表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

第一章 四話

帰路に着く。時刻は、もう三時を過ぎていた。帰りに、シキ用の服や、その他諸々を買った。シキは別に大丈夫、と言っていたが、流石にいつまでもボロボロのセーラー服姿でいられたら僕が誘拐犯か何かと勘違いされてしまうだろう。


踏切を渡る。



「ごめんね、きゅー。私のせいで、あんなことになっちゃって..」

「気にしないで。怪我するのには慣れてるから。シキこそ、どこも怪我してない?」

「私は、大丈夫...」

「ならいいよ。男の傷は勲章だけど、女の子にとっては一生の傷になっちゃうかもしれないからね。それにあれはシキのせいじゃないよ。運が悪かったってやつだよ。だから、気にしないでね」


自分の頬を押さえながら、笑っていう。

それに、怪我をしたのは僕自身の未熟からくる油断のせいだ。彼女が謝る必要はない。


「わかった...。お家に着いたら、その頬の傷舐めてあげるから。それまで我慢してね」

「いや、それは大丈夫かな」

「だめ」

「いやいや、流石にね?」

「じゃあ、私の体全部使って、ご奉仕...」

「傷、舐めてもらおうかな」


何か、都条例に引っかかりそうなワードを口走りそうなシキの発言を上書きする。



僕の頬を力一杯ぶん殴った、魔女の姿を思い浮かべる。





ーーーーーーーーーーーーーー




「いやいや本当何も知らないんですってぇ〜。勘弁してくださいよぉ〜」

「なるほど。ということはつまり、初対面の僕たちになんとなく謎の力で炎を浴びせたと?」

「その通りですぅ〜」


地面に押しつけられている女性が折れた右腕を振り回す。痛くはないのだろうか。


「仮にあなたが何も知らなかったとしても、僕達を襲った事実は変わらない」


感情の籠らない声で、枯指妥が続ける。


「残念ですが、運が悪かったですね。大丈夫です、素直に話してくれたら、これ以上苦痛を感じることはありません。しかし、話さないようでしたら、こちらも不本意ですが非人道的なやり方に走るほかなくなります」

「へぇ。そりゃ怖いねぇ〜」

「もう一度、以上の事を理解した上で、答えてください」


そして再度、問う


「あなたは何者で、どうして僕たちを襲ったのですか?」


通常、道なき道を通らねば入ることができないこの湖に偶然いて、さらに偶然、なんとなくで放火することは、まぁ、あり得ないだろう。そして、彼女の右手。赤黒く、炎を放った右手。僕が右手から雪を出せるようになったのと同じように、彼女も右腕から炎を出しているのかもしれない。そう考えるなら、彼女は、少なくとも「契約」や、「シキ」について何か知っている可能性が高い。

もしくは....


そう考えていると


「あり?戦争について知らないの?あー。どうりでこんな場所にいるはずだよぉ〜。君たちも運が悪いねぇ」

「戦争?そんな仰々しいものが行われているのですか?」


聞き慣れない言葉に疑問符を浮かべる。


「そうだよ〜。いやいや本当、君たちも運が悪いよ」


にゃははは、という奇妙な彼女の笑い声は、鈍い衝撃音で遮られる。


「曖昧にせず、答えろ。お前は誰だ」


口から血を流し、頬の跡を一層濃くした彼女は、遮られた行為を再度行う。


「にゃはは〜。じゃあ教えてあげるよ〜。私は楓のサクラ、杏叉だよぉ〜。で、繰り返すようで悪いけど、君たちは本当に運が悪い。後ろ、その性悪女の方みてみなぁ?」


拘束を緩めず、背後を見る。シキが、こちらを見ていた。怯えでも、恐れでもない、懐かしむような、そしてどこか悲しい顔をしてこちらを見ている。彼女を知っているのだろうか。

しかし、ただそれだけだ。


「何もないが?」


枯指妥が再度彼女に目を向けると同時、枯指妥の頬に鈍い衝撃が走る。眼下の彼女から距離をとり、その衝撃の主を見る。


「子供2人相手に何やってるんだ、猫」

「いやいやそれがねぇ〜?あの男の子めっちゃ強いんだよぉ〜」


そこには、現代にそぐわない格好の女性がいた。なんといえばいいのだろうか、魔女?のような奇抜な格好をしている。


こんな暑い日によくもまぁあんな暑苦しい服着れるもんだね。


杏叉と呼ばれた女性を起こした魔女(仮)目掛けて、ただ、歩き出す。


「..........確かに、そのようだね。私たちじゃどうにもならない相手だ。逃げようか」


僕をみた魔女はそ言って、杏叉の折れていない方の手をとる。


「逃がしませんが?」

「.....おっと」


いつのまにか、彼女たちの背後に立った少年が、拳を繰り出す。

しかし、彼の拳は、彼女たちを狙って放たれたその拳は、ただ空を切るのみだった。


「.......消えた?」


突如として、なんの脈絡もなく、消えた。文字通り、その場から消えたのである。


「まったく。一体全体なにが起きているのだろうね?」


そう言って、目の前の超常現象への理解を諦めた少年は、空を見上げた。








ーーーーーーーーーーーーーーー



チーン、と音を立てて、エレベータが僕たちの部屋がある階で止まった。


「結局、なにもわからなかったね、きゅー」


小さな彼女が、両腕に袋を下げた僕の方を上目遣いで見る。可愛いらしいその仕草に、少し胸中を動揺させながら、その動揺を表に出すまいと、笑顔を作る。


「そうでもないよ。僕たちは、あの女の人たちのお陰で、何かしらで命を狙われる理由がある、ってことがわかった。それだけでも十分な収穫だよ」


杏叉が言っていた戦争、楓のサクラ、そして僕と同じようにおそらく契約をしている人間の確認。ほんの少しではあるが、しかし前には進めた。停滞するよりもずっといい。


「そう。ねぇ、きゅー。みて」

「どうしたんだい?」


シキが指差す先、つまりは我が家の扉に、一枚の紙が貼られていた。


「「我々は君たちの味方、サクラ組より。」と」

















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ