表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第3章 野生児と樹海の神秘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/124

第30話 よく切れる切り札

 ドンッというにぶ衝撃しょうげきと共に、俺の足元から岩のやりが飛び出す。

 飛び出した岩のやりは、地面と平行に伸び始めると、まっすぐにゲベトの元へと突き進んだ。


 そんなやりの上を、軌跡きせきえがくように飛んで行くものがある。

 俺の背後から発射はっしゃされたらしいそれらの水弾すいだんは、岩の槍よりも速くくうを切り、ゲベトに命中する。


 彼の全身を包むほどの大きさの水弾すいだんに、す術も無かったらしいゲベトは、手に持っていた松明たいまつごと、奥の方へとはじき飛ばされた。

 ペポに近づけられていた松明たいまつが消えたのは、言うまでもない。


 それらの光景を目にしながら、伸び続けている岩のやりの上に飛び乗った俺は、振り返ることなくロネリー達に告げた。

「周りの奴らは任せた!!」

「分かったわ!!」

「ワラワ達に任せておけ!!」


 即座そくざに帰って来る返事が心強い。

 そんなことを考えながら、すぐに意識をペポに戻した俺は、伸び続ける岩のやりの上を疾走しっそうする。

 槍のおかげで、住民達の邪魔が入ることもなく走れた俺は、すぐにペポの元に到達した。


「ダレン……」

「ペポ!! ちょっと待ってろ、すぐに解放してやるからな!!」


 言いながら背中に手を伸ばした俺は、剣を没収されていることを思い出した。

 小さく舌打ちをして、周囲に何か使えるものが無いかと見渡すが、これと言って使えそうな刃物などは無い。


 仕方なく、足元を二回タップした俺は、即座に飛び出て来たノームに声を掛ける。

「ノーム、ペポの拘束こうそくを解きたい。何か作れるか?」

「そうだな。ラルフからもらったナイフの偽物にせものなら、作れそうだぜ」

「それでいい!! 急いでつくってくれ!!」

「分かった、少しだけ時間をかせいでてくれよな!!」

「時間(かせ)ぎね、はいよ」


 再び地面にもぐり込んでゆくノームを見送った俺は、祭壇さいだんの周囲に目をやる。

 突然の奇襲きしゅう動揺どうようしていたらしい住民達が、流石さすがに状況を把握はあくし始めたのか、武器を手に集まり始めている。


 少し離れた位置では、ロネリーの背中から姿を現しているウンディーネが、大量の水を駆使くしして戦っているけど、全員を止めることはできていないみたいだ。

 棒やくわかまなどと言った作業用の道具を手にしている住民達が、ジワジワと包囲ほういせばめて来る。


 そんな彼らに対抗するため、落ちていた松明たいまつを拾い上げた俺は、のそのそと起き上がったゲベトに向かって声を掛けた。

「おい、俺達に薬を飲ませたな? それに、ペポにこんなマネして、何が目的だ!?」


 手にしていた松明たいまつつえのようにして、何とか立ち上がったゲベトは、キッと俺をにらみつけると、ゆっくりと話し始める。

「目的? そんなもん、いちいち説明せんでも分かるじゃろ」

「教えたくないって言うならいいさ。アンタがそこまで怒ったのは、ペポに話し方を馬鹿にされたからって思っとくよ」

「バカにしとるのはお前さんらだろうがぁ!!」

「はぁ?」


 ワナワナとふるえながら怒りをぶちまけるゲベト。

 そんな彼の反応に困惑こんわくした俺が、小さく声を漏らした時、いつの間にか俺達のそばにやってきていたロネリーが声を掛けてきた。


「ダレンさん。彼らはきっと、おにの子と呼ばれる人々です」

「ロネリー? 鬼の子ってなんだ?」

「……はい。簡単に言うと、バディを持たずに生まれて来た人々が、そう呼ばれてます」

「それはさっきも話してたよな? それがどうしたんだ?」

「ダレンさん。この世界において、バディを持って生まれてくるのは、人だけなんです。つまり、バディを持っていないということは、けものとか、魔物まものだとみなされるんです」

「え……?」


 想像もしていなかったロネリーの説明を聞いた俺は、一瞬思考(しこう)が停止した。

 俺をにらんでいるゲベトの姿は、どう見ても人間そのものだ。


 でも確かに、バディが居ない人間と言われると、そこに大きく欠落けつらくした物があるようにも感じられる。

 そんなことを考える俺に構うことなく、ロネリーは説明を続けた。


「本来、おにの子は生まれてすぐに山などに捨てられることが多くて……正直、彼らみたいに生きながらえている人々がいるとは、思ってもみませんでした」

「そんなことが……ってことは、目的は復讐?」

「そのような下らんこと、オラ達が考えていると思ったか?」


 俺のいたった結論に不満ふまんがあったのか、ゲベトが首を横に振りながら告げる。

 そんな彼に対して身構えた俺に、ゲベトは言葉を投げつけてくる。


「こん世界ば平等びょうどうじゃねぇ。そんなこた、オラ達も知ってんだ。山ん中で暮らす限り、オラ達はそこいらの獣に比べて、楽に生きれるからのぉ」

 言いながら右手を上にあげたゲベト。

 そんな彼の腕に合わせるように、住民達の数人が手にしていた手製てせい弓矢ゆみやを構える。


 咄嗟とっさにペポの前に移動した俺は、改めて松明たいまつを構え直した。

「だけんど、オラたちは知ったんだ。あの方々こそが、この世界に平等ばもたらしてくれる。恐怖と苦しみに満ちあふれた地獄ジゴクを作る魔王。オラたちは、あの方々に協力するために、生きながらえた!!」

おろかな者共ものどもじゃ」


 まるで、怒りを解き放とうとするように、大声で叫んだゲベト。

 彼が上げていた右手を勢いよく振り下ろすと同時に、ウンディーネが短く叫び、水のまくを展開した。


 直後、ゲベトの合図を目にした住民達が、一斉いっせいに矢を放つ。

 それらの矢は、ウンディーネの両腕から展開された水のまくによって、ほとんどがからめとられる。


 ペポに向けて放たれたそれらの矢が、ことごとく落ちたことに一瞬安堵(あんど)しかけた俺は、しかし、嫌な予感を察知さっちした。

 なぜなら、視界の上端じょうたんを細い影が飛び越えていったのを目にしたからだ。


 咄嗟とっさきびすを返した俺は、ペポに向かって駆ける。

 そうして、勢いよく彼女の頭上に飛び上がり、ガムシャラに松明たいまつを振り回した直後。


 俺は、右手の甲に激痛げきつうを感じた。


 その痛みに半ば安堵あんどしながら地面に落下した俺は、ゴロゴロと転がった後にゲベトの方に目を向ける。

「くっ」

「あぶねぇ。ギリギリ防げたみたいだ……な……」


 右手の甲に突き刺さっている矢を抜こうとした俺は、しかし、全身にしびれが回り始めていることに気が付く。

 その瞬間、ゲベトが笑みを浮かべた。


「毒か……!!」

「ダレンさん!? ウンディーネ!!」

「分かっておる!!」

「させるな!! もう一度矢を放て!!」

「邪魔をするでない!!」


 毒を浄化じょうかしようとするウンディーネとロネリー。

 そんな彼女たちに矢を浴びせようとするゲベト達。


 はりつけにされたまま涙を流しているペポ。

 目まぐるしく変わる状況の中で、打開する方法を考え始めたその時。


 まんして地面から飛び出して来たノームが、高らかに告げた。

「待たせたなみんな!! もう安心しろ!! 何しろこのオイラ、大地の大精霊様が、切りふだを持ってきたんだからな!!」


 そう言ったノームは、岩でできた小さなナイフを宙に放り投げた。

 高く放り投げられたそのナイフを見て、俺は大きなため息を吐きそうになる。

 身体からだが動かない状態でナイフを渡されても、何もできない。これは万事休すか。


 半ばあきらめかけたその時。高く放り投げられたナイフが突然、ひらひらとおどり始めた。

「おっとダレン。オイラが言った切り札ってのは、小さな岩のナイフじゃないぜ?」

「そうそう~。もっと切れるナイフのことだよぉ~」


 そう言って、ノームの後に続くように地面から飛び出して来たシルフィーが、空高そらたかく舞い上がってゆく。

 まるでおもちゃでも扱うように、ナイフを風に乗せて遊んだシルフィは、そのナイフでペポの拘束を切りいたかと思うと、ゲベト達に目を向けた。


「なんたって今、ウチは完全にキレちゃってるんだからねぇ~」

「風の大精霊を地面の中に埋めちまうなんて、とんでもないことをするもんだぜ。まぁ、オイラに掛かれば、すぐに見つけ出せるってもんだけどな!!」

「ノームさん!! シルフィさん!!」


 安堵あんどと喜びにあふれたロネリーの声が、周囲に響く。

 そんな様子を突っ伏して見ていた俺の元に、拘束をかれたペポが涙をこぼしながら近寄ってくる。


「……ダレン」

「よぉ、ペポ……元気そうで何よりだ。ところで、身体がしびれて動かないから、背中に乗せてもらっても良いか?」

「任せろチ!!」


 そう言ったペポは、両翼で俺をつかみ上げると、胸元にギュッと抱き寄せた。

 あれ? これ、後でまた文句言われるやつじゃないよな?

 ペポのフワフワとした胸元に顔をうずめながらそう思った俺は、しかし、彼女の羽毛うもうの中でじっとしているしかないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ