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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第2章 野生児と若草色の少女

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第26話 ここより北西に

 一夜いちやが明け、再びホーネット様に呼び出された俺達は、例のごとく屋根付きの広場に集まっていた。

 正直に言えば、もう少しあのふかふかのベッドで寝ていたいけど、そうもいっていられない。


 重たいまぶたをこすりながら大きな欠伸あくびをした俺は、背伸びをして全身を覚醒かくせいさせる。

 そんな俺の様子を見て、ホーネット様が声を掛けてきた。


「よく眠れたみたいだな」

「おかげさまで。こんなに寝心地の良いベッドは初めてでした」

「私もです。柔らかくて程よく暖かくて。あのシーツの下には何が入ってるんですか?」


 俺に同意どういするように大きくうなずきながら、ロネリーが質問する。

 彼女の質問を聞いて得意げになったらしいペポが、少し胸を張りながら口を開いた。


「アタチたチの羽が入ってるっチ」

「どおりで、ペポの羽毛うもうもすごく気持ちよかったもんなぁ」

「へ、変なこと思い出すなっチ!!」


 羽毛うもうの肌触りの良さを思い出した俺が、そうつぶやくと、ペポは不満を口にした。

 そんな彼女の不満を耳にしたロネリーが、驚きとも怒りとも取れるような表情で、にらんでくる。


「変なこと!?」

 心なしか、あおひとみが冷たく冷え切っているように見える。

 俺、何か悪いことしたっけ? なんてことを考えながら、俺は少しずつめ寄って来るロネリーをなだめることにした。


「ど、どうしたんだよロネリー。落ち着けって」

「ダレンさん、もしかしてペポさんに変なことしたんですか?」

「へ、変なことって言うか、ペポの羽に触っただけだぞ?」

「嘘チ。アタチのむねっぺたをこすり付けて来たチ」

「ダレンさん!?」

「それは風に吹っ飛ばされて気絶する寸前で、状況が分かって無かった時の事だろ!?」

「背中にも顔をうずめてたチ」

「……」


 自分の顔が引きつるのが分かる。

 ダメだ、ロネリーの方を見れない。目が怖い。怖いよ。


「ダレン、もう観念かんねんした方が良いとオイラは思うぞ?」

「ちょ、ノーム!? 怒られるならお前も一緒だからな!?」

「なんでオイラを巻き添えにしようとするんだよ!」


 ノームにも責任がある!! と言おうとした俺は、ペポの言っている状況において、彼が俺と一緒にいなかったことを思い出した。

 でも、関係ないよな? バディだし。連帯責任れんたいせきにんだろ。


 そんな風に、俺がノームにも責任を押し付けようとしていると、あきれたような表情でラルフが言った。

「朝っぱらから仲がいいことで」

「そうね。元気があって良いことじゃない」


 ラルフの言葉に、アニカまでもが賛同さんどうを示している。

 よく見れば、俺達の周りにいるオルニス族達も、昨日とは違ってどこか優し気な目をしている気がする。


 それらに気が付いた俺は、途端とたん猛烈もうれつな恥ずかしさを抱き、頭をいて誤魔化ごまかした。

「こうして、元気なぬしらを見ることができるのは、きざしかもしれんの」


 そう言ってその場の空気をめたホーネット様は、気を取り直すように話を始める。

「して、ダレン、ロネリー。これからどうするのか、決めることはできたか?」

「はい。ホーネット様。昨日の夜、少し話し合いましたので」


 丁寧ていねいに報告をするロネリーが、チラッと俺の方に目配せをしてくる。

 そのひとみが元の優しい彼女のものに戻っていると気が付いた俺は、そっと胸をで下ろして、ホーネット様に語り掛けた。


「俺達はサラマンダーを探すために、また旅に出ようと思います。その旅に、ペポにも着いて来て欲しいって思ってるのですが……」

「ホーネット様。アタチ、2人と一緒に行くチ。ホルーバ様のかたきちたいチ」

「そうか。行ってくれるか」


 俺達の返事を聞いたホーネット様は、一度目を閉じると、なにやら考え込み始めた。

 しばらく沈黙ちんもくしたまま待つ俺達。

 すると、ようやく目を開いたホーネット様が、右の翼を大きく動かして、北西の方を指し示す。


「ここより北西に進んだ先に、ダンドス樹海じゅかいと呼ばれる広大こうだいな森林がある。まずはそこを目指すとよかろう」

「ダンドス樹海じゅかい……」

「その樹海じゅかいは、ぬしらの前任者がこの地まで逃げる道中に通った場所だ。何かサラマンダーにつながるような手がかりがあるやもしれん」

「ホーネット様。色々とありがとうございます」

「構わん。それと、ぬしらの言っておったボーデンという化け物について。少し思い出したことがある。ボーデン・フォリューケン。別の名を“大地だいちを進む者”と呼ばれるくじら型の魔獣まじゅうの一種だ」

「大地を進む者? 魔獣まじゅう?」

「そうだ。魔王軍が指揮下においている魔物とは異なり、魔獣まじゅうは基本、何者の指示も受け付けぬ存在。のはずだが、今回、そんな魔獣を、あ奴らは利用していた。今後も同じようなことがあるやもしれん。くれぐれも気を付けよ」

「分かりました」

「本来であれば、我らも着いて行き、主らの旅の手助けをするべきであろうが……」

「大丈夫ですよ。ホーネット様たちは、このロカ・アルボルを守っててください。そうじゃないと、ペポにとっての帰る場所が無くなるじゃないですか」

「だな。オイラ達にできるのは、進む道と帰る道を作るだけだからな!! 道の先に何もなかったら、切ないぜ」


 俺とノームの言葉を聞き、少し目を見開いたホーネットは、おだやかに笑った。

 こうして笑うのを見るのは初めてかもしれない。

 そんな彼女を見上げていると、横に立っていたラルフが口を開く。


「と言うことは、ここで一旦いったんお別れってわけだな」

「ラルフ。そうだな。短かったけど、色々と助かった。ありがとう」

「俺は何もしてない気もするけどな」


 そう言ってかわいた笑いをこぼしたラルフは、腰に手を当てながら続ける。

「俺もお前らについて行きてぇところだが。まぁ、力不足だな。岩山のコロニーに残って、魔王軍の奴らが同じようなことをたくらんでないか、見張ることにするさ。だから、これを持っていけ。樹海に行くんだろ? だったら役に立つはずだ」


 そう言った彼は、腰にくくりつけられていた小さめのナイフを、俺に手渡してきた。

 受け取ったナイフを腰に巻き付けた俺は、改めてラルフに礼を告げる。


 そうして、アニカとも別れの挨拶あいさつを告げた俺達は、オルニス族に運んで貰うことで、岩山のコロニーまで戻った。

 そこで改めてラルフ達に別れを告げた俺とロネリーとペポは、北西に向かって歩き出す。


 ダンドス樹海じゅかい


 その巨大な森林に、何か手がかりがあれば良いなぁ。

 そんなことを考えながら、俺達はひたすらに歩いたのだった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ダレン達がダンドス樹海に向かって出発する前日、岩山のコロニーから樹海じゅかいに向かう道中に、彼らは居た。


「おい、ケイブ!! 走るゴブ!!」

「分かってるゴブゥ~」


 全身傷だらけになった2人のゴブリンは、ゴツゴツとした岩場の中を、けていた。


「ったくよぉ!! あの悪魔は空高く吹き飛ばされちまうし、突然現れたオルニス族のせいで、俺達も吹き飛ばされるし、散々だゴブ!!」

「せっかく連れて来たボーデンも、すぐに帰っちゃったゴブゥ」

「本当だゴブ!! 何のために俺達が必死こいて壁をけずってたと思うゴブか!?」

「オラ、何回か吹き飛ばされて死にそうになったゴブゥ」

「俺もだゴブ!!」

「それにしてもベックス、オラたち、どこに向かってるゴブゥ?」

「どこって、この先の樹海じゅかいに決まってるゴブ!! そこなら、仲間がいるかもしれないゴブ」

「そうゴブゥ? まぁ、成り行きに任せるゴブゥ」

「どうせあのいけすかねぇ悪魔野郎は、どっかでくたばってるゴブよ!! これは最大のチャンスゴブ!! ケイブ!! 俺とお前で、魔王軍の幹部かんぶに上り詰めるゴブ!!」

「そんなこと、できるゴブゥ?」

「できるに決まってるゴブ!!」


「おやおやおや。随分ずいぶんと大それた野望やぼうを持ったゴブリンがいると思ったら、ベックスとケイブじゃないですか」


 誰もいない荒れた地面を走っていた2人のゴブリンは、どこからともなく聞こえて来たその声を聞いて、すぐに足を止めた。

 緑色の皮膚ひふを持ったゴブリンが顔面蒼白がんめんそうはくになって周囲を見渡し始める。


 そんな彼らは、道の真ん中に転がっている不自然な岩を見つけた。

 そんな岩の周りを恐る恐る回り込んだ2人は、岩の表面から突き出している悪魔の顔を目の当たりにする。


 まるで、岩の中に閉じ込められてしまったかのような格好のリューゲだ。

 かろうじて頭だけは岩の外に出すことが出来たのか、リューゲは微動びどうだにしないままベックスとケイブを見つめている。


「リュ、リューゲ様……? こんなところで一体何を……ゴブ?」

「はいはい、わたくし、いけすかねぇ悪魔野郎のリューゲでございまぁす!!」

「ち、違っ!!」

「ん? どうかしたのかね? ベックス君。君はゴブリンなのに、随分と顔が真っ青になっているじゃないですか。あれれぇ? ケイブ君の方は、頭抱えてうずくまっちゃってますねぇ。大丈夫かね?」

「これは、その……違うゴブです!!」

「まぁまぁ、落ち着きたまえ2人とも。私はとてつもなく寛大かんだいな心を持った男。そのような陰口などで首や尻尾や四肢ししをはね飛ばすほど、薄情はくじょうな悪魔では無いのだよ」

「は、はいぃぃ!!」

「と言うことで、2人にお願いがある訳なんだが。今すぐにこの岩を破壊してくれないだろうか? そうすれば、この寛大な心を持って、先ほどの陰口を聞いていないことにしてあげよう」

「分かりましたゴブゥ!!」

「全力でお助けしますゴブ!!」


 リューゲによっておどしをかけられた2人は、死に物狂いでリューゲの身体を拘束している岩を破壊し始めた。

 そうして、ようやく体の自由を取り戻したリューゲは、全身の関節かんせつを鳴らしながら伸びをする。


「だぁぁぁぁぁ!! やはり自由こそが格別かくべつ美酒びしゅだと私は思うのだよ!! 2人はどうかね?」

「は、はい。俺もそう思うゴブ」

「そうかそうか。それじゃあ、次の作戦をるとしようか」

「次の作戦ゴブゥ?」

「そうとも!! 先ほど……いや、これは私の案なのだがね? この先の樹海じゅかいに行けば、仲間がいると思うのだよ」

「そ、それは俺の……」

「ん? うんんんんっ!? なんだね? ベックス君。もしかして君は、私に何かを思い出して欲しいのかね!?」

「っ!? さすがはリューゲ様!! そんな素晴らしい考え、俺には思いつけないゴブ!!」

「そうだろう? それじゃあ、向かうとしよう!! 2人とも、この私に着いて来い!!」


 そう言ったリューゲは、樹海じゅかいに向けて全力疾走を始める。

 走り出すリューゲの背中を見たベックスとケイブは、一度互いの顔を見合わせた後、すぐに足を動かしだすのだった。

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