15.混浴と、審査結果。
パチンッ。
「あ、あ……!?」
プレサが軽鎧の留め金を外し、地面に置いた。
中に着ているのは、そのしなやかな体のラインがよくわかる材質のピッチリとした黒いインナーだ。
シュルッ。
「う、あ……!?」
シャルティーが裾を引く長い法衣を前で止めていた紐をゆっくりとほどいた。
おさえられていた豊満な胸がぶるん、といままで以上に主張しだす。
ファサッ。
「い、う……!?」
イニアがマントを翻し、脱ぎ捨てる。中に着ていたのは長そでのブラウス。
とんがり帽子とマントを外すととても冒険者とは思えない。
どこにでもいる普通の、いやとっても可愛い女の子にしか見えなかった。
その可愛い女の子が僕の前でゆっくりとミニスカートを引き下ろしてい――
「う、うわああああっ!?」
――そこで我に返った僕は、弾かれたように下を向いた。
な、なにを考えてるんだ、僕は!?
い、いくら気にせずに目の前で脱いでるからって、女の子の裸なんて見ていいわけないだろう!?
はあはあ、と荒く息をつきながら、真っ赤になった顔で下を見つめる。
汗がポタリと地面に滴り落ちた。
そのあいだにも、
「シュッ」
衣擦れの音。
「パサッ」
服を脱ぐ音。
「ん……しょ」
艶めかしい声。
次々と僕の耳に飛びこんできて、興奮と緊張がいや応なしにあおり立てられていく。
「さあ、それじゃあ入りましょうか~」
「そうね。冷めないうちに」
「ん。わたしたち、先に入ってるから。待ってる」
やがてそんな声が聞こえてきたころには、僕の頭はすっかり熱でもあるかのように茹だっていた。
汗がびっしょりだ。心臓がバクバクして、頭がクラクラして、もうなんだかよくわからなくなってきた。
えっと、なんだっけ? あ。そうだ。お風呂だ。みんな待ってる。
ぎこちなく手を動かして服を脱ぎ捨てる。
近くに用意されていたタオルで前を隠して、地面に向いていた顔を上げようとしたそのとき、思わず視線がそこに釘づけになった。
「あ、あ……!?」
イニアたちが脱ぎ捨てた衣服や色とりどりの下着。まだ、ほんのりと体温さえ残っていそうな脱ぎたてのその生々しさに、頭がパニック寸前になる。
「「「ロシュ」」」
重ねられたその声に、もうろうとする頭で半ば無意識に前を向いた。
「「「早く、来て?」」」
豊満で成熟した体つきをした金色の髪の。
しなやかで引き締まった体つきをした赤色の髪の。
華奢で幼い体つきをした青色の髪の。
一糸まとわぬ3人の女神たちが乳白色のお湯に足を浸しながら、僕を手招きしていた。
「っあ……!?」
一気に血が上って、頭が沸騰したようにカーっと熱くなる。
僕の意識はそこでぷっつりと途切れた。
……気持ちいい。
頭の下にやわらかなものがあたっている。そっとだれかに髪をなでられているようで、ちょっとくすぐったい。頬にひんやりと冷たいものがあてられている。
それに、なんだかいい匂いが。
僕は、ゆっくりとまぶたを開いた。
「ん。起きた?」
「イニア……イニア!? ぼ、僕は……!?」
「ん。だめ。まだ起きないほうがいい」
起こしかけた体をやんわりと押しとどめられ、仕方なく再び頭を下に落とす。
ふんわりと包みこむように、イニアのひざは僕の頭を受け止めてくれた。
目に映るのは、魔界跡地の満点の星空。
まだ頭がボーっとしててうまく働かない。確かに、少しこのままでいたほうがいいみたいだ。
「イニア。えっと、僕は……?」
「ん。倒れた。お風呂に入る前に、のぼせちゃったみたいに」
「あ……」
そうか。思いだした。あまりの刺激の強さに、頭に血が上りすぎちゃって。女の子が脱いだばかりの服や下着も、裸も、見たのは生まれて初めてだったから。
それも、あんなに可愛くて綺麗な女の子を3人もいっせいになんて。
はあ。そう考えると倒れるのも無理ないか。情けない話だけど。
いまのイニアは冷えないようにか体にタオルを巻いていて、足先だけお湯の中に浸していた。
ちらりと横目で見たが、ほかにひとの姿はない。
「あれ? ほかのふたり、プレサとシャルティーは?」
「ん。ふたりとも先に休んでもらった。あれから結構経ってる。明日は本番。特にプレサには全力で動いてもらわないといけないし、ロシュがいつ起きるかもわからなかったから」
「そっか……。ごめん、イニア。迷惑かけて」
「ん。気にしないで。どう? そろそろ落ちついた? 起きれそう?」
「あ、うん」
少しだけ名残惜しいような気分に襲われながら、イニアのひざから体を起こし、僕は立ち上がった。
そんな僕にイニアがほんのりと微笑む。
「ん。じゃあロシュ。少し一緒に入らない?」
「え!?」
「ん。せっかくお風呂をいれてくれたのに、ロシュはまだ結局入れてない。わたしもあんまり。だから。それともわたしとじゃ、いや?」
「そそそ、そんなこと!?」
「ん。よかった。さあ、来て」
「あ……!?」
華奢な手が僕の腕を引き、イニアがくるっと前を向いた。
その拍子に体に巻いていたタオルがふわりと下に落ちる。
僕の目の前では、青い髪からのぞくうなじからへなだらかな曲線が背中へと伸び、小ぶりなお尻が左右に揺れていた。
「ん。少しぬるいけど、気持ちいい」
「うん。そうだね」
不思議と、落ち着いていた。
倒れる前は、あんなに心臓がバクバクして興奮していたのに。
頭に血が上って、どうにかなりそうだったのに。
でもいま、すぐ目の前でイニアの裸を見て僕が思ったのは、ただ綺麗だということだけだった。
「ロシュ」
「イニア?」
あらたまった声音で呼ばれて、まじまじとイニアの顔を見つめる。
真剣な青い瞳がまっすぐに僕を見つめていた。
「わたしたちの、貴方の審査結果を伝える。結果は合格。おめでとう。わたしたちはこれからも貴方を【流星の矢】の一員として歓迎する」
「え!? ど、どうして!? 審査は、無事に街に帰るまでって最初に……!?」
思いもかけないイニアの発言に、思わず湯船から立ち上がる。
「ん。座って。見えてる。それと、そのことについて触れる前に、まず講評をしたい。いい?」
「わわわっ!? う、うんっ! わ、わかったっ!」
目線をそらして、イニアが頬を赤くする。
あわててザブンッと座り直すと、イニアはそっと口を開いた。
「ん。まずは、貴方を誘った直接の理由でもある天恵【お湯】。これは、正直言って予想以上。利便性はもちろん、まだまだ発展性も十分。これからが楽しみ」
「うん。ありがとう」
イニアのいうとおりだ。
ずっと冒険の、戦闘の役に立たないと思っていた僕の天恵。
でもそれは、僕が向き合ってこなかっただけなんだ。僕の天恵は、きっと無限の可能性を秘めている。
イニアが実証してくれたみたいに、これからの僕の考え方次第で、きっと。
「それから戦闘力。もちろんまだまだだけど、さっきの天恵の件も踏まえて、伸びしろは十分に感じられた。なら、これからわたしたちが鍛えればいい。それ以外にも、底上げの方法はいくつかあるし」
「うん。よろしくお願いします」
もちろんわかっている。
これからも【流星の矢】の一員として僕がイニアたちについていくのならば、足手まといにならないように少しでも強くならなきゃいけない。
底上げっていい方は、ちょっと気になるけど。
「それから性格。というよりは、わたしたちとやっていけるかどうか。これも問題なし。いろいろと気がついてくれるし、作業も丁寧。なによりわたしたちの【素】を知っても引かないでくれた。欲をいえば、もうちょっと自己主張してほしい。ロシュはおとなしすぎ」
「はは。うん。わかった。なるべくそうするね」
冒険者ギルドで長年こき使われてきたからなあ。もう染みついちゃってる気がするよ。下っ端根性。もちろん努力はするけど。
で、【素】っていうのは、あれかな? プレサが自分の武器をものすごく溺愛してたり、シャルティーが案外食いしん坊で子どもっぽいことかな? イニアは、あー。僕の技の名前を決めるときの妙なテンションかな?
確かにちょっとビックリしたけど、みんなの意外な一面が見れて面白かったし、よかったと思う。プレサの武器愛ぶりにはちょっと引いたけど。
でも、それだって、これからずっと一緒にいて、とり繕うことなんてできないと思うし。
「そして、【流星の矢】を【女】として見るかどうか」
そのイニアの言葉に、物思いにふけっていた僕の頭は現実に戻った。
「試すような真似をして、ごめんなさい。前に何度か少しの間だけど、【男性】と行動を共にしたり、クランに入れたことがあって、そのたびにあとからトラブルが起きた」
「と、トラブルって……?」
「ん。大丈夫。みんな返り討ちにしたから。わたしたちはみんな、無事」
首を振るイニアを見て、ホッと安堵の息を吐く。
「だから、今回は最初に試させてもらった。ごめんなさい。でも、おかげでよくわかった。ロシュなら、わたしたちは信じられる」
うるんだ青い瞳がじっと僕を見つめていた。
僕は微笑んで、ゆっくりと首を振る。
「ううん。謝ったりしないで、イニア。イニアたちからしてみれば当然のことだと思うし、それで僕を信じてくれたのならうれしいよ」
「ロシュ……。ん。ありがとう」
「うん。こちらこそ」
ほんのりと微笑むイニアを見て、なんだか胸が満たされていく気がした。
「ん。なら、あとはロシュの番」
「え?」
意外な言葉に驚く僕の目の前で、イニアが湯を滴らせながら、ゆっくりと立ち上がった。
それから目を閉じ、胸に手を置いて語りはじめる。
「わたしたちの審査は終わった。だからロシュ。明日、貴方にわたしたちの本気の戦いを見せる」
イニアがまぶたを開き、胸元に置いていた手を僕に差しのべるように伸ばした。
「そのうえで決めてほしい。わたしたち【流星の矢】と共に行くかどうかを」
そのとき、僕の目には焼きついた。
傷ひとつない、華奢で美しい少女の体。
そして、ゆるぎない意志の強さを感じさせる、決意を秘めた青い瞳。
見惚れながら、イニアの言葉に僕はただ、うなずくことしかできなかった。
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