表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

第一章 一話

僕に口づけをした後、彼女は眠って、という表現よりも、気絶してしまったと言ったほうが正しいのだろうか。


あの後彼女は突然動かなくなってしまった。


そして彼女をどうすればいいかわからなかった僕は、一度自宅へ連れて返った。


自宅と言っても、小さなアパートを借りて、一人暮らしをしているだけだが。


 


男である僕が使っていたもので申し訳なくはあるが、他に場所もないので、彼女を僕のベッドに寝かせる。


 


「彼女の目は、あの奇妙な目は、一体なんなのだろうね」


 


目の前の彼女の、先程の奇怪な瞳を思い出す。


 


「そして、ごめんなさいとは、一体どういう意味だったのかな?」


 


 


まあ、一人で考えても仕方がないね。彼女が起きるまで待とう。


そう考えて僕は壁にもたれかかり、瞼を閉じる。


 


 


□△□△□-□△□△□


 


 


柔らかい。


柔らかい何かに覆われる感覚に、僕は目を覚ます。


気がつけば、僕は先程彼女を寝かせたはずのベッドで、横になっていた。


目の前には先程の彼女。彼女は僕の背中に手を回し、ぎゅっと抱きつきながら、僕の顔を、ハート型の瞳でじっと見つめている。


 


どういう状況なのだろうか、これは。


 


「起きた..の?」


 


蚊の鳴くような小さな声で、彼女が僕の耳元で囁く。


 


「起きたよ。おはよう。えっと、君の名前はなんて言うんだい?」


 


彼女の名前をまだ聞いていないことに気づいた。僕は、名前も知らないこんな少女と、キスをしたのか。


そう考えると、少し恥ずかしいね。


 


「私はシキ」


 


彼女が耳元で答える。


 


「しきちゃんか、よろしくね。僕の名前は枯指妥旧。長いかもしれないから、きゅうって呼んでね」


 


きゅー、そう彼女が細い声で呟き


 


「しきちゃんじゃない。シキはシキ。ちゃんはいらない」


 


そう、少し不機嫌そうな声で言った。


 


「わかったよ、シキ。改めてよろしく」


 


僕がそう言うと、満足そうに目の前の小さな少女、シキは満足そうに笑みを浮かべる。


 


「それで、シキ。早速で悪いのだけれど、お願いごとがあるんだ、聞いてくれるかい?」


「聞くだけなら、聞く。それでいいなら、聞くよ、きゅー。なに?」


 


僕に抱きつく力を少し強め、首を傾げる。


その可愛らしい仕草に、少しばかりときめいてしまった緩んだ思考を引き締め直し、もう一度平静を取り繕い、言う。


 


「この腕、離してくれるかな?」


「や」


 


呆気なく断られてしまう。まあ構わない。大した支障はない。美少女を前に、少し冷静でいるのがしんどくなるだけだ。


 


「そうか。嫌なら仕方がないね。じゃあこのままでいいから聞かせて欲しいんだけど、お父さんやお母さんはどこにいるのかな?」


「いない。みんなどこか行っちゃた」


 


どっか行っちゃった?こんな小さな子を置いていくなんて、なんて無責任な親なのだ。たとえそこに致し方ない事情があったとしても、許されていいことではない。


と、そこで彼女の纏っている制服に目をやる。彼女の見た目から推測するに、おそらく中等部の学生服だろう。


 


「じゃあ次の質問なんだけど、お家はどこにあるの?」


「わからない」


 


家の場所がわからない、か。これは少し面倒なことになるかもね。警察に届けを出すにしても、両親は所在不明で、住所もわからないんじゃあ、彼女の家を探し当てるのも時間がかかるだろう。


 


「じゃあ、もう一つ質問なんだけど、君の目はなんでハートの形をしていて、どうして僕に顔を見せるのを拒んだんだい?」


「..........契約しちゃうから」


「契約....?」


 


契約とは、お金を借りたり、高価なもの、例えば土地とか家とかを買うときにするあれのことかな?およそ僕ら子供にはまだ無関係な言葉だと思うんだけれど、まさか僕よりも小さな子からそんな台詞を聞くとはね。


 


「契約っていったいどういうことなのかな?」


「手、出して」


 


彼女に言われるがまま、右腕を差し出す。


彼女は僕が差し出した右腕の手を、両手で包む。シキの手は小さく、少し冷たかった。


 


 


「え....?」


 


彼女が手を離すと、僕の手の中に、この夏という季節ではおよそお目にかかれない、雪が握られていた。


 


状況を理解できていない僕に向けて、シキが続ける。


 


 


「きゅーはシキから、離れられない。私もきゅーから離れない。それが契約。これは、その契約で得た、きゅーの力」


 


そう言い、シキは再び、僕の唇に口づけをした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ