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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第9章 野生児と碧に沈む秘密

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第102話 想いの種:本当の敗北

 はげしい金属音きんぞくおんと共に、火花がはじけ飛ぶ。

 目の前で突然とつぜん巻き起こったその衝撃しょうげきに、『オレ』は思わず一歩いっぽ後退あとずさってしまった。

『なんだ!?』


 今見ているものはおもいの種なんだと、改めて自分に言い聞かせつつ、状況を確認する。

 セルパン川にかっている巨大な橋の上、街の入り口付近で巻き起こっているのは、2人の男による戦闘せんとうだ。


 1人は、黒くて長い髪をなびかせている巨漢だ。身長は2メートル以上あるんじゃないだろうか。

 まず間違いなくウルハ族だと思われるその屈強くっきょうな男の手には、真っ二つに折れてしまった戦斧せんぷにぎられていた。

 さらに、彼の足元には炎を身にまとっているトカゲのバディ、サラマンダーが居る。


 もう1人は、肩口かたぐちで切りそろえられた灰色の髪を持った細身ほそみの男。

 背中から生えている黒いつばさ尻尾しっぽが、この男の正体を現している。

 そんな悪魔の男は、汗でほおに貼りつく髪を指でどかしながら、手にしていた剣の切っ先をウルハ族の男に向けた。


「しぶといですねぇ。流石はサラマンダーの継承者けいしょうしゃといった所でしょうか? このリューゲを相手に、たった一人で持ちこたえるとは。正直、驚いていますよ」

 そう言った男、リューゲの背後には、無数の魔物達が待機している。


 橋を完全におおい尽くしてしまっているその魔物の軍勢ぐんぜいは、ウルハ族の男によって足止めをらっているようだ。

 と、その時。戦斧せんぷにぎりしめていた男、グスタフがニヤッと口元に笑みを浮かべた。


「ワシも驚いてばかりだ。まさか、かのリューゲともあろう者が、こんなジジイ相手に苦戦しているとはのぅ」

「ちょっと、グスタフ! なんで挑発ちょうはつするのさ!?」

「何を言うておる? ワシの言葉なんぞにおどらされる程度ならば、こやつもただの小童こわっぱに過ぎないというコトであろう?」

「そうだとしても、わざわざ怒らせて、苦労を増やす必要ないじゃないか!」

「いちいちしゃくさわる奴らだ……っ!!」


 グスタフ達の言葉に顔をゆがませるリューゲが、怒りに身を任せるように、突撃とつげきを開始した。

 手にしている剣による斬撃ざんげきはらんだ突撃とつげき

 しかし、そんなリューゲの攻撃は、いともたやすく弾かれてしまう。


「やるぜ!!」

 リューゲをむかえ撃つために、折れた戦斧せんぷを構えるグスタフ。

 そんな彼が振りかざした腕に、サラマンダーが飛びついた。


 直後、空気をなぐりつけるような音と共に、振り抜かれたグスタフの戦斧せんぷは、リューゲを激しく後方へと吹き飛ばしてしまう。

 しかし、ただやられるだけのリューゲじゃない。


 短く声を漏らしながら、後方に飛ばされた彼は、背中の翼で体勢たいせいを整え直すと、大きく軌道きどうを変えてグスタフの左側面へと移動した。

 そして再び、突撃とつげきを繰り出す。


 対するグスタフは、戦斧せんぷを大きく振り抜いていたため、体勢を整えきれていない。

『ヤバい! このままだと!!』

 グスタフの喉元のどもとに目掛けて突き出されているリューゲの剣を見て、『オレ』が思わず目をそむけそうになった瞬間。


 いつの間にかグスタフの身体をい上がっていたサラマンダーのうろこが、奴の剣をはじき返してしまった。

「くそっ!!」

「僕らに死角なんて無いんだよっ!!」

「ほれ、餞別せんべつじゃ!!」


 い散る火花と金属音きんぞくおん

 リューゲの剣とサラマンダーのうろこ衝突しょうとつしたことにより発生したそれらが、一瞬辺りを照らす。


 直後、戦斧せんぷを振り抜いていたいきおいを殺すことなく、きびすを返したグスタフが、その戦斧せんぷ一撃いちげきをリューゲの右側頭部(みぎそくとうぶ)へとぶち込んだ。


「がはっ!!」

 とらして魔物の軍勢ぐんぜいの元へころがったリューゲは、頭を押さえながらグスタフをにらむ。


小童こわっぱにしては、よくやる方だ。だが、ワシに勝つにはまだまだのようだな」

 勝ちほこるようにリューゲを見下ろすグスタフ。

 対するリューゲは、頭から大量の出血をしながらも、その場に立ち上がった。


 まだグスタフを倒すことを諦めていないらしい。

 再び身構みがまえる両者に、『オレ』が息を呑んだその時。

 頭上から何者かが声を掛けてきた。


随分ずいぶんと時間が掛かってると思ったら、こんなところで足止めくらってたのか」

「き、貴様は!?」


 空からゆっくりと降りて来たのは、『オレ』が見たことのない男だった。

 まだ子供なんだろうか。小柄こがらで翼を持たないその男は、頭に猫のような大きな耳とリスのような尻尾しっぽを持っている。

 風を身にまとっているらしいこの男も、多分悪魔(あくま)の類なんだろう。


 そんな男を見上げたグスタフは、表情を固くしながらも、口を開いた。

「ようやっと現れたか。少しばかり、退屈たいくつしておったところだ」

「言われてるぞ、リューゲ」

「貴様に皮肉を言われる筋合いはない!!」


 頭の傷を押さえながら、猫耳の男に言ってのけるリューゲ。

 対する猫耳の男は、半ば呆れたような表情を浮かべた。

「なんだよ、せっかく助けに来てやったのに」

「仕方があるまいよ。配下の不出来ふできは、そのあるじの責任が大きいのだからな」

「っ!? 貴様ぁ!!」

「落ち着けって、リューゲ。どっちみち、お前じゃこのじいさんに勝てないだろ?」


 全く表情を動かすことなく、リューゲをなだめる猫耳の男。

 そのままリューゲの隣に降り立った猫耳の男は、身構えているグスタフに向かって声を掛けた。


「なぁ、もうあきらめてくれよ。そうすれば、俺達もあんたらに構うこと無くなるんだからさぁ」

「そうはいかん。ワシも皆も、貴様らの魂胆こんたんを知ったのだ。このまま全てを諦めるわけにはいかん」

「まぁ、そう言われたら何も言い返せないんだけど。でも、今回で分かっただろ? そもそも150年前の時点で、アンタらは負けてるんだよ」

「負けを認めた時こそ、本当の敗北となる」

「さすがと言うかなんて言うか。頑固がんこなジジイだなぁ」


 ヤレヤレとばかりに肩をすくめた猫耳の男は、人差し指を1本突き立てながら、グスタフに告げた。

「これが最後の警告だ。降伏しろ。そうすれば、俺はもうお前達から手を引くことを約束しよう」

「笑止。ワシが今ここで、あの小童こわっぱどもの想いを踏みにじる訳にはいかんのでな」

「そうか。それじゃあ、安らかに眠ってくれ」


 そう言った直後、猫耳の男は空に向けていた人差し指を、グスタフの方へと降ろした。

 すると、轟音ごうおんと共に閃光せんこうが空をき、一筋ひとすじの雷がグスタフに向けて放たれる。


 そのあまりに大きな音と光に、驚いた『オレ』は、その後のグスタフの様子を見て更に驚く。


 まるでサラマンダーの背中を盾のように構えているグスタフ。

「僕達には!!」

「効かん!!」

 雷が空気を焼く中でそう叫んだ2人は、しかし、猫耳の男の姿が無いことに目を見開いている。


「マジか、もしかしてサラマンダーのうろこって絶縁物ぜつえんぶつなのか? そいつは厄介やっかいだなぁ」

「なっ!?」


 バチバチという音と共に、頭上から降ってくる声に気が付いたらしいグスタフが、咄嗟とっさに空を見上げた。

 それとほぼ同時に、グスタフの背後に降り立った猫耳の男が、そっと、その尻尾しっぽをグスタフに触れさせる。


 直後、今度はひかえめな音と共にグスタフの全身に光が走った。

「ぐはっ……!」

 一瞬、全身を痙攣けいれんさせたグスタフが、そのまま前のめりに倒れこむ。

 サラマンダーも彼と同じように動けなくなったようで、地面に倒れこんでしまった。


 そんな2人を見下ろしながら、ふぅ、と息を吐いた猫耳の男は、唖然あぜんとしているリューゲに視線を戻す。

「リューゲ。このじいさんはお前達に任せるな。あ、お前が倒したってことにしといてくれ。バーバリウスはその辺うるさいだろ?」

「な、何を」

「いやだから、俺が倒したなんて言ったら、怒られるのはお前だから。その辺便宜(べんぎ)はかってやるって言ってんの」


 そう言った猫耳の男は、腰に手を当てて空を見上げたかと思うと、大きく背伸びをする。

 そして、どこか遠くをながめながら、小さく呟いたのだった。

「150年前に負けた……か。それを俺が言うのも、変な話だよなぁ」

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