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そして野生児は碧眼の姫に出会い、彼女と瞳に恋をした  作者: 内村一樹
第9章 野生児と碧に沈む秘密

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第100話 川の傍で

 ダンジョンを後にした俺達は、ヴァンデンスの助言じょげんに従って、南に向かった。

 延々と続いているように見える荒野こうやを、ただ歩くのは、思っていた以上にキツイ。

 だけど、それを口に出して言う者は誰一人としていなかった。


「ちょっとロネリー、そんなに引っ付いたら歩きづらいって」

「良いじゃないですか、それとも、嫌なんですか?」

 俺の左腕にき着きながら、ほおふくらませるロネリーの言葉を聞いて、頭の上のノームがつぶやく。

「もう完全に隠す気無くなってるよな、まぁ、ダレンも嫌な気はしてないみたいだけど」

「おいノーム、変なこと言うなよ」


 余計なことを言いそうなノームに、俺が文句を言っていると、後ろを歩いていたガーディが声を掛けてくる。

「ダレン、オデもイイか?」

「ちょっとガーディ? 私からダレンさんを取るつもりですか? 渡しませんよ?」

 すかさず、背後を振り返ったロネリーがガーディに食って掛かっている。


 いや、本当にどうしたんだよロネリー。

 なんて聞くと、またしょんぼりした顔で見上げて来るんだろうなぁ。

 と俺が想像していると、あきれたような声でペポが告げる。

「そこに張り合うチ!? さすがにそれはやりすぎチ、ロネリー」

「ペポこそ、その羽毛ですぐに誘惑ゆうわくするくせに……」

「チ!? 違うチ!! そんなつもりは無いチ!!」


 あぁ~。俺を真ん中に置いて言い争いをしないで欲しい。

 誰か止めてくれよ。なぁ。

 そんなことを考えながら、そっと背後に目を向けた俺は、ベックスとケイブ、そしてサラマンダーの会話を耳にしてしまった。


「もうただの厄介やっかいな女になってるゴブ……」

「ははは、まぁ、仲が良いってことだから、良いんじゃないかな」

「せめて、周りにきばをむかないで欲しいゴブゥ」

「あばぶぅ~」


 そんな彼らの会話が聞こえたのか、このタイミングで顔を赤面せきめんさせたロネリーが、俺の左腕に顔をうずめながら声を上げた。

「しょ、しょうがないじゃないですか! だって、こうしたくて仕方がないんだもん」

「だもんって言っちまったよ。オイラでも言わねぇぞ?」

「もう別人ゴブ」


 ニヤニヤと笑うノームやベックスの視線から逃げるように、さらに強く俺の左腕にしがみ付く彼女の姿が、なぜかいとおしく思えてしまう。

 こ、こういう時はどうしたらいいんだろう?


 どう対処していいか分からなかった俺は、顔が暑くなるのを我慢がまんしながら、ロネリーの頭をそっとでた。

「ま、まぁ良いだろ。そうしてたいってんなら、少しくらい。ほら、ガーディも来いよ」

「イイのか!?」


 れ隠しでガーディに声を掛けてみたけど、思いのほか喜んだらしいガーディが俺の右腕みぎうでに飛びついてくる。

 育ってきた環境のせいで、よく考えれば、彼もさみしがり屋なんだよな。

 まぁ、俺も似たようなもんか?


 うん。悪いことじゃない。そうだよ。これは全然悪いことじゃないだろ。

 俺がそう考えた瞬間、背後からボソボソと声が聞こえてきた。

「やっぱりダレンは悪い男チ」

「そうゴブ。たぶらかす天才ゴブ」

魔性ましょうの男ゴブゥ」

「オイラもそう思うぜ」

「って、なんでお前がそっちに居るんだよノーム!!」

「あはは。まぁ、僕もペポ達に賛同するけどね」


 サラマンダーにまで言われてしまった。

 と、俺が少しショックを受けていると、不意ふいにペポの羽毛うもうの中から飛び出して来たシルフィが、前方を見つめ始める。


「どうかしたチ?」

「う~ん。まぁ、ちょっとね。少し先にでっかい穴があるのかと思ったけど、あれは穴じゃなくて、断崖絶壁だんがいぜっぺきだなぁ~と思って」

断崖絶壁だんがいぜっぺき?」

「オイラ、ちょっと先を見て来るぜ!」


 すぐにそう言って地面に飛び込んでいったノーム。

 取りえず、彼の戻りを待ちながらも前進を続けた俺達は、しばらくして戻って来たノームの報告を聞くことになる。


「おいダレン、皆、とんでもなくデケェ橋がこの先にあるぜ!!」

「とんでもなくデカい? そんなにデカいのか?」

「あぁ、オイラが地底湖の上に掛けた橋なんか比べ物にならないぜ」


 興奮こうふん気味ぎみの彼の様子に顔を見合わせた俺達は、自然と歩調を速めた。

 そうして、彼のいう光景を目の当たりにする。


 シルフィの言った断崖絶壁だんがいぜっぺきと言うのは、どうやら本当だったみたいで、視界の端から端まで横たわるような巨大な渓谷けいこくが、荒野のど真ん中に伸びている。

 そんな渓谷けいこく対岸たいがんまでは、かなり距離があるらしく、ぼんやりとしか見えない。


 とてつもなくデカいみぞ、って言った方が良いんだろうか。

 よく見れば、渓谷けいこくの底の薄闇うすやみの中に、少しだけ水が残っているみたいだから、これがヴァンデンスの言ってたセルパン川なのかもしれない。


 そんな川の上に、岩でできた巨大な橋が掛けられている。

 やたらと太い岩の柱5本と、その合間をうように張り巡らされた細い岩の柱。

 それらで構成されているその橋は、崩れ落ちることなくそびえていた。


「本当にでかいチ……」

「この橋、渡るのに何日掛かるんだよ」

「ねぇ、僕には橋の真ん中あたりに、建物みたいなのがあるように見えるんだけど」

「本当ですね。もしかして、この橋の上に人が住んでいたんでしょうか?」


 口々に告げる皆を見渡した俺は、そろそろかたむきだしている陽に視線を向け、告げた。

「とりあえず、今日はこの橋の入り口付近で休もう。橋を渡り出すのは明日から。それでいいか?」

「私はそれで良いです」

「その方が良さそうチ」

 他の皆も賛同してくれたのを見て、俺達は橋の入り口付近で野宿の準備を始める。

 そして俺達は、このセルパン川のそばで、一夜を過ごしたのだった。

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