。現に、呼吸が苦しくなったりしてないだろ?」

「そうです。だからこそ、それが変だなって思ったんです。どうして、呼吸ができるんだろうって」


 ロネリーの疑問は、結構重要なものかもしれないと俺は思った。

 地下深くまで呼吸ができている理由があるのなら、それがこの遺跡の出入り口に関係している可能性もある。


 だとしたら、なんとかその理由とやらを突き止めたいもんだな。

 と、俺が考えをめぐらせていると、何か思いついたらしいノームが、なぜか得意げに言った。


「そういう話なら、シルフィが得意なんじゃないのか? オイラが道を間違えないのと同じように、空気のことはシルフィの得意分野だろ?」

「そうチ!! シルフィ!! 起きるチ!!」


 彼の提案で思い出したらしいペポが、頭の上で寝息ねいきを立てているシルフィを叩き起こす。

 叩き起こされたシルフィは、目元をゴシゴシとこすりながら告げた。

「ん~? な~にぃ? どうかした?」

「シルフィ、アタチ達、呼吸ができてるチ!!」

「……だから?」

「それがなぜかっチ聞いてるチ!!」

「はぁ? あぁ~。そう言うことねぇ。ふぅん……」


 なぜ今の説明で伝わったのか謎だけど、シルフィはちゃんとペポの言いたかったことを理解したらしい。

 少し口をつぐんだ彼女は、目を閉じて何かに集中し始めた。


 そんな彼女を見た俺は、なんとなく足を止めてシルフィに注目する。

 歩きながらじゃ、空気の流れとかそういうものを探すのに邪魔かと思ったんだ。

 そんな配慮はいりょいたのか、数秒後に目を見開いたシルフィは、前方を指さしながら告げた。


「ちょっと遠いけど、風が入り込んできてる気配があるね~」

「風!? ってことは!!」

 両手を胸の前で合わせながら、そう叫んだロネリー。

 彼女と視線を交わした俺は、思わず笑みをこぼしながら告げた。

「やっぱり、外に繋がってる場所があるってことだな!!」


 続いてペポとも視線を交わした俺は、3人で互いにうなずき合うと、シルフィに視線を集めた。

「シルフィさん。その場所まで案内してくれませんか?」

「ん~。ウチ、まだ眠たいんだけどなぁ」


 ロネリーのお願いを聞いて、面倒くさそうに肩をすくめるシルフィ。

 そんな彼女に真っ先に文句を告げたのは、ノームだった。

「おいおいシルフィ。もしかして、オイラに助けられたことを忘れたんじゃないだろうなぁ?」

「はぁ……仕方ないなぁ」


 ヤレヤレとばかりに首を振って見せた彼女は、ゆっくりとペポの頭の上から浮かび上がると、俺達を先導するように飛び始めた。

「それじゃ~、案内するから。みんな着いて来てねぇ~」

 やる気なさげにそう言うシルフィに苦笑くしょうしつつ、俺達はを進める。


 そうして、長い距離を歩いた俺達は、ようやく目的の場所に辿り着いた。

 道中は単調たんちょうで暗い通路がひたすら続いていただけに、俺達はその光景こうけいを目の当たりにして、言葉を失ってしまう。


 通路を抜けた先にあるだだっ広い空間の先に、突き抜けるような青い空が広がっていたんだ。

 壁の半分以上がくずれてしまっているその広い空間には、椅子いすのような物が並べられている。

 更に、まだくずれていない壁には多彩たさいな色の窓がはめ込まれていて、非常に幻想的げんそうてきに見えた。


「わぁ……綺麗きれいですね」

 太陽に照らされたそれらの窓が、キラキラと輝いているのを見て、ロネリーがそう言う。


 そんな彼女に釣られるように、広間の中に足を踏み入れた俺は、不思議な音を耳にする。

 ザザーンという、定期的に聞こえるさわやかな音。


 音の発生源はっせいげんを見るために、窓の方へ近寄った俺は、いまだかつて見たことのない光景を目の当たりにした。

「な……なんだ、これ」


 窓のすぐ真下にそびえている断崖絶壁だんがいぜっぺき

 その絶壁の下に、大量の水が溜まっている。


 さっきから聞こえている音は、その大量の水が絶壁ぜっぺきに打ち付けられてくだけている音らしい。

 おまけに、この大量の水は果てしないほど遠くまで溜まっているようで、俺は絶句ぜっくしたまま動けなくなってしまった。


「海だチ。もしかして、ダレンは海を見た事ないチ?」

 俺の隣に立って窓の外を見たペポが、あきれたように問いかけてくる。

「……海?」


 彼女の問いかけに、短く問い返すしかできなかった俺は、続くロネリーの言葉に驚いてしまった。

「そっか、ダレンさんは知らないんですね」

「ロネリーは知ってたのか!?」

「はい。一応、聞いたことはありました。実際に目にしたのはこれが初めてですけど」

「アタチは何回も見たことあったチ」

「魔王が現れる前は、海の上を船で移動していたらしいですよ?」

「海の上を、移動? 船ってなんだ? それも、ペポは見たことあるのか?」

流石さすがに船は見た事ないチ」


 世界には俺の知らない物が、まだまだ沢山たくさんあるんだなぁ。

 そんな風に俺が感嘆かんたんしていたその時。聞き覚えのある声が、背後から聞こえてきた。


「おやおや、ひどくなつかしい話をしているではありませんか」

「っ!?」


 不意に聞こえて来たその声に反応した俺は、咄嗟とっさきびすを返して、通路の方に身構える。

 俺の反応を見たペポとロネリーも、同じように身構えた。


 そんな俺達に語り掛けながら、声の主であるリューゲが、通路の暗闇の中からゆっくりと踏み出してくる。

 例のごとく、珍妙ちんみょうな角の生えたかぶとかぶり、黒くて細長い尻尾しっぽを揺らす彼は、薄っすらと笑みを浮かべながら続ける。


「船。そうですねぇ。かつての人間はそのような物を使って、水の上を渡り歩いていました。ですが、それはもうあなた方に必要のない遺物いぶつです」

「リューゲ!! どうしてここに!?」

「どうして? とうかがいたいのは私の方ですよ? なぜ? あなた方がこんなところに居るのでしょうか?」


 互いに問いをぶつけ合う俺とリューゲ。

 そんな俺達を見かねたのか、ペポが声に怒りをにじませながら告げる。


「お前が、ロカ・アルボルを落とそうとチてた悪魔チ!?」

「おやおや、これはまた、かわいらしいお嬢様じょうさまを連れているのですね。それも2人も」


 彼女の問いかけすら、軽く流して見せたリューゲは、なおも首を横に振りながら、俺に向かって告げる。

「もしかして、あなたは女性をはべらせるのがお好きなのでしょうか? それとも……」


 そこで言葉を区切ったリューゲは、今までに無いほどの不気味ぶきみな笑みを浮かべたかと思うと、静かに言い放ったのだった。

「それらは私へのささげげ物なのでしょうか?」

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