表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第3章 野生児と樹海の神秘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/124

第29話 赤く輝く炎の色

 脳天のうてんをつんざくようなするど刺激しげきが、俺の顔をおおい尽くす。

 その冷たい刺激しげきで一気に覚醒かくせいした俺は、いきおいよく上半身を起こした直後、ひたいに痛みを覚えた。


 思わずひたいを押さえた俺は、直後、自分の顔がずぶれになっていることに気が付く。

 多分、水でもぶっかけられたのか、などと考えをめぐらせた俺の耳に、聞きれた声が飛び込んでくる。


「いたっ!!」

 ゴンッという鈍い音と共に聞こえたロネリーの声。


 咄嗟とっさに声のする方を見た俺は、かたわらに座り込んでひたいを押さえている彼女の様子に気が付いた。

「ロネリー……?」

「ダレンさん、無事でよかったです。どうやら、即効性そっこうせい睡眠薬すいみんやくでも飲まされたみたいですね」


 ひたいさすりながらそう言うロネリーのかたには、かたすくめているノームが乗っている。

 そんな2人の背後から、俺をのぞき込むような体勢たいせいのウンディーネも居た。


「まったくだぜ。オイラ、このまま死んじまうのかと思ったよ」

「ノーム、それはどういう意味だ?」

「ワラワが居なければ、全員殺されておったかもしれぬな」


 あきれたように告げるウンディーネの言葉を聞いて、急激きゅうげき冷静れいせいさを取り戻した俺は、改めて周囲の様子を見渡す。

 ここは、どこかの小部屋だろうか。薄暗うすぐらい空気の中、ほこりっぽいにおいだけがただよっている。


 4大精霊(だいせいれい)拘束こうそくもせずに閉じ込めるなんて、なんて意味のないことをするんだろう。

 なんてことを考えた俺は、1つ息を吐き出した後、部屋の中にペポとシルフィが居ないことに気が付いた。


「ペポとシルフィは? どこにいる?」

「連れていかれちゃいました。逆らうと、ペポの命が無いっておどされてしまいまして……」

「くそっ。油断ゆだんしすぎたな」

「だな。オイラがもっと、ここの奴らのことを調べてればよかったぜ」

「で、あのじいさんたちのねらいはなんだ?」

「分かりません。ただ、私達にはあまり興味きょうみがなさそうでした。その代わり、ペポに対する扱いが……その」


 俺の問いかけにこたえながら、少しずつ表情を暗くするロネリー。

 ペポに対して、それだけの扱いをしていたってことだろうか。

 どんな事情があるにしても、まずはペポを助け出す必要がありそうだ。


「ノーム。とりあえず、敵の居場所いばしょとペポの居場所いばしょを探せるか?」

「分かったぜ。ちょっと見て来る!!」


 意気揚々(いきようよう)とそう言ったノームは、木製の床の隙間すきまを通って、地面の中へともぐり込んでいった。


 彼を見送った後、俺は背負せおっていた剣と盾、そしてラルフにもらったナイフが無いことに気が付く。

 流石に武器は没収ぼっしゅうされたらしい。


 となると、素手で戦う必要がありそうだ。

 自分の両手を見下ろしてそう考えた俺は、ふと、意識を失う直前のことを思い出して、ロネリーに声を掛けた。


「そういえばロネリー。どうしてロネリーはお茶を飲んでも無事だったんだ?」

「それは……」

「ワラワに毒物どくぶつたぐいかぬ」

「……ということです。彼女の力で、毒物どくぶつとか睡眠薬すいみんやくとか、そう言った物の効果は浄化じょうかされるんです。ダレンさんを起こしたのもウンディーネなんですよ?」

「そうか。それは助かった。ありがとう、ウンディーネ」


 どおりで顔がれてたわけだ。と納得した俺は、上から見下ろしてくるウンディーネに感謝をべる。

 すぐにそっぽを向いて、フンッと鼻を鳴らすウンディーネ。


 きっと、照れ隠しでそういう反応を見せているんだ。そうに違いない。可愛い所もあるじゃないか。

 なんて、考えていることがバレたら、どうなるんだろうか。

 まぁ、絶対に口にはしない方が良いだろう。


「さてと。ペポを助け出すにはここから出なくちゃいけないけど……」

 そう言いながら立ち上がった俺は、この部屋にある唯一ゆいいつの扉の前に歩み寄った。


 一応、鍵は掛けられているみたいだけど。ノームの力を借りれば、すぐにでも抜け出せそうだ。

おそってきた割りに、警備けいび手薄てうすだよなぁ」

「そうですね。私もそれが少し気になってました」

「彼奴らにしても、ワラワ達の来訪らいほう予期よきしていなかったのであろう」

計画的けいかくてきじゃないってことか。それならどうして、ペポだけ別の所に連れてったんだろう?」

「彼女がオルニス族だから、とか、関係あるでしょうか?」

「う~ん。オルニス族。まぁ、確かに。一番分かりやすいっちゃ、分かりやすいけどなぁ。もう1つ、気になることがある」


 そこで言葉を区切った俺は、意識いしきを失う前にゲベトが告げた言葉を思い出した。

「あの爺さん、バディが居ないって言ってたけど、本当かな?」

「分かりません……でも、そういうかたが生まれることもあるって、私は聞いたことがあります」

「そうなのか」

平原へいげんのコロニーでは、お会いしたことはありませんでしたけど」

「だとしたら、なんでじいさん達はこんな山奥に居るんだろうな?」

「それは……」


 何か言いにくそうに言葉をにごすロネリー。その様子を見た俺は、彼女が何かを知っていると直感ちょっかんした。

 すぐにでも、その“何か”を聞き出したい。


 そんな衝動しょうどうられるように、俺が口を開こうとした時、床の隙間すきまからノームが飛び出して来る。

「おい!! ペポ達を見つけたぜ!! でも、結構けっこうヤバいから、急いで向かうぞ!!」


 そう言うと同時に、再び地面の中にもぐり込んでいったノームは、床を突き破るような岩の槍を作り出し、入り口の扉をこじ開けた。

 彼のあせりに満ちた様子に圧倒された俺とロネリーは、一度頷うなずき合った後、すぐに部屋から飛び出す。


 案内のために、一定間隔いっていかんかくで地面から突き出してくる岩の柱に沿って、俺達は建物から駆け出した。当然逃げ出した俺達を見て、住民達は慌てている。

 そうして、建物の並んでいる集落の、さらに奥へと進んだ俺達は、ついにペポの姿を見つけ出した。


 なにやら石で作られた祭壇さいだんの上に、はりつけにされているペポ。

 彼女の周囲を、複数人ふくすうにんの住民達が取り囲んでいる。


 さいわい、今の所は大きな傷などを追っている様子はない。

 だけど、そんな彼女のすぐそばには松明たいまつを持ったゲベトが立っている。


 彼は、手にしている松明たいまつをペポの身体に近づけて、何やら話をしているようだ。

 その姿を見た俺は、嫌な予感よかんを覚えた。


 なぜなら、まるでゲベトがペポの身体に火を付けようとしているように、見えたからだ。

 恐怖きょうふと不安に満ちたペポのひとみが、赤くかがやく炎の色に染まっている。


 そんな彼女と目を合わせた俺は、地面を強く踏みしめながら、大声で叫んだのだった。

「やめろぉぉぉ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ