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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第2章 野生児と若草色の少女

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第16話 かの魔王の配下

 ノームの発言を受けた俺達は、その足ですぐに穴のふちに向かった。

 がけの下をのぞき込むと、吹き上げる風で目がかわいてしまいそうだ。


 ラルフいわく、この穴の底から吹き上げて来る風は、穴の中心に向かうほど強くなるらしい。

 と言うことは、穴のふちにいる俺達が体感しているこの風は、最も弱いってことなんだよなぁ。


 そんなことを考えた俺は、はぁ、と1つため息を吐くと、背後を振り返った。

「最悪です!! 私、こんなところ進めません」

 自身の着ているスカートを必死におさえながら、地面にしゃがみ込んでいるロネリー。


 あおい瞳に戻っている彼女は、目元に涙を浮かべて顔を真っ赤に染めている。

 何が起きたのか。簡単に説明すると、こういうことだ。


 穴に近づくにつれて、周囲の風が穴に向かって強く吹き始めたと思っていたら、突然風向きが上に変わったんだ。

 その一瞬、彼女のスカートの中身が見えてしまったことは、胸の内にしまっておこう。


 というか、上昇気流が吹いていると聞いた時点で、こうなると思わなかったのかな?

 まぁ、俺もここにきて初めて気づいたから、人の事言えないんだけど。

 魔王軍とか、ロカ・アルボルとか、れない情報に翻弄ほんろうされたせいで、考えが至らなかったんだろう。


 俺がそんなことを考えていると、ノームが頭の上で笑い声をあげた。

「はははっ。確かにそれじゃあ歩けもしなさそうだな。いっそのこと、逆立ちした方が良いんじゃないか?」

「ノームさん? 怒りますよ?」


 めずらしく怒りをあらわに俺の頭上をにらむロネリー。

 流石さすがのノームも彼女の眼光がんこうひるんだらしく、言葉をにごらせた。


「じょ、冗談じょうだんだって」

「ったく、ノームは本当にデリカシーってのが無いよな」

「んな!? ダレンに言われたかねぇぞ!?」

「俺がいつ、デリカシーのない発言したんだよ?」


 このまま喧嘩けんかになりそうな俺とノームを見かねたのか、アニカがロネリーのそばに歩み寄って口を開いた。

「はいはい、とりあえず、ロネリーちゃんは私と一緒にコロニーまで戻りましょう? ハンス様にも報告しておいた方が良いと思うし」


 ちなみに、落ち着き払ってそんなことを言っている彼女は、しっかりとズボンを着用している。

「仕方ねぇな。アニカ、じょうちゃんの事頼むぜ?」


 あきれたような表情で告げるラルフに後押しされるように、しっかりとうなずいて見せたアニカは、ロネリーを立ち上がらせると、コロニーの方へと歩いて行った。

「で、魔物が降りて行ったってのはこの辺りで合ってるのか?」

「そうだな。ここだったはずだ」

「ふ~ん」


 改めて穴の底をのぞき込んだ俺は、舞い上がって来る砂埃すなぼこりから目元を守りながらも、観察かんさつする。

「穴の中に降りる階段をノームに作ってもらうとして、あかりが無いと進めないよな?」

「そうだな。松明は……当然消えちまうだろうし。俺のバディなら、夜目よめくんだろうが」

「そう言えば、ラルフのバディをオイラ達はまだ見てねぇよな?」

「確かに。ラルフ、バディはどこにいるんだ? まさか、ロネリーと同じように、合体できるのか?」

「そんなのじゃないさ。俺のバディはこいつだよ」


 そう言ったラルフは、ふところから何やら小さな生き物を取り出した。

 それは毛むくじゃらで、うであしの間にまくのようなものを持っている、かわいらしい生物。


 まどわせの山で見たことのあるモモンガにそっくりな姿をしている。

 突然ラルフの手につかまれたことが不満だったのか、眠たそうに顔をくしゃくしゃと動かしたその生物は、ラルフを見上げながら告げた。


「ん? 何? 寝てたんだけど?」

「お前にお客さんだ。ほら、挨拶あいさつしとけ」

「お客さん?」


 そう言ったラルフのバディは、キョロキョロと辺りを見渡してから俺達に気が付き、その小さな口を開いた。

「アタシはモミジ。よろしくね。寝ることと滑空かっくうすることが好きなの。で。アンタたちは誰?」

「俺はダレン。好きなことは、狩りと剣術の特訓かな。で、こいつが俺のバディのノーム」

「オイラが大地の大精霊だいせいれいのノームだ。よろしくな、モミジ」


「ふ~ん。そう。よろしく。それじゃあ、もうあたしは寝るわね」

「今起きたばかりでもう寝るのかよ!?」

「そうよ? 言ったじゃない。寝るのが好きなの。ノーム、アンタさては、話聞いてなかったでしょ」


 ノームとモミジの会話を聞いた俺は、思わず小さな声でつぶやいてしまった。

「……本人もさることながら、バディもくせが強いな」

「お前に言われたかねぇぞ、ダレン」

「おい、それはどういう意味だラルフ。オイラのくせが強いってのか!?」


 強いだろ。と頭の上にいるノームに言うのをこらえた俺は、1つ息をく。


 ラルフいわく、モミジは夜目よめくってことだけど、それだけじゃ到底とうてい暗がりの中を進める気がしない。

 やっぱり、何かあかりを準備する必要がありそうだな。


 そう思った俺が、きびすを返してコロニーの方に戻ろうとしたその時。

 近くにあった大きな岩から、何者かが声を掛けてきた。


「おやおや、なにやらさわがしいと思ったら、君達は誰なのでしょうか? おかしいですねぇ。コロニーの住民は全員隔離(かくり)したはずだったのですが?」


 その声が聞こえるやいなや、ラルフがこしたずさえていた剣を抜いて、構えだした。

 同時に、俺も背中の盾と剣を構えて、岩の方に向き直る。


 そんな俺達を横目で見ながら岩の影から姿を現したのは、角の生えたかぶとかぶっている1人の人物。

 その姿を観察した俺は、即座に、それが人間ではないと直感した。


 かぶとの下からのぞいている灰色の髪と、赤いひとみ、そして、腰のあたりから伸びている黒くて細長い尻尾しっぽ

 身にまとっている真っ赤な衣服が、しわひとつないほどに整えられているあたり、几帳面きちょうめんな性格なのかもしれない。

 スラッと細身の長身からは、品性ひんせいただよっているようにも思える。


 姿を現してもずっと横目で俺達を見つめていたその人物は、ゆっくりと口元に笑みを浮かべると、楽しそうに話し始めた。

「これはこれは、失礼しました。こんなところで立ち話をしている人間が2人いらっしゃったもので、思わず口を挟んでしまったのでございます。私目わたくしめ非礼ひれいを、おび申し上げます」


 みょうなほどに丁寧ていねい挨拶あいさつを述べる男に、俺は疑問を投げかけることにした。

「おい、お前は何者だ。こんなところで何をしている?」


 しかし、俺の疑問に答えたのは、すぐ隣に立っているラルフだった。

「こいつは魔王軍まおうぐんだ。尻尾しっぽを見れば変わるだろ。悪魔あくまだよ」

「おぉ!! 私目わたくしめのことをご存じでしたか!! それは僥倖ぎょうこう!! いや愉快ゆかいでございますなぁ!! ようやっと、私の悪名あくみょうが世にとどろき始めたということですな!!」

「いや、名前は知らねぇよ」


 ラルフの言葉に一喜一憂いっきいちゆうする悪魔は、名前を知らないという彼の言葉を聞いた後、あからさまに項垂うなだれてしまった。

 こいつは何がしたいんだろう?


 俺がそう思った時、気を取り直したように悪魔が頭を上げ、気味の悪い笑みを向けてくる。

「これは、なんというか、お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたなぁ。それでは、早速さっそく名乗らせていただきたいと思います。私の名はリューゲ。かの炎雪えんせつの魔王の配下にして、未来の右腕みぎうでたりえる男でございます!!」

「炎雪の魔王?」


 リューゲの言葉を聞いた俺は、聞き慣れない単語を復唱ふくしょうしてしまった。

 それがダメだったのか、急に眼の色を変えたリューゲが俺を凝視ぎょうししてくる。


「おや? おやおやおやおや!? そこの子供は、かの魔王をご存じない!? それは見過ごすわけにはいきませんねぇ」

「おいダレン。油断するな。こいつはくさっても悪魔だ! 普通の人間がかなうような相手じゃない!」

「いや、ラルフも挑発ちょうはつしてただろ!? それに、知らないもんは知らねぇんだ。どうしようもない」

「とにかく、油断だけはするなよ!!」


 剣を握りしめるラルフの剣幕けんまくされた俺は、改めて剣と盾を構え直して、リューゲをにらみつける。

 そんな俺を楽しそうに見つめるリューゲは、両手を大きく広げたかと思うと、喜びに満ちた表情で言葉を並べ始めた。


「おぉ!! この世界にまだ、本物のおそれと恐怖きょうふ畏怖いふを知らぬ者がようとは!! これは魔王様に与えられた私目への褒美ほうびに違いありません!! さぁ、子供よ!! ここで私に出会ったことをなげき悲しみうれいなさい。さすれば私が、この世の地獄ジゴクを見せて差し上げましょう!!」


 1人、えつひたって高らかに告げたリューゲは、次の瞬間、激しい土ぼこりを立てて、俺へと突進してきた。

 すさまじい速度で突っ込んでくるリューゲの攻撃を、構えた盾ではじこうとした時、すぐ目の前にラルフが割り込んでくる。


 そのさまを見たのか、リューゲは大きく左の方へと飛び退いた。

 穴を背にする形で立つリューゲに、俺は狙いを定め直して盾を構える。


「邪魔くさいですね。おい、そこの男。大人しくしていなさい」

「なんだ? 悪魔ともあろう者が、人間2人を相手にできないのか?」

「……言ってくれるじゃありませんか。それでは、お前にも思い知らせて差し上げましょう!!」


 俺の隣で剣を構えているラルフの言葉に怒りを覚えたらしいリューゲは、さらに深い笑みを浮かべて、突進の構えを見せた。

 全力で地面を踏み込み、勢いよく突っ込んでくるであろうリューゲ。


 そんな彼を今度こそはむかえ撃とうと、俺が盾を持つ手に力を込めた時。

 ドンッというにぶい音が周囲にひびき渡った。


 直後、リューゲが踏み込んでいた足元が盛大せいだいに崩れ、岩と共にリューゲが穴の中へと落ちてゆく。

「くっ!! 貴様ら!! 覚えておきなさい!!」


 落ちながらそんなことを叫んだらしいリューゲの声を聞きながらも、身構えたまま固まってしまった俺達は、数秒後、互いの顔を見合わせる。

「え? 今の、何?」

「さぁ……」


 困惑のあまり、言葉が出ない俺とラルフ。それに対して、ノームが大声を上げて笑い出した。

「だはははははは!! ダレン、あいつ、本当に落ちてったぞ。こりゃ傑作けっさくじゃねぇか!!」

「ねぇ、あいつが落ちてった所に何か落ちてない?」

 モミジの指示した場所に視線を落とした俺達は、そこに、小さなペンダントが落ちていることに気が付いたのだった。

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