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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第9章 野生児と碧に沈む秘密

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第108話 逆もまた然り

「え? それって、どういう……ウンディーネ?」

 俺の言葉におどろいた様子のロネリーが、自身の真後まうしろにいるウンディーネを見上げた。

 当然、彼女の視線に合わせるように、その場にいた全員の目が、ウンディーネに向けられる。


 しばらくの間、だんまりを決め込んでいたウンディーネは、さすがにずっと注目されることに抵抗ていこうを覚えたのか、ため息と共にらした。

「そろそろ潮時しおどきかのぅ」


 これ以上は隠し通せないとさとったらしい。

 まぁ、俺が気づいてるってことはウンディーネも知ってるし、当然だよな。

 そんな彼女の言葉を聞いたロネリーが、すっくと立ちあがったかと思うと、ウンディーネを見上げながら口を開いた。


「ウンディーネ。お願い、説明して? どういうこと? 16年前のことを覚えてるって……」

「ダレンの言っておることは、本当じゃ。ワラワは、すべて覚えている。レンやダン、ホルーバにグスタフ、そしてリサ。皆と共に旅をしたことも、霊峰れいほうアイオーンに登ったことも、魔王どもにやぶれて逃げたことも。そして……あのの、残していった想いも。全てな」

「ちょっと待ってよ。だったらどうして、そのことを僕たちに教えてくれなかったの? ここまでの道のりとか、魔王の事とか、色々と教えてくれてたら、助かったこともあったと思うんだけど」

「そうだゴブ!! なんでかくしてたゴブ!? もしかして、俺達をうら」

「ベックス、それ以上はやめるゴブゥ」

「でも、そうじゃねぇと説明がつかないゴブ!?」

「ちょっと落ち着くチ……さわぎたくなる気持チは分かるチ。でも、アタチはウンディーネが裏切ったとか、そんなことは無いと思うチ」


 戸惑とまどう者、困惑こんわくする者、おこる者、む者、沈黙ちんもくする者、いさめる者。

 各々(おのおの)が、それぞれの反応を示す。

 そんなみんなの反応を一通り見た俺は、改めてウンディーネに問いかけた。


「ウンディーネ。俺はこの中に裏切者うらぎりものが居るなんて思ってないし、思いたくない。信じたい。だから、話してくれないか? どうして、今までだまってたんだ? 隠してたんだ? 俺達に教えてくれても良かったんじゃないのか?」

「……それが出来たのであれば、ワラワもそうしたであろうな」

「それは、できなかったって意味? ……ううん。分からないよウンディーネ。私にはちっとも分からない。今までは話せなかったのに、どうして今なら話せるの?」

「ロネリー、落ち着いてくれ。ウンディーネが……」

「落ち着いてるよ!! 私は落ち着いてる……だけど、落ち込んでも、いるかも……」


 俺の言葉に反射的はんしゃてきさけび返したロネリーは、われに返ったのか、目元に涙を浮かべながらうつむいた。

 きっと、今までずっと一緒に居たのに、そんな大事なことをかくされていたことがショックだったんだろう。


 そんな彼女のそばに近寄った俺は、そっと背中をでる。

 少しだけ、彼女の身体がふるえている気がした。

 そんなロネリーを、ただだまって見降ろしていたウンディーネが、ぽつぽつと話し始める。


「ワラワが今までずっと、お主らに全てだまっていた理由を説明するためには、ワラワ自身のことを話さねばなるまい」

「ウンディーネ自身のこと?」

「そうじゃ。皆も聞いたことがあるであろう? ワラワを受けいだ者が短命たんめいであると」

「……」

「それは、ワラワの力が密接みっせつかかわっておる。ダレンには話したな。ワラワとこのは今、オーバーフローと言う力に覚醒かくせいしていると」

「あぁ、聞いたな」

「その力の根源こんげんは、誰でもない、ロネリー自身なのだ」

「……私が、力の根源こんげん?」


 目元を左手でぬぐいながらも、小さくつぶやいて顔を上げるロネリー。

 彼女にとっても、この話は初耳はつみみらしい。

 と言うことは、この場でそのことを知るのは、ウンディーネだけなんだろう


「で、その根源こんげんって言うのは、どういうものなんだ?」

「ロネリーのおもいだ。こころ感情かんじょうあい様々(さまざま)な言い方が出来るがな」

「え?」

「ロネリーがこいをして、その相手もまたロネリーにこいをする。互いにかれ合うような、そんな幸福感こうふくかんつつまれた時、ウンディーネであるワラワは最高の力を発揮はっきできるのじゃ」

「なっ」

「ちょ……」


 こっぱずかしいことを言うウンディーネに、俺とロネリーは思わず短い声をらし、互いに視線しせんをそらしてしまう。

 いや、第三者だいさんしゃから面と向かってそんなこと言われたら、恥ずかしすぎるだろ?

 ウンディーネはロネリーのバディだから、厳密げんみつには第三者だいさんしゃじゃないかもだけど。

 いや、そんなことは関係かんけいないっ。


 なんて、俺が心の中で言い訳をしていると、さらにウンディーネが続けた。

「しかし、もしロネリーのおもいが力になるのだとしたら。逆もまたしかりというワケじゃ」

「逆……? それはどういう意味チ?」

「仮に、ロネリーの想いが届かず、打ちくだかれてしまったとしたら?」

「……逆もまたしかりってことは、力を失う?」

半分はんぶん正解じゃ。かりにワラワの継承者けいしょうしゃ失恋しつれんしてしまった場合、ワラワは継承者けいしょうしゃから全ての力をうばい取ってしまうことになる」

「全ての力を……?」

「言葉通り、手足を動かすこともできず、言葉を発することもできず、目を開けることもできない、しまいには心まで動かなくなる。つまり、生きる力を失うのじゃよ」

「そんな!!」


 失恋しつれんしたら、生きる力を失う? 死ぬ?

 なんでだよ?

 だとしたら、ロネリーはそれを知らないまま、今まで生きて来たって言うのか?

 それはとてつもなく危ないことだろ?

 だって、もしひょんなことから誰かを好きになって、その相手にフラれたりしたら……。


 そう考えた俺は、ふと、初めてロネリーと出会った時の事を思い出した。

 まどわせの山でおそわれていたロネリーを、助けたこと。

 そして、その後に向かったコロニーで山賊さんぞく撃退げきたいし、出立しゅったつを決めた日の夜にゴールドブラムさんに言われた言葉。

『あの決意けついを理解していないようじゃな』


 ……もしかして、ロネリーは知っていたんじゃないか?

 自分が、誰かに恋をして、それが失恋しつれんに終わってしまったら。

 死んでしまうことを。


 いや、だとしたら色々とおかしなことがある。

 もしこれを知っているんだとしたら、ロネリーは今(おどろ)いていないはずだ。

 ほら、今だって……。


 自分を納得なっとくさせるために、ロネリーに視線しせんを投げた俺は、思考しこうが固まってゆくのを感じた。

 口をキュッとかたむすんでいる彼女は、怒りを込めるようにウンディーネを見上げている。

「ウンディーネ。失恋云々(しつれんうんぬん)の話は、私だって知ってるよ。だって、あなたに聞いたし。まさか、力の根源こんげんかかわりがあるとは思ってなかったけど。だけど、私が聞きたいのはそんな話じゃない。どうして、16年前のことを覚えているの? どうして、それを教えてくれなかったの?」

「そうくでない。それを今から話すところじゃ」


 そこで一つ、大きく息を吐いたウンディーネは、胸元むなもとに手を当てながら続けた。

「ワラワの継承者けいしょうしゃ失恋しつれんをしたら、ワラワが継承者けいしょうしゃから全ての力をうばうと言ったであろう? その時、ワラワは力と一緒に、その者の想いと記憶きおくを、引きぐのじゃよ」

「想いと、記憶きおくを?」

「そうじゃ、ロネリー。主の前任者であるレンが、誰を愛し、なぜ失恋したのか。その想いと記憶が、ワラワの中にあふれている。そしてその想いと記憶は、ぬしにも多大ただいなる影響えいきょうを与えたのじゃよ」

「レンさんの想いと記憶きおくが、私に影響えいきょうを?」


 何か心当たりでもあるのか、静かにうつむくロネリー。

 そんな彼女を横目に、俺は脳裏のうりに浮かんだ考えをウンディーネにぶつけることにした。

「それはつまり、その影響が原因でロネリーが失恋すると思ったってことか?」


 そんな俺の質問に、ウンディーネは短くこたえるのだった。

「ワラワが水を差すわけにはいかんじゃろ?」

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