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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第2章 野生児と若草色の少女

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第19話 釣り

 あせりの表情を浮かべながら、きびを返そうとする青い髪のケイブ。

 対照的たいしょうてきに、するどく俺達をにらんでくる赤い髪のベックスは、首に掛けているふえに手を伸ばそうとした。


 そんなベックスにいきおいよく突っ込んでゆくラルフを横目で見ながら、俺は逃げ出そうとしているケイブの背中に向かって飛び掛かる。

「どこに行くつもりだ!?」

「うわっ!! めろゴブゥ」


 ケイブの背中にしがみ付いた俺は、足で扉をって閉めようとする。

 しかし、ケイブもされるがままじゃなかった。


 右手を大きく振り上げたかと思うと、しがみ付いている俺の背中をがっしりとつかみ、勢いよく前にり抜く。

 予想以上に強い力で引っ張られた俺は、勢いよく部屋の外に放り投げられてしまった。


 頭から床に転がりつつ、受け身を取った俺は、身体をひるがえしてケイブに向き直る。

 その時、部屋の中から甲高いふえが鳴り響いた。


 咄嗟とっさに部屋の中を見ると、ベックスがラルフに首根っこをつかまれながらも、ガムシャラに笛を吹いている。

「くそっ!!」

「おい、ダレン!! やべぇぞ!!」


 頭の上でそう叫んだノームにられて、左の方へ目を向けた俺は、洞窟どうくつの奥から多くのゴブリンがけて来ている様を目にする。

「ラルフ!! やばい、逃げるぞ!!」


 逃げるぞ、と言っておきながら、俺達に残されている道は入り口とは反対の方向に伸びる洞窟どうくつしかない。

 とはいえ、こんな何もない場所でつかまるのは得策じゃないと思った俺は、すぐに走り始めた。


「ま、待てゴブ!!」

 ケイブを押しのけて部屋から出て来たラルフに言うように、ベックスがさけんでいる。


 当然、そんな声を無視した俺は後をついて来るラルフに向かって、肩越かたごしに声を掛けた。

「これからどうする!?」

「今はとにかく走れ!! この洞窟どうくつ構造上こうぞうじょう、どこかにさっきと同じような穴に出れる扉があるはずだ!! それを探すぞ」

「ダレン、呑気のんきに話してるひまはないみたいだぜ!! 前に敵だ!!」

「前に!?」


 ノームの指摘してきの通り、前方に5人のゴブリンがいた。

 さいわい、まだ俺達に気が付いていない様子だけど、すぐに気づかれるのは明白めいはくだ。


 上手くわきをすり抜けられればいいけど。と俺が考えた時、ラルフが息を荒げながら声を掛けて来た。

「ノーム!! 壁に足場を作れないか? 奴らの頭上を通れるくらいの!!」

「なるほど、結構けっこうえてるじゃねぇかラルフ!!」

「どうせなら壁に穴をけてちょうだいよ。そしたら、ここから出れるじゃない」

「それはダメだモミジ。こいつらが扉を付けていないところは、上昇気流じょうしょうきりゅうが強い可能性がある。迂闊うかつに出るのは危険だ!!」


 ラルフとモミジがそんなやり取りをしている間に、ノームは俺の頭の上から飛び降りると、いつも通り地面の中にもぐり込んでいった。

 丁度その時、背後から再び甲高かんだかふえが鳴り響き、前方のゴブリン達がこちらを振り返る。


「ノーム!! 今だ!!」

 俺達の姿を見ておどろいている様子のゴブリンと目が合った時、俺はそう叫ぶ。と同時に、地面を大きく踏みしめた。


 直後、進行方向に向かって左側の壁から、板状の岩の足場が飛び出してくる。

 俺は思い切り跳躍ちょうやくすると、木箱の上を経由して、その足場の上に飛び乗った。


 次々と現れる足場の上を走ることで、5人のゴブリン達の頭上をけ抜けた俺達は、そのまま洞窟どうくつはしにまで到達する。

 突きあたった壁には、頑丈がんじょうそうな鉄の扉が1つ。


 勢いに任せてその扉を開いた俺は、急にひらけた空間を前にして、足をゆるめてしまった。

 そんな俺に合わせるように、速度を落としたラルフも、ひらけた空間を見渡している。


 扉から出て右手には、縦穴たてあなの様子が見れる小さな窓がたくさん並んでいる。

 窓と言っても、何かがはめ込まれているわけじゃないから、縦穴に吹いている風は、完全に吹き込んできているようだ。


 その反対側は、少し下方向に向かって、半球状に繰り抜かれたような空間が広がっており、その突き当りの場所に、変な物が置いてあった。

「ここは……?」


 それ以外に何もない殺風景さっぷうけいな場所を目にして、思わず俺がそうつぶやいた時、正面にあるもう1つの扉がゆっくりと開いた。


 そして、見覚えのある人物が姿を現す。


「おやおやおや……またお会いすることが出来ましたねぇ」

「お前は、リューゲ!!」

「そう!! そぉうなのです!! やはり、わたしを知った者は、その偉大いだいゆえに!! 私を忘れることなど、できないのでしょう」

「いや、少なくともオイラは、その偉大いだいさってやつを感じてないぞ?」

いたさなら、分からんでもないが。まぁ、世界にはいろんな奴がいるってことだよな」

「おいノームにラルフ、そこまで言ってやるなって。ちょっとかわいそうになって来るだろ?」

「やかましい!!!! 貴様らは……どこまで私を愚弄ぐろうするつもりか!!」


 怒りをぶちまけんばかりに、両手を強く握りしめながら頭の上にかかげているリューゲ。

 そんな彼を見た俺は、ラルフと目を合わせながら告げた。


「だって……なぁ」

「あれだけ格好つけておいて、落ちていくんだもんなぁ」

「ぐぬぬ。ええい!! 私にそのことを思い出させるな!! ふんっ。だが、まぁ良いだろう。貴様らはただ、物を知らぬおろか者だったということだ。私のような、天才が相手にする必要などないのだ」


 リューゲがそう告げた瞬間、俺達の背後と彼の背後に1つずつあった扉が勢いよく閉じられた。

 おまけに、ガチャという音まで聞こえる。


「ちっ……閉じ込められたか」

「大丈夫だぜラルフ、こっちにはオイラが居るんだ。そこの窓のある壁なら、穴を空けても大丈夫だろ?」


 ノームの言葉を聞いて、俺はさっきラルフがしていた説明を思い出した。

 確かに、壁に窓を作っているということは、外の風が入ってくることも想定しているわけだから、比較的安全な場所なんだろう。


 と言うことは、俺達は逃げ場を失ったわけじゃない。

 幸いなことに、ゴブリン達がここに突入してくる様子はなさそうだから、今は目の前のリューゲに集中しよう。


 そう考えた俺は、1つの疑問を抱いた。

「……なんで、ゴブリン達はここに入ってこないんだ?」

 いて出て来た疑問が、口をついてこぼれる。


 そんな俺のつぶやきを聞いたらしいリューゲは、途端とたんに満面の笑みを浮かべたかと思うと、窓とは反対の方に歩き始めた。

 そして、壁に掛けられていた松明たいまつを手に取ると、それをもてあそびながら話し始める。


「よく気が付いたじゃないか。それについてはめてやっても良い。だけど、少し気が付くのが遅かったようだ」

 俺に視線を投げながら告げたリューゲは、手にしていた松明たいまつを頭上に高くかかげた。


「ここで貴様らは死ぬ。それはあらがいようのない運命だ……そう考えると、少し気の毒に思えてしまうよ」

 高くかかげていた松明を、ゆっくりと前に突き出しながら下ろしたリューゲは、松明たいまつの先で俺達をしながら続ける。


「だから、教えてあげようじゃないか。私達がここで何をしているのかを。それを土産みやげに、先に地獄へ行っておいてくれ」

 そう言った彼は、直後、手にしていた松明たいまつ先端せんたんを勢いよく落ろし、地面に強く押し付け始めた。


「知っているかな? ここの上昇気流がどうして吹いているのか。……穴の底、その中心から吹き上げているその風は、まわしき風の魔石が作り出しているのだよ」

「風の魔石?」


 新たに出て来た聞き慣れない単語を俺が復唱ふくしょうした時。

 微かに、地面が震えた。


 その振動しんどうは、地面のさらに奥深くから、少しずつ近づいて来ているように感じられる。

 思わず、右肩に乗っているノームと視線を交わした俺が、口を開こうとした時。


 リューゲの持っていた松明たいまつの灯が、ついに消えた。

 その影響えいきょうで、少しだけ暗くなった空間の中、リューゲはあやしげな笑みを浮かべたかと思うと、一瞬にして姿を消してしまった。


 突然姿を消したリューゲを探すように、辺りを見渡す俺達。

 そんな俺達をあざ笑うかのように、どこからともなく聞こえて来たリューゲの声が、洞窟どうくつの中に響いたのだった。


「私達は、その風の魔石を壊すために、釣りをしていたのだよ!! どうやらえさに食いついたようだ!! もしかして、君達という、えさのおかげかなっ!?」

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