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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第3章 野生児と樹海の神秘

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第27話 珍しい客

「なぁペポ~。少しで良いから背中に乗せて運んでくれよ」

いやっチ。どうせダレンはアタチの背中に顔をうずめたいだけっチ」

「そんなことないって、ただ、この、つたが、うっとうしいからさぁ!!」


 背後にいるペポに向けてそう言いながら、俺はもらったナイフでつたを切りいていた。


 ロカ・アルボルを出発してから既に4日目。

 辺りの景色けしき岩肌いわはだからしげる木々に代わったのは2日前で、俺達は丸二日も樹海じゅかいの中を歩いていることになる。


 それにしても、とんでもなく広い樹海じゅかいだ。

 湿しめっぽい足元に気を付けながら、一歩ずつ前に進む俺は、ペポのさらに背後から掛けられた声に、思わず足を止める。


「ダレンさん、流石さすがに私達2人を運んで貰うのは、ペポさんに悪いですよ?」

「そんなことないだろ。多分ペポなら軽々(かるがる)と運ぶさ」


 そう言った俺は、おもむろにペポを見た。

 背丈せたけは俺と同じくらいなのに、やたらと大きな両翼りょうよくを持っているせいで、体格が大きく見える。


 そのくせ、顔は可愛らしいというのが、俺を少し不思議な感覚におちいらせていた。

「そんな信頼、らないチ」

らないかぁ……」


 ムスッとした表情で告げるペポに、肩をすくめながら言った俺は、再び前方に目を向けた。

 どうでも良いけど、シルフィはペポの頭の上で昼寝をしているらしい。

 まったく、気楽なようでうらやましいよ。


 小さなため息でもこうかと、俺が少し視線を地面に落とした時。

 不意に地面からノームが飛び出してきて、いつものように俺の頭の上に乗った。


「おっそいぞぉ!? なにちんたら歩いてんだ!?」

「仕方がないだろ? 早く進みたくても、つたとか枝が邪魔で、思うように進めないんだよ」

「ノームだけズルいチ。どうせならちゃんとした道を作るチ」


 やたらとテンションの高いノームに、俺とペポの不満が爆発する。

 そんな俺達の不満をやわらげようとするように、ロネリーがノームに声を掛けた。


「2人とも、特にペポさんは枝とかのせいで羽毛うもうが汚れちゃうのを気にしてるんですよね? ノームさん、このあたりに開けてる場所とかありませんか? そろそろ休憩きゅうけいはさんだ方が良いかと思うんですが」

「ダレンとノームはダメだっチね。その点、ロネリーは分かってるチ」

「おいロネリー。ペポを甘やかすのは良くないと、オイラは思うぞ?」


 なかあきれたような声音こわねでそう言ったノームは、しかし、口をつぐむと同時にフッと笑みをこぼした。

 そんな彼の笑みを、俺が聞き逃すはずがない。


「おいノーム、今の笑いはなんだ?」

「まぁまぁ、落ち着けよダレン。オイラがただで戻って来ると思ったのか?」

「それはどういう意味ですか? ノームさん」

「はっはっはっは!! おいペポ。どこの誰がダメだって? その言葉、後悔するんじゃねぇぞ?」


 そう言ったノームは、俺の頭の上から近くの木の枝の上にび移ると、まっすぐ前方を指さして告げた。

「なんと!! この先真っ直ぐに行ったところに、人の住んでる集落があったぜ!!」

「おい本当か!?」


 驚きと嬉しさで思わずたずねた俺に、ノームは満面の笑みでこたえる。

「本当だとも、ダレン。だからな、ペポ。ダメなのはダレンだけだ」

「おい」

「そうっぽいチな」

「ペポ!?」

「まぁ、これは仕方がないかもですね……」

「ロネリーまで!?」

「何でもいいから早く行こうよぉ~。ウチ、もう疲れちゃった~」

「シルフィにいたっては何もしてないだろ!?」

「ふふふ、冗談ですよダレンさん。先導とつた排除はいじょありがとうございます」

「ロネリー……」


 感動のあまり、ペポの後ろにいるロネリーの元に歩み寄ろうとした俺は、しかし、ペポの大きな翼にはばまれた。


「なんだよ?」

「イチャイチャするつもりっチ?」

「ちがっ!?」

「ペポさん!?」


 唐突とうとつにペポから飛び出て来た言葉に、俺もロネリーも動揺どうようする。

 そんな俺達の様子を観察しながら、ペポは少しニヤケて言い放った。


「良いから早く先に進むチ」

 そう言われたら進まないわけにもいかない。

 歯を食いしばりながらきびすを返し、歩き始めた俺は、聞き捨てならない声を耳にした。


「うわぁ~。ロネリー、顔真っ赤っかじゃ~ん」

「シルフィさん!! 変なこと言わないでください!!」


 今すぐに振り返って顔を真っ赤に染めたロネリーを見てみたい。

 でも、今ここで振り返ったら、ペポになんて言われるか。想像した俺は、振り返らずに歩き始めた。


「チッチッチッチッ」

 小さな声でペポが笑っているのを、全力で無視した俺は、ガムシャラに前に進んだ。

 心なしか、ナイフを振るう腕に力がこもる。

 そうして、ずんずんと前に進んだ俺達は、ようやく開けた場所に出ることができた。


 突然開けたその場所は、多分、人工的に草や木々がられた場所らしい。

 その証拠しょうこに、目に見える範囲でいくつもの切株きりかぶがある。


 そんな開けた空間の真ん中に、木材で作られたいくつもの建物が、並んでいる。

 中には、巨大な木の上に作られたツリーハウスもあった。

 俺に続いてこの空間に足を踏み入れたペポとロネリーは、小さく感嘆かんたんしている。


 と、そんな俺達をジーッと見つめる人物が、少し離れたところに立っていた。

 けものの皮で出来た簡素かんそな衣服に身を包み、立ち尽くしている少女。


 そんな少女は、驚きとも恐怖ともとれる表情でこちらを凝視ぎょうしし続けた。

 少し不気味に感じた俺は、とりあえず敵対てきたいする意思が無いと伝えるために、笑いながら語り掛けることにする。


「や、やぁ。俺はダレン。君は、ここに住んでる人で合ってる?」

「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺が話しかけた直後、甲高かんだか悲鳴ひめいを上げた少女は、まっすぐに建物の方へと逃げ出してしまう。

 突然のことに驚いてしまった俺達が、身体を硬直こうちょくさせてしまったのは言うまでもない。


 そうして、状況が分からずに身動きが取れなかった俺達の視界に、次々と人間が姿を現し始めた。

 その全員が先ほどの少女と同じようなちで、目に驚きと恐怖をはらませている。


「お、おいノーム、なんだよこいつら」

「さぁ。集落があるってことだけ確かめて、どんな奴らが住んでるか確かめなかったから、オイラも知らん」

「やっぱりノームもダメっチね」

「と、とりあえず、会話できないかもう少し試してみた方が良いと思います」


 そうやって、たがいに目配せをしあった俺達が、今まさに口を開こうとしたその時。

 集落しゅうらくの奥から何者かが声を発したのだった。

「ほーっ!! こりゃぁめんずらしい客じゃねぇかぁ!!」

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