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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第9章 野生児と碧に沈む秘密

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第103話 風雷坊

「ダレン、大丈夫?」

 気が付いた時、俺はサラマンダーに話しかけられていた。


 周囲の景色は、想いのたねを見る前となんら変わりが無い。

 と言うことは、今回の記憶はさっきので全部だってことだ。


 内容については、まぁ、予想していた通りと言える。

 以前から聞いていたように、サラマンダーの継承者けいしょうしゃグスタフが殿しんがりつとめ、魔王軍に敗北してしまう。


 だけど今回の記憶で、俺は新たな懸念けねんを1つ見つけてしまった。

 言うまでもない。あの猫耳の男の強さだ。


 あれは間違いなく、魔王ウィーニッシュに違いないだろう。

 理由は単純、今までに聞いていた通り、風をあやつっていたからだ。

 だけど、それ以上に厄介やっかいなのは、奴が放った雷。


 指先から放たれた閃光せんこう威力いりょくは、すさまじいものだった。

 アレの直撃を受けたら、今の俺達じゃえられないかもしれない。


「ダレンさん? 何を見たんですか?」

 茫然ぼうぜんとしながら考え込む俺を見て、いてもたってもいられなくなったのか、正面に回ってロネリーが問いかけてくる。


 そんな彼女と皆の顔を見渡した俺は、今しがた見た記憶の内容を説明することにした。

 一通り語り終わった後、皆が沈黙ちんもくするのも無理はないだろう。


風雷ふうらいの魔王の名は、伊達だてじゃないってことだね……」

「そうですね」

「ヴァンデンスが、ウィーニッシュはあまり好戦的じゃないって言ってたけど、そうじゃなかったら、俺達は今ここに辿たどり着くことすらできてなかったかもな」

「ダレンの言う通りチ」


 改めて沈黙ちんもくする俺達。

 すると、何かを見つけたのか、ペポの頭の上にいたシルフィがで背後をジーッとにらみだした。

「ねぇ」

「どうした? シルフィ」

「ウチの気のせいだったらいいんだけどさぁ~。あれ、近づいて来てない?」

「あれ?」


 言われるままに彼女のゆびさす方を振り返り、くもり空の元に目を向ける。

 そして俺達はすぐに、彼女が言っていることを理解した。

 風雷ふうらいの魔王ウィーニッシュが住んでいるとされる浮遊城ふゆうじょうが、雲をかき分けながら俺達の方へと一直線に向かって来ているんだ。


「おいおい、本当だ、どんどんこっちに近づいて来るぞ!?」

「もしかして、見つかったゴブ!?」

「急いで近くの建物の中に隠れましょう!!」


 今まさに、ウィーニッシュの脅威きょういについて話していた俺達は、あわてふためきながら近くにあった建物の中に身を隠す。

 頼むから、セルパン川を通り過ぎてどこか遠くに行ってくれ。

 なんていう俺のあわ期待きたいは、あっけなく裏切られることになる。


 しばらくして、街の上空に到達とうたつした浮遊城ふゆうじょうは、当たり前のように停止した。

 遠目とおめでも分かってたけど、真上にまでやって来た浮遊城ふゆうじょうはかなり大きく見える。


 常にゴロゴロと雷の音を鳴らしている雲に囲まれた城。

 そんな城から5つの人影が飛び出して来たかと思うと、迷うことなく、さっきまで俺達が居た周辺に着地した。

 そして、周囲を見た猫耳の男が、さっき聞いた声を発する。

「お~い、居るんだろ? 隠れてないで出て来いよ」


 出て行くわけないだろ。

 古ぼけた建物の窓際まどぎわに座り込み、様子をうかがいながらも内心ないしんでツッコんだ俺は、今一度気持ちを引き締める。

「って、まぁ、出てくるわけないか」

「おい、ウィーニッシュ、ここは俺様が……!!」

「ダメだアーゼン。お前が動くとややこしくなる」

「ちっ」


 やっぱり、猫耳の男は魔王ウィーニッシュだった。

 と言うことは、ますます出て行くわけにはいかない。

 俺はそう考えながら、同じ部屋に居る皆に視線を投げる。

 多分、皆も奴がウィーニッシュだと言うことに気が付いたらしい。

 全員(そろ)って、表情が硬くなっていた。


 と、その時。俺達にも聞こえる程の大きな声で、ウィーニッシュが口を開いた。

「お~い、出てこい。さもないと、この橋ごと全員渓谷(けいこく)に落としてしまうぞぉ! 俺達は話がしたいだけだ」


 アーゼンを止めてた割に、思っていた以上の強引ごういんな手を使ってくる。

 実際、橋を落とされたら面倒なことになるのは言うまでもないだろう。

「ダレンさん、どうしますか?」

「……仕方ない、出るか」


 取りえず、まずは俺が前に出よう。

 そう考えた俺は、皆に目配めくばせせをした後、ゆっくりと窓から手を出した。


「分かった! 今からそっちに出る。俺達もできれば、戦わずに済ませたい」

「おぉ、話が分かる奴で助かるよ。ってなわけだ。みんな、戦闘は無しだぞ」

「分かりましたわ」

「仕方ないね」

御意ぎょい

「チッ。面白くねぇ」


 ウィーニッシュの言葉に各々の反応を示す悪魔あくまたち。

 その声を聞いた俺は、緊張きんちょうしながらも、窓をまたいで外へと踏み出した。


 そんな俺に続くように、皆も建物の中から出てくる。

 黙ったまま俺達のことを待っているウィーニッシュ達と、対峙たいじするように立った俺は、真正面に居る男に向かって問いかけた。


「お前が魔王ウィーニッシュか?」

「お前がダレンか。本当に子供なんだな」

「お互い似たような見た目だろ」

「見た目で判断するのは良くないと思うぞ?」


 悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべた魔王ウィーニッシュは、腕組うでぐみをする。

 そして、得意げに胸を張った彼は、なんてことないように告げたのだった。

「少なくとも、俺はお前達よりも7倍以上の経験を持っているんだからなぁ」

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