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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第1章 野生児と碧眼の姫

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第2話 神秘的な碧

「ガキ!! やりやがったな!!」

 謝罪《しゃざい》はしてみたものの、やっぱり男達は俺を許《ゆる》してくれそうにない。

 取《と》り敢《あ》えず、既《すで》に失神《しっしん》している男にこれ以上の被害を与えないようにするため、俺はゆっくりと左の方に歩く。


 そんな俺を睨《にら》んでいた男達は、ジリジリと俺にに(・)じ(・)り(・)寄ってきた。

 そして、足元を見ずに歩いていた俺が、小さな枝を踏《ふ》んだ直後。

 パキッという乾《かわ》いた音と同時《どうじ》に、3人の男達が一斉《いっせい》に襲《おそ》い掛《か》かって来る。


 腰《こし》に携《たずさ》えていた剣《けん》を鋭《するど》く抜き取った彼らは、次々(つぎつぎ)に斬撃《ざんげき》を撃《う》ち込んできた。

 左肩《ひだりかた》から右の横腹《よこばら》にかけての大ぶりに、首をはね飛ばすような横薙《よこな》ぎ、そして左半身を縦《たて》に切《き》り裂《さ》くような一閃《いっせん》。


 連続《れんぞく》で放たれたそれらの斬撃《ざんげき》を難《なん》なく避《よ》けて見せた俺は、3人目の男に向かって飛《と》び掛《か》かる。

 見たところ、縦《たて》に切《き》り裂《さ》く一閃《いっせん》を放《はな》ったその男の斬撃《ざんげき》が、一番《いちばん》鋭《するど》い。

 そう判断《はんだん》した俺は、振《ふ》り下ろした剣《けん》の刃《は》を上に向けて、再び切り上げようとしている男の懐《ふところ》に潜《もぐ》り込んだ。


 右耳《みぎみみ》のすぐ傍《そば》を剣《けん》が切《き》り裂《さ》くが、気にしない。

 切《き》り上《あ》げた刃《は》が空《くう》を切《き》ったことに気が付いた男が、一瞬《いっしゅん》焦《あせ》りを滲《にじ》ませる。

 直後《ちょくご》、振《ふ》り上げられた男の腕《うで》に向かって跳《と》び上がった俺は、彼の腕に掴《つか》まったまま男の喉《のど》に膝蹴《ひざげ》りを撃ち込む。


「ぐへっ」

 思わず嗚咽《おえつ》を漏《も》らす男の様子を見ることなく、振り上げられた男の手首を掴《つか》んだ俺は、無理やりに手をひねって剣を奪《うば》い取った。

「ちょっと借りるよ」

 そう言いながら、悶《もだ》えている男の脳天《のうてん》を剣の柄《つか》で殴《なぐ》りつけた俺は、そのまま他の2人に向かって突進する。


 手にしている剣は少しばかり重いけど、多分大丈夫だ。

 走りながら長い剣を逆手《さかて》に持った俺は、手前に立っている男の懐《ふところ》に向かった。


 当然、俺の接近《せっきん》を防ごうとする男は、手にしていた剣を振り回すが、俺はそれらを剣の柄《つか》で弾《はじ》く。

 そうして、焦《あせ》りで後退《こうたい》を始めようとする男の股下《またした》を潜《くぐ》り抜けた俺は、彼の背後に立つと同時に踵《きびす》を返して、男の膝裏《ひざうら》に蹴《け》りを入れる。


 当然ながら、膝《ひざ》を背後から蹴《け》られたその男は、右の膝《ひざ》をついて体勢《たいせい》を崩《くず》した。

 その隙に俺は、逆手《さかて》で持っていた剣を振りかぶり、男の右足を地面に縫《ぬ》い付ける。

 正確《せいかく》に言うと、男の穿《は》いていたズボンの裾《すそ》を剣で貫《つらぬ》いたんだ。


「ひっ!!」

 少しでも足を動かせば、刃《は》が肌に擦《こす》れる状況《じょうきょう》に焦《あせ》ったのか、男が短い声を上げる。

 そんな男の後頭部《こうとうぶ》に肘鉄《ひじてつ》を喰《く》らわせた俺は、男が前のめりに倒れた音を聞き、眼前《がんぜん》に意識を戻した。


 最後《さいご》の1人と女を押さえつけたままの男が、唖然《あぜん》とした様子で俺を見ている。

「な、なんなんだ、このガキ!?」

「おい、何してる!! 早くそいつを殺せ!!」

 明らかに動揺《どうよう》している2人を見比《みくら》べた俺は、今なら話を聞いてくれるかもしれないと思い、とりあえず語り掛けてみた。


「なぁ、別に俺はあんたらと戦いたいわけじゃないんだよ。ただ、その女の人を放してやって欲しいんだ。さっきも痛がってたし。痛いのは嫌だろ? 俺も嫌だもん」

 すると、今の今まで頭の上で静観《せいかん》を続けていたノームが、呆《あき》れたような口調《くちょう》で告《つ》げる。


「ダレン、こいつらが話を聞くとは思えないけどなぁ」

「ノーム、俺もそれくらいは流石《さすが》に分かるけど、でも、ガスが言ってただろ? 人としてあり続けろって。少なくとも、交渉《こうしょう》もせずに殺すのは愚《おろ》かな行為《こうい》だって」

「こいつらがいつ交渉してたよ」

「んー……少なくとも、俺は見たことないかなぁ」


 俺達がそんな会話を交わしていると、女を押さえつけている男がゆっくりと呟《つぶや》いた。

「……おい、今こいつ、ノームって言ったか?」

「あぁ。俺も聞いたぞ」

「え? なに? ノームのことを知ってるのか?」


 男達の様子が一変《いっぺん》したことに気が付いた俺は、そう尋《たず》ねた。

 しかし、彼らが俺の質問に答えるわけがない。

 その代わりにとでも言うように、女を立ち上がらせた男は、彼女の喉元《のどもと》にナイフを突きつけながら、口を開いた。


 その時、この男が何を言っていたのか、俺は良く聞いていなかった。

 なぜなら、それ以上に惹《ひ》き付けられるものが視界に入ったからだ。

 乱暴《らんぼう》に立たせられた女性が、涙を浮かべた瞳《ひとみ》で、俺を見つめてくる。


 その瞳《ひとみ》は、見た事の無いほどに鮮《あざ》やかな碧色《あおいろ》で、目が合った瞬間《しゅんかん》、俺は胸《むね》が騒《ざわ》めくのを感じた。


「おい、聞いてるのか!! ガキ!!」

 いつの間にか眼前《がんぜん》に迫《せま》って俺を掴《つか》み上げようとしている男。

 ハッと我《われ》に返ってその男を見上げた俺は、躊躇《ちゅうちょ》することなく握りしめた拳《こぶし》を男の腹部《ふくぶ》に打ち込んだ。


「ぐへぇ」

「ノーム!!」

「おうよ!!」


 前のめりになって倒れこむ男の影に潜《もぐ》り込みながら、咄嗟《とっさ》にノームに呼びかけた俺は、返事《へんじ》が返ってくると同時に全力で前方に跳躍《ちょうやく》した。

 地面スレスレを、滑るような跳躍《ちょうやく》。

 それでも、俺が女の元に到達《とうたつ》することはできない。


 目測《もくそく》で、囚《とら》われている彼女との距離《きょり》を測《はか》った俺は、跳躍《ちょうやく》の勢いを右の拳に乗せて、思い切り地面を殴りつけた。

 ドンッという鈍《にぶ》い音が、周囲に響《ひび》き渡る。


 そのまま着地《ちゃくち》してしまった俺を見て安堵《あんど》したのか、彼女の喉元《のどもと》にナイフを突きつけている男が、ニヤリと笑みを浮かべる。


 その瞬間。

 ナイフを持っている男の腕を、岩でできた鋭い槍《やり》が貫《つらぬ》いた。


 地面から、まっすぐに伸び上がっているその槍は、かなりの硬度《こうど》を持っている。

 そのため、槍《やり》に貫《つらぬ》かれた男の腕《うで》は、容易《ようい》に動かすことができないはずだ。


「人質なんか取るからだ」

 狙《ねら》い通りに槍《やり》が男の腕を貫《つらぬ》いたことを確認した俺は、即座《そくざ》にもう一度《いちど》跳躍《ちょうやく》すると、女と男の眼前に迫《せま》る。

 そうして、乱暴《らんぼう》にナイフを奪《うばい》い取《と》った俺は、そのナイフを男の首に突き付けると、男に肩車《かたぐるま》をした状態で告げた。


「ガスはこうも言ってたよ。人質《ひとじち》を取るような輩《やから》と交渉《こうしょう》するのは危険《きけん》が生じる。だから、場合《ばあい》によっては殺《ころ》しても良いって」

「まっ……!!」


 待ってくれ、とでも言おうとしたのだろうか。

 短く声を上げた男は、しかし、最期《さいご》まで言葉を発《はっ》することはできなかった。

 なぜなら、俺が彼の喉《のど》を掻《か》き切《き》ったからだ。


 溢《あふ》れ出す鮮血《せんけつ》に触《ふ》れないように距離《きょり》を取った俺は、いつの間にか男の元から離《はな》れていた女と視線《しせん》を交《か》わす。

 恐《おそ》れか安堵《あんど》か、色々(いろいろ)な感情《かんじょう》がごちゃ混《ま》ぜになっているような視線《しせん》が、俺《おれ》を貫《つらぬ》く。


 その瞳《ひとみ》を再《ふたた》び見た俺は、神秘的《しんぴてき》な碧《あお》に吸《す》い込まれそうになりながらも、1つ、息を吐いたのだった。

 恐れか安堵か、色々な感情がごちゃ混ぜになっているような視線が、俺を貫く。

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