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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第2章 野生児と若草色の少女

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第20話 穴の底の風の魔石

「あいつ、どこに消えた!?」

「おい、それよりも、この地響きは何なんだ?」

「ちょっとノーム!! あんた、地面の中にもぐれるんでしょ? この音の正体を見て来なさいよ!!」

「そ、そうだな、オイラちょっくら、音の正体を見て来るぜ」


 足元から鳴り響いて来る、ドドドドドという低い音。

 そんな音の正体を確かめるために、ノームが地面の中へともぐっていく。


 取り残される形になった俺達は、なるべく音から離れようと、窓のある壁の方ににじり寄って行った。

 一応、姿を消したリューゲに警戒けいかいをしながら、後ずさりをする。


「あの悪魔、釣りって言ってたよな? って言うことは、この空間は何かをおびき寄せるための場所だったってことか?」

「ラルフの言う通りかもしれないな。でも、何を、どうやっておびき寄せるって言うんだ? ただ、穴を掘れば寄ってくるわけじゃないだろ」

「あれじゃないの?」


 ラルフの発言に賛同さんどうしながら、疑問を口にした俺は、彼の頭の上に乗っているモミジが何かを指さしたことに気が付いた。

 彼女が指さしたのは、この広い空間の端っこ。


 ちょうど、俺達の立っている場所と正反対に位置するその場所に、なにやら見たことのない物体が置いてある。

 まるで、壁に向かって何か作動しているような武骨ぶこつなそれが、俺には何なのか分からなかった。


「ここに入った時から気にはなってたが……確かに、あれ以外にあやしい物は無いな」

 そう告げるラルフと視線をわした俺は、ゆっくりとうなずいて見せる。


 このまま何もしないよりも、謎の物体を何とかした方が良い。

 そう考えた俺が、大きく一歩を踏み出そうとしたその瞬間。


 俺の眼前に向かって、足元からノームが飛び出して来た。

 今までに見ないほどの勢いで飛び出して来た彼に、俺が少し驚いていると、あせりにまみれた表情のノームが叫ぶ。


「逃げろ!! 今すぐにここから出るんだ!! ダレン、壁に穴を空けるぞ!!」

 流れるように俺の頭の上に乗って叫んだ彼は、間髪かんぱつれずに、再び地面にもぐっていった。


「なんだ。どうした?」

 と、そんなことを問いかける暇もない。


 仕方なく彼の言葉にしたがうため、きびすを返そうとした俺は、直後、鳴り続いていた音がふいに止まったことに気が付いた。

 それと同時に、もう1つの事にも気が付く。


 音が止まる瞬間、ゴスッという今までとは違う音が、この空間に広がったんだ。

 おそおそる、その音のした方へ目を向けた俺は、謎の物体の上の方の壁から、たいららな物が突き出しているのを目にした。


 さっきまで、そんなものは無かったはず。

 脳裏のうりけ抜けたその思考しこうが、しっかりと定着するより先に、異変が起きる。


 突き出して来たその平らな物が、グググッと下の方に動いたかと思った直後、勢いよく引っ込んでいったんだ。

 その挙動きょどうは、明らかに岩が突き出して来たとかそんな代物しろものじゃない。


 もっと荒々(あらあら)しくて、野性的やせいてきで、生物的せいぶつてきな何か。

 俺がそこまで考えた瞬間。


 今までにない程の、腹にひびくような衝撃音しょうげきおんと共に、壁がえぐり取られる。

 つい今しがたまであったあの謎の物体と一緒に、壁が消えた。


 正確に言うと、食べられたって言うのが正しいかもしれない。

 なぜなら、消えた壁の先に、巨大な口があったのだから。


「逃げろぉぉぉぉ!!」

 俺達の背丈せたけなんて比較ひかくにならない程の巨大な生物の口が、岩石や土砂と一緒に、謎の物体を咀嚼そしゃくしている。


 さっき壁を突き抜けて来ていたのは、その巨大な生物の角だったらしい。

 頭部に2本のたいらな角を持っているその姿を、俺が見慣れることは無いと思う。

 というか、真っ黒でつるつるとしているらしい体表が、やけに気持ち悪く見えた。


 そんな巨大な生物から逃げるため、急いで窓のある壁の方に走った俺は、思い切り足で地面を踏みつける。

 すると、その合図を待っていたかのように、ノームが窓の空いた壁に穴を空け始めた。


「おい、ダレン!! ノームを急がせろ!! あのバケモンがこっちにせまってるぞ!!」

「分かってる!! ノーム!! 急いでくれ!!」

「ヤバい、あいつ、思ったより移動速度いどうそくどが速いわよ」

「クソ!!」


 もどかしくなった俺は、ノームの力で壁のあつみが無くなってゆき、もろくなった壁をりつけた。

 そのおかげか、壁に小さな穴を空けることができた俺は、その周囲を同じようにりつけながら穴を広げてゆく。


 ノームの補助ほじょと、ラルフ達の手助けをて、通れる穴をこじ開けた俺達は、躊躇ちゅうちょすることなく縦穴の中へと飛び出す。

 とはいえ、縦穴の中が安全ってわけじゃない。


 穴をこじ開けている時から、全身で砂塵さじんびていた俺達は、更に強烈な砂粒すなつぶ猛威もういを、体中からだじゅうに浴びることとなった。

 それでも、壁沿いに早歩きした俺は、さっきの広い空間から離れようとする。


 その瞬間、縦穴の中心が視界に入り、俺はそこで初めて風の魔石とやらの姿を目にした。


「あれが……風の魔石か?」

 吹き荒れる砂塵さじんのど真ん中にある、緑色の大きな石。

 その石は、大きな翼を広げた1人の生き物のような、姿をしている。


 深くてくらい穴の底、吹き荒れる砂塵さじんのど真ん中で、豊かな翼を広げているその姿は、どこかせつなげに見える。

 まるで、はるか上空の青空をなつかしんでいるようだ。


 そんなことを思った俺は、その直後、けたたましい爆音ばくおんを耳にした。

 それは、さっきの広い空間からい出て来た巨大な口の生物が発した雄叫おたけび。


 空気も、風も、大地すらも震動しんどうさせるようなその雄叫びは、容易よういに俺達のきもふるわせる。

 耳の奥が甲高かんだかい音にさいなまれる中で、一歩後ろに退きそうになった俺は、しかし、いつの間にか右の肩に乗っていたノームの言葉を聞き、みとどまった。


「ダレン、リューゲの奴、きっとあの化け物に風の魔石を食わせるつもりだ。そうすれば、風が止まるって寸法だろう」


 踏みとどまった理由は、良く分からない。

 分かるのは、ノームの言葉を聞いた瞬間に、俺の脳裏のうりに今までに聞いた話がよみがえって来たことだけ。


 かつてこの地にあったオルニスの木が、魔王軍に燃やされたこと。

 その結果、なぜか発生した上昇気流でロカ・アルボルという不思議な土地ができたこと。

 そのロカ・アルボルに、生き残ったオルニス族達が住んでいること。


 そして、穴の底でさびし気に空を見上げたまま沈黙する、風の魔石。


 これらにどんなつながりがあるのか、俺は知らない。

 だけどなぜか、魔王軍に風の魔石を破壊させちゃいけない気がした。


「ノーム!! 俺の足を地面に固定してくれ!!」

「は!? 急に何を!?」

「あの化け物に近づく!!」

「ちょ!! 無茶言うなよ!! おい!! ダレン!?」

「壊させるもんか!!」


 静止するノームを無視して、強引に前に進む俺。

 そんな俺の言うことにしたがうしかないと判断したらしいノームは、すぐに地面にもぐり込むと、沢山の柱を作り出してくれた。


 それらの柱につかまりながら、風の中を進む俺は、ほどなくして化け物のそばに辿り着く。

「よう!! お前が何て名前か知らねぇけど、邪魔させてもらうぞ」


 目の前にいるバカでかい生物を見上げた俺は、背中の剣を逆手さかてに持つ。

 今にも動き出しそうな化け物に警戒けいかいしながらも、意を決した俺は、そのまま剣を化け物のわきに突き立てたのだった。

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