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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第9章 野生児と碧に沈む秘密

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第106話 勝ちへの布石

 ダレンとサラマンダーがいきおいよくなぐり飛ばされ、助けに向かおうとしたロネリーとウンディーネに、ウィーニッシュが追撃ついげきを掛ける。

 そんなウィーニッシュに対して、不意打ふいうちを仕掛けようとしたガーディもまた、はげしくり飛ばされて建物の壁に背中を打ち付けていた。

 水弾すいだんを放ってウィーニッシュを牽制けんせいしているウンディーネとロネリーは、だけど、少しずつ距離を詰められてしまっている。

 ベックスとケイブの姿は見当たらない、多分、アパルを連れて安全な所に身を隠してるんだろう。


 これらの状況を空から見下ろすウチは、そろそろ何とかしないとヤバいなぁと思いつつ、げた匂いのただようペポの羽毛うもうからい出した。

「ペポ、大丈夫ぅ~?」

「身体が……動かないチ」


 しゃべれるだけまだマシかもねぇ。

 なんて言ったら怒られそうだから黙っておこう。


「とりあえず、ウチが安全な所に降ろすから、ちょっと翼を借りるよぉ」

「まかせる……チ」


 かすれるような弱弱よわよわしい声を聞いたウチは、不格好ぶかっこうに広がっている彼女の腕翼わんよくに風を当てることで、姿勢を整えた。

 こういう時、彼女の背中にある小ぶりな翼が意外と役に立つんだよね。

 あとは、安全そうな建物の屋根まで、風で誘導ゆうどうしてやればいいはず。


「それにしても、面倒な魔王に遭遇そうぐうしたもんだぁ。あ、前も遭遇そうぐうしてるんだっけ?」

 先ほどの雷を、ペポが避けられなかったのには理由がある。


 本来なら、ウチの風に乗ったペポが雷を避けられないはずがない。

 風をあやつるウチにとって、雷は雲の中で起きる気色の悪い現象げんしょうだから、大体どのあたりで発生するか分かる。


 だけど、さっきの雷は、今までにウチが見てきたどの雷とも違った。

 まさしく、ウチとペポをねらさだめて落ちて来た雷。

 つまり、誰かが雷を操ったことになるよねぇ。


「まぁ、そんなことを出来るのは、あの魔王しかいないんだろうけど。なんか、しゃくだなぁ~」

 ペポの翼を使ってゆっくりと滑空かっくうしたウチたちは、屋根の上に降り立つ。

 まだ身体を動かせない様子のペポから飛び降りたウチは、戦闘中せんとうちゅうの皆に目を向ける。


 バチバチと音を立てる尻尾しっぽなびかせながら、ロネリーとウンディーネを翻弄ほんろうするウィーニッシュ。

 水弾すいだん牽制けんせいのおかげで、まだ直接ちょくせつ攻撃こうげきらっていないみたいだけど、かといってロネリーに余裕よゆうがあるようには見えない。


 なんて言っても、ウィーニッシュの動きにはかなりの余裕よゆうが感じられる。

 なんでだろう?

 疑問ぎもんを胸にしばらく観察かんさつしたウチは、彼の動きが明らかにおかしな軌道きどうを描いていることに気が付いた。


 跳躍ちょうやくした直後、さらに空中をるようにして軌道きどうを変えたり、回転方向かいてんほうこうが急に逆になったりする。

 風をあやつる魔王、という肩書じゃ説明できない。それはまるで……。


「……衝撃、いや、力かな? 明らかに風の動きじゃないね~」

 ウチは観察かんさつした結果を自分の中に落とし込んでいくように、つぶやいてみた。


 明らかに異質いしつな彼の能力には、何か要因よういんがありそう。

 その異質いしつ要因よういんこそが、雷をあやつるチカラの根源なのだとしたら、ウチとしては看過かんかできない。


「嫌だなぁ。でも、やるしかないよねぇ」

 ためためいきと共に、今の心境しんきょうを吐き出したウチは、背後を振り返ってペポを見た。

「ペポ、後のことは頼んだよ~」

「……シルフィ? どういう意味チ?」


 うつ伏せになったまま、ウチを見上げて来る彼女に、軽く笑いかけたウチは、返事をするのも忘れてロネリー達の頭上へと飛び立つ。

 本音ほんねを言えば不本意ふほんいだよ?

 だって、絶対に痛いわけだし? 少しの間動けなくなるかもしれない。


 だけど、このままじゃウチたちの負けが確定しちゃいそうだし?

 そうなったら、もうみんなに任せて、昼寝していられなくなるかもしれない。


 そんなのは嫌だねぇ。

 これは勝ちへの布石ふせきだから。

 きっと無駄にはならないはずだよねぇ。


「みんなも知ってるだろうけど、ウチ、無駄なことはしたくない主義なんだよねぇ」


 誰にも聞こえていないだろうけど、なんとなくそうつぶやいたウチは、1つ息を吐き、勢いよくロネリーとウィーニッシュの元へと降下する。


「っ!! 素早すばやい!!」

「ロネリー!! 右じゃ!!」

「はい!!」

「どうした? 疲れて来たのか? 少しずつ、動きがにぶくなってきてるぞ!!」


 眼下がんかり広げられている2人の攻防こうぼう

 そんな攻防こうぼうに、今まさに決着が付こうとしている。


 ロネリーを翻弄ほんろうするため、風のようにけまわるウィーニッシュ。

 そんな彼を迎撃げいげきするため、四方八方に警戒けいかいをしているロネリーが、足元に転がっていた瓦礫がれきにつまずいて、尻餅しりもちを付いてしまった。


 そんな瞬間を、ウィーニッシュが見逃すはずがない。

 狙い定めたように軌道きどうを変えた彼は、床に転んでいるロネリーに向かって一直線に突っ込んだ。


 狙いは間違いなく、尻尾しっぽの一撃みたいだ。

 当然、ウンディーネが防御ぼうぎょのために前に出るけど、それじゃ遅い。

 当たり前のように、突撃の軌道きどうを無理やり変えてしまうウィーニッシュに、彼女じゃ対応できない。


「これで終わりだ!!」

「そう簡単に終わらせないよぉ~」


 尻餅しりもちを付いて転んでいるロネリーに向かって、振り下ろされるウィーニッシュの尻尾。

 バチバチと音を立てている尻尾とロネリーの間に割って入ったウチは、勢いよく息を吸って身体を膨張ぼうちょうさせながら、尻尾を受け止める。


 刹那せつな、全身に鋭い痛みと衝撃が走った。

「シルフィ!?」

 背後から聞こえるロネリーの声も、視界を埋め尽くす眩い光も、ウチの思考に到達しない。


 時間にして数秒かな。

 今にも意識いしきを失いかけた瞬間、真下から岩のやりが突き出して来たのを見たウチは、ようやく激痛げきつうから解放された。


 視界を埋め尽くしていた尻尾しっぽから解放されたウチは、そのまま地面に落下する。

 誰かが呼びかけて来る声が聞こえたけど、どうでもいいや。

 眠たいし、痛いし、疲れた。

 あとはいつも通り、皆に任せてしまおう。そうしよう。


 そしてウチは、真っ暗な眠りに落ちていく。

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