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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第9章 野生児と碧に沈む秘密

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第104話 余裕の理由

「で? 話ってなんだ?」

 しばらく沈黙ちんもくが広がった後、俺はしびれを切らして問いかけた。


 お互いにだまり込んだままじゃ、何の進展しんてんもないだろ?

 なんて軽口まではさすがに言えないけど、俺の意をみ取ってくれたのか、すぐに魔王ウィーニッシュが口を開く。


「そうだな、まず、さっきも言ったけど、俺達はお前達とあらそうつもりは無い。そのうえで、お願いしたいことがあるんだ」

「お願いチ?」

「そうだ」


 短く言葉を切った彼は、大きくうなずきながら俺達を見渡す。

「これからお前たちがやろうとしていること、それをあきらめてくれ」

「え?」

「それって、どういう……?」


 おどろきでみじかい声をらすサラマンダーと、疑問を投げかけるロネリー。

 そんな2人の反応に肩をすくめて見せるウィーニッシュは、全くわるびれることなく続けた。

「簡単に言えば、大人しく家に帰ってくれってことだ。お前たちがやろうとしていることは、大体分かってる。雨を降らせるつもりなんだろう? だけど、それはおススメしない」

「フザケルナ!!」


 真っ先に反応を示したのは、サラマンダーのとなりに立っていたガーディ。

 怒りに任せてうなり声をあげている彼の様子に、しかし、ウィーニッシュは全くひるんだりせず、苦笑する。


「ふざけてないんだよなぁ、これが」

 飄々(ひょうひょう)としたその態度に、流石さすがの俺も苛立いらだちを覚える。

 ウィーニッシュが言っているのはつまり、何も抵抗せず、ゆっくりとむしばまれていくのを容認しろってことだ。


 完全に俺達をナメきっている。そうでないと、出てこない発想はっそうだろう。

 だけど、この魔王ウィーニッシュに関して言えば、その態度たいどにも納得なっとくできる部分があった。


 言うまでもない、先ほど見たおもいのたねだ。

 明らかに、この魔王は今の俺達よりも強いだろう。

 少なくとも、バーバリウスとは比較ひかくにもならない程の強敵だと、俺はにらんでいる。


 だからと言って、何もせずにあきらめる気にはならないだろう?

 そんな気概きがいを込めて、俺はウィーニッシュに向けて苦言くげんていすることにした。

「それはあまりにも、お前達にとって都合の良い話じゃないか?」

「そうか? 俺としては、良い妥協案だきょうあんだと思うんだけどなぁ」


 あいも変わらず、すっとぼけたことを言うウィーニッシュ。

 そんな彼は、一つため息を吐き、するど視線しせんを俺に向けた。


「そもそも、お前達は俺達の目的ってのを知ってるのか?」

「目的?」

「そうだ。俺達の……魔王のって言った方が分かりやすいか? これを俺が説明するのも変な感じがするけど、まぁ良い」


 魔王の目的?

 そんなものあるのか?

 俺はてっきり、魔物を増やして世界を征服せいふくするとか、そんなものかと思ってたけど。


 なんて、俺が思考しこうめぐらせている間も、ウィーニッシュの話は続く。

「今の俺達はな、この世界を地獄ジゴクに変えるように言われて、動いてるんだよ。まぁ、俺とバーバリウスでやり方は全然違うけどな。あいつは魔物を増やして世界を牛耳ぎゅうじろうとしてる」

「この世界を地獄ジゴクに……? そんなこと、出来るわけが」


 信じられない。もしくは信じたくない。そんな感情をこめて、ロネリーが首を振る。

 だけど、対するウィーニッシュは同じように首を振りながら、彼女の言葉を否定ひていした。

「それができるんだよ。って言うか、お前達も見て来ただろ?」


 言われて思い出すのは、灼熱しゃくねつの大地や塩の迷宮。そして嵐の吹き荒れている光景。

 だけど、それだけだ。

 今の所、その地獄ジゴクとやらはカルト連峰れんぽうの東にまで広がっていない。

 と言うことは、食い止める方法があると言うことで、現にゲンブがそれをげていた。


 そんなことよりも、俺が気になったのは、もう少し別のこと。

 ウィーニッシュが言った、「言われて、動いている」という所。


「どういうことだ? 今の話だと、お前ら魔王は、誰かに命令されて動いてるってことか?」

「そう、それこそが、俺達魔王の目的なんだよ」


 ご名答めいとうとでも言うように、俺を指さしたウィーニッシュは、頭をポリポリとく。

「魔王、だなんてもてはやされてる俺達だけどな。そんな魔王の中にも序列じょれつってのがあるんだよ。で、その一番上に立つ魔王って奴が存在する」


 魔王の中に序列じょれつ

 だとするなら、こいつらの目的は、一番(えら)い魔王になることってことか?

 もしそれが目的だって言うなら、迷惑めいわくな話だ。

 世界を巻き込んでやるような事じゃないだろう。


 ぶつけたい感情は沢山あるけど、今はとにかく、ウィーニッシュの話を聞くことに専念せんねんしよう。

 俺がそう思った瞬間、まるで結論付けるように、ウィーニッシュが告げる。


「そいつは閻魔大王えんまだいおうと呼ばれる。地獄のぬしだな」

閻魔大王えんまだいおうゴブ?」

「そうだ、そして、その閻魔大王えんまだいおうになるためには、みずからが管理する地獄ジゴクを持つ必要があるんだよ。さらに言えば、俺とバーバリウスはどっちがこの世界を自分の物に出来るかあらそってる感じだ」

「……つまり、この世界をあなた達のどちらかが管理する地獄ジゴクにするってことですか?」

「そういうことだ」


 話だけを聞けば、何の根拠こんきょもない戯言たわごとだと思える。

 だけど、俺には目の前のウィーニッシュが戯言たわごとを言っているようには見えなかった。


 だからこそ、止めないわけにはいかない。

「そんな話、俺達が納得なっとくしてあきらめるわけないだろ……」

「そうチ! このままお前達魔王に世界を渡すわけにはいかないチ!」

「そうだゴブ! 少なくとも俺は、俺のバディを取り戻すまであきらめないゴブ!!」

「いや、もうそんな次元の話じゃないんだよなぁ」


 不満をらす俺達を見て、あきれたように告げるウィーニッシュ。

 いくら強いからって、そんな横暴おうぼうが許されるわけがない。

 なんとしてでも止めなければ。


 そんな強い決意けついを胸にウィーニッシュの考えを否定しようとした俺は、しかし、面倒くさそうな表情で告げられた言葉を耳にして、思考が停止するのを感じた。

「俺がこの150年間、何の考えも無しに自堕落じだらくな生活を送って来たと思ってるのか?」


 そう言ったウィーニッシュは、思わず黙り込んだ俺達に、追い打ちを掛ける。

「お前達も通って来ただろ? 塩の迷宮。あれさ、俺が作ったんだよ。塩って結構けっこう厄介やっかいなんだぜ? 気づかなかったか? あの一帯、植物がなかっただろ? んでもって、俺は風をあやつる魔王だ。これだけ言えば、なんとなく分かるか?」

「何を言って……」

「仕方ないなぁ」


 ヤレヤレとばかりに息を吐くウィーニッシュは、特に表情を変えることなく、結論付けた。


「お前達が降らそうとしてる雨。命を循環じゅんかんさせるはずだったその雨が、死の雨に変わるって話だ。分かるか? 世界中の植物がれて、食い物が無くなるのは困るだろ? すでんでるんだよ。だから、おススメしない」


 この時俺は、ようやく理解した。

 魔王ウィーニッシュが好戦的こうせんてきじゃないのも、俺達に対して滅茶苦茶めちゃくちゃな要求をしてきたのも。

 それは強いからという理由じゃない。


 彼にこれほどまでの余裕よゆうがある理由りゆう

 それは、戦う前からすでに勝っているからだ。


 今の話がすべて本当だとしたら。俺達の命もこの世界も、バーバリウスとの閻魔大王えんまだいおうけた勝負でさえ。全てウィーニッシュの思いのままになるじゃないか。

「なにが、目的なんだ……?」

「ん? いや、だから」

「違う!!」


 いまだにすっとぼけようとするウィーニッシュの言葉をさまたげた俺は、あふれ出す感情と共に、疑問を吐き出した。

「どうして……いや、違う。何を、待ってるんだ?」


 150年間かけて作り上げて来た余裕よゆう

 その余裕よゆうがありつつ、いまだに動かず、待ちの姿勢しせい居続いつづけるのには、何か必ず理由があるはずだ。

 そんな俺の問いかけを聞いたウィーニッシュは、一瞬目を見開いたかと思うと、ニヤッと笑みを浮かべてつぶやいたのだった。

「知りたいか?」

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