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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第3章 野生児と樹海の神秘

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第31話 抗い続けて

「ペポさん!! 一旦いったんここから離れましょう!!」

「よっしゃ、それじゃあオイラが先導せんどうするぜ!!」

「シルフィ、ロネリー達を援護えんごするっチ!!」

「やってるよぉ~」

「逃がすな! 全員で囲むんだ!!」


 ペポの羽毛うもうに顔をうずめたまま、俺は飛び交う声を耳にしていた。

 視界の端で少しだけ見える光景を確認する限り、ペポ達は今、樹海じゅかいの中を走っているらしい。


 鬱蒼うっそうしげった木々の合間あいまを抜け、集落から遠ざかる方向に進んでいる。

 シルフィやウンディーネの援護えんごのおかげか、追手おってからの追撃ついげきは少しずつ弱まっているように感じられる。


 これで少しは余裕よゆうができたか。

 そんなことを俺が考えた時、樹海じゅかいの中にゲベトの声がとどろいた。


「そっちに行かせるな!! なんとしてでも止めろ!!」

 心なしか、ゲベトの声がひびき渡った直後、樹海中じゅかいじゅう緊張きんちょうが走った気がする。

 まぁ多分、俺の勘違かんちがいなんだろうけど。


 それにしても、ノームはペポ達をどこに先導せんどうしてるんだ?

 そんな疑問をいだいた俺は、何とか首を回して前方に目を向けようとするが、身体からだしびれて動けない。

 かろうじて目にすることができたのは、ペポの足元にき詰められている古い石の道。


 そして、道の両脇りょうわきころがっている不可思議な文様もんようの入った石柱せきちゅうくらいだ。

 いつの間に樹海じゅかいの中から出たのかと疑問に思うが、良く見れば石柱せきちゅうの奥には相変わらず深い森が続いている。


 と言うことは、この遺跡いせきのような痕跡こんせきは、樹海じゅかいの中にあるってことだろうか。

 少し重たい頭でそんなことを考えた時、ペポが声を上げた。


「ちょっチ!! まさかあそこに行くつもりっチ!?」

「こんな樹海じゅかいの中で、奴らから身を隠せるのはあそこくらいしかないだろ!! 安心してオイラの後に着いて来い!! 今日のオイラは、絶好調ぜっこうちょうだぜ!!」

「本当に大丈夫チ?」

「ペポさん! 今はノームさんを信じましょう!!」

「みんな~! 頭上ずじょうに気を付けてねぇ~」


 走りながら会話するペポ達に向けて、シルフィが唐突とうとつ警告けいこくはっする。

 そんな警告けいこくを聞いたペポは、改めて俺を強く抱きしめると、大きく身をひるがえしながらって来た岩を避けて見せた。


「や……やわらけぇ」

「へ、変なこと言うなっチ!!」

 思わずつぶやいた声が聞こえてしまったらしい。

 すかさず文句をはさんだペポは、しかし、次の瞬間には真剣な表情で走り続ける。


「もう少しだ!! まっすぐ進んだ先に入り口っぽい場所があるから、全員飛び込んでくれ!!」

「行き止まりだったらどうするんですか!?」

「そこはオイラに任せてくれ!! 何とかしてみせる!!」


 不安そうなロネリーに自信満々に返答したノーム。

 やっぱり大地の大精霊の言葉にはそれなりの説得力せっとくりょくがあるのか、ペポもロネリーも意見を言うことは無かった。


 そうして、もうなんどか降り注いできた岩を退けたペポ達は、勢いそのままに遺跡いせきの入り口らしき場所に飛び込む。

 遺跡いせきの中だけあって、辺りは真っ暗だ。

 そんな暗闇の中、長い廊下ろうかと深そうな階段かいだんが、薄っすらと見て取れる。


 息を切らしたままのペポとロネリーが、遺跡いせきの中に入り込んだタイミングを見計らって、ノームは急ぐように入り口の方に向かった。

 そして、せまり来るゲベト達に向けて小さな手を振りながら告げた。


「悪いが、この遺跡いせきせますぎてお前たちの入る場所が無いんだ。引き返してくれよ」

 そう言うノームの足元から、岩の柱がボコボコと姿を現す。


 それらの柱が遺跡いせきの入り口をふさいでしまったのは言うまでもない。

 外から聞こえるゲベト達の叫び声を耳にしながら、しばらく沈黙して息を整えるペポ達。


 完全に真っ暗闇の中でいくつかのため息が聞こえたのち、初めに口を開いたのはロネリーだった。

「何とかなりましたね。とりあえず、ウンディーネはダレンさんの毒を浄化してくれる?」

「分かっておる」

「ここに寝かせるチ」

「あたっ!! ちょっとペポ、壁に頭をぶつけないでくれよ」

「文句言うなチ!! ここまで運んだのはアタチだチ!!」

「ほれ、文句もんくを言うておる暇があるなら、一気に飲め」


 そっと床に降ろされた俺は、眼前に何かが近づいて来ることに気が付いた。

 声の位置関係から、それがウンディーネによる何かだと察した俺は、とりあえず口を大きく開ける。


 直後、大量たいりょう液体えきたいが俺の口の中に入り込んできた。

 むせ返りそうになりながら、それらを飲み干した俺は、苦しさのあまり上半身をね上げる。


「かはっ!! がはっ!!」

「ダレンさん!? 大丈夫ですか?」

「……だ、大丈夫だ。ちょっと、窒息ちっそくしそうになったけど」

「おいおい、なさけないなダレン。でも、もう毒は抜けたみたいだな」

「ん。あぁ、そう言えば確かに。これはすごいき目だな。ありがとう、ウンディーネ。また助けられたよ」

「それくらい、どうってことない」

「いやいや~。毒を消せるって、結構(すご)いことじゃんねぇ」

「アタチもそう思うチ」

「か、からかうでない!!」

「ウンディーネったら、別に皆からかったりしてないのに」

「あれ? もしかして今、ウンディーネの顔が赤く染まってたりする? おい、ノーム!! すぐに松明たいまつを見つけて来てくれ!!」

「ダレン、それはまぎれもなくからかってるチ」

「え? でも、ペポも見て見たくないか? ウンディーネが恥ずかしがってるところ」

「ま、まぁ、見て見たい気も、するチ」

「ダレン、ワラワは今すぐにここを水で満たして、そなたを窒息ちっそくさせても構わんのだぞ?」

「ごめん!! 冗談だから!! でも、どっちにしても松明たいまつは必要だろ? こんな真っ暗闇の中じゃ、進もうにも進めないし」

「それもそうですね。ノームさん、お願いできますか?」

「分かったぜ……と言いたいが、一つ聞いておきたいことがある。皆、オイラの事便利(べんり)な奴って思ってねぇだろうな?」

「そんなこと思ってるわけないだろ?」

「そうチ。ノームとダレンが居なかったら……アタチは」


 唐突とうとつなノームの問いかけに、慌てて答えた俺。

 正直に言えば、若干便利だなぁなんて思っていただけに、冷汗ひやあせが止まらない。


 そんな俺とは対照的たいしょうてきに、途中で言葉を区切ったペポは、そのまま沈黙ちんもくした。

 彼女に釣られるように俺達は全員沈黙(ちんもく)する。


 さっき、ゲベト達がペポに対してしていた仕打ちは、想像以上に残酷ざんこくなものだった。

 助け出すのが間に合って、本当に良かったと思う。

 こうして、少しふざけながら言葉を交わせているのは、わりと奇跡に近いのかもしれない。


 そう思うと、俺はペポになんて声を掛ければ良いのか分からなくなった。

 きっと彼女も、さっきのことを思い出して、色々な感情を思い返してしまったんだろう。


 そう思った俺は、直後、やわらかな羽毛うもう右肩みぎかたに触れたことに気が付く。

 その羽毛は間違いなくペポの翼で、腕に沿うように動いたかと思うと、俺の右手を取った。

 途端に、俺の右手の甲に激痛が走る。


「っ!」

「あっ! ごめんチ!!」


 小さく声を漏らした俺に気が付いたらしいペポは、さらに優しく俺の手を羽毛うもうで包み込むと、かすれるような声で話し始める。

「怖かったチ」

「……だろうな」

「アタチ、もう死ぬんだって思ってたチ」

「そんなこと、俺達がゆるすわけないだろ?」

「でも、ダレンは薬で眠らされてたチ」

「ま、まぁ、そうなんだけど」

「アタチ、あんなにうらまれてること、知らなかったチ」

うらまれてる? どういうことですか?」

「ゲベトが言ってたチ。アタチ達オルニス族が、何度も魔王軍に敵対てきたいしてるっチ。そのせいで、平等が訪れないっチ」

恐怖きょうふと苦しみに満ちあふれた地獄ジゴク……だっけか?」

「そうチ。だから、アタチ達は全員死ぬべきなんだっチ。ゲベトが言ってたチ」

「で? ペポはゲベトの考えに賛同さんどうするのか?」

「チ?」

「ペポの先祖たちは、魔王軍の襲撃しゅうげきあらがって、あらがって、その結果、ロカ・アルボルで生きてるんだろ? そんな先祖たちのやってきたことは、邪魔じゃまだったって。思うのか?」

「そんなの、思う訳ないチ!!」

「なら、それで良いんじゃないか? オルニス族も、ゲベト達も。互いにあらがい続けてるんだろ」


 そう言った俺は、右手を包み込んでいるペポの翼を、にぎり返した。

 ふさふさとした感触と、手の甲の痛みが、同時に伝わってくる。

 それらを堪能たんのうした俺は、彼女に見えていないことを知りながらも、笑みを浮かべながら告げた。


「俺の師匠ししょう、ガスも言ってたぜ? 道を見失った奴がするべきことは、自分が帰りたいと願う場所を見返すことだってな。そうすれば、自分がどうやって足腰あしこしを支えて来たのか、良く分かるって」

「帰りたいと願う場所……チ?」

「そうだな。ペポにとっては、それはロカ・アルボルだろ? そして同時に、ロカ・アルボルを守ってる仲間達のことも、帰りたいと願う場所なんだと俺は思うけどな」

「ダレン……」


 少しだけ元気の戻ったらしいペポの声が、周囲に響く。

 暗闇の中で、手の感触しかない俺は、しばらく黙ったままペポの翼をにぎっていた。


 すると突然、視界の端に煌々(こうこう)とした灯りが飛び込んでくる。

 何事かと目を向けると、地面に突き刺さった状態の松明たいまつが、ノームの力でゆっくりと近付いて来ているところだった。


「悪い悪い、ダレン達の話が長かったから、途中で松明たいまつ探しに出てたんだ。それで……ん?」

 あかりを俺達の方に向けながら告げるノームが、なぜか途中で言葉を区切る。

 その直後、ノームじゃなくロネリーが、口を開いたのだった。


「あれ? もしかしてダレンさんとペポさん。暗いのをいいことに2人だけでイチャイチャしてたんですかぁ?」

「え?」


 言われて初めて、俺は正面に視線をやる。

 そこには、しっかりと握り合う俺とペポの手が、松明の光に照らし出されていた。


「ち、ちがうチっ!!」

 勢いよく俺の手を離すペポが、恥ずかしそうに視線をらす。


 心なしか、顔を赤らめているように見えるのは、きっと松明たいまつあかりのせいだろう。

 そんなことを考えた俺は、「先に進もうか」と提案ていあんすることで、全力で話をらしたのだった。

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