表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
最終章 野生児と目覚めの時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/124

第113話 道案内

 色々(いろいろ)と話し合った結果、俺達は今、地獄ジゴクへとつながる縦穴たてあなを降りている。

 当然とうぜん、穴に飛び込むわけにもいかないので、ノームが作ってくれた螺旋階段らせんかいだんを通ってだ。


 もちろん、穴を降りることを全員が賛成さんせいしたわけじゃない。

 ベックスとケイブ、そしてペポは、穴に水を満たしてみる方に賛同さんどうした。


 まぁ、彼女たちの気持ちも分からなくはない。

 だけど、俺の直感ちょっかんがそれじゃあ駄目だめだと告げてくる。


 よく考えれば、地獄ジゴクつながっているという縦穴たてあなに水がまるのか。そして、水をめたとして次は何か起きるのか。

 かりに水をめてしまった後、何もできなかった場合。もう穴を降りることができなくなるかもしれない。


 色々な疑問ぎもんと共に、俺は地獄ジゴクに向かうことを選択せんたくした。

 消去法しょうきょほうってわけじゃないぞ?

 そこには一つ、明確めいかくな理由がある。


「エンマダイオウ。どんなやつだ?」

「きっととんでもなくおそろしいに決まってるゴブ」

「あの魔王達の親玉おやだまチ。絶対に強いのは間違いなさそうだチ」

「でも、私達ならきっと大丈夫ですよ。ね、ウンディーネ」

「そうじゃな」

「当たり前でしょ~。なんてったって、ウチが力に目覚めたんだからねぇ」


 薄暗うすぐらい中を飛びながら言うのは、すっかり元気になったシルフィだ。

 そんな彼女たちの話題わだいに上がっている存在こそ、今回の狙いだ。


 閻魔大王えんまだいおうが存在する限り、同じような魔王の襲撃しゅうげきが何度も繰り返されるんじゃないだろうか。

 誰しもが思いいだくであろう気づき。


 その可能性かのうせいをなくすためには、直接ちょくせつ閻魔大王えんまだいおうに会って、ケリをつけるしかない。

 これこそが、明確めいかくな理由だ。


 とはいえ、不安しかないわけじゃないぞ。

 俺も含めた全員が、ある程度ていど戦えるわけだし、それに何よりも、シルフィの覚醒かくせいすさまじいことを、俺達は知った。


 俺がそんなことを考えていることを察知さっちしてか、暗闇くらやみの中をパチッと小さな光が走る。

「おっと、ごめんねぇ。ちょっとれちゃっただけだから」

小便しょうべんかよ」

「ノームはやっぱり下品だなぁ~」

「ふざけんな! お前が先に言ったんだろ!?」

「ウチは一言も小便しょうべんだなんて言ってないもんねぇ~」


 俺の頭の上にいるノームと、パチパチと光をらすシルフィが喧嘩けんかをする。

 なんで彼女が小さく光っているかと言うと、いわく、ウィーニッシュの使っていたかみなりを完全に習得しゅうとくしたらしい。


 得意とくいげに言う彼女の言葉を、俺達は初め半信半疑はんしんはんぎで聞いていた。

 だけど、実際じっさいに見せられてしまえば、何も文句もんくは言えない。

 風の大精霊だいせいれいかみなりを使うという状況じょうきょうに疑問はあるけど、まぁ、戦力が強化きょうかされたことに文句もんくを言う必要はない。


 頼もしい仲間達だ。

 一人独白(どくはく)する俺。

 そんな俺に、頭の上のノームがひっそりと告げた。


「おいダレン。そろそろだぜ」

「本当か?」


 先頭せんとうを歩いていた俺は、その場で足を止めてみんなの方を振り返る。

 そろそろ地上から差し込んでくる光が途絶とだえそうなほどに深い穴。

 そこで俺は、大きく息を吸った後、皆に確認をした。


「先に進むぞ? 引き返すならこれが最後かもしれない。全員大丈夫か?」

「大丈夫ゴブ」

「オラも大丈夫だゴブゥ」

「僕も、こわくは無いよ」

「みんなが居るなら、大丈夫チ」

「ミンナはオデが守る」

「バブゥ」

「ふふふ。誰も戻る気はなさそうですよ? ダレンさん」

「そうみたいだな」


 かるく笑うロネリーにそう返した俺は、そっと彼女の手をにぎった。

 小さく声をらす彼女に、俺は肩をすくめながら言う。

地獄ジゴクがどんなところか分からないんだ。皆、はぐれたりしないように、手をつないでいこうぜ」

「イイですね」


 明るい声で賛同さんどうしてくれる皆は、それぞれ近くの人と手を取り合う。

 そして、皆の準備じゅんびととのったことを感じ取った俺は、大きくうなずくと、一歩前に踏み出す。


 地面じめんみしめた瞬間、不思議ふしぎ感覚かんかくがした。

 しっかりと立っているはずなのに、身体からだ浮遊感ふゆうかんつつまれる感覚かんかくだ。

 そんな感覚かんかくに負けじと、もう片方の足を前に踏み出す。


 皆はちゃんと着いて来ているだろうか?

 しっかりとにぎっていたロネリーの手も、感触かんしょくが分からなくなっている。


 そんなことを考え出すと、途端とたんはげしい不安ふあんが胸を打った。

 ふと気が付くと、ノームさえも俺のそばから姿すがたしているように感じてしまう。


 視界しかいがよじれ、前も右も上も後ろも、そして左と下も分からなくなっていった。

 どこに進んだらいい? どっちに戻ればいい? 目印めじるしになるものは無いか?

 道はどこにある?


 生まれて初めてかもしれない。

 俺は自分が道に迷っているんだと、初めて自覚じかくした。


 だけど、そんな自覚じかくはそんなに長くは続かない。

「よう、ダレン。なにボケーッとしてるんだ?」

「ボケーッとなんてしてないぞ?」

「本当か? まるで、道が分からないみたいな顔してたぞ?」

「そんなわけないだろ? 俺にはお前が付いてるじゃないか、ノーム」

「その通りだぜ。オイラがれば、道に迷うことは無い。だからダレン、オイラ達がしっかりと道案内みちあんないをしてやらないといけないぞ」

「分かってる」


 みじかこたえた俺は、足元に見えるあおい光をひろい上げた。

 次に、風のように舞う黄緑色きみどりいろの光を。その次に赤くぼんやりと光る小さな光を。

 さらに、2つ並んでいる仲良なかよしな光と燃えるような熱気ねっきびた光を、同じようにひろい上げてゆく。


 どれ一つとして、かすことのできない、俺の仲間達だ。


 そうして拾い上げた全ての光を、俺は胸元むなもとへと持っていく。

 すると、手の中でくすぶっていたそれらの光が、強くかがやき始め、一気に視界を眩く満たしてしまった。


 直後、俺は強烈きょうれつ浮遊感ふゆうかんと共に、蒸気じょうきの上がる湯の中へと落ちた。

 身体からだが焼けるほどの熱は無く、むしろほどよく心地いい湯につつまれていたい気持ちを押しころし、俺は水面すいめんから顔を出す。


「ぶはっ!」

 勢いよく息をったせいで、少しだけ水を飲んでしまうけど、あまり気にはならない。

 それよりも気になる光景が、目の前に広がっていたからだ。


「ここが、地獄ジゴクか……」

 思わずそうつぶやいた俺は、あまりにも広大こうだい禍々(まがまが)しい地獄ジゴクの光景を目に焼き付けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ