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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第3章 野生児と樹海の神秘

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第28話 お茶を濁して

 しわがれた声を上げながら、人々をかき分けて姿を現したのは、ガリガリにやせほそった老人だった。

 手製てせいつえ身体からだを支えながらフラフラと歩いているその老人を、周囲の人々が気遣きづかっている。


 そんな様子からさっするに、多分この老人が、ここのおさみたいなものらしい。

 一応、会話が出来そうだとむねで下ろした俺は、ため息をくとともに老人に声を掛けた。


「どうも、ちょっと驚かせてしまったみたいだな。俺はダレンだ」

「いやぁ、よくもまぁこぉんな森の奥さ来たな!! どうやって来たんだべ? えぇ?」

「歩いてきました。あ、初めまして。私はロネリーです」


 俺に続くように挨拶あいさつをするロネリー。

 そんな俺達を余所よそに、ペポは小さな声でつぶやいた。


「このおじいさん、変な話チ方っチね」

 彼女の言葉を聞いたのか、俺の頭の上にいるノームがあきれたように告げる。

「ペポがそれを言うのかよ」

「アタチの話チ方に文句もんくがあるチ?」

「いや、無いけどよ」


 危険きけんさっしたらしいノームがだまり込んでところで、気を取り直した俺はあらためてじいさんに問いかける。

「爺さん……えっと、なんて呼んだらいいんだっけ?」

「オラの名はゲベトだべ。さぁさぁ、こんなとこで話すのもなんだ、オラに着いて来い」


 手招てまねきをしてきびすを返したゲベトは、多くの住民達に支えられながら、集落の奥に向かって歩き出した。

 そんな彼の後姿うしろすがたを見たあと、顔を見合わせた俺達は、とりあえず着いて行くことにする。


 歩いている最中、住民達が俺達をジロジロと見てきている。

 それほど、ここに人が来るのはめずらしいってことなのかな。


 そんなことを考えながら歩いていた俺は、ふと、2つの異変いへんに気が付いた。

 1つは、ジロジロと注がれている視線の多くが、ペポに向かっていること。

 まぁ、これについては、オルニス族を見たことが無いんだろうなと、心の中で納得なっとくする。


 対するもう1つについて、俺は自分の中に答えを見つけることができなかった。

 だから、頭の上に乗っているノームにだけ聞こえるように、小さくつぶやく。


「なぁノーム。ここにいる人達、全員バディが居なくないか?」

「ん? あぁ~。まぁ、確かに。でも、どっか別の場所にいるだけだろ?」

「ん。それもそうか。そうだよな。いつも同じ場所にいる必要は、別にないんだもんな」

「そんなことよりもダレン。この集落しゅうらくに入る前から、何か変な感じがしないか?」

「変な感じ?」

「あぁ。オイラさっきからずっと、体中がむずがゆいんだよ」

「何か虫にでも刺されたんじゃねぇの?」

「虫!? いや、そんな虫が近づいてきたら、オイラすぐに気づくぞ?」

「気づくも何も、地面の中にもぐり込んでたろ? その時じゃないのか?」

「え……いや、そんなまさか……それって冗談じょうだんだよな、ダレン」

「は?」

「地面にもぐったら虫に刺されるのか? え、オイラ、もう二度と地面にもぐれないかもしれん」

「あぁ、はいはい。冗談じょうだんですよ~」

「あ、お前今、面倒くさいから適当てきとうに答えただろ!?」

「落ち着けって、どうせ明日になったらそんなこと忘れてるだろ? それに、今までそんなこと一度だってなかったし。気のせいだろ」

「気のせい……なのか?」


 釈然しゃくぜんとしないらしいノームが、頭の上で腕を組んで考え始めたころ、前を歩くゲベトが、比較的ひかくてき大きめの建物の中に入って行った。

 切り出した木材もくざい簡易的かんいてきに作られたらしいその建物は、壁にも屋根にも、若干じゃっかん隙間すきまが見て取れる。


 こんな樹海じゅかいの中で暮らしてれば、それくらい気にしなくなるよなぁ。

 などという謎の親近感しんきんかんを覚えた俺は、躊躇ちゅうちょすることなくゲベトの後に続いた。


 対称的たいしょうてきに、建物の中に入ることに躊躇ためらいを覚えたらしいロネリーとペポは、少し遅れて入ってくる。

「ほら、適当に座ってけ。今、ちゃれっから」

「あ、ありがとうございます」


 丁寧ていねいにお辞儀じぎをしながられいべるロネリー。

 そんな彼女にられるように礼を口にした俺とペポは、部屋のど真ん中にあるテーブルと椅子に腰かけた。


 よく見ると、建物の壁の隙間すきまから多くの住民がのぞき見している。

 よほど客人きゃくじんめずらしいのか、はたまた、好奇心こうきしん旺盛おうせいなのか、不思議な人たちだ。


 ここまでの住民達じゅうみんたちの様子を思い返してみると、彼らは話ができないんだろうか?

 ゲベト以外の住民が話しているのを、まだ聞いていない。


 その辺も含めて、ゲベトに話を聞いてみよう。

 座ったままそんなことを考えた俺は、ゲベトが木のうつわちゃれて運んでくるのを確認する。


 おもむろに、テーブルの上に木の器を並べたゲベトは、改めて俺達を見渡すと、口を開いた。

「で、お前さんらは、どっから来たんね?」

「私たち、ここから南東にあるロカ・アルボルってところから来たんです」

「ろかあるぼる? なんだそれ?」

「あのロカ・アルボルを知らないチか!? 変なおじいさんもいるもんだチ」

「いや、ペポ。なんなら俺達も知らなかったぞ?」

「嘘チ!!」

「本当ですよ、ペポさん」


 驚愕きょうがくの声を漏らすペポを、ロネリーがたしなめる。

 魔王軍のせいで、集落の間の往来おうらいが少ないから知らないのは当然だと思うんだけどな。


 まぁ、空を飛べるオルニス族に、俺達の常識は通じないんだろう。

 そうやって言葉を交わす俺達を、目を細めて見守っていたゲベトは、感慨かんがいぶかそうにつぶやいた。


「知らねぇ場所からここまで……そりゃ長い旅だ。で、こんなところにまで来て、なにさ用でもあったんか?」

「アタチ達、サラマンダーを探してるっチ」

「さらまんだー?」

「そうです。4大精霊だいせいれいって言われるバディの1人で、力を借りるために探してます」

「あぁ!! バディかぁ」


 ロネリーの説明を聞いて何やら理解したらしいゲベトは、ノームやシルフィに視線を飛ばしながら言った。

 あまりものを知らないように思えた彼も、流石さすがにバディのことは知っているらしい。


 何度もうなずくゲベト。

 そんな彼を見ていた俺は、胸の奥底おくそこからき上がって来る衝動しょうどうえ切れず、さっきからいだいていた疑問ぎもんたずねてみることにした。


「なぁ、ゲベト。皆のバディはどこにいるんだ? ここに来るまでに住んでる人たちのバディが居ないことに気が付いたんだけど……」

「そう言えば、見なかったですね」

「どうせ、どこかで遊んでるだけっチよ」

「遊んでる? ねぇペポ~ ウチも遊びたい~」

「シルフィ、我慢がまんするっチ」


 少し考える仕草しぐさをするロネリーと、軽い口調くちょうつぶやくペポ。

 2人の反応を待つように口をつぐんでいたゲベトは、不意に口を開いて、俺の質問に答えてくれた。


「オラたちに、バディは居ねぇんだ」

「え?」

 静かに発せられたゲベトの言葉。


 そんな言葉に、思わず小さな声を上げて反応してしまった俺は、気まずさをまぎらわすために、出されたお茶に口を付ける。


 ほのかな甘みと温もりが、のどうるおしてくれる。

 そうして、何かゲベトに対して言おうかと思ったその瞬間。


 俺が手にしていた木のうつわが、はげしくはじき飛ばされてしまった。


 何が起きたのか、よく理解できていない俺の視界に、あおい水の腕が飛び込んでくる。

「その茶を飲んではならぬ!!」


 耳につんざくウンディーネの声。

 そんな声を聞いた俺は、咄嗟とっさに立ち上がろうとするが、既に遅い。

 力なく床に倒れ込んだ俺は、同じく床に倒れて目を閉じているペポの姿を見たのだった。

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