表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
最終章 野生児と目覚めの時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/124

第112話 2つの提案

「おいダレン、今、ミノーラがお前の名前を呼ばなかったか?」

 意識いしきがはっきりした直後、ウンディーネの中からい出したノームが、俺に向かって問いかけてくる。

 彼がおどろきをにじませるのも無理はない。

 なぜなら、今しがた俺達が見ていたのは、150年前の光景こうけいだと思われるからだ。


 当然とうぜん、その時代に俺は生まれていない。

 なんなら、父さんや母さんも生まれてない。

 それじゃあなんで、ミノーラが、俺の名前を知っていたのか。

 ふかく考え込んでも到底とうてい分かるわけがない疑問ぎもんだ。


 頭の中を整理せいりするべく、一度ノームから視線しせんを外した俺は困惑こんわくしている皆に、一通りの説明せつめいをする。

 見た光景こうけいを言葉にするだけで、俺は予想以上よそういじょうに頭の中を整理せいりできた。


 そして、考えるべきポイントを次の2つにしぼり込む。

 1つは当然とうぜんおおかみ亡骸なきがらがあった空間くうかんのこと。

 そしてもう1つは、ミノーラが最後さいごに俺の名前を口にしたことだ。


「それにしても、女神めがみミノーラはおおかみだったんですね」

「いや、絶対にそうとはかぎらない。声は聞いたけど、実際じっさいに姿は見てないから」

「そんなことより、どうしてダレンの名前を知ってたチ?」

「そんなこと、俺が知るわけないだろ?

「オイラも知らないぜ?」

「きっと、本当に神様かみさまだから、未来が見えたんじゃないかな?」

「その可能性かのうせいは高いですね」

「ヴァンデンスもミライみてた!!」

「そう言えば、そうだったゴブ」

「それに、ヴァンデンスはミノーラをよみがえらせるように言ってたゴブゥ」


 みんなの言う通り、未来みらいを見てたからというのは、あながち間違っているわけでもなさそうだな。

 そうなると、ヴァンデンスの言葉がおもみをした気がした。


「とにかく、俺達がやるべきことは決まったみたいだな」

 そう言った俺は、背後はいごを振り返って、大きな岩に目を向ける。

 そんな俺の様子を見れば、皆も意図いとを理解してくれるだろう。


 おもむろに岩のそばへと歩みった俺は、そのあら表面ひょうめんを手でなぞる。

 ざらざらとした感触かんしょくが、てのひらに広がった。

 その感触かんしょくを楽しむように、手をスライドさせながら俺は横に移動いどうしていく。


 そうして、少し歩いたところで急に、てのひら感触かんしょくが消えてなくなる。

 理由りゆうは考えるまでもない。例の通路つうろを見つけたんだろう。


 見た目だけの岩の中に、ひじまでうでを突っ込んだ俺は、みんなの方を振り返った後、躊躇ためらうことなく中へと足を踏み入れる。

 さっき見たまんまだ。


 細い通路つうろの奥に、少しだけさわやかな気配けはいただよ空間くうかんがあった。

 だけど、それだけだ。

 縦穴たてあなの中を満たしていた水はて、足元をおおっていた草花くさはなもない。

 当然とうぜんいずみそばに横たわっていたはずのおおかみの姿もない。


 残されているのは、やけに清々(すがすが)しい空気と、天井の小さな穴から差し込んでくる浅い光、そして、深くまで続いている縦穴たてあなだけ。

「本当に入れたチ……」

「でも、ダレンさんが見たものとは少しちがうみたいですね」

「そうだな」


 ロネリーの言葉にうなずきながら、俺は縦穴たてあなの中をのぞき込む。

 もしかしたら、穴のそこからミノーラの声が聞こえて来るんじゃないか。

 なんてことを考えてみるけど、そんなことは起きなかった。


 まわりを見渡みわたしてみても、何もない。

 そうとなれば、調べる場所は1箇所かしょしかないだろう。


「ノーム。この穴の底に何があるのか、見て来てくれるか?」

「そう言われると思ったぜ。まぁ、オイラが適任てきにんだってことは間違いねぇけどな」

「ノームさん、いつもありがとうございます」

「いまさら何言ってんだよ」


 少しだけれくさそうにしたノームは、かたすくめながら俺の足元の地面にもぐり込んでいく。

 ノームが穴のそこを調査している間、特にすることも無かった俺達は少しだけ休憩きゅうけいすることにした。


 ウィーニッシュの雷撃らいげきを受けて傷ついていたシルフィも、長いことねむり続けていたことで元気を取り戻したらしいし。

 つかの間の安息あんそくを、俺達は享受きょうじゅする。


 もしかしたら、みんな内心ないしん気づいていたのかもしれない。

 これから先、後戻あともどりができないようなことが起きるんだと。


 みょう胸騒むなさわぎを覚えた俺は、となりこしかけて来るロネリーの手をそっとにぎりしめた。

 少しおどろいて見せるあおに、俺が小さく笑いかけたところで、ノームが調査ちょうさから戻ってくる。


 よいしょ。という小さなけ声とともに、地面じめんからい出して来たノームは、まるで考え込むように腕組うでぐみみをしたまますわり込む。

「どうしたんだ?」

「……いや、なんていうか」

「なにか変な所でもあったチ?」

「そんなやさしいもんじゃないぜ、ペポ」

てきがいたゴブ!?」

「そうでも無い。いや、いるのかもしれないけど、問題はそこじゃない」

「変にもったいぶるじゃん。ノームの悪いくせだよねぇ~」

「悪いなシルフィ、オイラは今、口げんかする気分じゃないんだよ」


 めずらしくシルフィのあおりを軽くいなして見せたノームは、座り込んだままの体勢たいせいで顔を上げ、俺を真っ直ぐに見つめてくる。

「ダレン。この穴の先に降りたら、流石さすがのオイラ達でも戻って来れないかもしれねぇ」

「は? それはどういう意味だよ。階段かいだんなら作れるだろ? それとも、穴の下に巨大きょだい空間くうかんがあるとかか?」

「そういう意味じゃねぇよ」


 俺の疑問ぎもん溜息ためいきこたえたノームは、少し考えた後に口を開いた。

「あそこは、そうだな。言うなら、地獄ジゴクだ」

地獄ジゴク? それなら、今までもアタチ達は……」

「そうじゃねぇ、ペポ。良いか皆もよく聞け。この穴の先は、今のオイラ達が世界せかいとは違う。別の世界せかいだ」

「……別の世界?」


 それはつまり、本物の地獄ジゴクに通じる穴だという意味だろうか?

 魔王達まおうたちがこの世界に作ろうとしていた地獄ジゴクじゃなくて。

 元々あった、地獄ジゴク


 もしノームの言うことが本当だとしたら、そこには……。

「エンマダイオウが、いるばしょか?」

 俺の考えを代弁だいべんするかのごとく、ガーディがポツリとつぶやいた。


「この穴の先に、閻魔大王えんまだいおうが?」

「ちょ、ちょっと待つゴブ! どういうことゴブ!? どうしてこの穴がそんな場所につながってるゴブ!?」

「そんなこと、誰も知らないゴブゥ」

「知ってるとしたら、ミノーラ様だけチ」


 困惑こんわくしながらも、何とか状況じょうきょうを飲み込もうとするみんな

 そんなみんなの顔を見渡みわたした俺は、考えうる2つの提案ていあんを口にした。


 1つは、150年前の記憶きおくと同じように、この縦穴たてあなに水を張ってみること。

 もう1つは、穴の中に降りて、地獄ジゴクに行ってみること。


 どちらをえらぶべきか、俺には分からない。

 多分、皆にも正解せいかいは分からないだろう。

 だけど、1つだけ分かることがある。

 それは、この選択せんたくによって、結果けっかが大きく変わるかもしれない。と言うこと。


 そして、俺達が出した結論けつろんは……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ