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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
最終章 野生児と目覚めの時

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122/124

第122話 最後まで

 足元をひたす水が、ついにひざ元まで上りめている。

 そんな中、俺にうながされたペポは一歩前に踏み出すと、ホルーバに向けて口を開いた。


「アタチはまだ、ホルーバ様が裏切うらぎったなんて、信じてないチ」

 そう切り出したペポは、口を閉ざしたままのホルーバに向けて、語り続ける。

「アタチは小さい頃から聞いてたチ。ホルーバ様は最期さいごの力を振りしぼって、ロカ・アルボルを作ったっチ。なんで、そんなことをしたのか、それはすべてを守るためっチ。皆行ってたチ」


 大切だったオルニスの大樹。

 そんな居場所を守るために、ホルーバとシルフィが力を使ったんだ。

 ペポはそう言う。

 しかし、彼女の言葉には、俺が想像できる以上の深い意味が、きざまれていたらしい。


 そんな隠された意味を、浮きりにするかのように、ペポはつぶやく。

「アタチ達の住む場所、そして、その場所を守ろうとした全ての人の尊厳そんげんを、ホルーバ様は守ったチ」

「全ての人の……尊厳そんげん?」


 ペポの言葉の意味が分からなかったのか、ロネリーが小さくつぶやく。

 当然、そのことに気が付いたペポは、小さくうなずいて、補足ほそくした。

「そうチ。本当はあんまり教えちゃダメだチど、ロカ・アルボルにあった沢山たくさん浮島うきじまは、ほとんどがおはかだチ」

「……そういうことですか」

魔王軍まおうぐんらされないように、地面ごと持ち上げて保護ほごしたってことかよ……」

 ロネリーと俺の頭の上のノームが、納得なっとくの声を漏らす。


「そういうことチ。だからアタチは思ったチ。ホルーバ様は、死んでしまった後も、ずっとずっと、一人でたたかい続けてるんだっチ」

 そこで一度言葉を切ったペポは、あらためてホルーバに向き直ると、深々と頭を下げた。

「だから、アタチはホルーバ様には感謝してるチ。たった一人になっても、最後まで戦い続けてくれて、ありがとう。……もう、ゆっくり休んで欲しいチ」


 深く息を吐き出して、そうむすんだペポは、少しすっきりしたような表情をしていた。

 胸の内にため込んでいた思いを吐き出せたんだろう。

 対するホルーバは、どこかうつろな視線をペポに向けている。


 彼女の思いが、届いたのかは分からない。


 ただ一つ言えることがあるとすれば、ホルーバが身にまとっていた強烈きょうれつ敵意てきいが、完全に引きはがされていること。

 自身の行いを、他人の口から聞いて、何か思う所でもあったのかもしれない。


 すると、何を思ったのか、一度深呼吸(しんこきゅう)をしたホルーバが、俺に視線しせんを投げかけてくる。

「これがお前の言う、言葉のチカラというものなのか……」

「さぁな。あんたがペポの言葉をどう受け止めたのかは、俺には分からないけど。思ったよりも効果があったみたいで、良かったよ」


 なんとなくなごやかな空気が周囲にただよい始める。

 そんな空気をかき乱したのは、意外にも、ウィーニッシュだった。

「話がひと段落着いたところで、そろそろ潮時しおどきだと思うぞ」


 彼が言っている潮時しおどきと言うのが、足元の水を指しているのは言うまでもない。

 確かに、これ以上悠長(ゆうちょう)に話している余裕よゆうはなさそうだ。


「さてと、役目を終えた老骨ろうこつはこれで退場たいじょうするとしようか」

 そう言ったウィーニッシュの後ろには、バーバリウスとリューゲをかかえ上げたアーゼンと、他の配下達が立ち並んでいる。

 完全に敵意てきいを失っているらしい彼らは、静かにたたずむホルーバに手招てまねきをして見せた。


「さぁ、いこうぜ、ホルーバ。もうこれ以上ここにいる理由は無くなっただろ?」

「……そうだな、そうかもしれない」

 ウィーニッシュの呼びかけに、神妙しんみょうな面持ちでこたえたホルーバは、静かに彼らのとなりに立ち並んだ。


「あ、そうだ。最後に聞いておきたいことがあるんだった」

 ふと思い出したように、ミノーラに目を向けたウィーニッシュが口を開く。

「なぁミノーラ。俺はずっとかたきつためだけに生きながらえて来たんだけど……本当にこれで良かったと思うか?」


 まるで、今のこの状況じょうきょうけられたのかもしれないと、そんな意味をふくませたウィーニッシュの問いかけ。

 それを真正面から受け止めたミノーラは、やさな目を彼に向けながらこたえた。

「大丈夫ですよ。あなたが願っているような未来も。確かにありますから」

「そうか……それが聞けて、少し安心したよ」


 そう言って満面の笑みを浮かべたウィーニッシュは、それ以上の心残りは無いとでも言うように、深い水の底へと、身を投げ出した。

 それに続くように、彼の仲間達も水の底へと身を投げ出していく。


 そうして、最後に残ったホルーバもまた、一言だけを残して身を投げ出した。

「元気で、な」


 残されたのは、俺達だけ。敵はもういない。

 名残なごりしさと切なさを覚えながら、気を取り直した俺達は、ミノーラの案内に従って地獄の出口へと向かう。

 巨大化したサラマンダーの背中に乗って移動したから、それほどの時間は掛からなかった。


 徐々(じょじょ)に上がってくる水位を見下ろしながら、はるか高いがけの上に到達した俺達は、そこでミノーラと別れを告げる。

 曰く、彼女はまだ復活ふっかつしたわけじゃないらしい。

 だから、一緒に戻ることはできない。

 だけど、元の世界に戻って、4大精霊だいせいれいが役目を果たせば、きっとよみがえることができる。


 それが、ミノーラと交わした最後の会話だった。


 巨大化していたサラマンダーは身体を元のサイズに戻し、小さな穴をくぐり抜ける。

 地獄ジゴクにやってきた時とは異なる不思議ふしぎ感覚かんかくが、全身をおそってきた。

 だけど、今回は前と違って離れ離れになることは無い。

 後ろを振り返ることなく、前に進み続けた俺達は、次第しだいまばゆい光に包まれていき、感覚かんかくを取り戻していく。


 そして、気が付いた時に俺が目にしたのは、どんよりとくもっている空だった。

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