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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第2章 野生児と若草色の少女

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第18話 凸と凹

 扉から入って右手に伸びる洞窟どうくつに進んだ俺達は、いくつかの扉を見つけた。

 それらの扉の奥からは、時折、何者かの気配がしたので、流石に中までは確認していない。


 とはいえそこにとどまる訳にもいかないので、洞窟どうくついたる所に置かれている木箱のかげに隠れながら、さらに奥に進む。

 そうして、しばらく進んだ俺達は、少し先の扉がゆっくりと開かれるのを目にした。


 咄嗟とっさに木箱のかげに身を隠した俺は、別の木箱のかげに隠れているラルフと視線をわす。

『どちらかがバレたら、その時点で隠れるのはやめよう』


 そう心の中で覚悟した俺は、開いた扉の方へと耳をかたむけた。

「毎度毎度、あの野郎やろうにはうんざりゴブ」

「ホントだゴブゥ。いつになったら気づくゴブゥ?」

「きっと気づかないゴブよ。くっそ~。面倒くさいことを押し付けやがったな、あのゴブバカ悪魔!!」

「こんなところに侵入できる人間が、いるわけないゴブゥ」

「その通りゴブよ、ケイブ!! きっとリューゲは何かを見間違えたに違いないゴブ!!」

「オラもそう思うゴブゥ。ベックスの言う通りゴブゥ」


 そんな会話を交わしながら、扉の方から俺達の居る方へと近付いて来る2つの気配。

 話の内容からさっするに、穴の中に落ちていったリューゲって悪魔は、生きているらしい。


 流石さすがにあんな簡単に命を落とすわけはないか。と、小さく落胆らくたんしながら、俺は意識いしきを集中した。

 あと少しで、ゴブリン達が俺の隠れている木箱のすぐ横を通り過ぎる。

 それまで、気配を消してやり過ごせれば、何とかなるだろう。


 洞窟どうくつ反対側はんたいがわ壁付近かべふきんにある木箱に隠れているラルフも、俺と同じことを考えているはずだ。

 右肩みぎかたに乗っているノームと目配せをした俺は、なるべく呼吸を小さくしながら、さらに身をかがめた。


「それにしても、まだ見つからないゴブな」

「まだまだ先になるかもって、昨日班長(はんちょう)が言ってたゴブゥ」

「マジゴブか!? もうそろそろれても良い頃ゴブよ?」

「でも、一昨日おとといはいつれてもおかしくない、とも言ってたゴブゥ」

「なんで考えがブレブレゴブか!! かーっ!! 上の連中はどいつもこいつもムカつく連中ばっかりゴブ!!」

「オラたちしたゴブゥ。仕方ないゴブゥ」

あきらめてんじゃねぇゴブよ!! 魔王軍で働くゴブリンの男として、こころざしたかくあるべきゴブよ!!」

「……なんか最近、ベックスもリューゲみたいなことを言うゴブゥ」

「あの野郎と一緒にするなゴブ!!」


 ゴブゴブうるさいなぁ!!

 と思わずさけんでしまいたい衝動しょうどうをグッとこらえ、ベックスとケイブの目をくぐった俺は、音を立てないように、木箱の反対側に回り込んだ。


 これで、万が一2人が振り返ってもバレることは無い。

 同じように木箱を回り込んだラルフとうなずき合い、ベックスとケイブの声が聞こえなくなってから、俺達は扉に目をやる。


 さっき、2人が出てきた部屋の扉だ。

 耳をましてみても中に気配は感じられない。


 ねんのため、ノームに部屋の中を探ってもらった結果、誰もいないことを確認した俺達は、ひとまずその部屋に隠れることにした。

 全員が部屋の中に入ったことを確認した俺は、音を立てないように、扉をそーっと閉める。


「ふぅ……とりあえず、今の所は見つからずに来れたな」

「それにしてもギリギリだったな!! オイラ、もう少しで笑い転げそうになっちまったよ」

「あら奇遇きぐうね。アタシも笑うのを我慢がまんしてたわ」


 めずらしく気が合ったらしいノームとモミジが、たがいに顔をニヤケさせている。

 そんな2人を見て苦笑にがわらいを浮かべたラルフが、肩をすくめながら告げた。


「まぁ、あれはあまり聞きれないよな。俺も、あそこまで流暢りゅうちょうに話をするゴブリンは初めて見た」

「そう言えば、岩山のコロニーをおそってたゴブリンは、特に何も話してなかったな」


 思い出しながらつぶやいた俺は、改めて部屋の中を見渡す。

 俺達が入った部屋はどうやら、倉庫そうこだったらしく、あらゆる道具がそろっていた。


 掃除道具そうじどうぐや作業用の工具など、俺が見たことのない物まである。

 魔王軍とは言うものの、まるで人間みたいだなと思った俺は、その考えが間違っていることに気が付いた。


 多分、ここにある多くの道具は、今までに魔王軍が人間達からうばってきた物の一部なんだ。

 そう考えてみると、人間達はかなりの被害をこうむっていることになるな。


 そんなことを考えながら、じっくりと部屋の中を観察していると、ラルフが俺に声を掛けてきた。

「おい、ダレン。これを見ろ」

「ん? 何かあったのか?」


 呼びかけに答えながら彼の元に歩いた俺は、すぐに理解する。

「それは、鍵か?」

 どうやらラルフは、壁に掛けられていた鍵のたばを見つけたらしい。


「みたいだな。持ち手の部分にって付けたようなマークがある。これでどこの鍵か見分けてるんだろう」

「なるほどなぁ。ってことは、これを持っていけば、普通なら入れないところにも入れるってことか」

「そうなるな」

「おいおいラルフ、そんな悪いことしても良いのか?」

「何を言ってんだダレン。悪いことならすでにしてるだろ?」

「おい2人とも、なにふざけてるんだよ。オイラ達は今、敵のど真ん中に居るんだぜ?」

「分かってるよノーム。よしラルフ。すぐにその鍵を持って先に進もう」

「だな」


 ノームにさとされる形でわれに返った俺とラルフは、大人しく扉の方に向かう。

 もちろん、鍵の束はラルフのふところの中だ。

 引き続き、この洞窟どうくつの奥を探索して、魔王軍の狙いを調べてやろう。


 そう考えていた俺は、しかし、目の前で勢いよく開く扉を目の当たりにして、思考が真っ白になったのを感じた。

「鍵を忘れるとか、馬鹿ゴブ」

「ベックス、ごめんゴブゥ」


 そう言いながら部屋の中に入って来たベックスとケイブ。

 当然、そんな2人は部屋の中にいる俺達を見てしまうわけで、一瞬、その場の空気が凍り付いた。


 唖然あぜんとした表情で俺達を見つめる赤い髪で細身のベックス。

 そんな彼と対照的に、太めの見た目に青い髪を持ったケイブは、口を半開きにしたままかすかな音を立てた。


 ぷぅ……。


 一瞬、それが何の音か分からなかった俺は、しかし、その音のおかげで我に返ることに成功する。

「ラルフ!!」

「赤い髪の方は任せろ!!」


 咄嗟とっさに動く俺とラルフ。

 そんな俺達の目の前で、ベックスが叫び声を上げたのだった。

「こんな場面でをこくバカがいるゴブか!?」

「ごめんゴブゥ~」

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