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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第9章 野生児と碧に沈む秘密

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第107話 碧い瞳の奥深く

 ロネリーに向けていきおいよく振り下ろされたウィーニッシュの尻尾しっぽを、丸くふくれたシルフィが受け止める。

 その瞬間しゅんかん、バチバチという音と共に閃光せんこうはじけた。


「シルフィ!?」

「何してるチ!!」

 突如とつじょとして現れた彼女の行動に、思わずさけぶ俺。

 そんな俺の声にかぶせるように、屋根の上から頭だけのぞかせているペポも叫ぶ。


 だけど、俺達の声が届くはずもなく、シルフィは尻尾しっぽから放出される無数の雷撃らいげきに包まれている。

 あせりと不安ふあんに突き動かされた俺は、腹の上で力なく寝そべっているサラマンダーをどかすと、痛みを忘れて立ち上がった。


「ノーム!!」

「おうよ!!」

 どこからともなく聞こえて来たノームの声を耳にしながら、急いでけ出した俺は、まっすぐにロネリーとシルフィのそばまで走る。


 流石さすがのウンディーネも、はじけ続ける雷撃らいげきを前に、手も足も出せないようだ。

 雷を浴び続けるシルフィを、茫然ぼうぜんと見上げているロネリーを引っ張り、下がらせた俺は、直後、思い切り地面を踏み込んだ。


 すると、いつも通りの岩のやりがウィーニッシュの尻尾しっぽに向けて突き出してくる。

 そんなやり先端せんたんが奴の尻尾しっぽに触れた瞬間、まるで幻覚げんかくでも見ていたかのように、はじけていた雷撃らいげきが一気に消え去った。


「おっと……そっか、アースに落とされたか」

 訳の分からないことをつぶやくウィーニッシュに、追撃ついげきを仕掛けようとするが、奴は軽い身のこなしで大きく後退こうたいした。


 そんなウィーニッシュを視界のはし警戒けいかいしながらも、俺は足元に落ちたシルフィをひろい上げる。

「シルフィ!! 無事か!?」

「……ん、無事じゃないよぉ。痛いよぉ。だから、もう寝るね」

「そうか、ゆっくり休んでてくれ」


 言っている内容こそいつも通りの軽口かるくちだけど、様子が明らかにおかしい。

 雷撃らいげきが止んだというのに、時折ときおり彼女の身体からだを走る小さな光が、普通じゃないことを現していた。

 そして何よりも、力なく横たわっている彼女の姿は、決して無事なように見えない。


 てのひらの上でおだやかな表情を浮かべ、まぶたを閉じる彼女をそっと地面に降ろした俺は、2回足踏みすることでノームに合図を送った。

 すぐにノームが、彼女を安全なところまで連れて行ってくれるはずだ。


「彼女の勇気に感謝かんしゃだね」

「お前が言うなよ、魔王ウィーニッシュ」

 肩をすくめながら告げるウィーニッシュに、怒りを込めた視線をぶつけるけど、全く意にかいしていないらしい。


 一通り俺達の様子を見渡したウィーニッシュは、一つ息をくと、短く告げた。

「これで実力の差は分かってもらえたかな?」


 くやしいけど、何も言い返せない。

 今の俺達は、ウィーニッシュ1人に対して、ほぼ何もできなかった。

 しかも、ウィーニッシュにはまだ4人も手下てしたが居る。

 もし、彼らが本気で俺達を倒そうと思えば、簡単にできるんだろう。

 それをしない理由は良く分からないけど、それだけの力量差りきりょうさはあるはずだ。


 だまり込んでにらみ続ける俺の態度たいど肯定こうていと受け取ったのか、一度手をたたいて見せたウィーニッシュは、それじゃあ、と前置きをして続ける。

「俺達はこのあたりでおいとまさせてもらうよ。まさか、邪魔なんかしないだろ? それと、ここで少し休憩きゅうけいした後は、ちゃんと来た道を引き返すように。そうすれば、俺達が帰りの道を保証してやるから」


 どこまでも俺達のことをめているらしい。

 文句もんくの一つでも言ってやろうかという衝動しょうどうを、必死におさえ込んだ俺は、小さくうなずいて見せる。


 にぎりしめた両手が、痛い。

 それでも動くわけにはいかなかった俺は、そのまま城へと帰っていくウィーニッシュ達を、見送みおくるほかなかった。


 少しずつ北の空へと遠ざかって行く浮遊城ふゆうじょう尻目しりめに、けが人を一か所に集めた俺達は、橋の上では治療ちりょうができないことを知り、ひとまず川の対岸まで移動した。

 特に重症じゅうしょうのペポとシルフィを、俺とノームとガーディで運ぶ。


 その間、当然ながら俺達の間に会話は無かった。

 橋を渡り切り、ウンディーネとの連携れんけいでワイルドに覚醒かくせいしたノームが、緑に輝く花を生み出す。


 おだやかで、ほのかなぬくもりを感じるその光に包まれながら、俺は空を見上げる。

 ヴァンデンスとラックが、最期に見せてくれたあの晴天は、本当にただの幻覚だったのかな?


 あれが未来の光景だなんて、到底とうてい思えなくなってしまっている。

 どうしよう。

 俺は今、生まれて初めて、道に迷ってしまったのかもしれない。


 進むことも戻ることも躊躇ためらってしまう今の俺が、歩むべき道って、どこにあるんだ?


 そんなことを考えながら、皆の傷がえるのを待っていると、不意にウンディーネが口を開いた。

「よもやお主ら、あの魔王の言うことに従うつもりではあるまいな?」


 唐突とうとつに告げられた彼女の言葉に、俺達は顔を見合わせる。

「なんだよウンディーネ。もしかして、このまま霊峰れいほうアイオーンに向かうつもりなのか?」

「当たり前であろう?」

「本気なの!? さっきの話だと、僕らが霊峰れいほうアイオーンに行っても……」

「意味が無いと? なぜお主らは敵の言う言葉を鵜呑うのみにするのじゃ?」

「それは……」

「ふん」


 口ごもるサラマンダーを見て鼻を鳴らしたウンディーネは、皆の顔を見渡しながら言葉を並べた。

「ベックス、ケイブ。お主らはバディを手に入れるんじゃなかったのか? ガーディ、ここであきらめてお主の帰る場所はどこにある? サラマンダー、お主はグスタフの無念むねんを晴らさずにいられるのか? ペポ、ここで帰ればお主らの帰る場所が無くなるかもしれんぞ? ダレン、ノーム。道が無いなら自分で作るのがお主らじゃなかったのか?」


 一息ひといきに告げてしまったウンディーネは、最後に大きく深呼吸しんこきゅうをした後、自身の足元にいるロネリーを見つめて告げた。

「ロネリー、想いをげるつもりは無くなったのか?」

「ウンディーネ……」


 彼女の剣幕けんまく圧倒あっとうされて、皆が沈黙ちんもくする中、真っ先に反応を示したのは、ロネリーだった。

「私は、あきらめたつもりなんか無いよ。ウンディーネ」

 そんな彼女の言葉に続くように、皆が口々に声を上げる。


「俺もあきらめた覚えはないゴブ!!」

「オラもだゴブゥ」

「僕だって。あきらめたくなんか無いよ!!」

「アタチだって」


 皆、ウンディーネの声掛こえかけのおかげで、元気を取り戻し始めたみたいだ。

 まぁ、俺もその中の一人なんだけどな。


 それらの言葉が飛び交う中、ただ1人、何も言えずに狼狽うろたえていたガーディに、俺は声を掛けた。

「ガーディ、安心しろって。絶対に世界を救って、一緒に帰ろう。そして、自分たちの居場所いばしょを自分達で作るんだ。だろ?」

「ダレン……イイのか?」

「おいおい何言ってるんだ? 良いに決まってるだろ。オイラが最高の居場所を作ってやるからよ!」


 ノームの言葉に、安心したように笑顔を見せたガーディ。

 そんな彼からウンディーネに視線を移した俺は、彼女のあおひとみを見つめる。


 きっと、彼女のその瞳には、俺達に見えていない物が見えているんだろうなぁ。

 なんてことを考え、一つため息を吐いた俺は、意を決してウンディーネに語り掛ける。


「ウンディーネって、不器用だと思ってたけど、こうやって皆に発破はっぱをかけたりできるんだな」

「一言多い奴じゃ」

「ははは。でもまぁ。ありがとうな。だけど、1つだけ聞いておきたいことがある」


 そこでわざと言葉を切った俺は、全員の視線が俺に向くのを待った後、告げた。

「そろそろ話してくれても良いんじゃないか? ウンディーネ。16年前のこと、何があったのか、覚えてるんだろ?」

「……」


 俺の問いかけにだまり込むウンディーネ。

 そんな彼女の反応を見て、気づかない人はいないだろう。


 そのあおひとみ奥深おくふかくに沈んでしまっている、秘密ヒミツの存在に。

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